110話 双子の観光と案内
今日、作者の誕生日なんですよ。
Happy birthday to me。
~七月二十八日~
真夏の日差しが人や車にアスファルトを照り付ける正午に、私と鈴花ちゃんに翡翠ちゃん、アルベールさんとベルアールさんの五人はベルブブゼラルの捜索を主目的にし、そのついでとしてアルベールさん達の羽根牧市内の公共施設の案内をするため、私服に身を包んで商店街を歩いています。
私は白色の膝丈ワンピースにカーキ色のショートパンツを組み合わせ、茶色のサンダルを履いています。
鈴花ちゃんは黒色のタンクトップにシースルー素材のチュニックを重ね着して青と白のチェック柄のスカートに、グレーのグルカ・サンダルを履いています。
翡翠ちゃんはいつものジャージではなく、白色と紺色の半袖パーカーにベージュのハーフパンツ、シューズは白色のスニーカーです。
アルベールさんとベルアールさんは双子だからか、星のマークが入った赤色のキャミソールにジーンズ素材のミニスカートに緑と紫の派手なブーサンと、お揃いになっています。
毛先がロール状かストレートか確かめないと見分けがつかない風になっています。
翡翠ちゃんとアルベールさん達が先行して、その後ろを私と鈴花ちゃんが付いて行く形になっています。
「ヒスイ! アレはどんなお店なの?」
「あれは立ち食い蕎麦屋さんです! あのおじさんみたいに立ったままでお蕎麦を食べる飲食店なのです!」
「タッタままで!? でもワタシ達じゃテーブルが届かないよ?」
「大丈夫です! ひーちゃん達みたいに背が低くても踏み台を用意してくれるのです!」
「ワオ! Interesting!!」
「……」
「ベルちゃん、どうしたですか?」
「Sorry……アレは何?」
「あれは羽根牧市の公認マスコットキャラクターの〝はねっちゃん〟です! 」
「Mascot……あんな薄っぺらい羽切れ一枚に手足が生えただけのフィームと同程度に醜いアレが?」
「罵倒の時だけ長セリフです!? でもはねっちゃんはああ見えて意外と人気があるです」
「Incredible……ニホンは不思議……」
アルベールさん達が色んなものに興味を持っては翡翠ちゃんに訊ねて、翡翠ちゃんが細目に答えていく光景はとても微笑ましいものでした。
ただ、私はあることが気になって落ち着きません……。
「あの……鈴花ちゃん、すれ違う人達が私達を二度見するのですが……」
商店街に来てから誰かとすれ違う度に一度私達を見た後視線を別の方に向けて、すぐに私達に視線を戻すという一連の動作をする人が後を絶ちません。
鈴花ちゃんは何を今更といった風に答えてきました。
「あー、ゆずはこの集団で一番の美少女だからね~」
「う……」
私が一般的な女性より目立ちやすいということは司君や鈴花ちゃんからこれでもかと教えられてきたことですが、それを口に出して言うのは自惚れているようで気が引けます……。
「まあゆずもだけど翡翠とかアルとベルも可愛いし、美少女四人が集まって行動していたら注目されて当然だよ?」
「え、鈴花ちゃんも入るのでは?」
私から見ても鈴花ちゃんも綺麗な顔立ちをしていると思うのですが、鈴花ちゃんは手を左右に振って否定します。
「アタシ? 無い無い。ゆずとかあの中学生三人と比べるまでも無いって」
「そんなことありません、鈴花ちゃんだって可愛いです」
「……まあお世辞として受け取っておく」
お世辞ではないのですが……鈴花ちゃんは頑として譲らないので、私は何も言えませんでした。
「それに今日は別行動だけど菜々美さんもいたらもう案内どころじゃなかったね」
「確かに……柏木さんは良く異性に声を掛けられていると司君から聞いたことがあります」
「教育実習の時も男子が何人か告白してたもんね~。司のことがあるから全部断ってたけど」
柏木さんの顔立ちは同性の私でも大人になった時に彼女のようになりたいと思ってしまう程です。
ふと司君は柏木さんのような年上の女性らしい人が好きなのか疑問に思いました。
そうであれば私のような年下の異性には関心がないのかもしれません。
気になりますが……今はアルベールさん達の案内とベルブブゼラルの捜索が最優先です。
早速探査術式を発動しますが、唖喰の反応は無く……むしろ四人分の生体反応が接近して来ています。
探査術式を解除して反応のあったほうに目を向けると四人の男性が私達に近づいてきました。
え、あの……私、この人達に見覚えがあるのですが。
男性達は右からニット帽を被った男性、金髪の男性、黒髪を肩まで伸ばした男性、耳にやたらピアスやイヤリングを付けた男性の順で私達の進路を塞いでいます。
確か三日前に同じように絡まれたので撃退して、その前後の記憶を消去したのですが、まさかまたこうして遭遇するとは思ってもみませんでした……。
男性達は私達五人をじっとりとした視線で眺めながら声を掛けてきます。
「なあ、キミ達可愛いね。俺らと一緒に遊ばね?」
「ヒュ~イカすぜぇタケちゃん!」
「なんかデジャヴ感じるけど!」
「でもこの子達ホントに可愛いね!」
「「「「「うわぁ……」」」」」
鈴花ちゃん達は悪印象しか受けない口説き文句に引いて、私は変わらないことに呆れていました。
「ベル、ニホン人のナンパって変だね……」
「Trashy……あの御曹司が〝戦乙女〟を口説く時のセリフのほうがマシ……」
同じ口説き文句でも外国の方のほうが上手のようです。
「お、おおっ!? そこの銀髪ツインテっ子ちゃん達は外国人か!? 日本語うめえな!!」
「すげえマジもんの外国人だぜタケちゃん!!」
「な、ないすとぅみちゅー?」
「やっべ、超可愛い!」
魔導器の翻訳機能は特殊結界内であれば魔力の無い人でも言語翻訳の対象になるので、あの男性達にもアルベールさん達の言葉が分かります。
それにしたって気持ち悪いことに変わりありませんが。
男性達がアルベールさん達に下手糞な英語で話しかけようとするのを、翡翠ちゃんが両手を広げて立ち塞がって阻止しました。
「あの、ひーちゃん達は用事があるのでおじさん達はそこを通してほしいです!」
「誰がおじさんだ! 俺はまだ二十歳だ!」
「ちょっと可愛いからって調子に乗るなよお嬢ちゃん!」
「おじさん達に可愛いって言われても気持ち悪いです!!」
「「「「グッフゥッ!!?」」」」
翡翠ちゃんが容赦のない言葉攻めを浴びせていきます。
翡翠ちゃんは司君以外の男性に当たりが強く、あのように辛辣な言葉を正直にぶつけていくところがあります。
よく隅角さんがその被害に遭っていましたね……あの人の態度が悪いので自業自得ですが。
「こ、この……こうなったら力ずくで……」
ニット帽の男性が拳を握り締めて翡翠ちゃんに向けて振り下ろそうとしますが、翡翠ちゃんはそれより早い動作である行動を起こしました。
――ピイイイイイイイイイィィィィィィィッッ!
「「「「!!?」」」」
商店街に甲高い音が響き渡ります。
翡翠ちゃんが起こした行動は単純で、防犯ブザーの栓を抜いただけです。
翡翠ちゃんは勝ち誇ったようなドヤ顔をしながら男性達に訴えかけます。
「さぁさぁ、この乙女の最終兵器を止めて欲しかったらすぐに失せるです!」
「「「「なんつー質の悪いことしやがるこのガキ! 覚えてろ!!」」」」
「〝失せる〟っていうのはひーちゃんの記憶からって意味でもあります!」
「「「「どっちでもいいわああああ!!!」」」」
男性達はそんな捨てセリフを吐きながら慌てて走り去っていきました。
一連の出来事を眺めていた他の通行人の方達はやれやれといった風に防犯ブザーの音を止める翡翠ちゃんに畏敬の視線を送っていました。
「……翡翠の女の武器を最大限に使うあの強かさ……将来大物になる予感がする」
鈴花ちゃんも同じような視線を送っていました。
アルベールさん達は何が起きたのか理解していないようでした。
「ふぅ、それじゃアルちゃん、ベルちゃん、商店街の案内を再開するです!」
「「Yes mom」」
翡翠ちゃんが何事も無かったようにそう告げると、アルベールさん達は軍人さながらの敬礼のポーズをとってそう返しました。
なんだか三人の間に明確な上下関係が出来上がった瞬間を私と鈴花ちゃんは眺めていました。
私達が昼食を摂るお店として選んだのは過去にオリアム・マギに所属していた店長が営む喫茶店<魔法の憩い場>です。
昭和の雰囲気を感じ取れる内装にアルベールさん達は物珍しさを隠せずにキョロキョロと見渡していました。
「コノお店、オモシロイ!」
「Lovely……いい雰囲気……」
「マスターの娘さんが作るケーキも美味しいんだよ? アタシ、司にここを紹介してもらってからすっかり常連になっちゃったし」
「友香さんの作るケーキはひーちゃんも大好きです!」
「ふふ、そう言ってもらえると作り甲斐があって嬉しいです」
マスターの娘さんである友香さんは幼い頃からマスターの夢を聞いていたそうでして、お店の開店時にお店を手伝えるようにケーキ作りを独学で習得したそうです。
ただ、友香さんは唖喰や魔導の事を知ってはいますが魔導士ではありません。
店長が娘を巻き込みたくない一心で反対したからだそうです。
私達が注文したケーキやコーヒーを配膳し終えた友香さんはカウンターの奥へと戻って行きました。
アルベールさんが注文したエスプレッソを一口飲むと、目を輝かせて二口目を口にしました。
「ウ~ン! とってもおいし~!!」
満足そうなアルベールさんを見て、ベルアールさんもカプチーノを一口飲むと、アルベールさんと同じような反応をしました。
「delicious……気に入った……」
ベルアールさんのお眼鏡にも適ったようです。
そうしてコーヒーの味に舌鼓を打っているとあっという間に一杯分を呑み切ってしまったので、店長にお替りをお願いすると直接入れに来てくれました。
「……」
「……? あの、何か?」
空になったカップに熱いコーヒーを注ぎ終えた店長が私の顔をじっと見つめてきますので、気になって質問をしてみました。
「……あの坊主が唖喰に襲われたそうだな?」
「――!」
司君のことです。
店長は既に組織を辞めていますが、組織の人達が積極的に情報を持ってくるので、必然的に耳に入る機会が多いと司君から聞いたことがありました。
「常連だったあいつが来なくなったせいで、娘に元気がない……お前たちだけが頼りだ」
「……」
私が店長の言葉にどう返そうか迷っていると、店長は人差し指を口元に当てて無理に話す必要はないというジェスチャーをしました。
「坊主を助けて、元気になったら店に来いと伝えろ……」
「……解りました」
私は司君程足蹴く通っているわけではありませんが、店長なりに司君を心配しているのが伝わりました。
司君の身を案じている人がここにもいることを知った私は、一刻も早くベルブブゼラルを討伐する必要があると決意しました。
ですが、店長はそんな私に呆れたような表情を浮かべだします。
「焦るな」
「――え?」
焦るな?
店長が何を言いたいのか分からなくて、私は戸惑ってしまいます。
店長は言いたいことはもう無いと言わんばかりに背を向けてカウンターへと戻っていきました。
私は焦っている?
一体何を?
司君をあんな状態にしたベルブブゼラルの討伐は早ければ早いほうがいいに決まっています。
胸の内に何やら落ち着かないモヤモヤが燻り始めた時、不意に声を掛けられました。
「ユズ、さっきマスターが言っていた〝ボウズ〟って誰のこと?」
「Mysterious person……気になる……」
店長と私の会話に聞き耳を立てていたアルベールさん達から司君の詳細を訊ねられました。
「えっと、名前は竜胆司と言いまして、私の日常指導係です」
「今アタシたちが探しているベルブブゼラルのせいで昏睡状態にさせられた被害者の一人よ」
私の説明に鈴花ちゃんが補足として彼の置かれている現状をアルベールさん達に向けて簡潔に説明してくれました。
「ベルブブゼラルに……」
「Do not forgive……罰を下さないと……」
ベルブブゼラルの被害者と聞いたアルベールさん達は討伐のやる気を焚き付けたようです。
そう言えば一昨日と昨日は司君のお見舞いに行けていませんね。
今日の捜索が終わり次第、行こうかと考えていると……。
「今は寝ちゃってるけど、二人も明後日の買い物の後に司に会ってみる?」
鈴花ちゃんがそんなことを提案してきました。
私は突然の提案に飲みかけていたコーヒーでむせこんでしまいました。
「す、鈴花ちゃん!?」
「はいはーい! ひーちゃんも久しぶりにつっちーの顔が見たいです!」
翡翠ちゃんもなんだか乗り気になっています。
「ウン、会ってみる!」
「Please……」
アルベールさん達も司君に会うつもりですね……。
私一人が反対したところで四対一の多数決には敵いませんね……元から反対するつもりもありませんので、実質五対ゼロですが。
「では明後日はそうしましょうか」
「「「「おー!」」」」
鈴花ちゃん達が声を揃えながら返事をしますが、「騒ぐなら早く出てけ」というマスターの言葉で、私達は自分達のいる場所を失念していたことを思い出しました。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
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