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277話 6章エピローグ いつか夢見た未来


「どうしたの、ひーちゃん? まだ寝ぼけてるの?」

「え、あの、何でもないです……」

「ならいいけど……もし具合が悪かったら言ってね」

「はいです……」


 何故かおねーちゃんがキッチンで朝食を作っていて、呆けているわたしにそう声を掛けて来た。

 戸惑いながらも何でもないって伝えると、心配そうにしながらも聞き入れてくれたみたいで、すぐに視線を下に戻す。


 ちらりと、既に席に着いてるつーにぃへ視線を向けると、おねーちゃんがいることがさも当然のように朝食を食べていた。


 それでやっと確信する。


 ──あぁ、これは夢なんだ……。


 確か、自分が見ている光景が夢だって自覚したまま見るのが明晰夢って言うんだっけ……。

 そう思うと、なんてタイミングで見たんだろうって、ちょっとムカってなるけれど……同時に思い出した。


 そう言えば、つーにぃにおねーちゃんがどんな将来を考えていたのかって話したなぁ……多分、それがこの夢を見ている切っ掛けかもしれない。


 ちなみに、おねーちゃんの将来計画を聞いたつーにぃは手で顔を覆っていたけれど、暗くても真っ赤なのが分かるくらい悶えてた。


 っと、それよりもこの夢だ。

 なんとも酷いなぁと思う。


 だって、せっかくおねーちゃんの願いが叶ってるのに、夢だからいつか覚めちゃうってことだもん。

 

 そんなやるせない不満を抱きつつも、せめて覚めるまでは満喫しようと前向きに考え直して、つーにぃの対照になる席に着く。


 配膳を終えたおねーちゃんは、いつものように私の隣に座って、ご飯を食べ始めた。

 わたしもご飯を手に取って食べるけど、夢の中だからか美味しいは美味しいんだけど、なんだかふわふわでよく分からない。 


「つー君、今日の放課後も日本支部で射撃訓練するの?」

「あぁ、普段の積み重ねが大事っていうのは魔導士で無くとも変わらないだろ」

「ふふっ、それじゃ今夜はスタミナが付く料理がいいかもね」 

「高二だってのにすっかり主婦が板について来たな」

「も、もう! 同棲してるだけでまだ結婚してないでしょ!?」


 食べながら話を聞いていると、大体の状況というか経緯に察しがついた。

 つーにぃとおねーちゃんは仲直りして恋人同士に戻ってるみたいで、わたしを加えた三人で同棲してる。


 魔導と唖喰に関しても、おにーちゃんの認識は現実と変わらないことも解った。


 ……というか朝から妹のわたしがいるのにも関わらず、途轍もないイチャイチャを見せられてるのはなんでだろう……。


 おねーちゃんとつーにぃが仲良しなのは嬉しい半面、自分だけ置いてけぼりにされてるのは納得がいかない。

 しかもこれ、どっちに嫉妬すればいいのか判断に困るなぁ……。

 どっちも大好きだから気持ちのやり場がないんだけど……。


 出るかわからないけれど、この不満を唖喰にぶつけたい。


 ある意味現実にならなくて良かった側面を垣間見つつ、夢の中で朝食を終えるとつーにぃはテレビでニュースを観始めて、その間におねーちゃんとわたしは食器の後片付けをすることになった。


 こうやって一緒に家事をやってたなぁなんて思い返していると、おねーちゃんがふとこんなことを尋ねて来た。


「そういえばひーちゃん、昨日好きな人に告白するって言ってたけれど、どうだった?」

「──えっ、わ、わわっ!?」


 その質問に驚いたわたしは、うっかり手に持っていたお皿を落としそうになるけれど、なんとか落として割るようなことにならずに済んだ。


 それくらい、おねーちゃんの聞いて来たことは予想外だった。

 わたしの反応が可笑しいのか、おねーちゃんはクスクスと笑みを浮かべている。


「何びっくりしてるの? 帰って来てから報告が無いからフラれちゃったのかと思ったけれど、その反応は怪しいなぁ~?」

「え、ええっと、その……」


 どうしよう……夢の中とはいえおねーちゃんが好きなつーにぃに告白しただけじゃなくて、キスまでしたなんて言えるわけがない……。


 状況だけじゃなくてとことん意地の悪い夢だなって思いながらも、わたしはどうにか言葉を紡ごうとする。

 でも、その前におねーちゃんが口を開いた。


「照れてどんな人か教えてくれなかったけれど、ひーちゃんが好きになった人なら、きっと素敵な人なんだろうね~」

「あ……」


 まるで自分のことのように嬉しそうな表情を見て、変に誤魔化すのはいけないと思った。


 頭の片隅では、おねーちゃんの好きになった人を、わたしが好きになっていいのかなって考えてたけれど、


 怒られるかもしれない、嫌われるかもしれない……。

 でも、夢であってもおねーちゃんに嘘をつくことだけはしたくない……そう思ったわたしは自分の気持ちを正直に打ち明ける。


「あのね、大きくなったらお嫁さんにしてほしいって言ってから、き、キスしたの……」

「わぁっ! ひーちゃんってば大胆! それでそれで、相手は誰?」


 わたしがした告白を聞いたおねーちゃんは、それを告げた相手の詳細に関して興味津々な眼差しを向ける。

 一瞬、ホントに言ってしまっていいのか躊躇う……でも、やっぱり嘘は言いたくない一心で、わたしは目を瞑ったまま口を開く。    


「──つーにぃなの」

「え……?」

「おねーちゃんの好きな人に、告白したの……」

「……」


 恐怖と緊張が入り混じった複雑な気持ちが心臓の鼓動を速める。

 けれど待っていてもおねーちゃんからの返答は来なくて、恐る恐る目を開けてみると……。





 ──リビングが消え失せて、辺り一面が真っ白な空間に切り替わっていた。


「え、ここ、どこ……?」


 つーにぃもおねーちゃんも居なくなって、わたし一人が取り残されている状況に、頭は完全にパニックになる。


「お、おねーちゃん! おねーちゃん!!」


 どこを見渡そうとも変化のない白と、突然の変貌におねーちゃんに嫌われたんだって思ったわたしは、その場から動くことが出来ずに寂しさで心を震わせていると……。



「──ひーちゃんも、つー君のことを好きになってくれたんだ。これはおねーちゃんとしても応援しないとだね~」 

「あ……」 

  

 耳元に声が聞こえたかと思った途端、スッと後ろから抱き締められた。

 その温もりが心地よくて、さっきまで感じていた不安も何もかもが消える。


「お、怒らないの……?」

「どうして? つー君なら好かれても不思議は無いし、大好きな妹が自分と同じ人を好きになるなんて、嬉しい以外あると思う?」

「思うから、聞いたです……」

「それもそっか。うん、確かに普通は怒ったり嫉妬したりするんだろうけど……私の場合はひーちゃんが相手ならすぐに許しちゃうし、さっき言った通り嬉しいんだもん」

「──っ!」


 おねーちゃんは怒ってないだけじゃなくて、わたしの不安とか全部を優しく包むような温かい言葉を掛けてくれた。


 それが何より嬉しくて、気付けば涙が流れていて胸の奥が暖かく感じる。

 

「おねーちゃんは、本物のおねーちゃん?」

「う~ん、どうだろう。ひーちゃんが生み出した幻なのか、はたまた天国から出て来た本物なのか、今こうしている私はどっちなんだろうね~?」

「い、意地悪しないでほしいです……」

「ふふふ、ごめんごめん────約束を守れなくて、ごめんね……」

「っ! う、ううん……謝るのは、ひーちゃんの方です……おねーちゃんの足を引っ張っちゃって、どんな気持ちでいたのか考えもしないで何度も死のうとしてた、わたしが悪いの……だって、つーにぃはおねーちゃんのことが好きだって言ってたのに……」


 あの時の約束……つーにぃがおねーちゃんを好きだって伝えられなかったこと……喧嘩別れした二人が仲直り出来なくなってしまったことを告げる。

 後回しになんかせず早く言うべきだった。

 

 そうすれば、もしかしたらおねーちゃんが死ぬことは無かったかもしれなくて……。

 何度も『ごめんなさい』ってポロポロと泣きながら口に出す。

 それでも全然謝り足りなくて、どう言葉にすればいいのか迷っていると、おねーちゃんはポンポンってわたしの頭を優しく撫でた。


「ありがとうね」

「え……」

「つー君の気持ちを教えてくれたんだよ? ひーちゃんが悪いことなんてなんにもないじゃん」

「おねーちゃん……」


 ……どうしたっておねーちゃんには敵わないや。

 涙を流してるのに、頬が緩むのが抑えられそうにない。

  

 顔を俯かせると、わたしを抱き抱えていたおねーちゃんの腕が透明になっていくのに気付いた。

 それがどういうことなのか分かると、バッと顔を跳ね上げてこっちを見下ろしていたおねーちゃんと目が合う。


 おねーちゃんの表情は慈愛に満ちていたけれど、腕と同じく半透明になっていってて……。


「──時間が来ちゃったみたいだね」

「や、やだぁっ! おねーちゃんとお別れなんて、いやぁっ!」


 夢から覚める合図なのだと告げられたことで、今まで口に出せなかった言葉で縋り付く。

 本物でなくたっていい……やっと会えたおねーちゃんとまた別れるだなんて、そんなの嫌に決まってる。


 けれども、わたしの祈りを無視しておねーちゃんの姿はどんどん消えていく。


「もっとお話したいこと一杯あるのに! まだまだずっと一緒にいたいのに!」

「──ひーちゃん」


 それを受け入れたくなくて泣くことしか出来ないわたしに、おねーちゃんは優しく語り掛けて来た。


「大丈夫、お別れなんてしなくていいんだよ」

「ほんと?」

「うん、だって────」


 おねーちゃんはそこで一度言葉を区切って、半透明の人差し指でわたしのおでこをつつきながら続ける。




「──ひーちゃんが私のことを覚えてくれてる限り、ずっと傍にいるんだから」

「あっ…………」


 そう言ったおねーちゃんの表情は確信を疑わないもので、その目で見つめられると寂しさなんて簡単に消え去っていった。


 やっぱりおねーちゃんは凄いなぁ。

 そんな風に考えてる内に、いよいよ夢の終わりだと言うようにおねーちゃんの姿がさらに透明になっていく。


 完全に覚める前に、わたしは涙を拭って精一杯の笑顔を浮かべる。


「おねーちゃんの妹になれて幸せです……」

「私も、ひーちゃんのおねーちゃんでいられて幸せだよ」


 つーにぃが気持ちを通わせたように、わたしとおねーちゃんの絆も無くならないって思える。


 そして、わたしは大丈夫だよって気持ちを込めて、最後の言葉を口に出す。


「おねーちゃん!」

「ひーちゃん」


 同時に互いを呼ぶ声が重なった。

 でも、わたし達は止めることなくその先を告げる。



「「──またね!!」」



 また会える日を願って、わたしは夢から覚めて帰る。


 ──大好きな人達がいる日常へ……。


 

  

ここまで読んで下さってありがとうございます!


このエピソードにて、6章完結となります!

次回からは恒例の閑話へと突入ですよ( ´∀`)


次回は7月2日に更新します!


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