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魔導少女が愛する日常~世間知らずな彼女の日常指導係になりました~  作者: 青野 瀬樹斗
第七章 お祭り騒ぎな文化祭と恋心への答え
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306話 回想③ 取り返しのつかない失敗


 司は美沙のことが好きだった。

 喧嘩別れしてから異様に塞ぎ込む様子を見て、そう悟らされる。


 あの時、アイツがアタシを庇ったのはいじめの現場を目撃した時を彷彿とさせたせいだ。

 本来なら美沙を庇っているはずなのに、過去の出来事が巡り廻ってあんなことになるなんて……。

 

 何度か司は美沙に謝ろうとするけど、向こうは不自然にあからさまな程避け続ける。

 そんな彼女に何様だって思う気持ちはあるけど、それはアタシもおんなじだ。

 身を引くつもりだったのに、もう少ししてからって麻薬みたいにずるずると続けてこのザマなんだから。


 こんなやつ、恋人どころか友達でいる資格もないだろうに、司からの態度は驚く程変わり映えしない。 


 俺のせいだって自分を責め続けるばかりで、鈴花のせいだなんて言わないから、それがさらにアタシを苦しめていく。

 絶交するくらいに責めてもいいはずなのに、俺は大丈夫だからってこっちの心配ばかりする。


 フリーになった司に告白する子がいたけれど、アイツは誰とも付き合おうとせずに悉く断っていった。


 美沙と喧嘩別れしたことで、深い後悔から恋愛に対してトラウマを抱えちゃったせいだ。 


 それだけに、今離れてしまえば司が壊れてしまいそうで怖くなった。

 あんなことがあったのに美沙と仲直りすることもないまま、アタシは好きな人と同じ高校に進学を決めたのだ。


 =====


 ただでさえ成績が低いアタシにとって、羽根牧高校の受験は途轍もなく大変だった。

 それでも司に教わったりしながら何とか合格にありつけた時は、素直に嬉しかったなぁ。


 美沙とは別々の高校になっちゃったけど、その方が良いのかもって前向きに捉える。

 司はまだトラウマから立ち直れていないから、アタシが支えるしかない。


 なんてことを考えながら入学式を終えると……。


「一目見て好きになりました! 付き合って下さい!!」

「は……?」


 入学早々、初対面の男子に告白された。

 返事は『NO』と即答で返してすぐに終わったけど、これが石谷と今でも気安い付き合いを続ける切っ掛けになった瞬間だ。

 

 高校一年目は何回か告白こそされたけど、とても司を放って付き合おうとか思えなかったから断り続けたり、新しい友達との思い出作りや部活も楽しかったり色々あった。

 司との仲も相変わらず友達のまま続いている。

 馬鹿みたいにからかいあって、馬鹿みたいに魔法少女の話で盛り上がったり……。


 また司に彼女が出来るまで傍に居続けたけれど、トラウマのせいで誰ともくっ付こうともしない。

 

 もし……もしこのまま誰とも付き合わなかったら……。

 散々懲りたくせに、アタシはまだそんな期待をしてしまう。

 

 それでも明かせない気持ちを抱えたまま、高校二年生になって一週間が経過した頃。




 ──司の雰囲気が変わった。

 

 髪を切ったとか染めたとか、そんな外見の変化じゃない。

 何だか言葉に出来ない漠然とした感じで、まるで遠くに行っちゃったような感じがした。 


 形容出来ない疎外感を抑えながら声を掛けると、いつもと変わらない様子で挨拶を返してくれたから、その場は気のせいだと思い込んだ。


 そしてその日、ゆずが飛び級で転入してきた。


 正直、初めてあの子を見た時は美貌だけじゃなくて、纏う雰囲気が人間離れしていて異質に感じてたっけ。

 加えて司がやけに構うもんだから疎外感が余計に募ったりもした。

 どうせお人好しな性格だから優しくしてるだけだって自分を誤魔化していたけれど、後になって思えばアレは日常指導係としての役目だったんだよね。

 

 アタシがそれを知ったのはゆずが転入して来た週末、司が妙に気合いの入った格好をしていたのを見掛けて、こっそり尾行した結果組織のことや唖喰のことと同時にだけど。


 ともかく、空想だと思っていた非日常が間近にあったことを知って、興奮を抑えられなかった。

 つい前まで普通の女子高生だったアタシが、命を懸けて怪物と戦う怖さはあったけれども、魔導少女として戦っていけば司の気を引けるかもしれない。

 魔導少女だってアイツの好きな魔法少女なわけだし、カッコ可愛く戦っていけば好きになってもらえるかも……そうやって自分に都合の良い部分しかみていなかったから、慢心して左腕を欠損するような大怪我を負った。


 学習しなさに呆れる他ない。

 無意識に自分は大丈夫だって楽観してたのが丸分かりだ。


 死に掛けて走馬灯を見た時、何度司に告白しておけば良かったか後悔が募っていった。


 ゆずに助けられたことで命拾いはして、友達になることが出来たけれど……。

 改めてあの子がどれだけ特殊な環境にいたのかを実感させられた。

 

 ともあれ治癒術式で治った左腕はしばらく要リハビリの診断を貰って、久しぶりに司と二人で並んで帰路に着く。

 生きてる実感に浸って、思わず小っ恥ずかしいことを口ばしちゃったけど、それは九割が本心だ。


「唖喰のことを知って、魔導少女になれば司と一緒に居られるって嬉しかったんだよ? まぁその後慢心してこのザマだけどね」 

「……お前今のセリフなんか告白ぽかったぞ」


 好きなんだからに決まってんじゃん。

 でも、残りの一割に値する『司が好き』は、絶対に口にしない。 


「はぁ? いや、単に友情百パーだから。自惚れんな」

「ぐっ……!」


 アタシの返答に、司は自意識過剰を突かれて悔しそうな顔を浮かべる。

 もし……『じゃあ付き合ってみる?』の一言でも言えてたら……ううん、きっとすぐに茶化してうやむやにするだけだ。

 

 怪我のトラウマで戦えなくなった間、司の周りにはゆずだけでなく翡翠や菜々美さんに季奈といった女の子達と仲良くなっていって、よく心から笑うようになったと思う。

 別に今までが嘘の笑顔だったってわけじゃないんだけど、非日常を知ったことで日常を大事にする気持ちがあるから、笑顔の質が変わったっていうべきかな。

 

 まぁ、ゆずと菜々美さんが好意を持つようになっていくのは、流石のジゴロ癖というかなんというか……。

 ゆずだけだったらまだしも、菜々美さんまで加わったもんだからまた複雑なことになっちゃったしね。


 司は美沙とのことがあって、恋愛に消極的なせいで余計にやきもきさせられる。

 早くどっちかと付き合ってくれれば、アタシも自分の恋心に踏ん切りを漬けられるんだから、二人に相談された時も本気で手伝って来た。


 その間にあった修学旅行でまた魔導少女として戦うようになって、今度こそ司に胸を張れるように頑張って鍛錬を積み重ねていったけど……。


 夏休み初日にサプライズで開いたゆずの誕生会の後、司がベルブブゼラルに襲われて昏睡状態に陥った。

 怖かった。

 ゆずが感じていたように、アタシも司が居なくなったらどうやって生きていけば分からないくらい、自分が死に掛けた時以上に目の前が真っ暗になりそうだったから。


 だからこそ、ゆずに司の心配なんてしてないって言われた時は思わず殴っちゃったけど……。

 あの時言った、悲劇のヒロイン気取りなんて言葉は自分の心にも突き刺さっていた。

 司を好きになった時から、アイツの人生のヒロインはアタシなんだって自惚れていたからね。


 そしてベルブブゼラルを倒した後で、ゆずから司に告白したけど返事は保留にされたって聴かされた。

 

 こんなことを思う筋合いは無いだろうけど、そういう期待を持たせるようなことを言うのは止めて欲しい。

 ゆずですら告白して返事待ちになるっていうなら、もしかしたらアタシもって考えちゃうから。

 そうやって期待して何度も痛い目を見て来た。

 

 自分で身を引くことも出来ないクセに、そんな八つ当たり同然の苛立ちすら抱いてしまう。

 それで司のことを嫌いになることも無いけど。

 

「お嬢ちゃん、今一人?」

「は?」


 フランス支部との交流演習の空き時間で行ったデートの時、エッフェル塔を観に行った際に受付に行った司が戻って来るのを待ってたら、現地の見知らぬ男に声を掛けられた。

 会話の切り出し方からして、十中八九ナンパだと分かる。 

 

「人を待ってるんで、他を当たって下さい」

「お、これがニホンの『つんでれ』ってやつかな?」


 ……うざったい。


「なぁ、お嬢ちゃん、意地張ってねえで俺と一緒に遊ぼうぜ?」

「人を待ってるから嫌だって言ってるじゃん!」

「そんな固いこと言うなよ~、一人でパリに来るなんて不安だろうから、俺がエッフェル塔に上るより楽しいところに案内してやろうか?」

「それ絶対やらしいこと考えてるでしょ!? 絶対に嫌!」


 一番好かれたい人以外にそんなこと言われてもムカツクだけに決まってる。

 でも何度拒絶の意思表示をしてもナンパ野郎は全然諦める素振りを見せない。


 もういい加減ぶん殴ってやろうかと思った時に……。


「おい、人の連れに何ちょっかいかけてんだよ」

「っ、司!」


 また妙にいいタイミングで司が戻って来た。

 いつもこうだ。

 神様の悪戯みたいに、アタシを助けてくれる。


「はぁ? いきなり邪魔するなよ、ガキが」

「邪魔はこっちのセリフだ。()()とせっかくパリに観光に来て楽しもうとしてんのに、気分が悪い」

「──っ!」


 心臓が一際大きく跳ねた。 


 ナンパ除けのための方便だっていうのは解ってる。

 言った本人も特に気負った様子もないから、言い慣れてるんだっていうのも解ってるのに……。

 

 どうしようもなく嬉しくなってしまう。 


「おいおい、お前がこの子の彼氏だっていうのか? 女の前だからってカッコつけ――」


 でも、ナンパ男は信じられないという風に肩を竦めただけで、引き下がる様子はなかった。

 だから……。 


「う、嘘じゃないって! 司はアタシの彼氏だっての!」


 司の腕を抱き寄せて必死にアピールをする。

 今までこんな風に大胆な行動を取ったことはなかったけれど、それが功を奏してナンパ男はようやく引き下がった。


 だけどアタシにとってはもうどうでもいい。

 抱き寄せた司の腕は自分のモノと違って細身なのにがっちりしてて、ずっと隣にいたのにこんなにも男らしくなってるだなんて全然知らなかった。

 

「せい」

「──ったぁ!?」


 見惚れている内にデコピンを喰らう。

 慌てて言い訳をしたから、呆けたことを誤魔化せられたと思うけど……エッフェル塔の入場料を渡そうとしたら、サラッと奢られてしまった。

 

 待ち時間やエレベーターに乗ってる最中、何度もこれっきりにしようって念じ込む。

 じゃないと、にやけそうな頬がバレてしまう。

 

 アタシに、司の彼女になる資格なんてないんだから……。

 

 ちょっとだけ気まずくなってたけれど、エッフェル塔の展望台から見える凱旋門に素直な感心が浮かぶ。


「あのさ、司」

「ん?」


 おかげで会話が再開出来たから、この隙にお礼を言おうと呼び掛けて……。


「さっきは助けてくれてありがとね。嘘でも彼女扱いしてくれて嬉しかった」


 ほんの一瞬の短い時間でも、アタシの恋が少しは報われたように思えたから。

 この思い出があれば、もう司がゆずか菜々美さんと付き合っても不満はない。


 なのに、フランス支部の支部長が起こした騒動を経て、菜々美さんだけでなくアリエルさんも司に告白した。

 男性恐怖症の治療のために日本に留学して来たルシェアも、好意の眼差しを向けている始末だ。

 まだ返事を出してないのに、アイツを取り巻く恋愛事情はどんどん複雑になってる。

 

 ……なんで?

 ずっと一緒に居て来たアタシが告白出来なくて、こうして友達としてか傍にいることが出来ないのに、半年しか経ってないゆず達があっという間に司の『大切』に変わっていくのが羨ましくて仕方がなかった。

 アイツがアタシに向ける『大切』は友達や家族に向けるモノなのに、それよりも深くて近い『大切』にみんなが簡単に入って行くのが妬ましくてドンドン苛立ってくる。


 早く誰かと付き合っちゃってよ。

 そうしたらアタシはこんなに苦しい思いをしなくて済むんだからさ。

 

 早く。

 早くしてよ。

 この頃には、司を好きで居続けることが苦痛でしかなかった。

 でも嫌いになれないし、自分で諦めることも出来ないままだ。


 ただ早く楽になりたくて、何度も司に答えを出すように急かしてきた。

 だからなのかな?



 ──亡くなったって聞いていた翡翠の教導係が美沙だったなんて事実が、よりにもよって司が持ってた書類で知らされるなんて。

 

 アタシのせいだ、と真っ先に直感する。

 死ぬ危険がある戦いに身を置いていたし、唖喰が悪いことに変わりはないけれど、それでも二人が喧嘩別れをする羽目になったのは紛れもなくアタシのせいだ。


 そのショックで自暴自棄になった司を見てられなくて、美沙が死ぬ遠因を作った自分がどうしようもなく腹立たしくて……。

 もう、何も考えたくないのに……。


 ──司の家に入って行くルシェアの姿を見て。

 

 ──司の部屋の電気が消えて。

 

 ──翌日に二人が揃って遅刻したのを見て。


 あぁ、ついにシたんだなって、決定的な失恋の釘が突き刺さった。


次回は12月9日に更新します。

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