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09話 魔導少女の戦い 前編

連続投稿十発目


 柏木さんに降ろしてもらい、キャンプ場にその光景に目を向けて……絶句した。

 地面はひび割れ、草木は唖喰(あくう)達に今も尚食い荒らされており、中には熊やキツネといった野生の動物達の死体もあった。


 唖喰に関しても俺が遭遇した一頭身の奴――確かラビイヤーとか呼ばれてた――だけじゃなく、真っ白な球体から赤い触手を伸ばしているもの、熊すら一口で平らげそうな程の大きな口を、これでもかと見せびらかす犬みたいな姿をしたもの等が、半径三メートルぐらいの赤い穴から出てきていた。


「あの赤い穴って……」

「あれは唖喰がこちらの世界へ侵攻するために開けた次元の壁の欠陥……組織では〝ポータル〟と呼ばれているものだよ」

「あれを破壊して欠陥を修復しないと、唖喰はあそこから次々に湧いてくるわ」


 柏木さんと工藤さんから穴の……ポータルのことを説明された。


 つまりあの向こうが唖喰の世界につながっているのか。この光景を見てしまったら、俺が遭遇したことが何とも生温く感じるが、これでも今まで並木さんや工藤さん達が見てきたものからすれば序の口なのだろう。


「さて、渚。私はここで竜胆君の護衛をするから周囲の警戒をお願いね」

「分かりました先輩。竜胆君、大人しくしていてね?」

「はい、ありがとうございます」


 柏木さんとの会話が終わると、彼女は森林の中に入っていった。


 そっか、ポータルから出た唖喰にはぐれがいないか確かめているのか。

 俺がそんな納得をしていると工藤さんが何か呟きだした。


「防御術式発動、結界陣展開」


 工藤さんがそう言い終えると俺の足元に六芒星の魔法陣が張られた。


「その魔方陣の中にいれば唖喰は竜胆君に手出しが出来ないようになっているわ」

「……今のが術式ですか?」

「ええ、細かい説明を省いて解説すると、術式にはいくつか種類があって、その中の防御系の術式を使ったというわけ」


 先程柏木さんが教えてくれた身体能力を強化する術式とは別か……。

 そう思ったところで俺はここに来た目的を思い出した。

 

「そうだ、並木さんは!?」


 唖喰がもたらす被害に目を奪われていた。

 俺はキャンプ場を見渡して並木さんの姿を探す。


「並木ちゃんは……あそこね」

「あ、いた!」 


 工藤さんが示した方向に遠めだが並木さんの姿を発見した。


 その姿は初めて会った時と同じようにグレーのフィットスーツに、同じくグレーの膝丈スカート、前との違いは右手に全長六十センチの杖を持っていた。


 杖の形状は手持ちの部分である柄の先に青色の球体があるオーソドックスなもので、あれが並木さんの扱う武器だと分かった。


 こっちが並木さんに気付いたがそれは向こうも同じようで、いつもの無表情とは違って驚いたように目を見開いていた。


「あらあら、随分と驚かれちゃってるわね」

「……予想の範疇(はんちゅう)です」


 並木さんが俺を見ていた時間は三秒となく、彼女は唖喰達が出てくるポータルへ視線を移した。


「攻撃術式発動、光弾八連展開、発射」


 並木さんは杖を唖喰達に向けながら術式を発動させた。

 すると杖を中心に八つの小さな魔法陣が現れ、さらに魔法陣からサッカーボールぐらいの大きさがある光の玉が唖喰達に向かって放たれた。

 

「シャギャアアアッッ!?」「カアアアッッ!?」「グルアアアッッ!?」


「えっ!!?」


 唖喰達に光の玉が当たった瞬間、俺は驚きのあまりそんな声がでた。

 光の玉を直撃で受けた唖喰達は塵になって消えたからだ。


「唖喰は生命活動を停止すると、塵になって消滅するの。そのせいで唖喰の遺体検分が出来ないから一向に唖喰という生物の解析が進まないのよ」


 工藤さんがそう解説してくれた。

 三百年もの間戦いが長引いたのはそういう理由もあったのか……。


 ああ、そういえば並木さんに助けてもらった時にも唖喰の姿が消えていたな……。


 そんな風に思い返していると、戦況が動いた。


「攻撃術式発動、光槍(こうそう)四連展開、発射」


 並木さんの後方に四つの大きな魔法陣が出現して、一メートルはある四本の大きな光の槍が唖喰達が開いたポータルに突き刺さった。


 ――パァァァァァンッ!!


 光の槍に貫かれたポータルはガラスを割ったような音を立てて消えていった。

 そっか、これでポータルを破壊したってことになるのか。


「並木さんが光の玉と光の槍を飛ばしていましたけど、あれで唖喰を攻撃するんですね」

「君の好きな魔法少女とは大違いでしょ? あれは攻撃術式って言って光弾、光剣、光槍の順に威力と射程が強化されているのよ。一度の展開でどれだけの数を放つかも調整出来るけど、数はもちろん、強力な術式になれば消費する魔力量も多くなるけれど」


 魔力量……ゲームでいうMPみたいなものか。

 今は戦闘中だから全て教えられないと言われたが、工藤さんは他にも攻撃術式の種類があることを教えてくれた。


 あと、工藤さん。

 魔法少女の中には肉弾戦を繰り広げる子もいるので、並木さんの場合はどちらかと言うとらしい方です。


 心の中で工藤さんに訂正をしていると、ポータルを破壊されたことに唖喰達が怒り出した。

 

「シャアアアアアッッ!」


 白い色の球体から赤い触手を生やしている唖喰が五体くらい揃って並木さんに触手を放った。

 あれで並木さんを縛るつもりか?


「攻撃術式発動、光刃展開」


 並木さんが術式を発動させると、彼女の持つ杖が光に包まれ、光の刃を形成した。

 その光の刃を振るうことで並木さんは自分に迫ってくる触手を次々と切り落とすことで防いでいく。


「あれは〝ローパー〟って呼称されている唖喰で、触手による拘束攻撃が主な手段よ」

「あの触手に捕まったらやばいですね」


 魔法少女に触手は付き物とはいえ、エロゲで見るようなあんな展開は現実では見ていたいものじゃない。

 二次元と現実は別物だ。

 

「ええまずいわ、並木ちゃんが躱して地面に触れた触手を見てみなさい」

「え?」


 工藤さんに促されて見ると、丁度並木さんが跳躍して触手を回避したところだった。

 そして躱された触手が地面に触れると……。



 地面が抉れた。



「……ぇ」

「ローパーの触手は常に触れたものを溶かす強酸性の粘液を放出しているの。そうして溶かしながら獲物を捕食するのよ。だから捕まったら皮膚や魔導装束(まどうしょうぞく)……あ、私達が来ている戦闘服のことね、それと肉や骨も溶かされてしまうわ」


 工藤さんの説明を受けた俺は血の気が引いていくのが分かった。


 やばいっていうニュアンスにかなり差があった!!?

 桃色的なものだと思っていたら赤色的だった!!   


 地面がガオンッって抉れた……あんなの受けたらひとたまりもないぞ……!?

 

 ローパーの触手が触れるものを溶かす悪質なものだと聞いてふと思い出したことがある。


 今朝見た左手に包帯をグルグルに巻き付けた並木さんの姿だ。

 あれはローパーの触手に左手を掴まれたか触れたからなのか。


「攻撃術式発動、光剣五連展開、発射」


 跳躍した並木さんが五体のローパーに向けて光の剣を一本づつ放った。


「「「「「シュギャアアアアッッ!!」」」」」


 光の剣を刺された五体のローパー達も先の唖喰達と同じように塵になって消滅した。

 並木さんが着地すると同時に、今度は口が体積の八割を占める犬型の唖喰がその大きな口を開いて彼女に襲い掛かって来た。


「っ」


 並木さんはサイドステップでその攻撃を回避するが、そこへ別の犬型が襲い掛かる。

 今度はバックステップで回避して距離をとった。


「あれは〝イーター〟。見ての通り大きな口で獲物を丸(かじ)りにする唖喰よ」


 犬型……イーターは並木さんに次々と飛び掛かっていくが、並木さんはその(ことごと)くを躱していった。


 イーターの口にはサメのように鋭い牙があり、熊すら丸のみに出来るであろう大きな口に捕まればひとたまりもない……っていうか。


「工藤さん、さっきから唖喰の説明をしてくれますけど、唖喰の攻撃手段がどれを受けても致命傷級な気がするんですが……」

「よく気付いたわね。唖喰からすれば人間も動物も草木も果ては金属や鉱物でさえ全て等しく、自らの腹を満たす食料としか認識されていないわ」

「……俺、途中で会えたのが工藤さん達でよかったです」

「自分がどれだけ無謀なことをしようとしてたのか分かったようね?」

「はい、それはもう……」


 工藤さん達に止められず一人で来ていたら三十秒と持たずに喰い殺されていただろうと想像すると、一気に肝が冷えた。

 

 それだけ自分が唖喰という生物を見誤っていたのだと理解出来た。

 人なんて簡単に喰い殺せる唖喰に対抗する魔導士の凄さもよく思い知った。 


 そんなことを考えていると、俺の視界に並木さんに飛び掛かろうとせずに立ち止まっているの一体のイーターが目に入った。

 何をしているのかと思っていたらその場で口を開き……。


「カハァッ!!」


 

 真っ黒な光弾を並木さんに向けて吐き出した。



「並木さん!?」


 俺は咄嗟に叫んだ。

 その声が聞こえたからなのかどうかは分からなかったが、並木さんはイーターの光弾を体を左側に反らして回避した。


「イーターの攻撃手段は大きな口による捕食攻撃以外にああやって光弾を放つ方法があるわ」

「遠近両方の攻撃が出来るのか……」


 近接では自慢の口による噛み付き、遠距離では光弾による攻撃。

 イーター達はその二つを惜しげもなく発揮して並木さんを追い詰めようとする。


 今このキャンプ場にいる唖喰はラビイヤー、ローパー、イーターの三種類。

 その中で単体で一番厄介なのがイーターだということになる。 


「攻撃術式発動、光剣八連展開、発射」


 そして並木さんが反撃に打って出た。


 放たれた八本の光の剣は六体いるイーター達に向かって飛んでいく。


「グギャアアアッッ!!」「ギギギギギ!!!」「グルルルルルル!!」


 三体のイーターは光の剣に貫かれて塵になっていったが……。


「「「カッハァ!!!」」」


 残った三体は吐き出した光弾で光の剣を相殺した。

 妙に正確な相殺に俺は舌打ちをしたくなった。


 そうして光剣で倒せたイーターは半分の三体だけだった。


 残った三体のイーターが再び光弾を並木さんに目掛けて吐き出す。

 並木さんは右側にサイドステップして躱していくが、そこへ四体のラビイヤーが飛び掛かってきた。


「危ない!」

「攻撃術式発動、光弾六連展開、発射」


 俺が叫ぶと同時に並木さんが光弾を放って向かって来たラビイヤー達を返り討ちにした。

 

「カハァッ!」

「っ、防御術式発動、障壁展開」


 三度放たれた光弾に対して並木さんが左手を突き出しながら術式を発動させると、左手から中心に彼女の前方に淡い光の壁が形成された。


 その光の壁に阻まれた光弾は並木さんに届くことなく弾けて消えた。


 あの光の壁……障壁は盾みたいなものか。

 だが障壁を展開したことで足が止まった並木さんに向かって、まだ後方にいた三体のローパーが触手を突き出してきた。


「攻撃術式発動、光刃展開」


 障壁を解除した並木さんは再び杖に光の刃を宿して迎え撃った。

 その最中ローパーの触手の間を通り抜けてくる数体のラビイヤーも切り伏せていく。

 さらにイーターも変わらず光弾を吐き出し続けている。


 並木さんはそれらを躱し切り落としで回避していくが、どう見ても物量差で唖喰側が有利だった。

 その証拠に並木さんの魔導装束にいくつかかすり傷ができ始めていた。


 そして右手で持つ杖から発している光の刃でローパーの触手を相手取っている内に、並木さんは左手をイーター達のいる方に向ける。


「攻撃術式発動、爆光弾三連展開、発射」


 左手からさっきまで放っていた光弾とは違って、一回り大きな光弾をイーター達に向けて放った。


「カハァッ!!」


 イーター達は自分に向かってくる光弾を相殺しようとして、光弾を吐いて対抗を試みたが……。


 ――ドオオオオンッッ!!


 光弾同士が触れ合った瞬間、思わず耳を塞いで目を閉じるほどの轟音と閃光を伴って爆発が起きた。

 五秒くらいそうしていたが、ゆっくりと目を開いてみると、イーター達は爆発によって塵になったのかその姿を消していた。


「爆光弾は通常の光弾と違って爆発性を強化したものよ」

「自分に飛んでくる攻撃を光弾で相殺しようとするイーターの習性を逆手に取ったってことですか……」


 そうであれば並木さんがしたことは相当難易度が高いはずだ。

 片方の手で触手を切り落としつつ、もう片方の手で術式による攻撃を放ったばかりか、イーター達を確実に爆発に巻き込めるタイミングで相殺させるよう、機会を(うかが)いながら放ったわけか……。


 変わらず触手で並木さんを捕まえようとするローパーと拮抗する状態に持ち込んだ並木さんを眺めつつ、先の攻防で気になったことを工藤さんに聞いてみた。


「工藤さん質問があります」

「何かしら竜胆君?」

「唖喰はどうしてさっきから小賢しいというか、嫌なタイミングで攻撃してくるんですか?」


 気になったこととは唖喰の攻撃するタイミングの事だ。

 思い返してみると、いずれも並木さんが攻撃を放った直後、着地の瞬間、ステップで回避した直後など、妙に来てほしくないタイミングで攻撃しているように見えたからだ。


 そりゃ命を懸けた戦いに卑怯もクソもないっていうのは分かっている。

 隙が出来たならそこを狙えばいい。


 でも、唖喰はその隙を突くことしかしていない。


 そう思って工藤さんに聞いてみた。

 俺の質問に対して工藤さんは……。


「そこまで分かったのね……」


 言外に肯定した。


アクションゲームで例えたら普段はイージーの敵がコンボ中に限って妨害してくる感じ。

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