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73話 渚の修羅場劇場


 どうして翡翠がここにいるんだろう……。

 ちゃっかり水着着てるし……。


 何故かここにいる翡翠は、暖色系の色が使われている花柄のサロペットタイプの水着を着ており、下のボトムは黒色のショートパンツだ。

 サロペットタイプの水着は前側の露出が少ないが、背中が大胆に広がっている。


 そんな中学一年生の女の子が俺の上でマウントポジションを取っています。

 

「えへへ~、来ちゃった♡です!」

「ええ……なんで翡翠がここに?」


 鈴花が頭にハテナマークを浮かべながらそう呟く。


「はわわぁ……つっちーの体って意外に引き締まっています!」

「やめろベタベタ触るな!」

「わぁ! 腹筋がちょっと割れています! せくしーです!」


 腹筋割れていたらセクシーって、俺じゃなくてボディビルダーの人に言ってやれ。

 翡翠が俺の肉体美(?)に惚れ惚れしていると……。


「あ、天坂さん! いつまでも司君にベタベタしていると司君の迷惑です!」

「そ、そうだよ! うらやま――早く退いてあげて!」


 さっきまで機嫌が良かったゆずと菜々美さんが不機嫌そうな表情でそう言い出した。


「ふええ!? ゆっちゃん、なっちゃん、なんだか怖いです!!」


 奇遇だな、俺もだ。

 明らかに〝私不機嫌です〟オーラが出てるよ……。


「怖くありません! 早く司君から離れてください!」

「いくら懐いてるからってやっていいことと悪いことがあるよ!」

「うぅ~、ゆっちゃん達がそういうならわかったです……」


 翡翠はそう言って俺から離れた。

 すると、ゆずと菜々美さんの不機嫌オーラも消え失せた。

 出し入れ出来るんだそれ……。


 さて、ここでちょっと状況を整理しよう。

 俺達は翡翠と交流があるため、突然の乱入に驚きはあったが、そこまで動揺は大きくない。

 が、今は修学旅行中の海水浴だ。

 俺達だけじゃなくて、羽根牧高校二年生達と、一部の教師がいる。


 彼らからすれば、見ず知らずの少女が現れ、俺にとても懐いている姿を見たらどう思うだろうか?


 その答えがこれだ。


「……嘘だろあの眼鏡……」「あんな少女に懐かれているとか……」「あの娘眼鏡のことをつっちーって呼んでいたよな?」「あだ名で呼ばれるとかどう考えても浅からぬ関係だろ」「……アイツ……ロリコンか?」「でもあの娘かなり可愛くないか?」「その仲が良い女子が美少女限定の女運おかしいだろ」「な、生ヒスイエル……だと……!?」「さすが竜胆君……あんな少女も攻略済とは……」「あの娘可愛い……」「う、うふふ、と、年の差……青年×幼女……」「並木さんと柏木先生に新たなライバルが……!?」「嫉妬する並木さん可愛い」「私もあの輪に入りたい」「天使よ! あの子は現代に舞い降りた天使に違いないわ!」


 かなり言いたい放題だ。

 どうしようこの状況……。


 ゆずと鈴花菜々美さんもどうすればいいか分からないみたいだ。

 翡翠は……何が起きているのか理解していないな! 

 頭に〝?〟が浮かんでいるのが見えるわ!!


 どうしたものか頭を悩ませていると、また知り合いの声が聞こえた。


「うわぁ~、なんやこの状況……せやからもうちょいゆっくり行こうやってゆうたやん、ひーちゃん」


 顎の先と同じ長さに切り揃えた黒髪と自信に満ちた釣り目気味の黒目に、トップは赤色のタンキニ(キャミソールみたいな形状)は黄色のストライプ柄にボトムも同じ色と柄で、番傘をさして南の島の日差しから隠れる、関西弁で話す美少女……和良望季奈もこの夢燈島に来ていた。


 え、いや何してんの? 


「ごめんなさいです……きーちゃん、つっちーの姿が見えたら居ても経ってもいられませんでした……」

「まあまあ偉い懐いとるもんやなぁ……分からんでもあれへんけど……」


 翡翠の返事に季奈はため息をつきながらそう言った。

 そして学校の面々に向かい合って挨拶をした。


「初めましてやなぁ、ウチ和良望季奈っちゅう名前です。こっちのゆずやつっちーの友達や、以後お見知りおきを。んでこっちのちまいのが天坂翡翠で、同じく二人の友達や」

「はい! よろしくです!」


 流れるように挨拶をしていった。

 でも皆ポカーンってしてるよ……一度に詰められる情報量をオーバーしてるよ……。


「「「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!」」」

「うわぅ!? なんや!?」


 沈黙を破ったのは男子達だった。


 「何なんだ眼鏡!! ロリ美少女の次は関西系美少女って人生イージーモードかぁ!?」「ロリっ子に続いて関西美少女からも〝つっちー♡〟って呼ばれてるとか何してたらそういうことになんの!?」「一人くらい俺達に恵んでくれ! そして死ね!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」「眼鏡死すべし!」


 シュプレヒコールがうるせぇ……。

 色々ツッコミたいけど、こっちもいっぱいいっぱいなんだよ……。


「う~ん、友達のこと悪ぅ言われんのは気に入らんなぁ、ちょぉぉっと黙っとってくれへんかなぁ?」


 季奈がそう言って微笑みながら殺気をチラつかせた。

 いやいや待て待て何してんだお前……。


「「「「……(´・ω・`川)……」」」」


 ……全員黙った……。

 まさに蛇に睨まれた蛙のように静まり返ったぞ……。

 

「さてと、なんでウチらがここにおるんかっちゅうとなぁ……」

「「「待って待って、普通に話を進めないで!!」」」


 俺と鈴花と菜々美さんが総ツッコミを入れた。

 

「つっちー、さっきしたひーちゃんとの電話の内容を覚えていますか?」

「え? ああ、修学旅行の行き先を……ってお前まさか!!?」

「え? どういうことですか司君?」

「石谷に翡翠のことを聞かれたって言っただろ? そのちょい前に翡翠から修学旅行の行き先を聞かれていたんだよ」

「あ、ということは、翡翠ちゃんと季奈ちゃんは……」

「……その電話でアタシらの居場所を特定して(転送術式で)飛んで来たってわけね……」

「はい! 大正解です!」


 翡翠がパアァッと笑顔を弾ませた。

 可愛いが、可愛いけど……。


「なにしてんだこの馬鹿ぁぁぁぁ!!!」


 俺の絶叫が響き渡った。




 ようやく落ち着いた周囲が俺達をチラチラと見ながら海水浴を楽しんでいた。

 

 俺達はというと、先生達がホテルから借りた救護用のテントにいた。

 落ち着いて話をしようにも日陰のほうがいいという判断をしたからだ。

 中にいるメンバーは俺、ゆず、鈴花、菜々美さん、翡翠、季奈、石谷、さっちゃん先生の八人だ。


「いや、さっちゃんは分かるけど、なんで石谷がいるんだよ……」

「だって生ヒスイエルだぜ? それに俺だけ仲間外れとか嫌だし……」

「お前は同じ班であっても仲間ではないからな?」

「ぶっちゃけ邪魔よ」

「も、申し訳ありませんが、石谷さんが居なくても問題がないのではと……」

「いても意味がないかな……」

「ひーちゃんはどっちでもいいです!」

「まああんま聞いてええ話やあらへんからなぁ」

「……石谷くん、一体何をしたんですか?」

「俺の扱いの改善を求む!!」


 馬鹿は放って置いて話を進めよう。


「えっと……天坂ちゃんと和良望さんでよろしいでしょうか? お二人は竜胆君からこの場所を聞いてこちらに飛んでやってきたということですが、一体どうやって?」


 さっちゃんが一番素直そうな翡翠に聞くが……


「……」


 翡翠は黙っていた。


 まあ〝転送術式を使って来ました〟とは口が裂けても言えないよな……。

 むしろ翡翠が口を滑らさないか心配だが……。


『天坂さんは本当に秘密にするべきことに関しては口が堅いので、彼女の口から魔導や唖喰のことが漏れることはありません』


 と、ゆずから太鼓判を押されている。


「天坂ちゃん?」

「……」


 しかしそれは下手に喋ると口を滑らすので、答えられないことには口を閉ざすという意味だった。

 口が堅いってそういう意味じゃねえ……。

 前に注釈として〝物理的に〟を付けとけ……それじゃ隠し事がありますってバレるからな?


「ウチの実家が関西でも有数の名家でなぁ、自家用機を使って飛んで来たんや」

「じ、自家用機……!?」

「季奈ちゃんって極道の娘なの?」


 嘘は言ってないよな……。

 関西で有数の(魔導における)名家で、自家用機(という名の自作転送術式)で飛んできたって……。


 あと石谷、極道の娘ってさっきの脅しでそう思ったのか?


「あっはは、まあ聞いた人みぃんなそないな反応するんですわ」


 季奈が一笑する。

 裏での名家とはいえ、やはりこういう話し合いに慣れているようだな。

 

「それでお二人の目的は?」

「ひーちゃんもつっちー達と海で遊ぶためです!」

「とこないな感じでウチに頼みにきたんや、友達のお願いを無下にしたら後味悪いやろぉ? せやから場所さえわかるんやったらええよって言うたったら、つっちーに電話して直接聞きだすんやもん、えらい驚いたで?」

「えへへ~それほどでも~です」

「褒めてねえよ……」


 お約束のボケをこなす翡翠にお約束のツッコミを返した。

 あの電話が来た理由をもっと考えるべきだったな……。


「な、なるほど……」

「まあでも先生や他の生徒さんらに迷惑かけてもうたんは事実やし、海水浴終わんのと一緒に本島に帰らしてもらいますんで、ウチらのことはお構いなしで結構やで」

「和良望さんっておいくつなんですか……?」

「俺らよりちょい上くらい?」

「うら若き花の十六歳やでぇ?」

「「み、見えない……」」


 世渡り上手そう……てか実際上手いからな……。


 海水浴はあと一時間程だが、翡翠が特に渋ることもないので、元々そういう約束なのだろう。

 なんだか嵐が強襲してきて去って行ったような感じだが……。


「よし、それじゃ俺がヒスイエルと遊んであげよう、俺のことは気軽に〝伸也お兄ちゃん〟って呼んでいいぜ!」


 ウザイしきめぇ……。


 鈴花も似たような気持ちを顔に出しているし……。

 よく見るとゆずと季奈に菜々美さんも同じ顔をしてる……三人にこんな表情させるとかある意味で凄いよお前……。


「しんにゃ……しゅんや……しゅにゅにゃ……噛んじゃうので石谷さんって呼びますね! あとヒスイエルは気持ち悪いのでやめてほしいです!」

「伸也って噛むような名前じゃないよな!? 苗字呼びな上に返しが辛辣!!?」


 うわぁ久しぶりに聞いたよ翡翠の噛み芸……苗字なのに噛んでないし。

 苗字でさん付けって俺の知る限りお前だけだぞ?

 尊敬しないし、憧れもしないけど凄いよ石谷……。


「石谷さんは放って置いてつっちーと遊びたいです!! ひーちゃんはつっちーからヒスイエルって呼んでほしいです!」


 ――ギュッ。


 おおう!? 

 翡翠が抱き着いてきた!?

 不意打ちで俺の胸にBカップを押し付けないで!?

 うわぁ……石谷が血の涙流してる……期待していた翡翠との邂逅が最悪な結果に終わったから……とにかくそれはやめとけ、さっちゃんまで引いてるよ?


「……俺は目の前の光景をぶち壊せるなら悪魔に魂を売ったって構わない……」


 この世に希望を見いだせなくなった人が言うようなセリフまで出て来ちゃったよ……。

 

「あ、天坂ちゃんと竜胆君って本当にただの友達……なの?」


 さっちゃん?

 言葉は教師として正しいのに、どうして友達じゃないって否定して欲しそうな表情をしているんだ?

 一体俺と翡翠に何を求めているんだ?


「天坂さん! 司君から離れてください!!」

「竜胆君の友達だって見てるんだよ!?」

「つっちーがひーちゃんと遊んでくれるなら離れます!」


 急に図々しくなったな!!?

 ちょ待って、またゆず達から不機嫌オーラが出てる!


「むぅ……それなら私にも考えがあります!!」

「はぁ!? 一体何を……」


 ――ギュッ、むにっ。


 ……え?


 エ? 

 ナニコレ? 

 ドウナッテイルンダ?


「うわぁスゴ……司の右腕の半分がゆずの胸に埋まってる……」


 やめて冷静に解説しないで鈴花さん!!?

 え、マジか!? 

 この右腕から感じる幸福感ってそういうことなの!!?


「I do not want to believe the reality in front of me, if it dreams please awake!」(俺は目の前の現実を信じたくない、夢なら醒めてくれ!)



 石谷が流暢な英語を発しながら、テントを出て行った。

 お前英語の成績そんなに良くないのに、よくそんな器用に言えたな……。


 俺が走り去っていった石谷に謎の称賛を送っている間にも事態は改善しない。


「むむ、ゆっちゃんまた(胸が)大きくなっているです!」

「当然です! 私だって十四歳ですので(身長は)まだ成長します!!」

「やっばい、この空間面白過ぎ……(笑)」

「ウチこれ見れただけでも満足やわぁ……(笑)」


 こいつら他人事だと思いやがって……!


 腹を抱えて笑っている鈴花達に文句を言ってやろうとするが、それは出来なかった。

 

「う、うぅ~、は、恥ずかしいけど……えい!」


 ――ふにょん。


 ……What?


 トツゼンメノマエガマックラニナッタヨ?


「おぉ! 空いとる左側から菜々美さんがつっちーの顔を抱き寄せたで!?」


 通りで身も心も暖かいわけだ!?

 やばい!

 菜々美さんの胸の柔らかさが水着越しに……!?


 ど、どうしたら柔らか、落ち着いてふわふわ、冷静にポヨポヨ……。


 駄目だ! 思考が落ち着かない!!


 さっちゃん! 

 教師なら目の前で繰り広げられている修羅場と言う名の不純異性交遊を止めてくれ!!


「うへへへぇ、美少女達が一人の男子の取りあう光景……マジ最高、このリアルハーレムを心のシャッターを切って記憶に焼き付けて次の同人誌に……」


 ファッ〇ンティーチャー。

 止めるどころか目に焼き付けてやがる。

 これで彼氏がいるんだぜ? 

 教師の風上にも置けないくせに!


「はあぁ~、司君の腕って、細い中に筋肉が詰まっていて、男の子の腕らしくて、とても素敵です……」

「うにゃ~、つっちーの体温が癖になるですぅ~」

「竜胆君、辛いことがあったら、私に言ってね? お姉さんが甘やかしてあげるから……」


 おいなんで自然鎮火しているんだよ。

 いや助かったけどさ、今度は違う意味で助けてください。


 ゆずさんやめて、腕に頬擦りしないで、胸を押し付けないで。

 ひーちゃんもな、猫みたいに全身を擦り付けないで、そのまま寝ようとしないで。

 菜々美さんは背中ポンポンしないで、ハブみを感じるから。 


「「あっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」」

「お前ら笑ってる場合かよ!? 止めて!? 今すぐこの状況を打開して止めて!」


 石谷から事情を聴いた男子達が殴り込みに来るまでの五分間、この状況が続いた。


美少女サンドイッチを食らっても理性を保てるのは控えめに言って凄いと思う。


次回更新は7月14日です。


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