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21話 はじめての……

ちょっとアレな展開があるので注意してください。


 ゆずに案内されて入った訓練場の中は白いとしか言いようのない空間だった。

 いや、全部が全部白いってわけじゃなくて、奥の方にガラス越しの見学席みたいなのが見える。

 部屋の大きさとしては学校の体育館と同じくらいの広さがあるため、これなら動きたい放題だと分かった。


「俺はあっちの見学席っぽいところに行けばいいのか?」

「はい、あそこで見学することになっています」


 言われた通りに見学席に向かった。

 中には椅子やあり、空調管理もされているので思ったより居心地がいい気がする。


「司君、私の声が聞こえますか?」

「ああ、大丈夫だ」 


 ガラス越しでもゆずの声がよく聞こえた。

 これなら訓練の内容を聞き逃す心配もないだろう。


 ゆずは鈴花と向かい合った。

 俺はそんな二人の格好を見る。


 二人共グレーのミニ丈ワンピースにスパッツと運動靴という動きやすさと訓練ですといった装いだ。

 正直戦闘時に来ていた魔導装束と同じだったら目のやり場に困るところだった。


「ちょっと、あんまりジロジロ見ないでよ」


 俺の視線に気付いた鈴花が体を隠すように右腕で胸側を、左手でスカートの裾を引っ張った。


 別にやましい理由で見てたわけじゃないのに、と思いつつ俺は鈴花に謝った。


「悪い。魔導装束と同じデザインじゃないって思ってたらつい……」

「え、魔導装束ってそんなに露出すごいの?」

「露出がすごいっていうより、なんて言えばいいのか……」


 ダイビングスーツみたいに体にフィットしていて、体のラインが浮き出るから下手な露出より扇情的に見える、なんて言っていいの?


 学生同士の会話とはいえセクハラになったりしない?


 俺が魔導装束のデザインをどう説明すればいいのか悩んでいると……。


「直接見てみますか?」

「え、いいの並木さん!?」

「そちらの方が説明も省けるので」


 なんとゆずが直接着て見せてくれると言ってくれた。

 理由にツッコミたいが、せっかくの申し出を遮るわけにはいかないので、グッと呑み込んだ。



「魔導装束……魔導少女が唖喰と戦う時に纏う戦闘服っていうと、魔法少女の変身みたいだよね」



「!!?」


 ――なん……だと……!?


 鈴花がふと呟いた言葉を聞いた瞬間、俺は雷が落ちたような衝撃を受けた。


 クソ、なんで今までその事実に気付かなかったんだ!?

 これじゃ魔法少女オタクとして情けないぞ!!


 俺が鈴花の言葉で気付いたこと、それは……。



 今からゆずが魔導装束を身に纏うということは、魔法少女のような変身シーンが見られるということだ。

 


 なんてことだ、まさかこのタイミングで生の変身シーンを見られるとは……!

 

 魔法少女の変身シーン……多くの作品でそれは一つの様式美としてなくてはならない要素だ。

 その過程を言葉だけにするなら魔法少女達が元の衣服から戦闘服に着替えるだけなのだが、変身シーンというのはその過程に意味がある。


 まず元の衣服が消えて全裸になる。

 ……違うよ、いやらしい目的なんてないよ。

 確かに最初の頃はそれに幼心ながらドキドキしてた記憶があるけど、今は変身シーンで全裸になることに大して動揺してないから。


 と、とにかく一旦全裸になって、そこからフリフリのリボンとフリルがふんだんにあしらわれたパーツが衣装にポンポンと追加されて、全裸から一転して悪と戦う時の戦闘服になって最後に決めポーズ。


 この一連の流れがないと魔法少女オタク達はその少女達を魔法少女とは認めない。

 変身シーンというのは魔法少女オタク達にとってそれだけ大事なのだ。


 それが生で見られるというこの状況が魔法少女オタクたる俺にとってどれだけ感無量なことか……。


「それではいきます……魔導器起動、魔導装束装備開始」


 俺がそんな風に期待に胸を膨らませていると、ゆずが自身の魔導器であるペンダントを握ってそう呟いた。

 

 変身ワードがかなり固い感じがするけど魔法少女を知らないゆずでは仕方ない。

 そう思っているとゆずの足元に魔法陣が展開され、それが一瞬で足元から頭上まで移動した。

 するとゆずの装いは訓練着から唖喰と戦う時の戦闘服である魔導装束に代わっていた。


 時間にして三秒の出来事だった。


……。


……。


 え、終わり?


「……司君、どうして残念そうな顔をしているのですか?」

「えっ、いや、魔法少女が変身する時って一瞬裸になるのが定番なんだけど、えらくあっさり終わったなーって……あ」


 自分がとんでもないことを口走っていることを言ってから気付いた。


 案の定、ゆずは訝しげな目を向けて


「……なぜ武装するのに一度裸になる必要があるのですか?」

 

 と言って来た。


 あ゛あ゛ーっ! 

 これ違うって言ってもじゃあなんでだってなるやつだー!


「いや、がっかりする気持ちも分からなくもないけどさ、いくら何でも今の発言はないわー……」

「ぐっ……」


 同じく魔法少女オタクの鈴花に女性目線からの軽蔑の視線を向けられた。

 こっちの心情を理解されている分その眼差しは余計に堪えた。


「一度裸になる理由……どんな深い意味があるのか教えてくれませんか?」


 さらに追い打ちをかけるようにゆずさんの純粋な眼差しも来た。

 やめて……一度裸になる理由は俺もよく知らないんです。

 作品によっては理由付けがされているけれど、現実じゃなんの意味もないことだけは確かなんです……。


 いや、公開ストリップショーっぽいお色気要素があるか……言ったら記憶消されそうだな。

 なんの意味もないことを伝えておこう。


「ごめん、魔法少女アニメの見過ぎで期待し過ぎただけだから、一度裸になる理由はないんだ」

「……そうですか。むしろやましい理由でなくて安心しました」


 あっぶねえええええ!! 

 前任の日常指導係の二の舞だけはなりたくないから、そういったピンクなネタは控えておこう。

 

「理由はともかく、それが魔導装束かぁ……」

「どうでしょうか?」


 鈴花が改まってゆずの魔導装束姿をまじまじと眺める。

 ゆずは見やすいように腕を上下させたり、その場でくるりとターンをしたりしている。

 

 その動きに可愛いなんて思っていると、鈴花がある疑問をぶつけた。


「その……恥ずかしくないの?」

「どうしてでしょうか?」

「ど、どうしてって……ほら、その……腰の太さとか胸の形が……」 


 そう訊ねた鈴花の顔が赤くなっていた。

 

 今のゆずのような意向のデザインなら自分の体形がもろに浮き出るせいか……。

 そのあたりはこの前まで普通の女子高校生だった鈴花には厳しいかもな。


 柏木さんや工藤さんも慣れた感じだったけれど、あんまり見ていたら柏木さんが恥ずかしがったことがあったから、今も平然としているゆずの精神力が凄いということになるな。


 魔導装束を纏った自分を想像した羞恥心からか顔を赤めた鈴花を反応にゆずが合点がいったという反応をしだした。


「ああ、なるほど……私はなんとも思っていませんが、このデザインに抵抗を感じる魔導士は多くいますので、申し訳ないのですが慣れろとしか言いようがありません」

「そっかぁ……戦うのに恥は捨てろってことかー」


 ゆずの言葉に鈴花は諦念に駆られた。

 

「魔導装束解除……さて、改めて訓練開始といきましょう」

 

 魔導装束の装着を解除して変身前の訓練着に戻ったゆずがそう告げた。

 そうだ、色々脱線していたがここに来た目的は鈴花が術式を使えるようになるためだった。


 鈴花もゆずの声に反応にて背筋をピンと伸ばして姿勢を正した。


「少しおさらいをしましょう橘さん。術式を発動させるにはどうすればよいのでしょうか?」

「えっと、魔力を術式に流して、対象を定めて、詠唱する……でいいんだっけ?」

「概ね正解です」

「でも鈴花も女性だからといってすぐに魔力を操ったりできるのか?」

「いいえ、橘さんの場合はまず自身の中にある魔力を把握する必要があります。誰でも認識していない部位を動かすのは至難ですから」


 赤ちゃんが手足を使ってハイハイをしたりするのも、自分の手足をどう動かすのか本能的に理解していないと出来ないことだから、それと同じ要領だろう。


 鈴花が自分の中にある魔力を認識できない限りいくら魔力を操ろうとしても、今まで認識されていなかった魔力はうんともすんとも言わないということだ。


「じゃあどうするの?」

「私が橘さんの魔力を操って自覚させます」

「へっ!?」


 さらっととんでもないことを言ったな!? 

 え、他人の魔力も操れるの!? 


「驚くほどのことではありませんよ。治癒術式を他者に使用した場合、必然的に相手の魔力を操ることになりますので、むしろ必要な技術です」

「あぁ、そういう……」


 そういえばさっきの授業の時もそう言っていたな。

 魔力の無い人は治せないってことに注目し過ぎて相手の魔力を使うことを忘れてた。

 

「それでは橘さん肩の力を抜いてください。今からあなたの魔力を動かしますので、感じたことを素直に話してください」

「は、はい!」


 ゆずがそう言って鈴花の背中……肩甲骨の間に手を添える。

 

 すると、鈴花の体がほんのりと輝き出した。

 あれが鈴花の魔力か……。


 俺が肉眼で鈴花の変化に気付くと同時に、鈴花の方も何か感じたのかそわそわし出していた。


「……ん、なんかくすぐったい」

「どのあたりですか?」

「右腕の二の腕あたり……」

「ふむ、ではこれは?」

「ひゃっ! わ、脇!?」

「……」


 どういうことだ?

 ゆずは鈴花の背中から手を離していないのに、なんで鈴花は腕とか脇に反応しているんだ?


「うわわ、今度は左耳!?」

「次はここです」

「きゃあ!? お尻!?」


 あ、そうか。

 ゆずは鈴花の魔力を体内で局所に移動させて、鈴花に魔力を感じさせているんだ。

 

 ただ魔力を循環させるだけじゃくすぐったいと感じることも難しいのかもしれない。

 だからああやって一か所に魔力を集中させることで、鈴花の魔力を感じさせる感知能力みたいなのを意識させるんだ。


「ここはどうでしょう?」

「んんっ、な、なんで左胸ぇ!?」

「ここ」

「はあうっ、脇腹!?」


 ゆずの表情は無表情のままなのに、鈴花の表情は最初のギョッとしたものからだんだん頬を赤くしながら涙目になっていった。

   

 辛そうだな……。


「これは?」

「んく、おへそぉ!?」

「今どのように感じますか?」

「へ? あ……そういえばくすぐったくない……なんか体が熱い……」

「いい傾向です。このまま続けますよ」

「え、ちょっとま……やぁ、あぁ、太ももぉ……!」


 鈴花はたまらず感じた箇所を手で押さえた。

 だがそんなことをしてもゆずの魔力操作は止まるはずも無く、鈴花の中の魔力を次々と移動させていく。


「やぁ、まってぇ……なんか服が擦れる度に体がビクッてなるぅ……」

「つまり?」

「はぁ……はぁ……つまりって……」

「今、橘さんはどのあたりを感じていますか?」

「そ、そんなのぉ……はぁ、ぜん、全身!! はぁはぁ、全部ぅ!!」


 ……。


 もういいよな?

 

 これ本当に鈴花の中の魔力を自覚させてんのか?

 なんか全く別の光景に見えるんだけど……。

 

 だって見てみろよ鈴花のあのとろけるような表情。

 顔は羞恥心で真っ赤だし、涙目だし、左手で訓練着のスカートを押さえて足をもじもじさせて、吐息が荒いし……。


 俺は一体ナニを見せられているんだ?

 本当にここに居ていいのか?

 あのキマシタワーにどう反応すればいいの?

 

 頭が混乱してきてもう何がなんだかわからねえよ……。


「では仕上げです」

「はぁはぁ、し、しあげ?」

「そう、仕上げです。一気にいきます」

「い、いっきにって、そんなぁ――はうんんぁぁっ!?」

「これで……!」

「んあああぁぁぁっっくっふぅぅっ!!?」



 鈴花が背中を後ろにビクンと反らしたと同時に鈴花の言葉にならないコエが第四訓練場内に木霊した。

 よっぽどの衝撃(意味深)が鈴花のナカ(意味深)を駆け巡ったのだろう。

 

 さながらヘ〇ン状態みたいな……。


 ゆずが鈴花の背中から手を離すと、鈴花は崩れ落ちるように床に座り込んだ。

 どうやらこれで魔力を自覚させる訓練は終わったらしい。


 ゆずに確認するため、見学席から出てゆず達の元へ駆け寄った。


「お、終わったのか?」

「はい、これで橘さんも魔力を操ることが出来るようになりました」

「随分早いんだな……」

「それには少し事情が……司君、なにやら顔が赤いですがどうかしましたか?」

「え、あ、いや、大丈夫だ! それよりごちそうさ――じゃなくてお疲れ様!」

「いえ、当然のことですので」


 危うくキマシタワーをごちそうになったと口を滑らしかけたが、なんとか気付かれていないようだった。


「……なぁ今のを俺にやってもやっぱり……」

「……はい、司君が魔力を扱うことはできません」

「はぁ、そうだよな……」


 淡い期待だったか……。

 やるせない気持ちを押し殺して未だ地べたに座り込んでいる鈴花に声を掛けた。


「お、おーい。鈴花ー? 大丈夫かー?」

「……」


 返事がない。

 ただの放心状態の廃人ようだ。


 いやよく見ると肩がプルプル震えている。

 あれって自分の身に起きたことを思い返して悶えているんじゃないか?


「なぁ、本当に大丈夫なのか?」


 あのまま放置して暴れ出したりしないか不安になってゆずに訊ねた。


「はい、他の魔導士も自分の中にある魔力を自覚するとあのようにしばらく放心状態になりますが、魔力を実感して驚いているだけですので特に問題はありません」


 絶対違うと思う。

 放心状態になってるのって多分そういうわけじゃないと思うぞ。

 

 口に出しても野暮なので心の中でそうツッコミを入れていると、鈴花がゆっくりと顔を上げてゆずの方を見た。


「……なに、あれ?」


 ハイライトが消えた目から一筋の涙を流しながら震えた声でそう呟いた。

 

「魔力を自覚してもらっただけですが……」

「たしかに体の中にボウって火が灯されたみたいに感じるけど、聞きたいのは自覚させる過程のこと! あんな、はは、恥ずかしいことをするなら先に教えてよ!」

「こればかりは他人が口にして理解されるものではありませんから、教えようが教えまいが変わりません」

「そう、そうかもしれないけどさ!!?」 


 理解は出来ても納得は出来ないといった感じだった。

 それだけあの方法は鈴花の中の乙女心に許容できる案件ではないようだ。


「まぁおかげで鈴花も術式を発動させられるようになったんだし、必要経費と思って割り切るしかないって」

「うううう、なんであんな……あ」

「うん、どうした?」


 鈴花が唸っていると思っていたらふと顔を上げて俺と目を合わせて来た。

 どうしたのか聞き返すと……。



「よく考えたら司も見てたってことだよね?」


 

 ……。



「あ」


 その一言で我慢の限界に達した鈴花は右手をバッと俺の方に向け……。


「攻撃術式発動、光弾展開、発射!」

「はああああまてまてまて!!?」


 あろうことか初の術式を俺に向けて放ったのだ。

 鈴花の放った光弾は初めてとは思えない程の速度で俺の元へと飛来し、俺の視界が閃光に包まれた。


魔導による女子高校生の開発(意味深)

ちょっとふざけてみたら何故かこうなった。

深夜テンション怖い。


次回更新は4月22日の朝に更新です。


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