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80話 肝試しのペア決め抽選


 ホテル内で出された夕食の郷土料理に満足した後、修学旅行二日目のメインイベントである肝試しの時間となった。


 森の中に入って行って、教師陣や夢燈島の観光協会の人達が扮する脅かし役を警戒しつつ、森の中にある〝縁結びの泉〟にあるゴール証明のバッヂを持って、スタート地点とは反対側にある出口に行き、ゴール証明を見せるとクリアというものだ。


 そう、〝縁結びの泉〟は一人が飲めば良縁に恵まれ、両想いの男女が飲めば結ばれるという伝承がある女性が無視できない恋愛パワースポットだ。


 肝試しで森に入るのは男女ペアになるため、同性同士で泉の水を飲むことは回避される。

 

 つまり、ペアとなった男女が泉の水を飲んで戻って来たのなら、そいつらはもうカップルに変わるわけだ。

 もちろん必ずしも一緒に飲む必要はないし、その時は別々に飲んで互いの良縁をお祈りするだけだ。 


 け、ど。

 部活の先輩曰く〝三分の二のペアがカップルになる〟らしい。


 恐らくだが、縁結びの泉と肝試しという行事のせいだろう。

 恋愛の逸話に事欠かない縁結びの泉へ赴く男女は、どうしても〝相手は自分に気があるのでは?〟と意識してしまう。

 

 加えて肝試しという行事。

 脅かし役の演出に驚く女子、女子を守らんと勇ましく振舞う男子。


 意識し始めた男子に守ってもらえるお姫様と化した女子は、さらに相手を意識する。


 そして辿り着いた縁結びの泉という絶好のチャンス。

 

 どう見ても出来レースです。

 本当にありがとうございました。


 明らかに学校行事でやるレベルの策略じゃない。

 学校側が積極的に異性交流を推していくのはどうなんだろうかと疑問に思わなくもないが、それを咎める先生はあんまりいない。

 

 むしろノリノリだ。

 

 そんな肝試しにおいて、俺と鈴花はどうしても警戒するべきことがあった。


 修学旅行にまで付いてきてゆずを付け狙うストーカー……そいつが行動を起こすなら、間違いなく肝試し中だと踏んだからだ。


 人気のない森の中で、ゆずとペアになった男子を排除すれば、ストーカーからすれば念願のゆずと二人きりだ。


 そんなことをさせないためにも、俺はどうしてもゆずとペアにある必要がある。


 協力者としては鈴花が一番期待できる。

 俺の番号を鈴花が聞きだして同じ番号を持つ女子とゆずの番号を交換し、強制的に俺とゆずをペアにする算段だ。


 鈴花以外の女子の協力者には中村さんに依頼した。

 ストーカーのことを話したわけじゃなくて、彼女の恋愛脳を利用させてもらった形だ。


 その辺の交渉も鈴花にやってもらったのだが……思いのほか彼女はあっさり了承。

 

「竜胆君とゆずちゃんをくっつけるわよ!」 

「「「「おおー!!」」」」


 中村さんの同士達もセットになって。


 もし俺とゆずがペアになった場合“二人を幽閉して吊り橋効果でドキドキ♡倍増作戦”とかいうクソダサネーミングで有難迷惑でしかない作戦が発動するらしい。


 作戦内容を俺に伝えられたが、正直ゆずをストーカーから守れたらどうでもいいので、すぐに忘れることにする。


 スタート地点である森の入口付近に集合し、これから始まるくじ引きでどの異性とペアを組めるかという勝負の分かれ目が待っている。


「それではこの箱から紙を一枚とって、中に書いてある数字が同じ人とペアになることができます」


 さっちゃんが二つの箱を取りだし、男女に分かれて並ぶ様指示が出た。


「23番!」「おお、俺だ」「ええっと48番か……」「私と同じだね」「59番! 誰誰?」「僕です……」


 次々とペアが出来上がっていっている。

 さすがにゆずと同じは難しいだろうなぁ……。


「あ、4番だ~」

「咲!」

「え、亮くん?」

「僕も4番だ!」

「ええ!! やだ凄い……運命的だね~」

「咲……」

「亮くん……」


 あのバカップルすげえな!!

 神様はあの二人の仲を推すために石谷達に構っていられないのかもしれないな。


 やがて俺の順番が回ってきたので紙を一枚引いてみる。

 取った紙を開いてみると、“7番”と書かれていた。

 おお、ラッキーセブンだ。


「司、何番だった?」


 鈴花が俺にそう聞いてきた。

 モタモタしていると違う番号を引いたかもしれないゆずが別の男子とペアになってしまうかもしれないので、さっさと打ち明ける。


「7番だ」

「う、アタシ2番……」


 同じ番号とはいかなかったか……。

 早く7番の人を見つける必要があるな。


「司、もうすぐゆずの番だからゆずの番号を確認してくるよ」

「ああ、頼む」


 よく出来た親友だ。

 そうしてゆずの順番となり、箱から紙を取り出して中を開いた。


「……」


 鈴花はゆずが番号を声に出す前に彼女に近付いていた。

 行動が早くて助かる。


「ゆず、何番だった?」

「あ、鈴花ちゃん……11番でした」

「あぁ~、司は7番なんだってさ」

「……そう、ですか」


 番号が違っただけで明らかに落ち込まないでゆずさん。

 大丈夫。

 今すぐ7番を引いた女子と変わるから。


「並木さんが11番……俺10番……妖怪いちたりない……」「17って見ようによっては11に……見えないよね……」「1番……あと10! 10あれば……!」「僕なんて22だぜ? 誰か2で割ってくれよ」「じゃあ俺のも3で割れや!」「ああ!? こっちは4で割ったら11なんだぞゴラァ!?」「55はチャンスありますか!」


 いつか見たバスの座席決めみたいに、ゆずとペアになろうといきり立つ男子達をしり目に、鈴花はゆずを世間話を続ける。


 鈴花がゆずを引き留めている間に、俺は7番のペアを探す。


「すみませーん、7番の人はどこですかー?」

「はい、私が7番だよ」


 あ、すぐに見つかった。


「あ、ありがとうございます。実は――え?」


 声のした方に振り向いたとき、俺は驚きのあまり絶句してしまった。

 

 その人は栗色の髪をストレートにしていて、白のブラウスと茶色のフレアスカートという如何にも新米教師らしい雰囲気だった。


 それは、俺があらゆる意味で意識せざるを得ない人――柏木菜々美さんだった。


 そして彼女が名乗り出たということは、よりによって彼女が俺のペア番号である7番を引いたことに他ならない。


「ふふ、肝試しはちょっと怖いけど、司くんとペアになれるなら全然へっちゃらだよ」

「……」


 そう言って微笑む菜々美さんに、そんな場合ではないと頭で理解はしてても、どうしても目が離せない程見惚れてしまった。


 ヤバい……この人のクジ運の強さを忘れてた。

 しかも修学旅行中の準備の段階で、菜々美さんも肝試しに参加するということを今になるまで忘れていた。


「え、と、あの……」

「? どうしたの?」


 うまく言葉が紡げない俺に、菜々美さんがキョトンとした表情を浮かべた。


 中村さんから他クラスも含め、多くの女子が協力してくれているが、その中に菜々美さんは入っていない。


 理由は簡単だ。

 菜々美さんが俺に好意を抱いているからだ。

  

 もちろん、ゆずのストーカーのことを話せば彼女も快く協力してくれるだろう。

 

 でも、そのためには、この人がせっかく掴んだ俺と合法的に二人でいられるチャンスをこっちの都合で潰すことになる。


 そうした方がゆずへの被害を確実に減らせるだろう。

 

 でも、俺は今、ゆずと菜々美さんのどちらかを取るかで悩んでしまった。

 迷った理由も簡単なことで……きっとバカなことだ。


 菜々美さんを悲しませたくない。

 後日埋め合わせをするなりすればよかったのに、俺は真っ先にそんなことを考えてしまったからだ。


 そしてゆずのストーカーのことを話そうか逡巡している内に……。


「並木さんが11番なんだ」

「あ……ええっと、よろしくお願いします。色屋さん」

「――ぁ」


 ゆずが同じ番号を引いた色屋とペアを組んでしまった。


「あ、色屋……」

「ん? なに? 橘さん?」

「っ、その、ゆずに変なことしたらただじゃおかないからね?」

「まさか。一度フラれたからってそんな卑怯な真似しないよ」


 鈴花も咄嗟に色屋にストーカーのことを打ち明けようとしたが、もし色屋がストーカーだった場合の可能性を考えたことで、冗談めかして忠告する程度にとどまった。


「――!」

「っ!」


 一瞬だが鈴花は軽蔑の眼差しで俺を睨んだあと、足早に自分のペアを探しに行った。


「2番! 誰!?」

「うえっ!? 俺が2番だけど……」

「っち、石谷か……じゃあさっさと並ぶよ」

「え、ちょま、襟引っ張らないで!? というかなんで俺を軽々と引き摺れてんの!?」

「鍛えてるから」

「何怒ってんだよ? ゴリラみたいに眉間に(しわ)が寄って――」

「……」

「止めて!? 俺を引き摺ったまま無言でいきなり走らないで!? しりが、しりがあああああっ!?」


 鈴花は明らかに怒っていた。

 それも尤もだ。

 

 さっさと菜々美さんにゆずのストーカーのことを打ち明ければよかったのに、俺とペアになれたことで喜んでいる彼女を悲しませたくないなんて考えて、迷って、作戦を台無しにした。


 ゆずを優先する理由はいくらでもあったのに、ただ悲しませたくないだけで全部ふいにした俺のせいだ。


 ゆずの想いの成就を願ってる鈴花からしたら、俺の迷いは裏切りに等しい。

 軽蔑されてもおかしくないだろう。


「司くん、なんだか顔色が悪いよ?」

「……いえ、ちょっと疲れただけです」

「大丈夫? 治癒術式を掛けて欲しかったら言ってね?」

「はは、たかが疲労に魔力の無駄遣いは駄目ですって」


 罪悪感が顔色に出ていたみたいで、菜々美さんに心配を掛けてしまった。

 

 もっと早く自分の気持ちをハッキリさせておけばこんな時に迷わずに済んだ。

 いつか二人が告白をして来た時に答えを出せるようになんて悠長なことを考えていたせいだ。


 これじゃあ、あの時の繰り返しだ。

 

 あの頃から全く成長していない自分に反吐がでる。


「それじゃ、肝試し、頑張りましょうか菜々美さん」

「! うん、そうだね!」


 おれの言葉に菜々美さんは嬉しそうに微笑んだ。

 その笑顔に微笑ましく思うも、どうしてもゆずのことが頭から離れなかった。


 いいや、ゆずなら大丈夫だ。

 なんていったて最高序列第一位〝天光の大魔導士〟だ。

 

 そこらのストーカーなんて相手にすらならない。

 そう思うことで、無理やり自分を納得させるしかなかった。

 


ここまで読んでくださってありがとうございます。


次回更新は7月20日です。


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