表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導少女が愛する日常~世間知らずな彼女の日常指導係になりました~  作者: 青野 瀬樹斗
第七章 お祭り騒ぎな文化祭と恋心への答え
310/334

292話 いい加減覚悟を決める

新作『ブラック勤務は辛いけど、配達先の幼女が癒し系すぎるっ!』の連載を始めました。

小説ページ下部にリンクがあります。


 ファブレッタさんが旅費を稼ぐ間に竜胆家に居候することになり、文化祭が明日に迫った翌日……。


 俺は学校にある倉庫の一室で作業をしていた。

 クラスの準備そのものはもう終わっている。

 じゃあなんで俺が倉庫にいるのかというと……。


「忙しいのに無理を言ってごめんなさい、竜胆君」

「いや、俺が久城院さんの助けになるなら構わないですから」


 倉庫で共に作業をしている人の謝罪に、俺は気にしていないと伝える。


 ストレートの黒髪は腰に届くくらいの長さで、生徒会の一員として制服をキチンと着こなしている彼女──羽根牧高校の生徒会副会長である『久城院(くじょういん)裕佳梨(ゆかり)』さんとは、入学当初から何かと頼み事をされる関係だ。

 別段俺は生徒会に所属しているわけじゃないのだが、実際の庶務より良い働きをするんだとか……。


 後、彼女は優れた美貌とスタイルの持ち主でもあるので、かなりモテる。

 でも未だに誰かと付き合っているといった話は聞いたことがないんだよなぁ。

 噂では、婚約者がいるとかなんとか……まぁ、真偽は然程気にならない。


 何故なら……。


「そういえば竜胆君」

「何ですか?」


 倉庫の整理も一段落したところで、不意に久城院さんに呼び掛けられる。

 何の気なしに聞き返すと、彼女は咳ばらいをした後に……。


「明日の文化祭が終われば、現生徒会は解散よね?」

「まぁ、そうですね」

「つまり、文化祭が終われば晴れて自由の身というわけよ」

「はぁ……」

「そこで、君から何か言うべきことがあるのではないかしら?」

「えっと……生徒会お疲れ様でした?」

「……」


 やけに回りくどい言い回しの果てに返した俺の言葉に、久城院さんからしばらくジト目を向けられた。

  

 いや、わかってはいるんだよ……これが俺に対する彼女なりのアプローチだってことは。

 何の因果か、久城院さんも俺に好意を懐いている。

 分かったのは実はゆずと出会ってからなんだが。


 理由は俺自身の察しの悪さと、彼女のアプローチが見ての通り遠回りが原因だ。

 まぁ、察しているからと言って告白されてもいないのに振るのはどうかってことで、目下放置中だったことに変わりはない。

 

 正直、ファブレッタさんの占いで出た『文化祭最終日で俺に告白する女性』という条件に一番当て嵌まりそうなんだよなぁ。

 文化祭っていう機会に乗じて告白して来る可能性が高いと踏んでいる。

 

 だが、俺が彼女に抱いている気持ちは『通っている学校の生徒会副会長で同級生の一人』でしかない。

 ゆず達と天秤に掛けられるかどうかと言われると、ぶっちゃけ重石にすらならないだろう。

 思うものがないわけじゃないが、それはこれまでの親しさ故であって、美沙とは比べるまでもないと確信出来る。


 そもそも、あくまで彼女が可能性大ってだけであって告白して来ることはあれど、それが文化祭だとは限らないしな。

 雰囲気重視で卒業式なんてことも考えられる。

 それでも彼女が告白して来たのなら、悪いが断る以外の選択肢はない。


「……まぁいいわ。どの学年でも一回きりの文化祭、一つでも多くの思い出を作りたいものね」

「そうですね。俺も来年は受験なんで、後腐れなく楽しめるのは今年だけですから、目一杯楽しみましょう」

「ええ。あ、もしかしたら文化祭の巡回をお願いするかもしれないの。どうかしら?」

「巡回ですか……」


 生徒がハメを外し過ぎたりしないかの監視、外から来る一般客の案内等、生徒会や風紀院が務める役割の手伝いを出来ないかと言われ、俺は少し逡巡する。


 本音を言えば出来れば協力はしたい。

 けれど……文化祭の三日間にある空き時間は、全てゆず達に使う予定なんだよなぁ。


 三日のスケジュールの中で、彼女達五人と順番で二人で回る約束をしている。

 彼女が頼ってくれるのは嬉しいのだが、こればかりは断るしかないだろう。


「……すみません。先約があるんでお誘いはありがたいんですが、手伝える確証は出来そうにないです」


 俺がそう告げるや否や、久城院さんは一瞬だけ悲しそうな顔を浮かべるものの、すぐに持ち直して笑みに変えた。


「──そう。委員じゃない君に無理強いは出来ないわ。明日からの文化祭、その人達と楽しんでね」

「申し訳ないです」


 彼女からすれば、最後の文化祭を俺と回りたかった思いもあっただろう。

 けれど、自分の気持ちよりも生徒会の一員として気遣ってくれた。


 その優しさに感謝しながらも、せめて今の作業だけは出来る限り手伝うのだった。 

 

 ~~~~~


「──インクロッチさんが司君の家に……へぇ、そうですか。また私のいないところで違う女の人を自宅に招いたんですか。そうですかそうですか……」

「いやだからさっき話した通りあの人が旅の資金を稼ぐ間だから、そんなに拗ねないでくれよ……」

「別に拗ねていません」


 いや、頬を膨らませてそっぽ向いている時点で、十分拗ねてるって丸分かりだし。

 

 ファブレッタさんからは日本に来ていることは組織には内密にって言われていたが、それでもゆず達に相談するくらいはしておいた方が、後でややこしくならないだろうと思って、放課後に日本支部で打ち明けたのだが……。


 結果は御覧の通りゆずさんの不興を買ってしまった。


「でも、神出鬼没と言われているインクロッチ様とも出会ってしまうだなんて、ツカサ先輩は凄いですね!」

「ポジティブな意見ありがとう、ルシェちゃん」


 一緒に登校しているルシェちゃんから、さらに尊敬の念を感じさせる眼差しを向けられて、照れ隠し気味にそう返した。

 

 でも彼女の言う通り、ファブレッタさんと会ったことで最高序列の五人の内、四人と出会ったことになるんだよな。

 

「俺がまだ会ってない最後の一人って『破邪の戦乙女(ヴァルキリー)』だっけ? どんな人なんだろうなぁ」

「ボクも噂で聞いた程度ですけれど、何でも戦闘技量だけならユズさんよりも上らしいですよ?」

「ゆず以上って……まるで想像出来ないんだが」


 俺自身は片手で数えられる程度しか見たことが無いが、ゆずの戦闘力がかなり高いレベルだということは知っている。


 知っているからこそ、あれより上の強さがあるという第二位の実力に慄くしかない。


 と、そうやって思考に耽っていると、不意に左腕を引かれた。

 慌ててそっちに顔を向けると、未だ拗ねたままのゆずが俺をジト目で睨み付けていたのだ。


「今私達と一緒にいるのに、他の女の子に気を向けるなんて許しません……」

「そんな気持ちじゃないって……」

「司君にそんなつもりが無くても、私達のように好きになってしまったらどうするんですか!?」


 ごめんなさい、仰る通りで何も言えねぇ!

 ゆずが警戒している理由が、何とも大変実感の籠ったものだっただけに、俺は反論に窮してしまう。


 なんてやり取りをしていると……。


「そのご心配には及びませんわ、ユズ様」

「アリエルさん?」


 光っている様に見える白銀の髪を揺らしながら、アリエルさんがゆずに声を掛けた。

 羽根牧高校の文化祭へ行く為に、今日から数日間だけ日本支部に泊まることになっている。

 

 もちろん、クロエさんも一緒だったが、今日はフランスでフェリクス君とデート中らしい。

 なんだかんだ言って上手く進展している様で何よりだ。 


 にしても、なんでファブレッタさんなら俺に好意を抱く心配はないって言い切れるのだろうか?

 こう言ったら失礼だけれど、恋人がいるようにも見えないし……。


「えっと、どうしてそう言い切れるんですか?」

「何も特別なことではございませんわ、









 インクロッチ様は同性愛者……所謂レズビアン趣向の持ち主というだけですから」

「いや、十分特別なことじゃないですか!?」


 別にLGBTに関して否定的なつもりはないが、そんな彼女からすれば女性がほとんどである組織の環境は、まさに桃源郷に等しいのかもしれない。


 というか翡翠は狙われてないだろうか?

 だってうちの妹可愛いし。

 天使みたいに可愛いし。


「帰る時に、翡翠をそれとなく守るようにしないとな……」

「何をお考えになられているかは察しがつきますが、横恋慕をされるような方ではありません、とだけ告げておきますわ」

「あ、そうですか……」


 なら良かった。

 そう安心するが、何故だが三人から向けられる視線に不穏な気配を感じる。


 何か不味いことでも言っただろうか?


「……解っています。翡翠ちゃんは可愛らしいですもんね? 司君がシスコンを発症してもおかしくありませんもんね?」

「ツカサ先輩のことは信じてますけど……ヒスイちゃんはまだ十三歳なんですからね?」

「この様子だと、シャルロットのことも大切にして頂けそうですが、程々に抑えてくださいませ?」

「なんで!?」


 色々疑われてるのはおかしくないか!?

 ゆずが『シスコン』って言葉を的確に使ったり、ルシェちゃんに翡翠の年齢を再確認されたり、アリエルさんに家族愛を抑えろと言われたり……解せない。


「今、ひーちゃんの話をしてたです!」

「ど……確かにしてたぞー」


 ゆず達の態度が理解出来ていないと、後ろから翡翠が飛びついて来た。

 家族になってからこういったスキンシップが多くなっているので、いきなりでも倒れる様な無様は見せない。


 翡翠が軽いっていうのもあるけど。

 だからといって全くドキドキしないわけでもなかったりするが。


「「「むむむ……」」」


 うわ、三人からの視線がいっそう強くなった?!

 

「ふっふー♪」


 止めて翡翠、ゆず達を煽らないで?

 それ以上はいけない。


「そういえばつっちー、すーちゃんとは仲直りしたです?」

「え? あぁ。今朝教室で会った時に、向こうから昨日は言い過ぎたって謝られたよ」

「あら? ですがお姿が見られませんが?」

「明日の文化祭のために休むと言っていました。私達も同様の理由で集まってはいても訓練は程々で切り上げていますし」


 翡翠からの問いに何気なく返し、アリエルさんの問いにゆずが返事をした。

 

 割と本気で怒鳴り合った割には、いつもより早く事が落ち着いたのには俺も正直驚きを隠せない。

 まぁ、さっき言った通り明日の文化祭で諍いを持ち込まないようにしようって気遣いだろう。


 終わったらどこかで奢るべきかもしれないな。


「あ、みんな集まってたんだ」

「ナナミさん!」


 なんて思っていたら、お誂え向きに菜々美がやって来た。

 気付けば俺に好意を抱いている面々だけになってるな……。


 そう思い、改めて自分がどれだけ特異な状況なのかを再認識する。


 五人とも、一生に一度関われるかどうかというレベルの美女・美少女だ。

 そんな彼女達が揃って、俺という一人の男に恋愛感情を抱いている。


 魔導と唖喰に関わり出して、もう半年以上が過ぎているというのも驚きだろう。

 ゆずに助けられる前の自分に言っても、百パーセント信じてもらえそうにないことは予想も容易い。

 

 恵まれている。

 

 意図せずとはいえ、他人から見れば立派にハーレムだ。

 彼女達の仲が不穏になることなく、こうして一堂に会しても喧嘩が起きないというのも奇跡に等しい。

 だから……恵まれていると思う。


 ゆず達からの好意に、どう答えるべきかずっと悩んできた。

 恋愛のことでここまで頭を悩ませることなんて、金輪際ないと確信出来る。

 それくらい、彼女達は魅力的だからだ。


 きっと誰を選んでも、人並み以上の幸せは得られるだろう。

 惜しむことなく、互いに愛情を注ぐことだって出来る。

 

 あぁ、だから本当に悩まされるなぁ。


 単に一人を選んだら、残りの四人が悲しむとか、もうそんな次元はとっくに超えている。

 もうこうして彼女達がいて当たり前の日常に馴染みすぎてしまった。


 誰か一人が欠けてしまえば、その瞬間にもう今のようにはいられなくなってしまう。

 それは……それだけは絶対に嫌だ。

 美沙だけでもあんなに荒れたんだ……もしそうなったら今度は自殺だってするかもしれない。


 だから、そうなる前に、俺はいい加減腹を括ると決めた。


 ちょうど、ファブレッタさんからも背中を押されたんだ。

 久城院さんでも憧れてくれている後輩でも誰が告白して来ようとも、俺はゆず達を見捨てるつもりなんてない。


「──なぁ、ちょっといいか?」

「「「「「?」」」」」


 不意に話し掛けた俺に、五人はキョトンとした表情を浮かべる。

 きっと、今の言葉を口にしたら不安にさせてしまうだろう。

 でも、いつまでも宙ぶらりんのままでいるのは…………もう止めだ。


「明日からの文化祭でさ、三日間でそれぞれ二人で回るって約束だったよな?」

「は、はい。そうですけれど……」

「前からの約束なので、忘れてないです!」

「それがどうかしたの?」

「ん、まぁな」


 羽根牧高校の文化祭は三日間開催される。

 その間、俺はゆず達五人と時間を決めて出店を回ることになった。

 改めてそのことを切り出したことに、ゆずと翡翠と菜々美は疑問の表情だ。


「ツカサ先輩……」

「……」


 流石と言うか、ルシェちゃんは俺に対する信頼から、アリエルさんは持ち前の観察力から、俺が何を言おうとしているのかを察したようだ。

 そのことを悟ると、思わず頬が緩みそうになるのでなんとか平静を装う。

 

 そうして一呼吸おいて、俺はゆず達に告げる。




「──この文化祭で、俺はみんなからの気持ちに答えを出す」

「「「「「──っ!」」」」」


 言うや否や、驚愕から五人とも目を見開いてまじまじと俺を見つめる。

 そんな反応をされるなんて、どれだけ待たせてしまったんだと自嘲する他ない。


「この期に及んでまだ待たせることになるけれど、もうそれ以上の期限は作らないつもりだ。そんなことはないって分かってるけど、俺が文化祭で出した答えに納得がいかないからって、選ばれた方を攻撃とかしないでほしい……」


 必要は無いだろうが、一応の保険だ。

 ゆず達の仲を見ている時も軽い口論が何度かあった程度で、相手を過剰に傷付けたりっていう事態になったことは無い。


 それでも釘を刺したのは、美沙や俺のように失恋のショックで何をしでかすのか分からないからだ。

 

 とりあえず、俺から言う事はもう言い切った。

 後は文化祭を通して自分の気持ちを再確認するだけだ。


 一方で、俺の覚悟を聞いたゆず達はしばらく逡巡する素振りを見せた後……。


「──解りました」

「フラれるかもって怖いのは怖いけれど、司くんがきっちりと考えたなら受け入れるよ」

「ひーちゃんは、つーにぃの妹です。お嫁さんになれなくても家族ですから!」

「い、いよいよ、なんですね……」

「流石にワタクシも、些か緊張が拭えませんわね……」


 各々、了承の返事をくれた。

 正直、今すぐって急かされてもおかしくなかっただけに、若干拍子抜けした感はある。

 

 本当に、俺は恵まれているなぁ……。


 結果的に傷付けてしまうかもしれない。

 それでも、彼女達が俺を好きになってくれたことは、絶対に忘れないと決めた。

 

 そんな想いと共、いよいよ羽根牧高校の文化祭が幕を開ける……。

  



 

ここまで読んで下さってありがとうございます。


次回は9月2日に更新します。


面白いと思って頂けたら、下記より感想&評価をどうぞ!


新作『ブラック勤務は辛いけど、配達先の幼女が癒し系すぎるっ!』もよろしくお願いします。

下記のリンクから飛べます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ