57話 天光の大魔導士
三人称視点。
累計PV数が4000を突破しました!
ありがとうございます!
「グアアアア!!」
「ガアアアアア!!」
ゆずの宣言を合図に二体のカオスイーターが高速で接近する。
向かって左側の個体は腕を左下から掬い上げるようにして振るってくるのが、右側の個体はゆずの取った行動に合わせて動けるように構えているのが見えた。
「防御術式発動、障壁展開」
展開した障壁で爪による攻撃を防いだゆずは、右側にいる個体に攻撃を仕掛ける。
「攻撃術式発動、光槍三連展開、発射」
魔導杖の効果で威力を上昇させた光の槍が三本ともカオスイーターに刺さり、ダメージを受けて怯んだところにゆずは左脚による回し蹴りを食らわせる。
「グギャアッ!!?」
身体強化術式によって強化された回し蹴りはカオスイーターを軽々と蹴り飛ばしていった。
すぐに左側にいた個体に目を向けると未だ障壁を破ることが出来ずに攻撃を続けていた。
「邪魔です……攻撃術式発動、光弾三十連展開、発射」
「ギギギギガガガガガガッッ!!?」
瞬く間に展開された弾幕にカオスイーターは回避し続けることが出来ずに被弾して大きく後退していった。
「ゆず! さっき重光槍を直撃させた奴が起き上がったぞ!」
司の声に合わせて言われたほうを見やると、確かに重光槍を直撃させたカオスイーターが起き上がってゆずを睨みつけていた。
「ガアアアアアア!!」
カオスイーターが大きく咆哮をすると、両手の爪をゆずに向けて槍のように刺突を繰り出してきた。
これはカオスイーターが相手を〝獲物〟ではなく〝敵〟として認識したときに起こす行動だ。
それを見たゆずはここからが本番だと気を引き締めた。
「攻撃術式発動、光剣六連展開」
唸りながら迫ってくる爪をゆずは展開した六つの光剣で次々に斬り払っていく。
この技術は光剣一つ一つを正確に操作する必要があるが、季奈や静を初めとしたベテランの魔導士なら誰でも出来るようになる技術だ。
鈴花はまだ二本が限界だが、成長すれば四倍の光剣を操ることは出来るだろうとゆずは考えていた。
戦闘中であるにも関わらず、未来のことに思い耽るゆずの態度を余裕と感じたのか、彼女に爪による遠距離攻撃が通用しないと判断したカオスイーターは爪を再生させて再び接近する。
右下から振るわれる爪を二本の光剣をクロスさせて防ぐと、今度は左手を斜め上から振り下ろしてきた。
その左手に光剣を突き刺して攻撃を阻止し、フリーの三本でカオスイーターの全身に裂傷を負わせていく。
「ガガアアアアア!!」
そうしているうちに先程光弾で後退させた個体が爪を伸ばしてきた。
今度は八本バラバラではなく、一点集中による強烈な刺突だったが……。
「カアアアアアア!!」
「単調ですね……固有術式発動、ショックリフレクト」
右手を前方に構えて展開した障壁は、防御術式による障壁とも、プリズムフォースの七色の障壁とは異なり、ガラスのように透明だった。
カオスイーターが一点集中させた爪が障壁に触れた途端……。
――バキンッ!!
「グギャアアアアアア!!?」
カオスイーターの爪が砕けたどころか、後方に大きく吹き飛ばされた。
固有術式〝ショックリフレクト〟は物理的な衝撃のみを反射する障壁を展開する防御系の固有術式である。
物理攻撃限定であるため、イーターの光弾やゆっくりと浸食するローパーの触手などは防げないが、リザーガの突進だろうと、シザーピードのはさみによるプレスも容易に反射することが出来る。
つまり、カオスイーターは自分の刺突による衝撃で爪が砕け、跳ね返った衝撃を受け止めきれずに吹き飛んだのだった。
「ゆず! 今度は蹴り飛ばした奴が上から来てるぞ!」
「っ!」
司の指摘通りに見上げると、最初に蹴り飛ばしたカオスイーターが上から両腕を振るって襲って来た。
ゆずはバックステップをして上からの攻撃を回避した。
それにより、光剣で裂傷を負わせながら拘束していたカオスイーターが自由になってしまったが、ダメージが大きいのかその場で膝をついたため、追撃は来なかった。
戦況はゆずが優勢だった。
三体の攻撃を次々と捌いていく姿は、ゆずが最高序列第一位……全魔導士・魔導少女の中でも最強と言われる実力の持ち主であることを司が実感させられるほどだった。
三体のカオスイーターは、ゆずが今まで狩って来た獲物や敵より強い存在であることを感じ取ったのか、ある行動を起こした。
「なっ……なんだそれ!?」
「これは……」
その動きに司は驚き、ゆずは疑問を口にした。
カオスイーター達は結界内を残像を残すスピードで、ゆずを 攪乱するように縦横無尽に動き始めたのだ。
そしてゆずの左側からカオスイーターがゆずの首を狩ろうと飛び込んできた。
「攻撃術式発動、光刃展開!」
ゆずは魔導杖の先に光の刃を形成し、爪の一撃を受け流した。
次に別の個体が正面から両爪による刺突を仕掛けて来た。
今度は上半身を後ろに反らすことで躱し、左足で蹴り上げて爪を払った。
「ガガアアアアア!!」
半身を反らしたことで動きが鈍るタイミングを狙った三体目のカオスイーターが爪を伸ばしてゆずを貫こうとした。
しかし、カオスイーターの予想と違い、ゆずは敢えて勢いに逆らうことなく後ろに倒れ込み、バク転の要領で爪を躱した。
最初に攻撃を仕掛けたカオスイーターが追撃するために再び爪を振り下ろすが、ゆずは光刃を振るって右手を切り落とした。
「グガアアアアア!」
「ガアアアア!!」
爪の刺突を躱された個体が今度は季奈にしたようにゆずを噛み殺そうと大口を開けながら首を伸ばしてきた。
「攻撃術式発動、爆光弾展開、発射」
ならこれでも食らえというように、ゆずはバスケットボールより大きい爆発性のある光弾をカオスイーターの口に放った。
「ガ――ッッ!!?」
体内からの爆発をまともに受けたカオスイーターの頭部が吹き飛び、その動きが怯んだ。
「攻撃術式発動、重光槍四連展開、発射」
トドメを刺すため、ゆずは巨大な光の槍を四本放った。
頭部を失って周囲を視認できないカオスイーターに避けるすべはなく、胴体に四つの空洞を空けられたことで、その体を塵にして消滅するしかなかった。
「ガ……!!?」
「グルルルルル……」
自分達の攪乱が通用せず、それどころか味方が消されたことに、カオスイーター達に動揺が走った。
――ありえない。
――狩るのは自分達の側だったはずだ。
そんな動揺が見て取れたゆずは……。
「――ふふっ……」
不敵に笑った。
その表情は見る人が惚れ惚れするような勝ち誇った笑みだった。
「「ギュガアアアアアア!!!」」
当然、そんなゆずの態度にカオスイーター達が怒りを顕わにする、
二体同時に爪を伸ばしてゆずの四肢を貫こうとする。
一体につき八の爪……計十六の爪による猛攻がゆずに襲い掛かる。
「攻撃術式発動、光剣八連展開」
対するゆずは空中に八振りの光の剣を展開し、爪の猛攻を迎え撃つ。
――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
――ガキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ!!!
爪がゆずを貫こうとあらゆる角度から襲い掛かるが、ゆずの光剣はそれらを悉く捌いてく。
「ググ……ガアアアアアア!」
いくら爪で攻撃を仕掛けようとゆずの体に届かないことにカオスイーターが苛立ちの声を上げた。
それでも状況は覆らないどころか、ゆずは一歩、また一歩とカオスイーター達との距離を縮めていく。
距離を縮めればゆずに倒される。
そんなプレッシャーがカオスイーター達に圧し掛かっていた。
「ガガガガガアアアアアア!!!」
やがて痺れを切らした一体が爪を元の長さに戻してゆずに襲い掛かる。
爪を左下から救い上げるように振るう……ゆずは上半身を左側に反らして躱す。
ならばと右の爪を突き出す……展開されたままの光刃を軌道上においてカオスイーター自ら突き刺したような形になった。
「ガガ……ガアア!!」
苦悶の声を上げつつも右足でゆずを蹴り上げようと膝蹴りを繰り出す……身体強化術式を最大出力で発揮させた左拳によるブローを受け、カオスイーターの右足が爆ぜた。
それによりバランスを崩したカオスイーターにゆずは左手を前にかざして攻撃術式を叩き込む。
「攻撃術式発動、光剣二十連展開、発射」
左手を中心に展開された魔法陣から、ガトリング銃のように光の剣が撃ち出され、カオスイーターを串刺しにしていく。
「グギャアアアアアア!!?」
全身を串刺しにされたことで絶叫を上げるカオスイーターに対し……。
「――っふ!!」
右手に持っていた光刃展開状態の魔導杖を両手で持ち、上から下へ真っ直ぐ唐竹を繰り出し、串刺しにした光剣毎縦に真っ二つにすることでトドメを刺した。
「――あとは、一体だけ……」
「グ、ググ……!」
ゆずが駆けつけるまで狩りで遊んで愉悦に浸っていたカオスイーターは、ついに一体だけになったことに戦慄していた。
このままでは消される。
そう判断したカオスイーターは……。
「ガアアアア!」
「――え、なっ!?」
卑怯にも疲労で動けない司と意識を失っている季奈のいるゆずから見て左方向へと踏み込んだ。
ゆずが守っていた二人に危害を加えれば必ずゆずの隙を作れるという、外道だが合理的な行動を起こしたのだ。
例えゆずの隙を作れなくとも、二人を殺して自身の糧にすることも出来ると踏んだカオスイーターの悪あがきな策は、確かにゆずが来たことで安堵していた司の油断を突いたものだった。
「見下げ果てた愚策ですね……固有術式発動、クラックブロウ」
追い詰められた唖喰が司達に手を出そうとすることを読んでいたゆずには通用しなかったが。
司達へ駆け出したカオスイーターより早く回り込んだゆずの放った右拳による魔力の籠められた裏拳により、まさに二人の命を刈り取ろうとした左腕一本をガラスのように砕いた。
先の高速移動でカオスイーターの動きに全く動揺しなかったゆずが自分達より早く動けることに気付かなかったカオスイーターは、相手の隙を作ろうとした自らの策によって自身の隙を作りだしてしまっていたのだった。
そういう意味では確かにゆずの言う通り〝愚策〟だった。
「ググガアアアアア!!!?」
左腕を失ったことでカオスイーターは大きな悲鳴を上げた。
「これで和良望さんの痛みも分かったでしょうか……」
「うおぃ、なんつー仕返しだよ……」
頬を殴られたからといって、相手の頬を殴り返すような要領で相手の腕を砕かれては堪ったものではないだろうと司は思った。
唖喰相手に何を言うのかと内心自虐したのだが……。
「冗談です」
「――っへ!?」
ゆずらしくもない冗談に司が呆気に取られた。
その間も悶絶していたカオスイーターにトドメを刺すため、ゆずはカオスイーターの元へ一気に駆け出して距離を詰める。
「――はあっ!!」
「ゲガッ!?」
ゆずは体を後ろに縦回転して蹴り上げる――サマーソルトキックを繰り出し、カオスイーターを股下から蹴り上げて、三メートルの巨体を宙に浮かせた。
「攻撃術式発動、光槍四連展開、発射」
すかさず宙に浮かしたカオスイーターに向けて四つの光の槍を放った。
「グググググググッッ!?」
身動きの取れない空中で四つの光槍を避けられるはずも無く、寸分違わずカオスイーターを貫いた。
「これで終わりです」
そして跳躍して自身が放った光槍より早くカオスイーターの上に回り込んだゆずが、空中に展開した障壁を足場に頭を地面に向け、魔導杖を両手で構えながら術式を発動させた。
「攻撃術式発動、重光槍展開」
魔導杖を媒介に巨大な光の槍が展開された。
重光槍を中世の騎士のように構えたゆずを見て、カオスイーターは咄嗟に残っている右腕で防御態勢を取るが……。
「遅い」
無駄な抵抗だと一蹴するように両足で大きく踏み込んで巨大な光の槍でカオスイーターを貫いた。
「ガアアアアアアア……アァ……」
胴体を上下に分断されたカオスイーターは、地面に落下する前にサラサラと体を塵に変えていき、地面に不時着して完全に消滅した。
「……終わりました」
三体のカオスイーターを殲滅したゆずが危な気なく着地し、もう危険は無いのだと司を安心させるために彼のいる方に向いてそう告げた。
「……ははは、あんな厄介な奴らがあっという間に倒されてら……」
「! 司君!?」
司がそう呟いた途端、緊張の糸が切れたように季奈と同じく気を失った。
ゆずは慌てて倒れる司を抱きかかえた。
「~~~~っ!!?」
司の体温を間近に感じたことで心臓が跳ねた。
出来るならずっとこうしていたいというような感覚があった。
「っそんな場合じゃない、早く二人を医務室に!!」
一瞬気が緩んだが、ゆずは司と季奈を拠点の医務室に運ぶために急いで転送術式を発動させ、移動を開始させる。
「……お疲れ様です、司君」
そうポツリと漏れ出たゆずの呟きは、誰に向けるわけでもなく河川敷を流れる川のせせらぎに流されていった。
これが最強の魔導少女の戦い。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
二章完結まであと2話です。
次回更新は6月24日です。
面白いと思って頂けたらいつでも感想&評価をどうぞ!
新作の短編「ダメ男製造機の聖女は勇者パーティー追放に納得できない」を投稿しました。
作品URL→https://ncode.syosetu.com/n2683ev/




