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第七話

 街を離れたあと、森をしばらく歩いている。この森は魔物の類がいないそうなので移動に支障はない。戦闘能力のない子供が木の実を取りに来ることもあるそうだ。

 そうして、歩いていると、一軒の家が目に入る。かなり手入れが行き届いているらしく、綺麗に整えられている。


「すみません! オロートスさんいますか?」


 ドアをノックして呼びかける。と、ゆっくりとドアが開く。今度は男性である。魔法使いらしくローブを着ている。自然に溶け込むかのような穏やかな緑である。年は初老に片足を一歩踏み込んでいるような気がする。うーむ、かなり若々しいが雰囲気が少し年寄りに傾いている。エルフは別に長命ではなかったはずだが、もしかしてハイエルフ?


「なんじゃ?」

「俺を弟子にしてください」

「獣人が? いや、それにしては魔力量が多いのう」


 オロートスさんは俺の魔力量が見えるらしい。いいな、俺もそれを覚えたいぞ。


「面白いのう。なんで魔力量が多いのか気になるがそれは後にしよう。まずは家に上がれ」

「あ、お邪魔します」


 俺はオロートスさんの家に上がる。そして、適当な椅子に腰を掛ける。部屋の隅には観葉植物が置かれている。緑が多い。オロートスさんも結構緑が多い。

 エルフの肌の色は葉緑体らしいからな。メラニンじゃないらしい。だから、緑色に濃くなっていくらしい。光合成すんのかね。強そう。


「で、弟子になりたいじゃったかな?」

「はい、弟子にさせてください」

「……まあ、別にええじゃろ。最近は魔導士になりたいなんて言う若者がいなくなってのう。みんなして簡単に使える魔法に逃げよる」

「そうですかね? 魔力を操れたほうが強くないですか?」

「魔力は筋肉と同じじゃ。反復練習が常にいる。怠けるとすぐに魔力の操作がぎこちなくなるでの。面倒くさがって誰もやりたがらなくなったのじゃ」


 それなら、魔法に逃げる人が多いのもうなずけるか。俺はそういうのは気にならないからな。いつもの鍛錬に魔力の鍛錬が加わるだけの話だな。


「別に問題はないですね。反復練習はいつも行っていますので。それに魔力の練習が加わるだけの話でしょう?」

「ほうほう、なるほどのう。ではさっそく魔力を感じる練習から行おうかの」

「早いですね」

「早いほうが得じゃからな」

「なるほど」


 オロートスさん、これからは師匠と呼ぼう。師匠が俺に近寄り腹に手を当てる。


「これからゆっくりとお主に魔力を流す。まずはそれを感じ取る練習じゃ」

「はい」


 師匠は目をつむる。俺も目をつむって腹に流れ込んでくる魔力を感じようと努力する。

 ……ふむ、わからん。いや、集中が足りないのだろう。それに、本にも魔力を感じるのは難しいと書いてあった。エルフでも魔術を使えない人がいるほどだし、獣人の俺がすぐに出来るわけがない。ゆっくりやっていけばいい。


「いったん休憩じゃ」


 師匠はそういって俺から離れる。師匠の魔力も無限ではないし、俺の集中力も無限ではないし、何より、他人の魔力を流され続けると体に異常が起きるらしい。それは避けなければならない。

 十分ほど休憩をとると再び魔力を感じる修行である。

 ……少し温かいものが流れ込んでいるような気がする。これか? 気のせいか? その温かいものはゆっくりと体のすべてに広がり体から出て行ってしまう。気のせいでもとりあえずこれを追いかけよう。

 俺の腹に現れるおそらく魔力はゆっくりと全身に広がり汗が蒸発するように大気中へと消えていく。そこから追えないだろうか? いや、追えないな。探してみるが無理だった。そして、少し温かみを感じなくなった。体内の魔力に集中しなくては。


「休憩じゃ」


 また休憩時間である。体をほぐさなくては。ずっと体を動かすのを忘れて集中していると体が凝る。


「先ほど温かいものが体を流れているのを感じました。あれが魔力なのでしょうか?」

「ほう、早いのう。その調子で励むのじゃな」


 ふむ、間違ってはいないらしい。そのまま続けていけばいいだろう。

 再開。今度はすぐに師匠の魔力を感じ取れるようになった。すると、俺の体の周囲にまた別のものを発見。わずかながらに俺の周囲に魔力が存在する。魔力が俺の周囲を覆っている。いや、正確に言うならば皮膚の内側に魔力が存在する。空気中ではない。それは外へと出て行っていない様子。ふむ、今度はこの二つを感じ取り続ける必要があるのかね。師匠の魔力に集中すると、俺の魔力だと思われるものが感じ取れなくなってしまうが。難しいものである。しかし、力んではならない。力むとどちらも感じ取れなくなる。リラックスリラックス。

 また休憩をはさんで再開。師匠の魔力は問題なし。俺の魔力も感じ取れる。今度は頭に集まっている魔力がかすかに感じ取れる。いや、魔力の密度というものは頭の方が多いな。特に脳みそのあたりに顕著である。意識しすぎて師匠の魔力が途切れる。はいリラックス。難しいが、確実に魔力を感じ取れているだろう。意外と早いものである。こんな簡単なら、みんなもすぐに魔力を扱えるようになると思うのだが、違うのかね?


「休憩じゃな」

「師匠。魔力を感じ取れていると思うのですが、こんなに早く魔力を感じ取れるようになるならそこまで難しくないのではないでしょうか?」

「……今魔力を感じ取れるか?」

「え? …………無理です」

「先ほどまでのはわしの手助けがあってできる。そこまでならサルでもできるが、そこから、手助けなしで感じ取れるようになる必要があるのじゃ。だから難しい」

「なるほど、わかりました」


 そういうことか。それなら難しいのもうなずける。今までは補助輪付けて自転車に乗っていたのを乗れていると浮かれていたにすぎないということか。

 再開。今まで通りに魔力は問題なくわかる。一連の流れを追いかけながら魔力というものをしっかりと感じ取る。記憶する? わからん。だが、これを体で覚える必要があるのだろうか。頭で考えてはいけない気がする。感じて当たり前だと体が覚える必要があるのだ。七番目の感覚である。難しい。

 師匠が休憩するが、それを覚えようと俺は少しだけ長く感じ取る努力をする。あの間隔を今の俺の体で行う努力を。無心で。

 …………………………ん? あ、だめだ。くそ。うまくはいかないらしい。

 今からどんなに頑張ってもただ疲れるだけなので。ゆっくりと休憩。体を休ませる。十分だけとはいえ休憩時間は大事である。詰め込んでも意味がないからな。

 よし再開。師匠の手助けアリでは余裕である。これを手助けなしでも保持し続ける必要があるわけだが。ううむ。

 …………。


「よし、休憩じゃぞ」


 ………………………………温かい。お、まだ感じ取れる? あ、ダメだ。霧散した。


「惜しかったです」

「早いのう」

「そんなにですか?」

「わしが知っている中でかなり早い」

「師匠、コツとかは?」

「ない」

「ない?」


 ないって、どういうことだよ。


「正直に言うと、わからん。気づいたらわかるようになっておる。で、たいていの奴はこれを聞いてやめる。『わかるわけない』とほざいての。実際わかるから魔導士をやっておる」

「誰かが研究論文を発表したりはしないのですか?」

「これは鍛冶師が金属を鍛えるのにちょうどいい瞬間がわかるのと同じようなもんじゃからのう」


 勘と経験ということか。むず過ぎるだろ。いや、でももう少しで行ける気がするのだが。まあ、体が凝りそうなので、少し外に出て体を動かすとしよう。


「戻りました。再開しましょう」

「……なんで魔導士になろうと思うのじゃ? お主はそのままでも強いぞ」


 どうやら、俺が体を動かしている様子を見ていたようである。


「魔術を使えたらさらに強いですよね?」

「……そうじゃな。なるほどの。では再開しよう」


 再開。次の休憩までにこの感覚を体に叩き込む。

 …………………………………。俺は目を開ける。まだ魔力は感知できている。何もせずただ、俺に存在する魔力を認識し続ける。

 師匠に肩を叩かれて魔力が霧散する。いや、感じ取れなくなっただけである。霧散はしていない。


「師匠」

「夕飯じゃ」


 俺の抗議の目を気にせずに師匠は夕食の用意をしている。俺も手伝うとしよう。

 夕食はシチューであった。師匠の手料理らしいが、おいしい。長年独り身だからなのだろうか。


「わしは妻がいるからの」


 どうやら違うらしい。しかし、別居しているというのは……。


「子供たちの方へ今は行っておるのじゃよ。そういうのはあいつが詳しい。だから任せているのじゃ。落ち着いたら帰ってくるであろうよ」

「何をしているんで?」

「わしの息子が精霊族の族長なのじゃよ」

「それはすごい」


 魔族は各種族ごとに族長を選抜し、それで議会を行う政治形態である。魔族が議会政治を行っている。ちなみに、族長は一つの家で継承するわけではない。なので、師匠が元族長というわけではない。


「あんまりすごいと思ってなさそうじゃの」

「すごいと思いますよ。ただ、来たばかりなので、すごさの基準がまだできていないだけです。オーバーにリアクションしてもわざとらしいでしょう?」

「それもそうかの」


 そうして、夕食を食べ終わり、再び修行の再開。家でできる修行である。


「今回から、わしの手助けなしで魔力を感じ取れるようになってもらおうかの」

「え?」


 師匠は本棚から本を取り出して読み始めた。俺の読めない字であるから精霊語なのではないかと予想を立てる。あとで教えてもらおう。

 では、さっそく楽な姿勢を取り、自分の体内に意識を向ける。心臓の鼓動の音が聞こえる。ゆったりとそのリズムに体を預けていく。そうして、魔力を探る。あの温かいものの場所はわかっているので、答えがわかっているかくれんぼである。相手は気配を消すのが非常に上手いため、目の前にいても気づかないという難易度の高さだが。

 ………………ふむ、わからん。

 この後も何度か休憩を挟み、風呂に入り、手助けなしの魔力感知の修行を続けていたのだが、感じ取れることはなかった。どうやって魔力を感じ取れたんだっけ?


「今日はここまででいいじゃろ。寝室は一階にある部屋から好きに選びなさい」


 師匠は二階へと上がっていく。俺も一階の部屋の中からなんとなくで選んだ部屋へと入り。ベッドにもぐりこむ。そうして俺は就寝する。


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