ー最凶クロー
俺はまた一歩成長した。グランドを倒し、グランドに認められた。でも、そんなグランドや俺を一度殺しかけたカナエでさえ、この団では下っ端の方らしい。
この団の目的は何だろう?この団の目的は、グランドやカナエ以上の強さがいるということで、団長は『強者』を欲していたのだろうか?
そう考えていると身体が大きなグランドが、立ち止まって俺の方を覗いて言った。
「ここが地図の場所だ。入れ入れ。」
そして、入って見るとそこは酒屋ぽっかた。
そして、一斉に人が開いた扉の方を向く。一瞬間が空くと、その人達は向き直る。一人の小柄で高身長な男性が、グランドに言う。
「おせーぞ。グランドォ。お?そいつが新入りか?弱そうやなぁ。」
そいつの言葉に少し苛立ちを感じたが、新入りの俺は逆らえないのでこらえた。
「言っとくがこいつは、いやこいつらは俺を倒したぞ。」
「こいつらぁ?カナエさんと共闘?」
「いや、私ではなくー」
カナエが口を開こうとすると、携帯の電源がつき、音声が流れる。
「私です!赤道レンです!」
「うわっ。携帯が喋った。」
と小柄な男性は驚き目を見開いていた。
「あぁ、俺の名はなぁー。」
小柄な男性が名前を名乗ろうとすると、マイクの音が酒屋全体に広がる。マイクを持った金髪の青年はノリノリで喋り始めた。
「お集まりいただいた黄金団の皆様、急な連絡で申し訳ない。何故急なことかと言うとー。」
その青年は名乗らず喋るかと思いきや突然礼をし、会場に広がるように言った。
「おっと失礼。僕の事をご存知じゃない人もいますよね。僕の名前は、黄金団副団長水神ナルヤです。どうか覚えて言ってくださいね♪」
一瞬間が空いて、また話し始めた。でも少しあの陽気な態度が副団長で、気に食わなさそうな人も多いように思えた。そこで横で真面目に聞いているグランドに聞いてみた。
「人気ないのか?あいつ。」
「いや、いつもあんな感じなんだ。ただ、団長がやられたことを皆知ってるから、次の団長が自動的にあいつになるだろう。それが嫌なんじゃないのか?俺は誰が団長だろうと興味ないがな。」
そう言ったグランドの目には、何かグランドにも目的があるように思えた。
「そうか。」
俺はきっとあるだろうグランドの目的を聞こうとしなかった。ここの人達はおそらく全員JOSログイン者だから、それぞれの目的がきっとありここに来ているからだ。そう考えるとあの青年の話にまた耳を傾ける。
「全然皆、僕の話聞いてないね。大した話してないが。まぁ、今回集まったのには理由がある。じゃ、これには皆、向くかな。団長の死についてだよ。」
周りの空気が一斉に変わった。一斉に青年を見つめる。
「やっぱり気になるよね。まぁ、知ってる人も多いけど団長は。金城ゴルドは死んだ。」
周りがどんどんと空気が重くなる。
「やはり、次の団長とかを決めるよりさ。今やるべきことを精一杯やって落ち着いた時にゆっくり話そうと思うんだ。だから、今日決めるのは二つのやることだ。まず一つ目、今回団長を殺したのは異例のコピーだ。皆も知ってる通り、この世界には自分のコピーが存在する。通常の場合コピーは神器、魔法が使えないが、おそらくバグによって使えてる状態にある。そいつの抹殺だ。」
次の青年が言った言葉に俺は息を飲んだ。
「この世界のコピーが死ぬと、本体も死ぬ。つまり、僕達は人を殺さなくちゃならない。でも考えて欲しい。1人死ぬか万人死ぬか。」
何だと!?俺は親父に頼まれて来たのに、コピーが死んだら、俺も死ぬ?だと!顔に現れていたのか分からないけど、横にいるグランドが話す。
「今は黙って聞いてくれ。」
今、俺は素直に聞くことにした。今、問題を起こせば自分が標的になってしまうからだ。話を聞き続けた。
「この仕事は、団体で動くものじゃない。それぞれ始末したい人がやれ。ある程度腕に自信があるやつだ。あいつは強い。団長に本気出さず勝ちやがった。あいつの目的は調査中だ。頑張ってくれ。」
俺は行くしかないとレンとアイコンタクトをとる。誰かにあいつが殺される前に俺がやるしかない。だが、あいつをどうやって倒すか。どうすれば。俺は考える。話は続いていた。
「で、二つ目は団長の蘇生だ。」
この言葉に皆は固まる。
「これは団体任務だ。これの責任者は僕だ。」
グランドが言った。
「そんなことが可能なのか?」
「あぁ、可能だよ。蘇生魔法使いを見つけた。」
団長復活に皆は喜ぶが、それも簡単じゃなさそうだ。
「言っとくけど、その人に俺はあった。その人が蘇生する条件は、その人に勝つことだ。その人は強い。」
そうすると、1人の男がナルヤに近づき言う。
「でもよ団長がいなくなったいま、俺達があんたの言うことに従う必要はねぇよな。副団長。その任務俺だけにさせろ。」
その男はグランドだった。
「君は誰だい?名乗らないなんて失礼極まりないね。」
「俺の名はグランドだ。団長の復活を望むものだ。」
「そうか。グランドさん。あなたには居場所に今から行ってもらおう。いや、皆にね。」
そう副団長が言うと、長く持ち手が水色の槍が出る。
「マギア!モビエント!」
周囲が光を放ち、目を開けると酒屋が消え、砂漠になっていた。その場にいる全員が全員が驚く。
「ここは?どこだ?」
「よし、無事に皆、転送出来たみたいだね。グランド君、君がこれから戦ってもらうよ。蘇生魔法使いとね。」
「勝てば良いんだな。副団長さんよぉ。」
「うん、いいよ。来て。クロ。」
やけに副団長があっさりしていた。そして、クロと呼ばれた人にレンと俺は息を飲む。
「初めまして、グランドさん。クロです。」
そう言った人物は、俺をログイン場所まで連れて行き、親父の側にいた黒執事だった。クロは一瞬俺と目が合うが何事もなく、平然としていた。
「クロさん。もう始めていいか?喧嘩。」
グランドはどうやら焦っているようだ。対してクロは恐ろしいほど落ち着いている。クロは冷静に言う。
「話はさっき聞きました。そんなに団長を蘇生したいんですね。でも人生はうまく行かないんですよ。残念ながら。あなたは倒せませんよ。私を。」
「ほざけ!」
グランドは走り出し、いきなり使った。
「テージ!王拳!」
放たれた拳はあっさりクロじゃない奴に止められた。
「マギア!プロテクトディアス!」
そうクロが言うと床に急に出現した魔法陣から漆黒の鎧を纏い、黒い大きい剣であっさりと拳を止めて、馬に乗って魔法陣から姿を現した。
「な、何だ?この黒い鎧は。」
「デュラハンです。僕の魔法は、死んだのを蘇生する魔法です。そして、僕には10人の守り神がついています。デュラハンはそのうちの1人です。では行きますよ。」
「テージ!暗黒斬・飛!」
デュラハンの大きな剣が大きく上に振り上げられ、グランドは遥か上空に吹き飛ばされた。
「ガバッ!まだだぁ!テージ!煙拳!」
俺との戦いでは、使わなかった技だ。キングブラウンから大量の煙が溢れ出る。デュラハンは下からグランドの方へ飛んでいく。しかし、煙が発生しているから分かるはずがない。クロも詠唱しようとしていなかった。でも、デュラハンは動き、大きな剣をグランドに向かって振りかざした。そして、それはグランドの腹に命中した。
「何だとぉ!?煙の中にいる俺が分かったのか?」
クロは不敵に笑い言った。
「僕の守り神は一度言った技が成功するまで相手を狙い続けるんだ。今のがデュラハンの技、暗黒斬・飛さ。」
場が凍りついていた。俺も衝撃が走っていた。一度詠唱で言った技を成功するまでだと?でも状況に応じて同じ技でも体勢を変えないといけないのじゃないか?だが、次の瞬間謎は解ける。デュラハンは歪な音をギシギシと立てながら、一歩ずつグランドの方に歩いていく。ここで分かったのは、あのデュラハンは自己判断力を持っているらしい。つまり、ほぼ限りなく人間に近い状態にあれるようだ。隣で見ているカナエもこの謎に気づいていた。
「通常ではありえないんだが、そんな詠唱もせず、自動で攻撃するなど、蘇生魔法の場合、もしかしたら蘇生した物や人は勝手に動くのかもしれない。」
さらに、まだクロの方が絶対的な優勢であることに俺は気づいていた。
「やばいな。クロは俺のレッドイスパーダやカナエのホワイティングのような武器を出してないんだぜ?さらに守り神を追加出来るとしたら、厄介過ぎるだろ。俺も加勢にー。」
レッドイスパーダを取り出そうと俺はするが、素早くカナエが俺の腕を掴む。
「駄目だな。グランドの性格上、自分の戦いは邪魔されたくないだろうし、第一お前が行っても状況は変わらないだろう。」
カナエのまったく反論出来ない言い分に俺は俯く。くそっ!俺は何でこんなにも弱い。 目の前の仲間を助けられないんだ!畜生!
俺がそんなことを考えている間にもうデュラハンは、倒れ伏しているグランドに、限りなく近い状態にあった。クロは詠唱した。
「テージ!暗黒斬・虎!」
デュラハンは片手で大きい剣を持ち上げ、振りかざした。倒れ伏していたグランドはキングブラウンで身体を丸まらせてガードする。だが、デュラハンの圧倒的な力により、床がどんどん深くなり、砂漠の砂が舞う。グランドは耐えようと雄叫びをあげた。
「ぐおぉ!この力ヤバい。だが、負けらんねぇんだよぉ。」
どんどんと深くなっていった。デュラハンの大きな剣にグランドは、押されていった。クロはめんどくさそうに出したのが本だった。そして、詠唱する。
「マギア!ラディージョ!」
そうするとデュラハンは一瞬でガラスの割れた音がして消えた。グランドは地中深くから這い上がろうとする。俺はカナエに聞いた。
「なんであいつデュラハンを消したんだ?」
カナエが口を開こうとする。
「それはー。」
それを聞いたのかクロは言った。
「それはもう決着をつけるからさ、あんなしぶとい奴は。君も見てなよ、レイ。」
俺とカナエは驚いた。カナエはすかさず、聞いてきた。
「君は彼を知っているのか?」
「いや、現実で会っただけなんだ。でも、あいつがJOSにいるなんて驚いた。」
そして、戦いに目を戻す。グランドは地中深くから出てくると、砂漠一面に届くように雄叫びをあげた。
「うおぉぉぉ!お前、なめやがったな。デュラハンを途中で消しやがったな!」
クロはニコッと笑う。
「団長好きの君にはとっておきの殺し方があるんだ。だから、かかって来なよ。」
クロは余裕な眼差しで見つめる。グランドはその顔を見て、言う。
「後悔してからじゃ、おせぇからな。この俺を2度も舐めやがって!」
グランドは左手を右手に置いて、詠唱した。
「テージ!正拳!」
まっすぐきれいに拳が放たれた。クロはニコッと笑い、詠唱した。
「マギア!デスアーマント!」
次の瞬間周囲の空気は凍りつく。カナエも震えながら言う。
「あれは団長の神器。ゴールドボリアン!!!死者の神器も蘇生できるのか!不味い!だとしたら!ゴールドボリアンの間合いだ!」
俺は戦ったから分かる。あの技を人体に喰らったら、おそらく死ぬ!
「もう遅いよ!テージ!黄金斬!」
金属音を立てて、火花を散らしていたが、やがてグランドの右手は遥か上空へと吹き飛んだ。
「グランドォォォォォ!」
クロは自分の腕を抑えているグランドに言う。
「弱者は何も望むことが許されてないんだよ。ナルヤ。もうそろそろいいだろ?解散して。」
俺はグランドの方に駆けつけ、クロの方を見て言った。
「グランドの負けだ!あんたらの中に治癒魔法がいるだろう!グランドの腕を治してくれ!」
クロは俺の方を向いて、神器を使わず、蹴り飛ばして言った。
「甘いよ。レイ。弱者は望むことが許されないって言ったろ?そいつは治癒しない。あと腕が吹き飛んだだけでもありがたく思って欲しいね。死ななかったから。」
俺が歯ぎしりを立ててるとカナエはクロに聞いた。
「解散だと?どういうことだ。」
そうすると高い青年の声がする。副団長の水神ナルヤだった。
「それについては僕が説明しよう。団長なき今、次の団長は僕だ。だから、僕はあることを決定する。黄金団はこれよりなくなる。そして、新たな団を結成する。それは神聖団だ。そして、この神聖団は事前に通達が来ている人しか入れない。」
そうすると、さっき酒屋であった小柄な青年が言う。
「簡単に言えば、弱者はいらねぇてことだろ?グランドみてぇのはよ!」
グランドの腕を踏みつけた。
「じゃあな。グランド。」
そういうと何人かがナルヤの方を集まる。ナルヤは言う。
「皆さん、お疲れ様。神聖団は集まったみたいなので、僕たちは行くよ。君たちは勝手にして。」
周りがザワザワするなか、副団長は詠唱した。
「マギア!モビエント!」
そして、副団長たちは跡形もなく去った。こうして、黄金団は解散した。そして、新たにできた神聖団。俺は頭の中に、クロが言った言葉が頭から離れない。
「弱者は何も望むことが許されない。」
そして、これが頭から離れないと同時に、俺は強くなりてぇ。周り一面砂漠の中、俺は思った。