ー鎮魂歌は突然に流れてしまうこの世界ー
グランドは自分の腕を抑えたまま、元黄金団副団長水神ナルヤの去った跡を見ていた。黄金団は解散し、新たに神聖団が出来てしまった。
ナルヤは神聖団には事前に通達を出していると言っていた。出されてない砂漠の真ん中に放り出された俺たちや、周りの奴らは不安そうな顔をしていた。1人の男が言う。
「おいおい!じゃ、黄金団にいた俺たちはこんなのとこでどうすればいいんだよ!」
悔しそうに男は地面の砂を叩く。そうすると1人の男が俺の方を寄ってくる。
「おい!グランド!あそこに水があるはずだ!まず、お前の血を止めないとな。」
そう男が言う。この男は俺に勝った新人のレイだ。横にいる白い髪の女がカナエである。こいつらはとことん後先考えていないようだ。するとカナエが俺の左手に手を伸ばして言う。
「さぁ、グランド。私の肩に掴まれ。」
「すまねぇ。お前ら、後のこと考えてんのか?俺の腕の血を止めても、意味ねぇくらい分かるだろ?」
すると、水を桶に入れて俺の方に来た男が言う。
「あてのない旅なんてもう慣れたさ。何回も何回も俺は、絶望を味わってきてる。でもな、その度にさ必ず誰かと出会うんだ。そして、俺はまた進める。だから、死ぬな。グランド。」
こいつ・・・。最近出会ったばかりのやつだが、意外と心がしっかりしてるじゃねぇか。もしかたしたら、こいつならば俺の『正義』を貫いてくれる希望になるかもしれないな。そう思うと、レイが持ってきた純水に斬られた後の右手を漬ける。
「ぐおぉぉぉ!痛ぇぇぇ。」
俺は情けなくも声をあげた。隣のカナエがニコッと笑いながら言う。
「男だろ?しっかりしろ!馬鹿!」
呑気なこの空気がやっぱり俺には心地いい。俺も右手がなくなっただけで前へ進めないなんて馬鹿馬鹿しいな。レイの携帯が動く。レイが素早く応じた。
「どした?レン!」
「気をつけてください。何者かいます。それに元黄金団の方達が一斉に消えています!」
そう言ってレイが周囲を警戒したので、俺も警戒してみると確かに誰もいない。そうすると近くからカナエの声がした。
「レイ!ここだ!皆!引きづりこまれている!」
カナエは砂漠に引きづりこまれていた。咄嗟にレイはカナエのもがく腕を掴む。
「くっそ!何だ!これ。うあぁぁぁ!」
レイとカナエは引きづりこまれていった。その様子を見ていると、後ろから足音がする。俺は咄嗟に神器を取り出す。
「誰だ!」
黒いキャップ帽子をした小柄で背の高く、赤いカラコンのようなものをした人が俺を覗き込んでいた。そして、俺に話しかけて来た。
「なぁ、お前がグランドか。懐かしいな。」
「懐かしいだと!?お前は俺を知っているのか?お前は一体何者なんだ!」
「何者って。会ったことあるし。まぁ、覚えてないなら教えてやるよ。俺の名はヴェル=ヴァーリィ。職業ギャングのボス。」
俺はその名を聞いて絶句する。何故ならこいつは昔団長に刺されたハズじゃ。
「今はギャングのボス兼神聖団5番隊隊長だがな。そうさ、俺は蘇生されたんだ!蘇ったんだよ!もう一度栄光を得るためになぁ!!!」
俺はこいつを思い出した。
ー数年前ー
ー現実の世界ー
その当時俺には弟がいた。俺も弟も痩せていて、体も細かった。生まれつき病弱な弟のために俺は幼かったが働いていた。俺たちは生まれつき親を知らなかった。気づけば養成所にいて、平和に暮らしていたが、ある日を境に平和は突如消える。
それは俺たちを買い取ると言う人物がいた。その人は幼い俺の仕事主で、弟のために頑張る俺を見て感心して俺たちを買い取った。
その買い取った人こそ、ヴェル=ヴァーリィだったのだ。当初ヴェルの本業に気づいてない俺たちは弟でも出来る簡単な仕事をやらされていた。何も知らない俺たちはただただヴェルの言うことを聞いた。そして、俺たちは仕事をし続けた。
とある日、マスクを毎回着用しながら俺たちは仕事をしていたが、その日は猛暑で弟がマスクを熱くて取ってしまった。その時から弟がだんだんと狂い始めた。
そう、俺たちは気づかなかった。俺たちが作らされていた物は麻薬だという事を。
そして、マスクを外した弟は麻薬中毒になってしまった。弟は幼いながらにも、麻薬に興味を持ちヴェルに麻薬をくれと頼んでしまうほどになってしまったため、俺は必死に弟を止めた。だけど、止まらない弟はどんどんと麻薬を自分の体に取り込み始める。俺はどうにもできない事を、どうにかしようとしていた馬鹿みたいだった。
俺は気づけば、高校生の年になっていった。仕事の内容は変わらなかった。だけど、変わった物が一つあった。それは幼い頃から高校生の年になるまで麻薬を摂取し続けた弟だった。白い肌もボロボロになり、歯も抜け落ち、視力もほとんどなかった。どんなに俺が言っても弟は聞かなかった。俺は自分の無力さを感じていた。
そんな時、俺が買い出しに行かされている時にある人に出会う。出会った当初は衝撃的だった。その人は大学生くらいの年で急にあったことないはずの俺の匂いを嗅ぎ始める。そうして俺を見て言う。
「知り合いに麻薬吸ってる奴いるだろ?麻薬の匂いがする!」
男はそう言うと俺は弟が麻薬を吸ってることがバレたくないから誤魔化した。
「なんのことだ?アンタ?まず非常識だろ?他人にそんなこと言うなんて。まずアンタ誰だ?」
「悪いな。名乗らず匂いを嗅いで、別にそういうことが趣味じゃないんだ。俺の名は金城ゴルド。お前は?」
スマートに言ってきたそいつの顔に少しだけ安心したのか、俺は身知らず人に名乗ってしまった。
「土山グランドだ。」
「おん!よろしくな!それで話の続きだが、店で話しするのは少しヤバいだろ。場所を変えよう。」
そういうとそいつが案内したところは人っ子誰一人としていない草原だった。そこに連れて行かれるとそいつは話した。
「俺は『正義』が人間にはある。そう思っている。必ず誰かには自分の『正義』があってたとえ誰であろうとその『正義』は曲げることが出来ない。お前からした麻薬の話を聞かせてほしい。お前は納得してないはずだ。第一お前は麻薬を吸ってないようだからな。」
俺はその安心した声に弟のことを話す。そうするとそいつはニコッと笑って言う。
「よくここまで頑張ったな。」
俺はたったその一言に今まで我慢してきたはずの涙が溢れてしまった。そうさ、俺はここまで頑張ったんだ。俺が涙しているとそいつは右手を差し伸べて言う。
「その弟の所に案内してくれ。俺もやっと人のために何かができる。」
俺は早速案内した。そうするとヴェルが言う。
「おぉ!グランド!買い出し・・・。おい?誰だ?そいつ。」
ゴルドは大声で名乗る。
「俺の名は金城ゴルド!麻薬取り締まり班!この会社を潰しにきた。」
その声に全体が反応し、一斉にグランドの方を向く。ヴェルは言った。
「グランド。厄介なもん連れてきたな。そいつを銃で打て。」
と言い銃を俺の方まで転がし、俺は手に取った。ここでゴルドを打てば、いつも通りの生活。でも、俺は!俺は!変えたい。この世界を。と思い俺は言う。
「死ね!クソ野郎!」
と銃を放ったが、打たれたのはヴェルじゃなかった。打たれたのは俺の弟だった。視力がない弟は、周りが見えないのでここまで自然に来てしまったようだ。頭が冷静でいれなかった俺は弟を打ってしまった。ヴェルは高笑いをした。
「はーはっはっは!気づいてたさ。お前が麻薬を作りたくないことなんてよぉ!でもお前じゃ俺には勝てないんだよなぁ!」
俺は自分で打った弟の方に駆けつけ、弟を抱きしめた。俺は心の声を吐き出した。
「すまねぇ。すまねぇ!畜生!畜生!俺はなんて無・・・。」
無力と言おうとするとある言葉が遮る。
「グランド!お前は間違ってない!」
「どうしてだ!俺は弟を殺したんだ!弟が死んだ気持ちがお前なんかに分かるのか!」
「だから、その思いも俺が繋ぐさ。きれないように。その思いが切れないように!」
と言うと小刀を服から取り出すと、それを的確にヴェルの心臓に投げた。見事命中した。とんでもない距離から心臓命中に周囲は驚く。
「お前は、人の心を踏みにじった。地獄を味わえ。」
そういうと、携帯を取り出して、緊急通報をした。
その後、麻薬会社は無くなり、俺の弟も葬式が行われた。ゴルドは葬式で最後まで弟が焼かれた後を見ている俺を向き、言う。
「グランド。もしも弟を違う人生に味合わせたかったらここへこい。」
それは株式会社ジャスティンだった。そして、JOSの説明を聞く。この世に生きている人のコピー。そう、俺はこの世界に行きもう一度弟の幼き頃の顔を見る。それが俺の『正義』だった。
俺はそのことを思い出していた。そして、俺は言った。
「そうか、あの時お前は簡単に心臓を刺されたもんな。苦しみとかねぇよな!この世界では俺に神器がある。今度こそこの手で一回お前をぶん殴ってやる!」
そう言うとヴェルもニヤッとし言う。
「てめぇだけじゃねぇんだよ!神器を与えられてるのはよ!あとてめぇじゃ俺を苦しませることは出来ねぇ!右手ないお前なんて終わりだなぁ!」
そう言うと槍を取り出して俺に突き出して言う。
「これはヴァンポリアランス!テージ!オーバーディレクト!!!」
無数の青白く光る槍の矢先が俺の方に向いていた。俺も左手で抵抗するしかなかった。
「テージ!乱拳!」
片方の手だけで槍を殴り弾く。しかし、槍は弾かれても俺の方を追ってきた。1本が俺の足を貫く。
「ぐぁぁぁぁ!」
地面に転がり砂まみれになる俺。足からも止まらない血。これは死んだか。と思うと頭上から何かが降ってくる音がした。ヴェルもそれを見て言う。
「誰だぁ?てめぇ。」
俺は今日という日を一生忘れないだろう。まさか、あの殺人鬼が偶然ここに来るなんて、今日は出会いが衝撃すぎるのばっかりだとグランドは思った。
「あ?俺を知らねぇとはな。俺は黒夜レイのコピーだ。コピーだが神器を持つ言わば最強だ。ちょうどいいや。お前、強そうだ。死んでけ!」
そう言うと大きく鎌を振り下ろした。振り下ろした瞬間には槍は砕けていた。そう言うとコピーは嘲笑う。
「アッハッハッハッハッハッハ!脆っ!」
「何だと!?ヴァンポリアランスが一瞬で砕けただとぉ!お前!何をした?」
「てめぇがただ三下だったてことだろ?テージ!暗黒曲!プリュディオ!」
一瞬にして、見えない斬撃によりあいつの右手と左手をぐちゃぐちゃにした。そして、コピーは叫んでるヴェルに対して嘲笑う。
「うあぁぁぁ!ふざけるなぁぁぁ!」
「アハハハハハハハハハハハハ!ふざけてねぇし。弱いねぇ!弱いねぇ!」
そして、コピーは残忍な顔になる。
「もういいよ。うぜぇ。気色悪りぃ。暗黒曲!インテルンディオ!」
そして、ヴェルは切り刻まれた。俺は色々と驚いたがとにかくお礼を言った。
「ありがとう。助かった。」
コピーはこちらを見るとそのまま去っていこうとしたから俺は聞いた。
「なぁ!お前!俺は殺さないのか?団長を殺したように。」
コピーは俺をめんどくさそうに見ると言う。
「俺は最強になるからよぉ。手負いのてめぇなんか殺しても俺のプラスにはならねぇんだ。もっともてめぇが団長の仇で俺を殺すってなるならまだ別だがな。お前はどうする?俺を逃すのか?それとも戦うのか?どっちだ?」
俺は。確かにこいつに色々と変えられた。それでも、俺は助けられた。俺は言った。
「逃すよ。俺はもうこの世界で弟に会えればもう十分なんだ。弟に会えば俺はこの世界を去るよ。」
コピーがニヤついて言った。
「んじゃあよ。その弟探し手伝ってやるよ。左手。」
「ホントか!左手てなんだよ。」
「だが、一つ覚えとけ。俺は殺人鬼だ。そして、最強を目指すぜ。お前はそれでもか。」
俺は最低だ。黄金団も神聖団もホントは興味ない。自分にとって大事なものにしか興味ない最低な野郎だ。ただ、俺はその十字架を背負ってでも俺は歩くよ。俺は空を見上げ呟いた。
「じゃあな、レイ、カナエ。弟のために俺はお前らとここで別れるよ。」
俺はコピーと手を組んだ。俺は最低でもいい。世界より自分の大事なものが一番だから。コピーは言った。
「良い別れの言葉だ。ついてこい。」