108話 アメリカンシスターズ登場
~七月二十七日~
ベルブブゼラルとの戦いが起きた翌日、放送で初咲さんに呼び出された私と季奈ちゃんと鈴花ちゃんに翡翠ちゃんの四人は初咲さんにある部屋に集まるように言われて集合しました。
柏木さんと工藤さんは先日逃亡したベルブブゼラルの捜索のため不在です。
部屋の中央には半径二メートルの転送術式が刻まれた魔法陣がありました。
「ねえ季奈、あの転送術式ってどこに繋がってるの?」
鈴花ちゃんが季奈ちゃんにそう訊ねます。
私もあの魔法陣がどこに繋がっているのかは知りません、なにせ今まで興味が無かったので……。
「あそこはアメリカにある組織の本部に繋がっとるんや」
「本部!?」
「外国です! 凄いです!」
なるほど、つまり私達の組織の核に繋がっているわけですか……。
そういえばアメリカ本部に所属しないかという話をされたような気がしますが……そちらも興味が無かったので断った記憶がありますね。
そんなことを考えていると初咲さんが前に出てきて私達をこの部屋に呼んだ理由を説明してくれました。
「皆に集まってもらったのは、これから転送術式を使って本部から本任務における派遣人材が来ることになったからその挨拶のためよ」
「あの、他の魔導士や魔導少女の人達は……」
「今はベルブブゼラルの捜索中よ。だからここに魔導士は今あなた達以外皆出払っているわ」
……完全に私達の尻ぬぐいをさせてしまっている形です。
次は見敵必殺する気概で挑まないと。
「その派遣される人材ってどんな人なんや?」
「アメリカ本部の本部長、マードリック・J・エルセイのお孫さん……それも双子よ」
「おお……って初咲さん、何で説明しただけで疲れたような顔をするんですか?」
「……何でも無いわ、お孫さん達は翡翠と同い年だから仲良くして頂戴」
「はいです!」
初咲さんの表情が疲労で染まりあがっているのは気になりますが、派遣人材はありがたいです。
なにせ派遣されるということはそれなりの実力を期待出来るというわけですから。
やがて魔法陣が輝き出しました。
転送が始まったようです。
魔法陣から光が縦に伸びて収まると、見慣れない二人の女の子が立っていました。
現れた女の子達事前に双子だと聞かされていた通り、透き通った青色の瞳に瓜二つの顔ですが、腰まで届く長い銀髪をツインテールの毛先が二人で微妙に違っています。
服装は同じメーカーのTシャツを着ていますが左の子はショートパンツ、右の子はミニスカートを履いています。
左の側の毛先がくるりとロール状になっている女の子が前に出てきました。
「ハァイ! ワタシ、オリアム・マギアメリカ本部所属のアルベール・エルセイだよ!」
アルベールと名乗った女の子からは自己紹介だけで翡翠ちゃんに負けず劣らずの活発さを感じます。
続いて毛先がストレートになっている右側の女の子が前に出ます。
「Nice to meet you……ベルアール・エルセイ、ワタシの名前」
ベルアールと名乗った女の子はアルベールさんと打って変わって大人しめの印象を受けます。
双子だからといって性格まで似通っているわけではないみたいです。
ふと鈴花ちゃんのほうを見ると何やらわなわなしています。
どうしたのでしょうか?
「鈴花ちゃん、どうかしましたか?」
「え、いや……アメリカから来るっていうから英語わかんないし、どうしようって思っていたらなんか流暢な日本語が聞こえて来たからびっくりして……」
「ああ、それはなー……なぁなぁお二人さん。魔導器見してもらえへんかな?」
季奈ちゃんが双子さんにそう声を掛けると、二人は首に掛けていたネックレスを私達に見せるように持ち上げてくれました。
「魔導器が何かあるの?」
「魔導器には魔導士同士が言語の壁に躓かんように~って初代和良望家当主が基礎を作った言語翻訳の結界を展開する術式が刻まれとるんや」
「さ、流石魔導の名家……」
確かに驚きです。
初代というと季奈ちゃんの家系は三百年以上も続いているということですから。
「魔導器に貯蔵されとる魔力が尽きやん限りこのペンダントからは特殊な結界が半径百メートル位展開されとって、その結界範囲内で発せられた音声が相互理解できる言語に自動翻訳されるっちゅう仕組みやねん」
「なるほd……ってベルアールちゃんのセリフに英語が混じってたよね……」
「ベルはホームにいる時からこの話し方だよ!」
「Exactly……コレ、ちょっとコツが必要……」
「な、なんかあれね。洋画の吹き替えみたいにセリフと口の動きが合ってないから違和感があるけど、言葉が通じるなら不満も言ってられないよね」
ああ、なるほど。
どこかで見たことのある光景だと思っていたら洋画の吹き替えでしたか……。
確かに初めはあのセリフと口の動き違いにモヤモヤしたものを感じていました。
私が鈴花ちゃんの例えに感心している間にも話は進んでいきます。
「彼女達はベルブブゼラル討伐のために派遣された人材よ。討伐まで期間を日本で過ごすことになっているわ」
「そんな先行き不明の間親元を離れるんだ……アタシなら一か月も経つ前にホームシックになっちゃいそう……」
「親、といえば季奈ちゃんはゴールデンウィークからずっと東京にいますが、関西にあるご実家にはきちんと連絡はされているのですか?」
私が季奈ちゃんにそう訊ねました。
季奈ちゃんの実家は魔導世界における名家です。
その名家の次女である季奈ちゃんはゴールデンウィークからもう三か月近くも用事があると言ってこちらに滞在しているため、本家に長期不在していることをご両親にどう説明されているのか気になっての質問です。
すると季奈ちゃんは何やら言いにくそうに頭を掻きながら答えました。
「あ~、まぁ術式の開発はこっちでも出来るし、今はベルブブゼラルの事もあるやろ?」
「……何か隠していませんか?」
「隠しとるよ?」
ず、随分とあっさり認めましたね……。
でしたら教えてもいいのでは?
「大事な作戦中に嘘はつきたないんやけど、今は素直に教える気はあらへんで」
「……作戦後、必ず教えてください」
「ほいほい~」
季奈ちゃんはそんな曖昧な返事をして話を終わらせました。
私は改めてアルベールさんとベルアールさんにご家族の事を聞いてみました。
「それで……お二人はご家族と離れて過ごすことに何か不安などはありますか?」
その質問に二人は迷う素振りを見せることなく答えました。
「ワタシ達はダイジョーブだよ!」
「Do not worry……半年程……離れていたことある」
「……そうですか」
二人がそう言うのであれば、私から言うことは何もありませんでした。
すると、鈴花ちゃんはふと思いだしたようにある案を口にしました。
「ああ、でも転送術式を使えば会いたい時に会いに行けるよね」
「それは規則によって禁止されています」
「え、何で?」
「各魔導士・魔導少女には所属国が定められとってな、有事の際には自分の所属国におることが原則なんやで。せやからポータルが出現した時に〝家族に会いたくて外国にいました〟じゃ〝魔導士の意識に欠けとる!〟って御上さんに大目玉食らってしまうんや」
「な、なるほど~」
概ねは季奈ちゃんが鈴花ちゃんに説明通りです。
この規則の成り立ちは過去に外国にいる家族に会いに所属国を離れていた魔導士がいたのですが、その魔導士が外国にいる間に国軍が唖喰の襲撃を受けているという事態が発生しました。
当該国の魔導士に対して、軍の救出のために緊急招集が掛けられたのですが、外国にいた魔導士が遅れて現場に駆け付けた時には、軍と現場に先行していた魔導士達は半壊していたという事件がありました。
そんなこともあってからは〝外国に所属する魔導士は冠婚葬祭等一部の事情を除き、該当国を出ることを禁止する〟という規則が出来ました。
とはいえ最高序列の面々に限ってはこの規則は免除されています。
理由としては全員が並の魔導士より魔力量が多いため、その気になれば転送術式で世界中を飛び回れるからだそうです。
「アルベールさんとベルアールさんは本来であればアメリカ所属ですが、本日から日本・東京支部へ期間限定で派遣された人材という形ですので、ベルブブゼラル討伐までは日本所属になります」
「ソウダヨ! ワタシとベルは今日から来年までニホンのために唖喰と戦うんだよ!」
「Follow instructions……ゴウにいてはゴウに従え……そんなコトワザを聞いた」
「凡そのことは分かったけど……初咲さん、そうなるとこの子達は日本ではここの居住区で過ごすことになるってこと?」
「ええ、部屋割りに関しては本人達の希望通りに同室で過ごすことになるわ」
二人が持ってきた荷物を部屋に置くために、まずは居住区へ案内することになりました。
部屋には予めベッドやクローゼットなど必要最低限の生活必需品が置かれていて、他の消耗品に関しても日本で買い足すそうなので、二人が持ってきた荷物はそれほど多くはありません。
私達は彼女達の持ってきた荷物の荷解きを手伝い、それが終わる頃に鈴花ちゃんがアルベールさん達にあることを訊ねました。
「ねえ、アルとベルって魔導少女になって長いの?」
鈴花ちゃんの問いは二人がアメリカで魔導少女になってどれだけ経験を積んでいるのかという単純なものでした。
私や翡翠ちゃんのように境遇次第で十歳未満の頃から鍛錬を積む例もあるので、アルベールさん達を見た目で判断しないようにする意図もあるとわかりました。
「ワタシとベルは二年くらい戦っているよ」
「It was a long and difficult fight……どれも楽じゃなかった」
「トクにベルがグランドローパーに両足を掴まれたときは酷かったね!」
「That is terrible……しばらく夢に出て来た……」
「あー、はは……めっちゃわかるわー……」
グランドローパーの名前を聞いた鈴花ちゃんの頬が若干引き攣った気がしましたが、すぐににこやかな表情に戻りました。
「……やっぱ見た目で決めつけちゃダメだね」
「オネーサン……スズカは何年なの?」
「アタシは魔導少女になってまだ二か月くらいだよ」
鈴花ちゃんは四月中旬から五月頭までの二週間と六月上旬にあった海洋合宿二日目から今日までの一か月半の合計がちょうどそのくらいになりますね。
「そういえばユズは〝天光の大魔導士〟なんだよね?」
「はい、そう呼ばれてはいます」
アルベールさんの質問にそう答えると、彼女はじゃあじゃあと続けて言いました。
「ユズ! ワタシ達と模擬戦しようよ!」
「I want to know……最強の実力……」
「え、ええ……!?」
突然模擬戦をしたいと言われても即答できるわけがありません。
すると私の反応に何か思ったのかアルベールさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべだしました。
「ワタシ達は〝破邪の戦乙女〟の指導を受けたてるけど、あの人より強い人がいるって聞いてずっと模擬戦をやってみたいな~って思っていたんだよ」
「Incredible……だから、直接戦って知りたい……」
「……そういうことですか」
最高序列第二位〝破邪の戦乙女〟。
人離れした美貌と唖喰が出たとあれば自ら率先して撃破に臨む姿とそれを可能にする実力を兼ね備えていることからそう呼ばれている魔導少女です。
なんでも組織に資金提供をしている財閥の御曹司が御執心だそうですが、何度もあしらわれているそうです。
しつこく言い寄ってくる男性の対処法について聞いてみたいですが、今は二人から持ち出された模擬戦の話です。
私としても精鋭と呼ばれる本部の魔導少女と相まみえることで何かしら学ぶことがあるかもしれませんし、彼女達の成長に繋がるかもしれません。
「わかりました。その挑戦受けて立ちます」
「ワオォ! そうこなくっちゃ!!」
「thank you……良い経験になる……」
そうして急遽、私とエルセイ姉妹との模擬戦を始めることになりました。
先鋭と呼ばれるアメリカ本部の魔導少女の実力はどれ程か……。
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次回も明日更新です。
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