ーログイン!ジャスティス オブ サンクチュアリー
戦争はなぜ起こるのか、人はなぜ今日もどこかで争い続けるのか。そして、なぜわかりあえない人達がいるのか。それらは全て『正義』に基づく事である。人には正義があるから、誰かを傷つけ、誰かを守り生きているのである。そして、俺も今この世界で自分の正義の為に戦わなければならなかった。この世界の名はジャスティス オブ サンクチュアリ。またの名を『正義の聖域』と言われる場所だった。俺がなぜここに連れて来られたのかは1週間前に遡る。
ー1週間前ー
その日もクソニート生活を送っていた俺氏。18歳童貞である。母親は幼い頃からいなくて、父親はほとんど家にいなかった。家にたまに帰って来たっと思ったら食材を置いてまたどこかへ行く。父親の仕事の内容は知らない。第一に俺と父親は血は繋がっているが、ほぼ他人のようなものだった。だけど、俺は毎日のように寝て食ってゲームして、父親がいなくてもそれはそれは良い居心地だった。だが、そんな俺の生活は突然崩されるものにあった。その理由は普段はかかってこない番号から通知が来る。父親からだ。
「今すぐ外に出る準備をしろ。」
それは、いきなりの通知だった。その後のメッセージも読み上げながら俺は準備をした。
「父さんの部屋のパソコンの前に置いてある鍵を持って外を出てバスに乗り、株式会社ジャスイン前のバス停で降りて、入り口のエレベーターに鍵を差し込めればOKだ。」
意味がわからないし、急すぎてわけわからんからゲームしようっと思ったら俺のスマホに何かがダウンロードし始めた音がした。
「データダウンロード完了」
何だ?っと思って見てみるとそこには可憐な赤髪の美少女が写っていたんだ。
「こんにちは!私の名前は赤道レンです!」
聞こえたのは女の子の声だった。ショートヘアで明るい声をしていたが、脳がパニックになった。
「いや、誰?てか人間がデータ?いや、このデータがなんだよ!マジで。」
独り言というより抑えきれないパニックを散乱させてるような感じになった。
「私はあなたのサポーターです。もちろんデータ化されてますが。」
「サポーターを頼んだつもりないんだが。色々と脳の処理が追いつかないよ。」
「私はこれからあなたの相棒になります。」
「いや、結構です。」
「そういう役目なんです!あなたの父親についさっき送信されたんです!」
「親父から?」
今回のいきなり過ぎる展開は全て俺の親父から始まったことだったから、嘘でもなさそうだ。
「はい。」
「分かった。で?」
「で?って分かってるよね!さっき父親さんから来てましたよね。やるべきこと。早く着替えちゃってください!バスに乗りましょう!」
色々と面倒なことに巻き込まれるような気がした。だから、寝るか。
「おーい、そこの童貞!いい加減にしろ!」
「何で知ってんだ!間違ってないが、、、。」
「あなたがこれ以上駄々捏ねるとこの奥にある童貞ファイルをネットに晒します!」
それは俺の禁断のファイル。くそっ。データ女がぁ。
「はい、いい子いい子」
こいつ殺す。ぜってー。とは言っても少しこいつの正体が気になるな。何故、今俺に送られてきてこいつはA Iの癖に知能、まるで人間かのような言葉を発する能力、感情があるのか。普通のA Iならば俺の禁断のファイルを探せないし、こんな会話は出来ないし、そしてA Iは「元気」とかないし。普通の感じっていうか言葉に感情がないサポーターをA Iと呼ぶ。確かに考えてみるとこいつは何なんだ?
「分かった、行こう。その前に。もっとお前を知りたい。」
「そうですね。私はゲームマスターベルナンテに作られたあなたのサポートA Iです。」
「誰だ?ベルナンテって?」
「あなたのお父さんです。」
「なるほど。ゲームマスターというのは何だ?」
「JOS。ジャスティス オブ サンクチュアリです。」
「あー。今流行りのVRMMOってやつか。本で読んだわ。あの仮想世界にダイブするんだろ?」
「半分あってますね。」
「半分?」
「確かに異世界にはダイブします。しかし、そのダイブする世界はここなんです!」
「は?」
「正確に言えば異世界化された日本ですね。」
「異世界化?」
「はい。今、ここでは空を飛ぶことや魔法を使うことが出来ません。しかし、ここが異世界化されると景色は変わりませんが、空を飛ぶことや魔法が使うことが出来ます。」
「なるほどな。」
「あと先に伝えなくてはならないことがあります。でないとあなたはパニックになりそうなので。」
「伝えないといけないこと?」
「そうです。それこそが今回のお父さんの通知の理由なのです。」
「通知の理由!!!」
そうだ。なぜ俺は今日呼び出されたのか?明確になってないんだよ。なんなんだ?
「それは会社に着いてからにしましょう。」
「なんで?今!話せ!」
「お楽しみは後ですよ。というか気になるならさっさと行けばいいのに。」
「分かった。お前を置いてくか。他人事だしな。」
「嘘です、嘘です。すみませんでした。一緒に行きましょう。」
「チッ!この流れで話すかと思ったのに。」
そして、俺はすぐに荷造りをして、バスに乗り、会社の前に着いた。すると、黒い執事の格好をした青年が話しかけてきた。
「あなたがベルナンテ様の息子さんですね。こちらのエレベーターです。」
そう言って案内されたのは会社の裏にある地下室にある汚いエレベーターだった。
「お鍵を。」
「あ、はい。」
そして、エレベーターに差し込むと読み込みエレベーターのドアが開いた。
「乗ってください。」
「はい。」
黒い執事の人はボタンを押す。そして、目の前が真っ暗になってドアが開いた。そこには親父がいた。親父は口を開き、
「ようこそ。ジャスティス オブ サンクチュアリのログインルームへ。」
広がるその部屋には沢山の人がカプセル状の機械に入っている。
「色々と親父に聞きたい。」
「あぁ。そうだな。」
「まず一つ。親父の目的はなんだ。こう見ると親父のゲームに沢山の人がログインしてるみたいだが。」
「こいつらは己自身の目的でここにきておる。」
「己自身の?」
「このゲーム。JOSはこの日本をそのまま異世界化したVR MMOだ。つまり、もう一人の自分がいる世界なんだ。」
「もう一人の自分?どういうことだ?」
「簡単に言えば、今この日本に住んでるおよそ一億人全てのコピーを取り、それがJOSに存在する。」
「そんなことが可能なのか?」
「可能だ。私がその製作者だからな。」
「親父が!?」
「当たり前でしょ?馬鹿ね。あなたの親父はこの私を作ったのよ?簡単なことだわ。」
「おーレンか。急に送りつけてすまないね。これからも頼む。」
「へへー。大丈夫ですよ。この超絶美少女AIレンちゃんがいれば、、、。」
電話の電源をとっさに切る。
「てめーは黙っとけ。話が途切れる。ってことはよ。俺の分身もいればもしかして俺の母さんもいるのかなぁ。」
「そのことで私は今日お前を呼び出したのだ。」
「何かあったのか?」
「その前に。こいつらがここにいる理由を話さなくてはならんだろ。結局話が反ってるじゃないか。順序よく話そう。」
「悪い。」
「まず、このJOSでは魔法が使え、武器を使ったりする。」
「待てよ。このJOSって日本を異世界化したとは言っても所詮景色は日本なんだろ?よく考えたら戦うための魔法とか武器とかいらなくね?」
「いや。この世界で魔法や武器を使う理由は己自身の夢のためや野望のためにある。」
「どういうことだ?」
「例えば、現実世界で夢が叶わなかったとか、あるいは会社をクビになったとか。そういう人のため。」
「基本的にそいつらは一体何すんだ?」
「もう一人の自分にそれを成し遂げさせるのだ。」
「もう一人の自分に?」
「そうして、上手く行かなくなりそうなら、邪魔者を魔法、武器で消す。」
「そんなことしても現実で夢とかが叶うわけじゃあないだろ?」
「そうだ。これは自己満だ。しかし、自己満を謳歌するもの。それこそがゲーム。どんなにゲーム、アニメ、マンガの世界に憧れたって結局はそれらも自己満すぎない。だから、私たちもまたゲームを作っただけだ。何もおかしくはない。」
言われてみれば正論かもしれないな。納得出来ないが反論する言葉が見つからないな。
「そうだな。人間って結局は自己満なのかもな。じゃあ、俺をここに呼んだ理由は?」
「さっきも言ったがこれは今JOSにいるお前の分身が起こしたバグを処理してもらいたい。」
「俺の分身が起こしたバグ?」
「そう。きっかけは簡単だった。お前の母さんの分身がJOSで殺された。」
「、、、。」
「その時、お前の分身は制御不能になった。」
「制御不能?」
「普通分身ならば私のゲームマスターの力が効き、現実の本人らしくないことをしようとするとしばらく停止する。」
「限りなく現実の本体に近づけるためか。」
「そうだ。しかし、制御不能になったお前の分身は周囲の人間を殺し始めた。」
「だったら母さんの分身を殺したやつをゲームマスター能力で停止させればよくね?ていうかなんでそいつは母さんの分身を。」
「残念ながらゲームマスター能力で止められるのは分身だけだ。」
「つまり、母さんの分身を殺したのは現実からログインしてるやつということか。」
「そうだ。そして、そのログインしたやつは自分の事をクビにした奴に恨みを持っていたらしい。」
「それが母さんということか。なるほどな。わかったぜ、親父。いっちょ自分の分身を落ち着かせてくるわ。よし、ログインさせろ。」
「レンも忘れんな。私が作ったお前への唯一のサポートだ。」
「わかったよ、こいつ嫌いだけどな。」
「こっちだ。」
普通のベットだ。
「ここに寝るだけでいい。」
「マジかよ。すげー。じゃ、行ってくるか。あと親父お前の一人称キモいから。直しとけよ。その歳で私は無いわ。」
「ハハハ、健闘を祈る。お前の分身は強い。」
「マジ?流石俺の分身だわ。」
「さぁ、ログインジャスティスと唱えよ。」
「ログイン!ジャスティス?」
こうして俺はJOSにログインした。でも、知らなかった。本当の親父の目的を。
「クロ。いるか?」
クロっと呼びかけられたのはエレベーターの案内人の黒執事だ。
「えぇ。いますよ。」
「お前に頼みたいことがある。」
「何でしょうか?」
「私の現実の息子レイを暗殺してほしい。」
「お人が悪い。了解です。ゲームマスター。」
レイ。その告げられた名前は俺のことだ。それを知るのは先の話だった。