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210話 二次会は例の場所で


 王様ゲームも終わり、アリエルさんの誕生会はそのまま閉幕の挨拶を経て、幕引きとなった。

 正直、もう王様ゲームは向こう一年はやらなくてもいいくらい、色々と刺激が強かった。

 時間が経つのは早いもので、午前十一時から始まったパーティーは、気付けば午後二時……日本時間に換算すると午後九時になっていた。


 そのまま会場でアリエルさん達と別れ、戻って来た日本支部でゆずと菜々美と別れ(外泊を提案されたが、流石に断った)俺は鈴花と共に自宅への帰路についていた。


「はぁ~、今日は楽しかったけど、やっぱ疲れたな……」

「アタシは同じ組になったコレットさん達と仲良くなったけど、アンタのところは元々仲の良い人だけだったもんね」

「いいよなぁ、そっちは平和そうで……」


 半ば恨みを込めた眼差しを鈴花に向けるが、彼女はまるで意に介さず続けた。


「そうそう! アタシが王様になった時に『歌を一曲歌う』って命令だしたんだけどさ、コレットさんって意外に歌上手いのよね~。何でもアリエルさんに憧れて練習してたそうだよ」

「へぇ~……こっちは菜々美とゆずがアリエルさんに蹂躙されて、俺はルシェちゃんに愛の言葉を囁いたりしてたってのに……」

「遠目で見てたけど、やっぱロクなことになってなかったんだ……後半の内容も気になるけど、アリエルさんって絶対そっちの気があるよね?」

「菜々美を抱き締める時もゆずにキスをする時も、一切躊躇がなかったからな」

「アンタにキスをする時もね。それで、返事はどうするのか決めたの?」

「……正直混乱してる」


 噓偽りなく答える。

 今までもそうだが、アリエルさんに告白されて悪い気分じゃないのは確かだ。

 それでもゆずと菜々美の想いをふいに出来る程ではないのも同じで、彼女への気持ちも決めないといけない。


 それに、アリエルさんが魔導士として戦い続ける覚悟を示した際に、レナルドさんの前で彼女を悲しませないと啖呵を切った分、アリエルさんの想いを無下にすることも出来ない。


「──っま、誰を選ぶにせよ、どんな答えを出すにせよ、あんまり待たせちゃだめだよ? 三人とも口には出さないけど、返事が保留されてる間は不安で仕方ないんだからね?」

「解ってるよ……」


 そんなの、鈴花に言われるまでもない。

 三人が少しでも俺と一緒に居ようとするのは、その不安を紛らわせるためだってことも。


「イマイチ説得力がないけど……そこを指摘しても尚更意味無いか。じゃ、またね」

「──おぅ」


 話し込んでいる内に、俺達は自宅の前に辿り着いていた。

 鈴花は話を区切って、ささっと自宅へと帰っていった。


「……その答えを出すためにも、まずは美沙の行方を掴まないとな」


 当事者の鈴花の姿が見えなくなった段階で、そんな言葉を呟く。

 アイツも無関係じゃないけど、これはあくまで俺の自己満足で、過去に踏ん切りをつけるためだ。

 そんな俺の我が儘にアイツを付き合わさせるのは忍びない。


 あの時、酷い喧嘩別れをしてしまった美沙に謝ってからじゃないと、ゆず達の関係を前に進めることが出来ない……そう確信しているからこそ、成し遂げないといけない目的だ。


 そう頭で考えつつ、俺も自宅へと歩みを進める。

 玄関のドアに手を掛け、中に入ると廊下の灯りが付いていて、リビングからはドア越しに両親の談笑する声が聞こえてきた。


「ただいまー」


 今日も恋愛ドラマではしゃいでいるんだろうと思い、家に帰って来たことを伝えるためにリビングのドアを開けると──。




 ──アリエルさんの前で正座をしながら手でゴマすりをする両親の姿が映った。


「あら、おかえりなさいませ──あ・な・た♡」

「すみません、お宅を間違えました」


 俺のいる方に振り返って人差し指を立ててウィンクをしながら、新婚の奥さんみたいなことを口走るアリエルさんに対し、何かの間違いだと判断してそっ閉じしようとすると、魔導士としての身体能力をこれでもかと発揮した高速移動で、閉じようとしたドアをガッと抑えてきた。


「いいえ、間違えておりませんわよツカサ様。ここはちゃんとツカサ様のご自宅ですわ」

「俺の自宅にこんな綺麗な人はいないんで、やっぱ間違ってますよ」

「それも間違えていませんわ。何せ将来的に夫婦となる間柄なのですから」

「婚約者云々の話なら、告白と一緒に保留してますよね? それ絶対じゃないですよね?」

「先程ツカサ様のご両親にお話したところ、是非にと快いお返事をを頂きましたわ」

「だと思ったから現実逃避したかったんだよチクショウ!! なんでいるんですかアリエルさん!!?」


 ぐぐぐ、とドア一枚を隔てた最後の抵抗は、案の定外堀の浅い両親によって敗北に喫した。

 ゆずを推すのか、菜々美を推すのか、アリエルさんを推すのかハッキリしろよ。

 あの二人のことだから、逆玉の輿に釣られたわけじゃないのは明白だ。

 絶対に手っ取り早く義娘が出来る口実を取っただけだ。


 それら全てを察しつつ、俺はアリエルさんにどうして竜胆家にいるのかを尋ねる。


「お父様がツカサ様を婚約者として認める際、色々と調べられたそうですわ」

「いや、確かに必要だから住所を記入しましたけど、よりよってこんな形で使われるとは思いもしませんでしたよ……」


 組織の一員になる際、初咲さんから住所氏名並びに生年月日など、基本的な個人情報を書くための書類を渡されて書いたけど、まさか組織全体で共有されているとは思わなかった。


 パーティーが終わって家族水入らずで祝うのかと思いきや、俺の家に転送術式を使って来るとか予想出来るわけがない。


「つつつ、司!? お前の女運はどうなってるんだ!?」

「知るか。恋愛の神様にでも聞いてくれよ」

「つまり私達のおかげということね!」

「それだけは絶対にない」


 恋愛の神様を僭称したことを本物の恋愛の神様に謝れ。

 仮にアンタらが恋愛の神様だったらとしたら、今すぐにでもボッコボコにしてやるけどな。


「ふふ、お義母様達はワタクシを一目見た途端、流れるように拝みだしましたの」

「恋愛の神様を自称するくせに、人間に拝んだのかよ」


 アリエルさんの〝おかあさま〟っていうニュアンスがおかしいことには突っ込まず、アリエルさんを拝んだことに突っ込む。

 ゆずの時は絶句して、アリエルさんの場合は跪くとか……今じゃすっかり慣れたけど、俺も最初はアリエルさんの前だとすごく緊張してたから分からんでもないけど、跪きはしなかったぞ。


「ふっひひひひ……巨乳お嬢様の婚約者なんて、やるじゃない司……」

「おい、ゲスイ本性が滲み出てんぞ」

「やったじゃないか。これで竜胆家も安泰だな」

「何を以ってだ。俺はまだ学生だし、アリエルさんだって聖職者の仕事が──」

「あ、そちらでしたら既に退職しておりますので、ご心配には及びませんわ」

「及ばせてくれ!? え、仕事辞めたんですか!?」


 まさかの爆弾発言に、俺は驚きを隠せなかった。

 いや、確かにアリエルさんは聖職者の仕事は辞められるなら辞めたいって言ってたけど、そんなに早く辞めるなんて微塵も考えてなかった……。


 彼女が聖職者の仕事に就いたのは、ダヴィドの策謀の一環だ。

 そのダヴィドの目論見が水の泡になった今、確かにアリエルさんが聖職者の仕事を続ける理由はないだろう。


「はい、ツカサ様との婚姻のための花嫁修業が目的ですわ♡」

「その退職理由を俺に伝えてどうしろっていうんですか……っ!?」


 どうしてこうも逃げ道を塞いでいくんだ。

 余計にアリエルさんを選ばなかった時の罪悪感が重く圧し掛かって来そうで怖い。

  

「でも現代の聖女なんて呼ばれていたアリエルさんが辞めるとなると、相当引き止められたんじゃないんですか?」

「ええ、それはもう盛大に……ですが、ワタクシが愛する人と添い遂げる意思を示しますと、それに多くの

方が賛同してくださいましたわ」


 どうしよう、より一層重みが増したよ。

 不本意でもアリエルさんを傷付けてみたら、二度とパリの土を踏めなくなりそう。


「そもそも能々考えれば……ワタクシ、働く必要がございませんわ」

「間違ってないけど、全国の勤労者達に謝って下さい」


 そりゃ、上流階級のお嬢様のアリエルさんならそうだろうけど、それは言っちゃいけない。

 俺の言葉にクスクスと笑みを浮かべる様子を見て、彼女なりのジョークだとは分かったが。


 そういえば、アリエルさんが竜胆家にいるということは、彼女の準者であるクロエさんもいるはずだ。

 どこにいるんだろうと、改めてリビングを見渡して……あ、いた。


 クロエさんはソファの上にうつ伏せになって倒れていた。

 いつもの男装であるため下着が露わになってはいないけれど、ちょっとはしたないなとは思う。


「あの、クロエさん? 何があったんですか?」

「──ぁあ、リンドウ・ツカサか……」


 安否を尋ねた俺に対し、クロエさんは普段の覇気が欠片も見えない程に憔悴しているようで、弱々しい返事が返って来た。


 本当に何があったんだ……。


「──貴様は……あのような両親の間で育って、よくまともな感性を保っていられたな……ワタシには到底不可能だ」

「そ、そうっすか……」


 どうやらウチの両親の洗礼を受け切ったらしい。

 それもアリエルさんに好意を持たれたことで、一層嫌う俺に対して素直に褒めるレベルなんてよっぽどだぞ。


 息子として非常に申し訳ありませんでした。


「で、ここまで来て聞くのもなんですが、どうして俺の家に?」

「聞けばツカサ様のご自宅には、ユズ様もナナミ様も外泊したことがあるというではありませんか。ワタクシだけ訪れていないのは不公平だと思い、将来の妻としてツカサ様のご両親へのご挨拶をかねて、本日はこちらに泊まるつもりですわ」

「色々言いたいことが多過ぎるけど、人の家に来ることをステータス扱いしないでくれません?」


 なんで一人が来たら対抗心剥き出しで後を追うように来るんだよ。

 

 キスといい、告白といい、これじゃ三人の内の一人とカラオケに行ったら、他の二人とも行くことになるじゃねえか。

 

 しかも前の一人以上のアプローチもされるんだろ?

 頼むから答えを揺るがすような真似は止めてほしい。

 ただでさえ優柔不断なんだから、さらに時間かかるぞ。


「よくレナルドさん達が許可を出してくれましたね」

「仕事で来ることは叶いませんでしたが、お父様はツカサ様のご両親との顔合わせも悪くないと仰っていましたわ」

「それをされると元から浅い外堀が砂一粒で埋まるんでやめて下さい」


 完全にお見合いじゃねえか。

 ゆずに釘刺されたのに凝りてねえなあの人……。


「本来はワタクシ一人で来るつもりだったのですが……」

「ワタシの目が黒い内は、アリエル様に手出しは一切させんからな」

「少なくとも俺からはしないんで安心して下さい」


 クロエさんがいてくれてよかったが、本当に警戒するべきなのは俺じゃなくて、あなたの後ろで微笑んでる主だぞ。

 ちゃんと見張ってくれないと、その人は俺に夜這いを仕掛けて来てもおかしくないからな?

 ただ、数え切れないくらいアリエルさんに出し抜かれてる時点で、望み薄だけどな。


「むぅ、ツカサ様が紳士なのは嬉しいですが、女性としては何だか悔しい気分ですわ……」

「仮にアリエルさんと恋仲だとしても、ちゃんと責任を取れるようになるまでそういうことはしませんからね?」

「父さん達はいつでもいいぞ」

「男らしくガンガンヤりなさい」

「二人はちょっと黙っててくれないっ!?」

 

 息子の言葉を台無しにするようなことは言わないで欲しい。

 家庭内セクハラはマジで迷惑だからな?


「まぁまぁ……!」

「ぐぐ……」


 一方、アリエルさんは凄く嬉しそうに笑顔を浮かべているが、クロエさんは仮だろうと俺を認めないと言わんばかりに睨んで来ている。

 

 時間も遅いし、レナルドさん達が許可を出しているのなら仕方ない。

 ゆず達に連絡して、日本支部の居住区に連れて行ってもらうのも手だろうが、ここまで来てアリエルさんを突き返しては確実に傷付けてしまうだろう。

 自分のお人好しぶりに辟易としつつ、俺はアリエルさんとクロエさんが我が家に泊まることを受け入れることにするのだった。



 ~~~~~

 


「はぁ~……」


 熱いシャワーの湯を体に掛けて、ポカポカと温まる気分の良さに息を吐いた。

 何が何でも俺の部屋で寝ようとするアリエルさんを、空き部屋で寝泊まりするように説得し終えて、俺は風呂に入っていた。

 王様ゲームのことといい、アリエルさんとクロエさんが泊まることになったり、本当に今日は忙しい一日だった。

 

 以前ゆず達が泊まった時もそうだが、風呂は今一番の安住の地だ。

 ゆずの時は彼女はまだ俺に恋愛感情を抱いていなかったし、先に入ってもらっていた。

 菜々美の時は、彼女が夕食の後片付けをしている内に風呂を済ませた。


 そして今、アリエルさんは父さんに酒を注いでいる。

 お嬢様になんてことをさせるんだと思ったが、アリエルさん本人からそうしたいと望んでいては、俺には何も言えない。

 もちろん、クロエさんが止めようとしたが、母さんがササッと酒を勧めたことでそのまま流されてしまった。


 どうやら母さんは短時間でクロエさんの性格を見抜いたらしい。

 出来ればその観察眼をもっと別の方向で発揮してほしい。


 まぁ、そんなわけで、今の俺のフリータイムを邪魔する人はいないというわけだ。

 そろそろ体を洗おうとして、石鹸(フランスに行った時に買った土産物)を手に取って……。



「ツカサ様! お背中をお流しに参りましたわ!!」



 浴室のドアをバッと開けて、乱入者がやって来た。

 大きめのバスタオルでも隠し切れない程の豊満な体をしているアリエルさんが、息を荒くして突入してきたのだ。


 風呂場に。

 バスタオル一枚を体に巻いて。

 男の俺がいる風呂場に。


 安住の地が、脆くも崩れ去った瞬間だった。


ここまで読んで下さってありがとうございます。


次回は2月4日に更新します。


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