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55話 決死の持久戦 後編

途中残酷描写があるので注意してください。


 今度は三体同時に接近してきた。

 俺は魔導銃を構えて三発の弾を撃つ。


 正面の一体の頭部に一発、右側の一体の胴体に一発、左側の一体には外してしまったが、季奈が苦無を頭部に投げて刺した。

 

 一瞬止まった隙を突いて、季奈が薙刀を横一直線に薙ぎ払って三体とも右方向に吹っ飛ばした。


 季奈が固有術式を使わないのは、五つまで使える術式の発動限界数を最大まで発動させているためだ。 

 戦場となっている河川敷の川沿いを覆う魔導結界、俺を守るための防御術式に身体強化術式と魔導銃の強化術式、季奈自身への身体強化術式……。 


 五つの術式を同時に使用しながらも三体のカオスイーターの攻撃に対応しているあたり〝術式の匠〟と呼ばれる実力を実感した。


  とにかく、季奈は港の戦いで見せた固有術式等は使えず、三体の大型に対して決定打となる一撃が叩き込めないでいる。

 

 ――俺がいなければ……。


 一瞬頭をよぎった考えを首を振ってかき消す。

 それはもうどうしようもないことではあったし、季奈自身がこの状況を承知の上で俺の身の安全を買って出て援護を頼んだのだ。


 気を取り直して戦場に目を向ける。

 

 三体の唖喰は俺より季奈個人を狙いに定めたようで、彼女の逃げ場を無くすように立ち回りだす。


 一体が右手を振るうが、季奈はバックステップで回避する。

 そこにすかさず他の二体が挟撃を仕掛ける。

 

 敵にあるまじき連携に驚きつつ、俺は季奈の左側に位置する一体に銃撃を二発決める。

 季奈は右側の一体の攻撃を薙刀で防ぐが、今度は正面の一体が爪で突きを放ってきた。


 先程バックステップで回避されたために同じ動きで回避しようものなら、くし刺しは免れないが、季奈は身を屈めて姿勢を低くすることで回避した。


 そうしてがら空きになった胴体に薙刀による斬り上げから突きをお見舞いして突き飛ばした。


 攻撃を防がれていた一体は突きを放った直後の季奈に再び攻撃を仕掛けるが、俺はそいつに銃弾を四発撃ちこんで妨害する。


 季奈が薙刀を大きく振り回して周囲を薙ぎ払うと、残りの二体も吹っ飛ばされる。

 そのまま跳躍して俺の前に戻ってくる。


「はぁ~、こないチマチマしとったら夜が明けてまうって~」

「大型三体を同時に相手して持ちこたえるだけなんだろ? だったら深追いはしないほうがいいって」

「分かっとるって、ほら次来るで」


 季奈の言う通りカオスイーター達が高速で近づいて来た。

 俺はマガジンを交換して十発分撃つが、相手の動きに変化が出てきた。


「っ飛びやがった!」

 

 三体とも大きく跳躍したからせっかく撃った十発の弾が全て外れてしまった。

 季奈は相手の動きを注意深く見ていたからか、まだ動かなかった。


 跳躍した三体の内一体が、もう一体の脚を掴んでこっちに投げてくる。

 ホントにいやらしい連携だな……。


 投げられたカオスイーターは季奈に向かって爪を振り下ろすが、季奈が前転で回避し、攻撃を躱された一体は俺の目の前に不時着した。

 不時着したカオスイーターは俺の方にその口しかない能面を向けてきた。

 相手には目が無いのに目があったと感じた瞬間俺は叫びながらマガジンに残った五発全てをその顔面に撃ち込んだ。


「うおおっキモイ怖い!!」


 顔を直撃したためか、大きく吹き飛んでいった。


 季奈の方は、二体の攻撃を捌いていた。

 俺はすぐにマガジンを交換して俺に背を向けている一体に二発撃ちこむと、そいつが怯んだ隙に季奈は前と後ろに突きを放って二体とも吹っ飛ばしていった。


「季奈、怪我は?」

「ん、見ての通りなんてことあらへんけど、これ毎回続くんのはちょいしんどいでぇ……」


 季奈は依然として立ち上がるカオスイーター達に辟易しながら言う。


 それでも今は増援が来るその時まで耐えるしかない。

 俺と季奈は再び接近してきたカオスイーター達を退けていく。






 


 襲来してきた三体のカオスイーターとの持久戦は体感時間ではあるが既に十分以上に及ぶ。


 俺と季奈は互いに持てる手を尽くして凌いでいるが、正直限界も見えてきた。


 まず俺にかけられた身体強化の術式による補助はすさまじいが、肝心の俺自身の体力と集中力が切れかかっている。

 

 銃撃も十発に四発は外してしまうほどだ。

 おまけに身体強化された副作用か頭痛もしてきた。

 銃を撃った時の反動が体に響くから三半規管が揺らされて頭がぐわんぐわんと振り回されている気分だ……気持ち悪い。


 俺はこのざまだが、季奈はというと……。


「はぁ……はぁ……」


 息も絶え絶えといった感じで、呼吸で肩が大きく動いている。

 正直俺より消耗しているのが目に見えていた。


 それもそのはずだ。

 彼女は術式を自身の同時発動限界数まで発動させているし、その分薙刀と身のこなしだけでカオスイーター三体の攻撃を捌いていた。


 挙げられるだけでもこれだけの作業を同時にこなしているのだ、疲労困憊(こんぱい)になっても仕方がない。


 そんな俺達の疲労を増長させるかのように、これだけ時間をかけてもカオスイーター達は一体も疲れた様子を見せていない。

 

 狩りを楽しむかのように、今も俺達の様子を愉快に眺めている。


「クソっ! 余裕こきやがって……獲物の無駄な抵抗を楽しむとか趣味悪すぎだろ……」

「途中からアイツらの攻撃に真剣味が無くっとったから、こっちが消耗すんのを待ちだしたんや……」


 俺の愚痴に季奈が同意した。いよいよ唖喰という化け物の狡猾さに怒りが収まらない。

 

 再びカオスイーターが一体接近してくる。

 俺と季奈は武器を構えて迎撃しようとするが……。


 ――バチィッ


「うわっ!?」


 俺を守っている結界に衝撃が走った。

 接近してくるカオスイーターとは別の個体が季奈ではなく、俺の方に向かって爪を振り下ろしてきたのだ。


 その衝撃に思わず声を上げてしまったことが緊迫していた俺達の抵抗が崩れた瞬間だった。


「つっちー!? 大丈夫や、結界はしっかり持っとる!」

「悪い!!」


 言いながら俺は季奈に近づくカオスイーターに向けて銃弾を三発放つ。

 が、カオスイーターは体を逸らして三発とも回避し、季奈に襲い掛かる。


「避けやがった!? 今までそんな素振りは……」


 言ってすぐに気付いた。

 要は弾丸の速度に慣れたのだ。

 それはこちらにとって起きてほしくないことだった。


「ぐ……うう」


 季奈は残り少ない体力を削ってカオスイーターの攻撃を回避するが、動きが重くなっていた。


 そして……。


「がっ!? ああああっ!!!」


 動きが鈍くなったほんの一瞬で、カオスイーターは季奈の右腕を噛み千切ったのだ。

 グロテスクな光景に目を背けたくなったが、彼女の腕を噛み千切ったカオスイーターが季奈に追撃を加えようと爪で刺突を繰り出してきたため、俺は銃弾を二発撃ってカオスイーターの頭部と左肩に被弾させた。


「グルゥ……!」


 咄嗟に俺が妨害したことにより、カオスイーターは季奈から距離を取った。

 同時に季奈は右肩を抑えて俺を守っている結界の中に戻ってきた。

 

 季奈の右腕は二の腕から先が噛み千切られたため、地面に血溜まりが出来上がっていく。


「おい、季奈早く回復をしないと……」

「はぁ……はぁ……くっ無理や……今治癒術式使ってしもたら、つっちーの守りと強化がなくなってまう……」

「あ……くそっ……!」


 そうだった。

 治癒術式は四肢の欠損すら治せるが、そのために俺や自分に割いている術式の発動を解除して、回復に割かなければならないんだった……。


「……はは、そない深刻な顔しやんでもええって……もうええ時間やからそろそろ増援がくるやろ? それまでにウチが失血死しやんかったらええだけやねんから……」


 季奈はそういうが正直増援が来る前に季奈の命のほうが危険だった。


 カオスイーター達がさっきの瞬間まで俺を狙わなかったのは、あいつらにとってこの場で一番厄介な季奈を確実に狩るためだったのだ。


 消耗して集中力が低くなっている時に俺をビビらせて、季奈の注意力を削ぐ。

 そうすることで残りの二体で季奈を狩る腹積もりだったんだとわかった。

 幸い俺が目を背けずに銃弾を撃ったため、九死に一生を得る形になったのだが、状況はかなり悪くなってしまっている。


「……悪い、俺が声を出したから……」

「あれはしゃあないわ……つっちーにとって初めて実戦やねんから、危険がないってわかっとっても攻撃されんのは怖いもんなぁ……」


 季奈はそう言って俺を気遣うが、俺が感じた罪悪感は微塵も晴れなかった。


「季奈、俺のことはいいから早く回復を……」


 俺がそういうと、季奈は俺の胸倉を掴んで怒鳴り出してきた。


「ウチはつっちーを死なさんって決めたんや!! つっちーが死なしてもうたらウチはゆずに顔向けでけへん! ゆずのためにもウチ自身のためにも、ウチが生きとる間はつっちーには絶対手ぇ出させへん!!」

「――そのお前が死んだら俺だってゆずや季奈の家族に顔向けできねぇよ!!」

「アホタレ!! ウチは魔導少女やぞ? 代々魔導士の家系や、皆覚悟しとるわ!!」


 怒声に怒声で返す口論が始まる。

 カオスイーター達は俺達の様子を窺っているため、中々飛び掛かってこないが、好都合だ。 

 何が何でも自己犠牲で俺を助けようとする季奈に俺は言い返していく。


「大体、お前が死んだら俺も死ぬだろ!!」

「そ、それはその時にありったけの魔力使って結界を維持して……」


 ちょっとどもったな……。

 季奈なら出来そうでもないが、俺は畳みかけていく。


「……お前の夢はどうするんだよ」


 季奈の方がビクッと揺れたのがわかった。


「お前が言った魔導の技術で世界を幸せにするって夢……俺は季奈なら叶えられるって本気で信じてるんだよ! だからこんなところで死んでほしくないって思うのはおかしいか!?」


 季奈が完全に黙る。


「俺は目の前のことばかりで自分の将来とか考えてる余裕なんかないけど、それでも季奈が夢を持ってそのために頑張っていることくらいちゃんとわかってる! 夢のことだけじゃなくて季奈のことをもっとちゃんと知りたい……そのためにも死ぬなんて言うなよ」


 そして怒気を孕んだ目で俺を睨みだす。よく見るとちょっと顔が赤い。


「……ジゴロ……」

「いうに事欠いてそれか!? 別に俺はどっちが犠牲になろうって言ってるわけじゃなくて、さっきみたいに二人で協力して生き残ろうって言ってるだけで……」


 何故か俺の悪癖を突いてきた季奈にそう言い繕うが、季奈は俺にジト目を向けながら答えた。


「分かっとるわ……ほんま調子狂うなぁ……けど、治癒はほんまに無理やで? 今この結界解いたらあっという間に串刺し肉か挽肉の出来上がりやからな?」

「ぐう……それは否定できないけどさ……」


 ナチュラルに脅してきた季奈の言葉にたじろぎつつ、状況の打開する方法を探り出す。


「三体のカオスイーターはこっちを下手に刺激せずにこの結界が解除されるのを待つ方針みたいだな……季奈、魔力は後どのくらい持つんだ?」

「あと五分ってところやな、正直詰みに近いで……」

「それまでに増援が来ればいいけどな……」


 戦闘開始から既に十分以上が経過しているが、未だ増援が来る気配がない。

 はぐれとの遭遇はポータルが開かれた時に比べて場所の特定が遅くなりやすいとは聞いていたが、それにしても遅すぎる……。


 俺が打開策を模索している間に右腕の止血を終えた季奈が声を掛けてきた。


「多分、同時刻にポータルが開いとるかもしれへん……」

「……それが本当だとすると不味いな……」


 別の場所にポータルが開いていて、他の魔導士達がそっちの対応に追われているのだとしたら、これだけ時間が掛かるのも頷けた。



 ――バチチィィッッ



「うおわぁ!? あいつらついに我慢できなくなって襲ってきやがった!!」


 打開策が出ないまま、状況が一変しだした。


 結界周辺にいたカオスイーター達が結界に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 三体が各々のタイミングで結界に攻撃を仕掛けてきている。


「っちぃ!!」


 季奈が薙刀を左手でもって突きを放つが、体力を消耗していることと、片腕での突きであったためにあっさりと躱されてしまった。


 結界に攻撃が繰り出される度に、季奈の魔力が削られていくため、タイムリミットがどんどん近づいてしまっている。


 季奈は残り少ない魔力を結界維持に費やしているため、既に俺の身体強化と、魔導銃の威力強化は切れてしまっている。そのため、弾丸が当たってもまるで効いている様子はなかった。


 そうしているうちについに結界にヒビが入りだしてきた。


「うう、ぐぐ……」

「結界が……季奈!」


 俺が季奈の名前を呼んだのと同時に結界が割られた。

 迫りくるカオスイーター達が振り下ろしてきた爪を俺に向けて来た。

 

「やば――」

「つっちー!!」 

 

 しかし、寸でのところで季奈が俺を守るように薙刀を構えながら前に立った。


「が、ぐぅぅぅっ!!?」

「き――ぶっ!!?」


 しかし、咄嗟だったために季奈の防御は完璧とは言えず、右脇腹や左大腿部にカオスイーターの爪が突き刺さり、ただでさえ赤かった爪が季奈の血によってより赤に染まった。


 さらに季奈の体を貫いた数本の爪のうち、一本が俺の左の二の腕を貫いた。


 痛い痛い痛い痛い。

 未知の激痛に俺は唇を噛んで正気を保った。


 鈴花が左腕を欠損した時にどんな心境だったのか聞いていたため、咄嗟に出来たことだった。


 痛い……腕に熱した鉄を押し付けられているみたいに熱と痛みが走っている。


「え――ぐあぁ!?」


 そんな苦痛に耐えていると、カオスイーターが腕を大きく振るった。

 それにより俺と季奈は川へと放り投げだされた。


 引き抜かれた際の激痛もだが、顔から川に突っ込んだことでいくらか水を飲み込んでしまい、気管に入ったためむせ込みが止まらなかった。


「げほ、けほ、ぐ、うぅ……」


 むせる度に左腕に激痛が走る。

 こんな状態でも魔導銃を手放さなかった自分をほめたい気分だけど、そんな余裕もない。

 

「いっつつ……」

「はぁ……はぁ……」


 一緒に放り投げられて、隣に横たわっている季奈は既に限界のようだった。

 

 噛み千切られた右腕と爪に貫かれたことでぽっかりと穴が空いた脇腹や太ももからの出血で、透明な川の水に滲むように季奈の血が流れていっている。

 早く傷口を塞がないと季奈が失血死するのは時間も問題だった。


 俺も立つのがやっとだ。

 そんな俺達をカオスイーター達が爪をぎらつかせながらゆっくりと近づいてくる。


 俺はそれをみて、魔導銃を構える。


「くっっそがぁあああああっ!!」


 何度も何度も引き金を引くが、カオスイーター達には効果がない。

 

 当然だ。

 俺に発動させられていた強化術式が解除されてしまっているため、元の威力に戻っている。


 それを分かっていても俺は引き金を引くことを辞めない。


 頭には一つの光景が浮かんでいた。


 それは、四肢をボロボロにされても決して生きることを諦めなかったゆずだ。

 そのときに見た彼女の目は、魔法少女が戦う時によく見た希望を垣間見た。


 

 だから……。



「ここで諦めて、ゆずと日常が過ごせなくなるのはご免なんだよ!!」


 ――カチン


「――弾が!?」

「ガアアアア!!」

「――っ!」


 すぐにマガジンを取り変えようとして、一瞬視線を落とした際に、一体のカオスイーターが爪を振り下ろしてきた。


 その光景がスローモーションのように流れる感覚がした。


 俺を切り裂こうとする血で染まった紅い爪。

 ようやく獲ったと言わんばかりにゆがむ唖喰の口。


「――ぁ」

 

 真っ二つに両断された自分の姿を幻視した。





「攻撃術式発動、重光槍展開、発射ぁあああああ!!」





 瞬間、俺を殺そうとしたカオスイーターが乱入してきた人物の放った巨大な光の槍によって吹き飛ばされた。


唖喰終了のお知らせ。


二章完結まであと4話。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


次回更新は6月20日です。


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