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12話 罰という名のご褒美と理想のデートプラン


 キャンプ場での戦いから一夜明けた翌日、今日は土曜日であり、学校は休みである。

 そんな日の午後、俺はオリアム・マギ日本支部の拠点に訪れていた。なぜなら昨日の戦闘において俺は初咲さんの指示を無視して一般人であるにも関わらず唖喰(あくう)との戦場に向かったことのお説教を受けるためだ。


 廃ビルのドアの前で認証キーを使い、中のエレベーターに乗って地下へ降りていく。

 お説教場所は拠点の医療室で行われるそうなので、一直線にそこへ向かう。


 医療室と書かれたドアの前に辿りついたので、ドアをノックする。


「はい、入ってもらって結構です」


 お、と思いながらドアを開けると、セミロングの金髪を揺らし、緑色の目は落ち着きの雰囲気を抱かせるがいつもの無表情……魔導少女である並木ゆずが出迎えてくれたのだ。


「こんにちは、司君」

「こんにちはゆず、体の具合はどうだ?」


 昨日ゆずと友達になったことで、互いに下の名前で呼び合うことになったのだが、案外しっくりくるな。


 俺の質問にゆずは軽く腕を振って、大丈夫だというとことを伝えて来た。


「問題ありません。初咲さんや医務室の先生にしっかり診ていただいたので心配はいりませんよ」

「そっか、ならよかった。ところで初咲さんは?」

「すぐそこにいるわよ~」


 肩までの長さに切りそろえた茶髪と研究者らしい白衣と眼鏡を身につけて初咲さんが顔を出してきた。


「こんにちは初咲さん」

「こんにちは。早速だけど……そこに座りなさい」

「アッハイ」


 穏やかな笑みが一転して般若の形相になった。

 怖えぇ……会って三秒でお説教モードとかよっぽど怒ってんだろうなぁ……。


 俺とゆずは隣り合って初咲さんに向かって椅子に座る。

 別にゆずは悪くないのだが、俺があの行動に出た原因の一端は自分にあると言って譲らなかったからだ。


「改めて先日の唖喰討伐お疲れ様。けれどどうして一般人の竜胆君が現場にいたのかしら?」

「……えっと、それは俺がゆずの日常指導係を続けるための決断をするのに、唖喰との戦いを知るのが一番だと思ったからです」

「だとすれば一言そう言ってくれれば、私の権限で竜胆君一人連れて行くくらいの便宜を図ったわよ」


 初咲さんの言葉に俺は目を見開いた。

 てっきり言っても拒否されるもんだと思っていたからだ。


「ゆずの日常指導に必要であれば協力を惜しむつもりはないわよ……なのに竜胆君はいつの間にか姿を消しているし、いざ戦闘開始したゆずの近くに生体反応があったから救助者がいるのかと思っていたらまさかそれが竜胆君だったとわかったとき、私がどれだけ肝を冷やしたか分かるかしら?」

「ご心配をおかけして申し訳ございません……」

「全く……私の気遣いを無下にするような真似をされると、自分の人を見る目を疑いたくなるからやめてちょうだい」

「至極……真っ当な言葉であります」


 ゆずと俺自身のためとはいえ戦場に一般人が紛れ込むとどれだけ迷惑が掛かるか、本当に理解していなかった。

 

 けれど、そうして魔導少女の……ゆずの戦ってきた世界を知る必要があった。


「ふぅ……経緯はともかく、ゆずの日常指導係を続けると言ってくれたことは感謝するわ」

「い、いえ、あんなの見て余計に引っ込みがつかなくなっただけですから」

「普通は恐怖で嫌がるものなのだけれどね」


 やっぱりそうなのか……。

 そりゃ人なんて軽く喰い殺せる化け物と関わりを持つことなんて嫌に決まってるよな。


「ゆずも、竜胆君が日常指導係を続けることに異議はないのね?」

「はい、あくまで決めるのは司君自身ですから、私が口を出す筋合いはないかと……」


 並木さんはなんて事のないように言った。


 その様子に初咲さんはしばらくゆずを見つめるだけで何も言わなかった。


「さて、一応命令違反をした竜胆君には何か罰を与える必要があるわ


 あ~、日常指導係なんて二つとない役目とはいえ、支部長である初咲さんの言うことを無視したもんなぁ、罰とか受けて当然だ。


「分かりました。針千本でも射撃の的でも受けて立ちます」


 俺がそう言うと初咲さんが少したじろいだ。


「そ、そんなに卑屈にならなくてもいいわよ。そうね……竜胆君、明日は空いているかしら?」

「明日? 別に何の用事もありません。早速明日から的にでもなるんですか?」

「だから……まぁ空いているならいいわ、安心しなさいそんな悪いことじゃないわ」


 俺としては〝なんでもします〟レベルの罰だったのだがどうやら違うらしい。

 そりゃそうだろうなぜなら……。


「明日、ゆずとデートしなさい」

 

 罰どころかご褒美だったのだから。


 えっ……でぇと? 少なからず好意のある男と女が共に外出して今後の関係を深めるあれですか?


「初咲さん、デートとは何なのですか?」


 ゆずが無知振りを披露しつつ言い出しっぺに聞いていく。

 やっぱり知らないのか……。


「男女が共に出かけることよ」


 超ざっくりとした説明だな! 初咲さんってあんまり恋愛経験ないのか? そういえば昨日も浮いた話がないだの言ってたな……。


「竜胆くぅ~ん? なんだか失礼なこと考えてないかしら?」


 ――ひぃっ!? 心の中を呼んだ!?


「いいいいいいえええええええ!!!! なにもっ!?」

「……とにかく、竜胆君は明日のデートのプランを練ること。ちゃんとゆずをエスコートしてあげなさい」


 デート自体はいい。

 むしろゆずのような美少女となら尚更だ。


 ただ、一つ問題がある。


「あのー、恥ずかしながら俺は生まれてこのかた一度もデートのプランを練るといったことをしたことがないので、エスコートしようにも勝手がわからないのですが……」


 笑えるだろ?

 交流のある人の男女比が女性よりだから、ゲーセンとかカラオケとか誘われて遊んだことはあっても、自分から計画を練ったことは一度もないんだよ。

 

 そんな俺の言葉にゆずは自信に満ちた声で言う。


「安心してください司君、私も経験がないです」


 それは何を安心しろというのか……ゆずが未だ手つかずの高嶺の花であることをか? 確かにゆずみたいな美少女とデートが出来るのは悪いことではないが、未経験者二人を後はお二人で……と放り出されてもただの苦行でしかない。

 それでもお互い好意を持っているならまだマシなほうだろうが、俺たち二人はそういった関係ではなくちょっと変わった経緯の友達だ。


「デートだからって難しく考えなくても大丈夫よ、例えば竜胆君が趣味全開のプランを立てる、みたいなよっぽど酷いものでなければ大方問題ないわ」


 魔法少女オタクですからね。そんなことすれば百パーセント嫌われる。

 あ、でも鈴花なら喜びそうだが……アイツの将来が不安になるな……。


「とりあえず、我流でどうにかやってみます」

「我流で結構よ、竜胆君のご両親だってやってきたことだろうから気張らなくて大丈夫よ」


 人の親の話を持ち出て来るのやめてもらえませんかねぇ!? なんか余計に不安がのしかかってきた……。


「えっと、司君。それでは明日よろしくお願いします」

「あ、ああ、こちらこそ」


 ゆずは若干、俺は盛大に戸惑いつつ、その日は解散となった。





 自宅の自室に戻った俺は机に紙とペンを広げた。

 さて、デートのプランを練ろと言われても、どこから手を付ければいいのか……。


 まずは過去に知り合いの人達と出かけたことを思い返してみよう。


 ゲーセンで知り合った安井(やすい)さん……本人がゲーセンでアルバイトをしているから、よくゲーセン巡りをしてたけど、ゆずはゲーセンに行ったことはないだろうし、そもそも彼女の初デートがゲーセンというのはいい印象がないだろう。


 アニメショップで知り合った久保田(くぼた)さん……カラオケに行ったときにアニソン縛りで歌ったけど、ゆずはカラオケも知らないだろうし、歌のレパートリーがどれくらいあるのかも知らない。


 国歌とか歌い出されたら相当空気重くなりそうだからカラオケも無し。


 サークルメンバーからしつこくラブリーなホテルに誘われているところを助けたことで知り合った坪井さん……ラノベが大量にあるあの人の部屋で読書して過ごしたっけ……あれはあれで落ち着きがあってよかったけど、ゆずが沈黙を楽しめるか、それよりラノベを呼んで面白いと思えるのか分からない。

 

 あとゆずってどこに住んでいるんだ?

 それにいくら友達だからといっても男の俺を部屋に上げるほど信頼されているとは自惚(うぬぼ)れていないから、部屋デートも無し。


 俺が今いる家は?


 壁に掛けているタペストリー、ガラスケースのなかにあるフィギュア、本棚やCDラックにところ狭しと敷き詰められている魔法少女関係の本やラノベ、ゲーム(エロゲ等は分かりにくいところにある)等々部屋が魔法少女グッズで溢れかえっているから論外だな。

 

 同じ魔法少女オタクの鈴花ならともかく、オタク文化どころか日常指導が必要なゆずを入れるわけにはいかない。


 あれ、俺が今まで誘われて行ったデートって、ゆずに合わない要素で溢れてないか?


 そう気付いた途端、俺はまずいと感じた。


 ごめんなさい、初咲さん……俺のデート経験はゆずと大差なかったよ……。


 謝っている場合じゃない、今すぐどうにかしないと……。


 ……三人寄れば文殊の知恵だ!

 誰かに聞くしかない!


 石谷……ただでさえ知り合いの男女比で恨まれているのに、ゆずとデートに行くことを教えたら呪われそうだな……。


 そういえばゆずの歓迎会なんてあったなぁ……俺との関係は改善しても、クラスメイト達とはまだだから、ゆずの好みを知るためにも今回のデートは丁度良いかもな。


 そういうわけで石谷に聞くのは無しだ。


 親に聞く……絶対に嫌だな。

 恥ずかしいとかそういうんじゃなくて、聞く以前にあの両親に女の子とデートに行くことを知られたくない。 


 あの二人の言動のせいで一時鈴花と気まずくなったことがあるという前科もあるしな。


 初咲さん……デートプランを考えてこいって言ってたし、あの人まともに異性と付き合った経験が無さそうだから無し。


 美人なんだけどなぁ……。


 鈴花は……俺以外に仲の良い男子は何人かいるけど、特に付き合ってるやつはいないって言ってたなぁ……それにゆずとの事で相談したばっかだし、あんまり負担をかけたくないから聞かないでおこう。


 となると後は……工藤さんと柏木さんか。

 現役女子大学生で揃って美人……有力候補だな。

 まずは柏木さんから電話してみよう。


 ――プルルルルル……。


『もしもし、どうしたの竜胆君?』

「こんにちわ柏木さん、今時間空いてますか?」

『うん、午後は講義が無いから大丈夫だよ』

「それならよかった、一つ聞きたいことがあるんです」

『なにかな?』

「実は――あ」


 異性とデートに行くならどこが良いのかと言おうとしたところで、俺は口を(つぐ)んだ。


 これそのまま聞いたら俺が柏木さんに気があるような感じになるな……危ない危ない。


 柏木さんってデートの経験とかありそうだし、先週にでも恋人と行ったかもしれないな……よし、どういう流れで聞くか決まった。


『えっと、どうしたの?』

「いえ、どう聞いたものか一瞬迷っただけです」

『そっか、それで聞きたいことって?』



「柏木さんって彼氏がいたりしますか?」



『――え、は、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーっ!?!?』


 柏木さん電話越しから大声で叫んだことに驚いて、俺は携帯を耳から離した。


 そんなに驚くことか?


『ど、どどどどうしてしょんにゃことをぉ!?』


 よほど慌てているのか柏木さんの呂律が回っていなかった。


「落ち着いてください柏木さん」

『おおおおお落ち着いてなんかいられないよぉ!? というか君はどうしてそんなに冷静なの!!?』


 どうしてと言われても……。

 もしかして言葉が足りなかったのかもしれないな。


「すみません、言葉足らずでした」

『えっ!?』

「俺はただ柏木さんに彼氏がいるのならデートをする時にどういった場所に行きたいか、どういった内容なら嬉しいのか知りたいだけです」


 よし、これだけ分かりやすく言えば大丈夫だろう。


『そそそそそそそれってつつつつ、つまり、私がどんなデートだったら嬉しいのかっていうこと?』


 聞きたいことは理解してくれたみたいだけど、まだ落ち着いてないみたいだな

 やっぱりあまり聞かれたくなかったことみたいだな。


「はい、ちょっとデートの内容について悩んでいまして、それで柏木さんの意見を参考にしたくてこうして電話をしたんですけど……やっぱ女性に聞いちゃまずい話題でしたよね、すみません」

『ぜん、ぜぜん! 大丈夫だから! 私なんかでいいのなら……どんなデートが良いのか教えるだけだもんね!』


 電話越しの柏木さんはなんだか張り切ってくれているようだった。

 キャンプ場まで連れて行ってくれた時と変わらず本当に親切な人だ。

 でも一つだけ言いたいことがある。


「柏木さん」

『う、うん?』

「〝私なんか〟なんて言わないで下さい」

『えっ?」

「柏木さんは綺麗で親切な優しい人なんですから、もっと自分に自信を持ってください。柏木さんが素敵な人だというのは俺は知っていますから」

『う、あ、は、はぃ……』


 決して長くない時間だが、俺が柏木さんをどう思っているかは伝わったはず。

 そろそろ本題に戻ろう。


「生意気言ってすみません。それじゃ柏木さんの理想のデートプランを教えてください」

『……うん、竜胆君のためになるのなら……いいよ』


 そうして始まった柏木さんによる理想のデートプラン説明は実に有意義なもので、待ち合わせから食事を摂るお店の選び方、どういった会話が盛り上がるのかを聞いていると気付けば二時間近くも話していた。


『それでね、デートの後は余韻が大事なの! 帰らないといけないけど、帰りたくないっていうあのもどかしさを引き出して――』

「あの、柏木さん。時間のほうは大丈夫なんですか?」

『え、時間って……ああ! 先輩との約束の時間がとっくに過ぎてる!? ごめんね竜胆君、こんな長話に付き合わせちゃって……』


 どうやら工藤さんと約束があったみたいだ。

 柏木さんが申し訳なさそうに謝って来るが、俺の質問に丁寧に答えてくれていたし、元はと言えば俺が原因だ。

 

「いえ、デートプランの事は俺が聞いたことですのでこの場合悪いのは俺の方です、すみません」

『そ、そんな、竜胆君が謝るようなことじゃ……』


 あ、これ責任の被り合いになるやつだ。

 長くなる前に妥協案を出さないと……。

 

「じゃあ、今度柏木さんの予定が空いている日を教えてください。その時に今日の相談に乗ってもらったお礼をしますから」

『ええ、そんな……いいの?』


 おし、食いついた。


「はい、相手が俺で良ければですけど……」

『そ、そんなことはないよ……』

「ありがとうございます。それじゃまた今度――」

『あ、まって竜胆君! 最後に一つだけ!』

「え、なんですか?」


 柏木さんの緊迫した物言いに俺は耳を傾けた。

 そして柏木さんは……。



『私……今まで彼氏とかいたことが無いから!! それじゃまたね!』



 ――ブツッ、ツーッ、ツーッ。


 そう言って電話を切った。

 それを聞いた俺は……。


「なんで最後に言うんだ?」


 いないなら最初に言ってくれればよかったのに……。

 いや、最初からいるともいってなか……。


「あ」


 俺は今自分が何をしでかしたのか気付いた。


 ――柏木さんが動揺するに決まってんだろおおおおおっ!!!


 やばいやばいやばいやばいやばいやばい、これ絶対俺が柏木さんに対して好意を向けてるって勘違いされてる!?

 

 昔っからこうだ、異性に対してややこしい言い方をして勘違いさせて悲しませるんだ!

 どうしてこんな癖があるんだよ……。


 ……過ぎたことを考えても仕方ない、今度柏木さんに会った時に誤解させたことを謝ろう。 

 それで許してもらえるかは柏木さん次第だけど……。


 勘違いさせたとはいえ一応デートプランの参考にはなったから、そのあたりのお礼も言わないと……。


「はぁ……」



 自分で自分の首を絞める結果に、俺は大いにため息をついた。

 

ジゴロ発言を反省出来る分、より質が悪いのかもしれない……。

次回は4月8日の朝に更新します。


面白いと思っていただけたら評価してもらえたらありがたいです。

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