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魔導少女が愛する日常~世間知らずな彼女の日常指導係になりました~  作者: 青野 瀬樹斗
第五章 歌姫が口ずさむ夢想曲(トロイメライ)
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195話 抗う意志を貫いて


「ギギッ!」


 アルニーケネージが、蛇のような体をくねらせてその両腕の爪を振り下ろす。

 直撃すれば即死は免れない驚異的な一撃が、ゆずに迫る。


「はああっ!!」


 対するゆずは魔導杖に光刃を展開し、強引に薙ぎ払うようにして二本の鋭く大きな爪に向けて振るう。

 インパクトの瞬間にズンッと重厚な振動が響くが、ゆずは僅かに後退するだけで自身の体格以上の爪を弾いたのだ。

 その弾かれた二本の爪の内左側の一本にシュルシュルと細い影が絡み付き、腕が地面の方に引っ張られた。


「んっ、んん……っ!!」

 

 それは菜々美が絡ませた鞭であり、アルニーケネージの腕を片方だけでも抑えようと、腰に力を入れて踏ん張る。


「ギギギッ!」

「あっ!?」


 止められたのは一瞬。

 だが、彼女達は狙いにはその一瞬が必要だった。


「固有術式発動、強化効果付与!!」


 鈴花が弓と矢を構えながらがら空きになっている左側に照準を定めていた。

 そして、彼女の声と共に発動した固有術式によって弓の射線上に魔方陣が展開され、そこへ鈴花が十本の矢を射る。


 魔方陣を通過した矢はさらに速度を上げてアルニーケネージへ飛翔する。


「ギギァッ!!」


 だが、アルニーケネージは口から糸の束を吐き出して即席の盾を作り出し、鈴花の放った矢は全て防がれてしまった。


「あぁ、もう、これで十五回目よ!? コイツ無駄に防御力高くない!?」


 幾度となく繰り返された攻防に、鈴花が苛立ちを隠さずに愚痴を零した。


 悪夢クラスの唖喰〝アルニーケネージ〟。

 この唖喰は過去に討伐歴があり、その情報は全国にある組織の支部にも伝達されている。


 個体の戦闘能力に関しては先月日本に出現した同格の唖喰、ベルブブゼラルに比べて下に位置付けられている。


 だが、ベルブブゼラルより下だからといって、ゆず達は誰一人舐めて掛かっていない。

 そもそも、彼女達がここまで苦戦するのは、アルニーケネージの〝内側〟だからである。


 この唖喰は、目では捉えられない極細の糸による檻の〝外側〟と〝内側〟でその対処法が大きく異なる。


 前者は糸の檻の外側であるため、こちらの行動範囲が非常に広く、アルニーケネージの攻撃範囲外でもある。


 安全性はあるものの、アルニーケネージは糸の檻で守られている形になるため、こちらの攻撃が届きにくい。


 蛇と同様の胴体や、最頂部の玉のような部分が弱点なのだが、玉の部分は二十メートル以上もの高さにあるため、攻撃を当てることすら難しく、胴体部分にしても糸が盾代わりとなっていることから同様にダメージが少ない。


 ならばもう片方の内側……今現在ゆず達が踏み入れている方だが、アルニーケネージとの戦いにおいてこの内側が最もダメージを与えやすく、最も命の危険が高い。


 何せ内側はアルニーケネージの攻撃範囲内である。

 カオスイーター以上の膂力から放たれる爪の攻撃は、人どころか鉄をも紙のように貫く。


 さらに糸の罠によってこちらの動きの阻害もこなしてくるため、最もダメージを与えやすいとは言っても、それは攻撃を当てられたらの話である。


 そんな当たらなければどうということはないを、地で行くアルニーケネージに対し、ゆず達はベルブブゼラルの時とは別のベクトルで苦戦を強いられていた。


「残存魔力量を度外視した攻撃であれば、あのように防がれることはないのですが……」


 そう言いながら、ゆずは後方へ視線を向ける。


「うぅ……」

「はぁ……はぁ……」

「もぅ……立て、ない……」


 クロエの叱責で立ち上がったものの、一時間半にも及ぶ長期戦は、普段の訓練を惰性でこなしていた親衛隊の面々には困難であった。


 戦意は折れていないが、時間が経つに連れて体力と魔力も底を尽き、一人、また一人と膝をついて動けなくなる者が増えていく一方だった。


「クソ、これではユズ殿が攻撃に集中出来ない……!」

「ゆずがまだまだ動けるっていうのに、アタシも残り魔力が結構ヤバイんだけど……」


 膨大な魔力量を持つが故に、ゆずは未だ彼女達を守る余裕があるが、鈴花や菜々美にクロエの三人も疲労の色が見えていた。


 改めてゆずとのフィジカル差に鈴花がぼやくが、彼女は視線だけを動かして隣を見やる。


「はぁっ……、はぁっ……!」


 両手を膝に置いて前屈みになりながら浅い呼吸を繰り返す菜々美の姿があった。


 栗色の髪が肌に張り付く程に全身が汗まみれになっており、その余裕のない表情から明らかに疲労困憊の様子が見て取れたが、視線だけは逸らすまいとジッとアルニーケネージを見つめ続けている。


 何せ、彼女はクインアミーワスプとグラットニーモスとの戦いで、アルニーケネージと対峙する前に三人より魔力を消費している。


 先程の一瞬の拘束も、限界が近い体と魔力を駆使してやっとのことで出来たことであるため、今もなお自らの足で立っていること自体奇跡に等しい状態なのである。


 ならば、何故誰も止めないのか。


 その答えは彼女が先程から無意識で何度も呟いている言葉にあった。


「あき、らめない……絶対に、司くんは……来てくれる……それまでは……絶対に、倒れない……っ!!」


 司が必ずアリエルを見つけて連れてくると信じて、決して膝を着かせることはないという鋼の意志を見せているからだ。


 そんな彼女が奮戦する姿を見続けているからこそ、既に限界を迎えている親衛隊達も折れることなく戦いの行く末を見守ることが出来ていた。


「……馬鹿じゃないのかしら……あんな魔力も使えない男を信じるなんて……」


 同じくその様子を見ていたポーラがそう呟く。

 アルニーケネージの出現ですっかり戦意を無くしている彼女は、魔力量に余裕があるのにも関わらず自ら戦おうとしていない。


 そんな人任せな姿を晒していることで、最早今までのように彼女に味方する者はいなくなっていた。

 だがそんなポーラに近づく者がいた。


「じゃあアンタはあの男が魔力を使えたら信じてたの?」

「……誰に口をきいてるのよ、コレット」


 ポーラに話しかけたのは、左側にまとめたサイドテールの長い金髪の女性……コレット・カルヴァだった。

 

 親衛隊の一人でポーラを除けば一番の古株である魔導士の彼女は、奮起した親衛隊の中で一番長く戦っていた。


 既に魔力は限界に達しており、先程になって立って歩けるまでに回復したばかりだった。

 

 そんな彼女は、ポーラに自分の名前を呼ばれたことが意外だったのか、目をパチクリとさせた。


「なんだ、覚えてたんだ」

「それはそうでしょう。曲がりなりにも同期なんだから」


 奇妙なことにポーラとコレットは同じ学校のクラスメイトであり、学生時代は何度となく行動を共にしたことがあった。


 社会人となってからも彼女達の交流は続いていたが、ある日唖喰と戦うアリエルの姿を偶々目撃し、彼女に憧れるようになった。 


「そうだよね。一緒に魔導士になってさ、アリエル様みたいにかっこよく戦いたいって思ってたのに、どこで間違えちゃったんだろうね」

「さぁ? 私は単純にチヤホヤされたかっただけよ」

「学生時代でもいじめっ子だったもんね。ワタシは今にして思えばアンタにそこまで友情を感じてなかったわ。むしろ自分が標的にならないように必死だったよ」


 ポーラの気質は完全にいじめっ子のそれであった。

 自分がコミュニティの中心で無いと気が済まず、逆らう者や従わない者に執拗ないじめを繰り返していた。


 流石にいじめた者を自殺に追い込んだことはないが、それでもいじめられた側の人間には彼女という人間が心の奥底に刻み込まれているだろう。


 魔導士になったからといってそんな彼女の気質が変わるはずもなく、アリエル親衛隊などという名ばかりのコミュニティを形成して、大きな顔をしていた。


 そんなポーラの一面を良く知っていながらも、何故か今も今まで付き合いを続けてきたコレットは、自然と目立つことを避けて来た。


 変に角を立てれば自分の身が危ないと感じていたからである。


「……今は、違うっていうの?」

「どうだろ……人ってそんな簡単に変われないし、自分のことなのにどうなるかもどうなれるかも分かんないよ。でもさ……あの日本人の魔導士が必死で戦ってるところをみて、二か月の新人に助けられて、ああいうふうにはなりたいって思った」

「何よ、そんなことをわざわざ言いに来たの?」

「そう。絶交を言い渡しに来たんだよ」

「――っ」


 絶交という言葉を告げたコレットに対し、ポーラはギリッと歯を噛み締めた。

 クロエの叱責によって親衛隊は既にポーラのコミュニティとして働かなくなっている。

 何となく、コレットだけは自分と一緒に居てくれるのではという淡い期待も、他ならぬコレット自身によって砕かれた。


「まずはさ、ルシェアみたいに自分の人生を賭けられるような夢を持ちたい。それで次にはあの日本人みたいに、自分の一生を捧げられるような人に巡り合いたい。そのためにも、強くなろうと思う」

「な、なんでそれを私にいうのよ……絶交しに来たんでしょ?」


 自身の目標を語り出すコレットに、ポーラは懐疑的な視線を向ける。


「絶交する前に、ポーラには知って欲しかった。ワタシの目標を」

「教えたから応援しろとでも言うの?」

「いらないよ。ただ知って欲しいだけ……じゃあね」


 二人が話している最中にも戦いは進んでいる。

 動けない親衛隊を一人でも多く後方に下げるために、コレットは再び戦場へと歩みを進めた。


「何よ、それ……本当……バカばかりよ……」


 依然として戦う意志を持てないポーラは、長い付き合いのあったコレットの意志を理解が出来ないままだった。


「ギギガァ!!」

「――ッチィ!!」

「クソ、攻め切れない……!」


 アルニーケネージが両腕の爪で目にも止まらない連打を放ってくる。

 そのスピードは残像によって爪の量が増えたかのように錯覚する程であったが、ゆずとクロエが同様の速度で以って捌いていった。


 だがクロエが零したように、遠くで鈴花が矢を放って援護するものの、絶妙に体を逸らすことで躱され、その隙を突きたくともいつの間にか張られていた糸に妨害される始末であり、一向に押しきれないままであった。


「ギゲェ!」

「あっ、ぐ、くぅ……っ!?」

「う、あ、ぁ……!?」


 逆にゆず達に出来た一秒もない一瞬の隙を突いて時折反撃が来ることがある。

 それによってゆずとクロエの体には細かな裂傷が出来ていた。


 特にクロエは今の一撃で右足の太ももを刺され、バランスを崩してしまった。

 右膝から崩れ落ちるクロエにトドメを刺そうとアルニーケネージが攻撃を仕掛けて来る。


「クロ――あぁっ!!?」

「――ヤバっ!?」

「だ、ダメェッ!!」


 咄嗟にゆずが阻止しようとするものの、もう一方の爪で力いっぱい振り払われたことによって、ゆずも大きく吹き飛ばされてしまった。  

  

 鈴花も矢を放ち終えた直後で次弾装填が間に合わず、菜々美も咄嗟に動くも鞭では威力不足で意に介していないあり様だった。


「ぁ……」


 絶体絶命に陥った瞬間になって、クロエは走馬燈を幻視した。

 

 ~~~~~


『クロエ・ルフェーヴルです! 本日より、アリエルお嬢様専属の従者としての任に就かせて頂きます!』


 それは、五歳の頃に自分がアリエルの専属従者として就くために、彼女と顔を合わせた時の光景だった。


 クロエの実家であるルフェーヴル家は、アルヴァレス家傘下の中流階級の家柄である。

 魔導六名家の一つに数えられるアルヴァレス家の傘下として、魔導と唖喰の存在はもちろん把握している。


 ルフェーヴル家はアルヴァレス家傘下の家柄の中でも抜きん出て信頼を勝ち得ており、過去にアルヴァレス家の人間と婚姻した経歴もあって、アルヴァレス家の親戚として大いに信頼されている。

 そのルフェーヴル家の次女として生を受けたクロエが、アルヴァレス家の第二夫人ローラ・R(ルアノール)・アルヴァレスの長女であるアリエルの従者に任命されるとあって、クロエの両親は大変名誉なことだと喜んで受け入れた。


 五歳の少女を同い年のアリエル相手とはいえ、その従者にするなどと憚れるだろうが、これはアリエルの父であるレナルドがアリエルに友達を作らせようと思ってのことであるため、当時は肩書きだけの正式なものではなかった。


 どちらにせよ、クロエが誉れ高い役目を担うことに変わりはないが。 


『……』

『お、お嬢様?』


 クロエはすぐさまアリエルの可憐さに目を引かれ、自分はこの方に一生仕えようと決意したのだが、対するアリエルの表情はとても思わしくなかった。 


『最初のお願いを聞いてくれる?』

『っは。なんなりと』

『わたしのことはお嬢様じゃなくて、アリエルって呼んで』

『え、し、しかし……』


 アリエルの最初のお願いに、クロエは大きく狼狽した。

 何せ、両親からはアリエルに粗相のないようにと厳しく注意されており、従者としても傘下の家の人間としても、五歳のクロエでもアリエルを名前で呼ぶことを畏れ多いと感じていた。


『だめ?』

『わ、ワタシはアリエルお嬢様の従者ですので、立場上そう呼ぶわけには……』

『それじゃあお願いを変えます、わたしのお友達になってください、お願いします!』

『え、わああっ!? アリエルお嬢様、従者のワタシに頭を下げてはいけません!』


 クロエとしてはアリエルのお願いに応えることはやぶさかでない、むしろ誇りである。

 だがいくらお願いを聞いてもらいたいと言っても、主となる彼女が従者の自分に頭を下げてお願いするなどやり過ぎだと感じていた。


 もしこんなところを誰かに見られたら、即刻クビにされる。

 それくらいのことは五歳のクロエにもわかることだった。


『でも、お母様が人にお願いする時はこうするって聞いたよ?』

『それはアリエルお嬢様には必要のないことですよ。奥様はまだ庶民の感覚が抜けていないだけです』


 アリエルの母であるローラが自分達とは違って庶民出身であることは有名な話であった。

 だがアリエルはローラと違って高貴なアルヴァレス家の血筋を引いている。

 もっと主らしい振る舞いをと思っての言葉は、次の瞬間にアリエルの地雷を踏む結果となった。 


『クロエったら酷い! お母様が嘘を言ったっていうの!?』

『い、いえいえ!? そそ、そのような意図で申したことでは決して……』

 

 大好きな母が嘘を言うはずないと憤慨するアリエルに、クロエが折れる形でもって二人は従者としてではなく友達としての関係から始まった。


 だが、このアリエルという少女……大変なイタズラ好きであり、クロエはその第一被害者と言っても過言ではない程に、ことあるごとにちょっかいを掛けられていた。


 服の中にどこからか持ってきた氷を入れたり、部屋に入って来たクロエの頭におもちゃの蛇を落としたり、突如姿を隠して屋敷中を走り回らせたりするなど、多種多様な手段で仕掛けられたことがある。


 使用人達も彼女のイタズラに困りはしたものの、不思議と誰も彼女に対する陰口を言うことはなく、むしろ構えば一層喜ぶ彼女の笑顔に魅了される者が続出する程であった。


 もちろん、あまりに度が過ぎるイタズラをした時は、忙しい父親に代わってローラが叱ることが多々あった。


 後に、クロエはアリエルが人に頭を下げることをローラが教えた理由を尋ねた。


 その質問にローラは嫌な顔一つせず、自身の娘を諭すようにクロエの頭を撫でながら答えた。


『あの子には貴族としてよりも、普通の人として健やかに育ってほしいの』


 ~~~~~


 当時のクロエには解らなかったが、ローラが亡くなってアリエルが貴族としての教育を受け始めた頃にようやく実感したのだ。

 ローラはアリエルがの物語に出て来る貴族のように傲慢な性格にならないようにと思って、人にお願いすることを教えていた。


 人の上に立つからこそ、人に頼ることに慣れてはいけないと戒めるためであった。

 地位や権力があれば、確かにある程度の言うことは聞いてくれるだろう。

 だが、それに慣れて人を敬う気持ちを忘れては意味が無いのだ。


 『ひと』を漢字で表すと二本の棒が支え合って出来ているように、人に支えられて今の自分があるということを忘れてはいけないと。


 いつからだろうか。

 五歳の頃は確かに二人は形だけの従者であっても友達……幼馴染として過ごしていた。


 それがどうして、今のように完全な主従となっているのだろうか。

 クロエ自身はそのことになんら不満はない。

 アリエルに仕えることがクロエにとって何よりの幸福だからだ。


 だが、アリエル自身はどうだろうか?

 まだ幼馴染だと思ってくれているのだろうか?

 それともただの従者としてだろうか?


 そこまで考えた時、何故司の言葉に怒りを抱いたのかを理解した。


(あぁ、そうか……ワタシは恐かったのだ。アリエル様の真意を知ることを恐れて、従者として付き従うことであの方がどう思っているのかを知ることを避けていたのか)


 ゆっくりと迫ってくるアルニーケネージの爪を見つめながら、クロエは自身の弱さと向き合った。


 十五年近くも仕えてきた自分よりも、竜胆司はアリエルの真意を知ることに忌避感を抱いていなかったのだ。


 自分が出来なかったことをやってのける司に嫉妬をしていたと理解した。


 だからこそ、司はアリエルの気持ちを代弁するかのような言葉をぶつけて来たのだ。


 それが正しいのかどうかを判断するよりも、アリエルならこう言うだろうという納得の方が勝ったことに、クロエは苛立ちを覚えた。


(ならば……ここでこのままアルニーケネージに殺されていいのか? いいや、違う! ナナミ殿は限界などとうに越えているのに何故あそこまで戦えた!? ワタシのアリエル様への忠誠は、彼女のリンドウ・ツカサに対する想いに敗れる程安いものだったのか!?)


 とことんなまでに自分の不甲斐なさに、クロエは怒りを感じていた。


(ワタシは生きて、アリエル様を支えるのだ!! 孤独を強いられているあの方を一人にしないために!!)


 走馬燈から戻り、自分の生きる理由を明確に見出だしたクロエは、その激情のままに体を動かす。


「づっ……ああああああああぁぁぁぁっっ!!!!」

「ギゲガッ!?」


 右膝から崩れ落ちる不安定な体勢のまま、右手に持つ細剣型の魔導武装の刀身が半ばからへし折れる程の強烈な一撃で以て、アルニーケネージの攻撃を強引に逸らした。


「ぐっ……」


 直撃すれば即死もあり得た恐ろしい一撃は、クロエの左脇下を掠めながら地面に突き刺さり、続け様にもう片方の爪による薙ぎ払いが繰り出されるが、クロエは痛みに悶えながらも左足だけで跳躍して回避した。


「ギギギッ!!」


 クロエの意地によって絶好のタイミングを躱されたことに怒りを露にした。


「先程のようにはいかんぞ……覚悟しろ!」


 武器は折れようとも、彼女の意志はより強靭になってアルニーケネージに立ち向かう勇気を湧き上がらせていた。




「その覚悟……確かに聞きましたよ、クロエ」



「え……」


 突如聞こえた声にクロエが思わず振り返るより早く、アルニーケネージの八本ある脚の内、親衛隊が控えている方角にある一本が消し飛んだ。


「ギギィィィィィィィィィッッ!??」


 アルニーケネージの絶叫が木霊する中、クロエが振り返った先には一つの人影が立っていた。


「あ……あぁっ……!」


 その影の正体を目にした途端、クロエの両目からは溢れんばかりの涙が溢れてきた。

 

 白銀の波を描くような煌びやかな長髪を覆う様に白と金が混じったベールを被り、袖がなく肩の部分の肌が露わになっているノースリーブタイプの白で統一されたフィットスーツは、鎖骨から胸の上半分はストッキングのように薄い布地だが、胸の下半分から腰までぴったりと肌にくっついている装いはどこか扇情的にも見えた。


 スカート部分は前から見ると膝上になっているが、後方に行くにつれて足首に届く程長くなっている、所謂フィッシュテールドレスと呼ばれるデザインとなっており、膝下まで覆うロングブーツと相まって、その魔導装束は戦闘用というよりもウェディングドレスと見間違う程に美麗な作りだった。


 長手袋に包まれた両手には身の丈以上の大きな槍……穂先の形状が三角錐のようになっているランス型の魔導武装が、その重さを感じさせない程軽やかに携えられていた。

 

 まさに現代に舞い降りた聖女と称される、圧倒的な美しさと優雅さを醸し出している人物こそ、クロエが立ち上がる理由となった人物…………魔導装束と魔導武装を装備しているアリエル・アルヴァレスだった。


「アリエル様……!!」


 クロエは静かに、主の名を呟いた。


ここまで読んで下さってありがとうございます。


次回は1月5日に更新します。


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