312.5話 八章プロローグ 望まない状況
更新再開じゃないです( -`Д´-;A)
まだ更新再開出来そうな分を書き溜められてません。
もうしばしお待ちを……。
──なんでこうなるんだ……。
俺──竜胆司の心境はただそれだけだった。
紆余曲折あったがゆず達の告白を受け入れる選択をし、保留状態であるゆずの返答が決まれば彼女達と恋人になれる。
そのはずだったんだ。
「新郎……あなたは新婦と夫婦になり、永遠の愛を誓いますか?」
「……」
自分と彼女の間に立つ壮年の神父がそう尋ねるが、口を一文字に閉じて出来るだけ返答を先延ばしにする。
焼け石に水だってことは理解しているけど、だからってその問いに答えれば後が無いってことも解っているんだぞ。
この神父の言葉によって、改めて自分が身に包む衣装や場所を突き付けられる気分だった。
白いタキシードのような礼装は俺の体に合う様に作られていて、会場の空気だけでも息苦しいのに首元で固く締められているネクタイがさらに息を詰まらせてきそうだ。
中央を挟むように並ぶ長い椅子、壁や床は白い大理石で作られており、ステンドグラスから射し込む陽の光が皮肉気に祝福しているようで、なんだってこの日に限って晴れるんだよと恨みたくなる。
自分が新郎側じゃなければ素直に祝える綺麗な教会なのに、心はまるで正反対だ。
意地でも思い通りになってやるもんかと、結婚式における誓いの言葉を出さないように口を噤む。
「永遠の愛を、誓いますか?」
「──っ」
そんな俺の抵抗を嘲笑う様に、背中に鋭い視線が突き刺さる。
神父も表面上は落ち着いているが、視線の主に飼い慣らされているので早くしろと急かすように再度問い掛けて来た。
陳列している人達も同様で、むしろこの結婚式すら茶番扱いじゃないのかという始末だ。
そう、この場に置いて俺の味方は彼女を除いて誰もいない。
前方以外が針の筵の空間では否応無しに『お前の逃げ場など無い』と責め立ててるみたいだ。
「──誓い、ます……」
せめてもの抵抗も虚しく、誓いの言葉を口にする。
クソ……本当に何か手はないのかよ……無力さを覚えるのもいい加減飽きて来た。
これもう何度目だよ。
そう内心愚痴るも状況は非情にも進む。
「新婦……あなたは新郎と夫婦になり、永遠の愛を誓いますか?」
「──っ」
こっちの返答に当然だと言わんばかりに聞き流し、神父が彼女に同じ問いを投げ掛ける。
この状況を望んでいないのは彼女も同じで、だからこそ小さく肩を震わせた理由に痛い程共感出来た。
それこそ俺がやったように口を閉ざして少しでも先延ばしにしようとする。
けれどもすぐに限界が来て、ヴェール越しで分かり辛いが目を伏せたように見えた。
「……ち、誓い……ます」
声音に含まれた僅かな抵抗感が、彼女の本心をこれでもかと表していた。
俺も彼女もこの場においては誰一人味方がいないし、最早互いしか頼れない状態だ。
でもだからって今すぐ打開出来る策があるわけでもない。
あったらこっちが聞きたいくらいだ。
「では新郎。新婦のヴェールを上げて、誓いのキスを……」
「っ!」
遂に来やがったと思わず表情が歪む。
いよいよ以って逃げ場が無くなり、胸の奥の焦燥感が心臓の鼓動を早めていく。
もうヴェールを上げるしかない。
苦渋の判断の末、俺はゆっくりの彼女の顔を覆っているヴェールを上げる。
そこには普段の勝気な眼差しが嘘のように弱々しく、化粧気の無い人物だと知っていただけにこの日のために施された薄い化粧が整った顔立ちを引き立てていた。
失礼だろうがこんな時に見たくなかったと心底悔やむ思いだ。
本当に、なんだってこんなことになったんだよ……。
「──悪い。俺がもっとちゃんとしてればこんな……」
あまりに申し訳なくて小声で彼女に謝る。
しかし、彼女は無言で首を横に振って同じく小声で返そうと口を開く。
「──つっちーのせいとちゃう。むしろ悪いのはウチの方や……」
彼女──和良望季奈に逆に謝られてしまった。
「ご両人。口付けくらいはよすましぃや」
いつまで経っても誓いのキスをしない俺達に業を煮やしたのか、式だけでなくこの状況を作った張本人である季奈の母親──和良望麻千さんが急かして来る。
あの人が目を光らせている内は、こちらに場を覆すチャンスすら訪れることはない。
どうして俺が季奈と結婚式を挙げることになったのか……それは一週間前に遡る……。




