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第四九話


「なんだよその顔」


 ウッドは俺のことを変なものを見るような顔で見ている。なんという失礼な奴だ。俺のどこが変なのかね。


「ああ、かっこいいよスバル」

「えっ」


 ほら、かおるは俺のことをかっこいいと言ってくれるではないか。それだけで俺はしばらく生きていけるな。ライフが何か言いたいことがあるそうだが、俺は聞かないでおいてあげよう。それが優しさというものだろう。


「かおるも綺麗だよ」

「スバル……」


 俺たちは自然と寄っていき、お互いに抱きしめ合う。もし、明日地球が隕石の衝突で消滅するということがわかったら、隕石をたたき割れる自信があるな。今の俺ならそれぐらい出来そうだ。


「あー、おーい」

「戻ってきてくださーい」


 と、二人に肩をゆすられる。仕方ない。二人も会話に入れてあげよう。俺たち二人だけの世界を形成すると、その外にいる奴らは仲間外れになったような気分になるからな。まあ、入って来たらぶちのめされることもあるだろうから、入ってこれないのだし、仲間外れは間違いではないな。


「さて、どうする?」


 現世に戻って開口一番、俺はウッドに次の予定を聞いた。


「あ、もう次の予定を聞くんだ」


 ウッドは呆れているように首を振っている。


「レベル1でウサギを一撃で倒したことについて何か言うことはないの?」


 というのはライフ。


「さあ? 何かあるか、かおる」

「うーん、別にないよ」

「だよなあ」


 何があるというのかね。むしろ、ウサギを一撃で殺せなかったら、それこそ恥であるだろうよ。


「あ、そういえば……スバルはウサギに二撃入れてたよね?」


 げ、ばれた。気づかれないように黙ってたのにとうとうそこに気づいてしまったか。

 そうだ、俺はウサギに膝蹴りと横薙ぎの二回、攻撃をしている。なんでかというと、まあそのままで、一撃で殺すことが出来なかったというだけである。その程度にはウサギはタフだったのだ。だからこそ、もう一撃入れる必要があったのである。

 まあ要するに、恥である。


「いや、恥ずかしいから触れないでね」


 俺は顔を隠す。

 あの体勢から出した膝蹴りに力が乗るかと言われたら怪しいところではある。しかし、それでも一撃でウサギは葬りたかった。正直なところ殺したウサギに申し訳なくも思う。無駄な苦痛を与えたのだからな。


「大丈夫だよ、スバル。そういうことはよくあるし」

「かおる、ありがとうな」

「いや、レベル1のプレイヤーがウサギを一撃で倒せるがおかしいから。だから、スバルが二回攻撃したのだとしても恥ずかしいことじゃないから」


 ウッドが親切にもフォローしてくれている。ああ、なんていい友人を持ったんだ俺は。落ち込まないように慰めてくれるのだな。嬉しいことである。


「大丈夫だウッド。俺は気にしていないからな」

「あれー? おかしいな。勘違いされてるぞ」


 勘違い? 何を言うか。お前の気持ちは俺にちゃんと届いているからな。


「ねえ、どうやったら、レベル1でもウサギを一撃で倒せるの?」


 ライフがかおるに聞いている。俺は一撃じゃないからな。悔しい。かおるの種族が鬼人ということもあって一撃なのだとしても悔しいものである。


「うーん。力の入れ方と攻撃する箇所でしょ。やっぱり急所に当てるといいよね。正中線とかさ」


 かおるはライフたち二人にわかりやすく教えている。確かにそうである。かおるの行ったことをそのまま実践すればまあいいだろう。


「ま、一番の難点が力の入れ方だな。力み過ぎてもダメだし、だからといって力を抜きすぎるとこれもまたダメだ。そのバランスが大切なのさ」

「難しいこと言わないでよ」


 ライフが口をとんがらせて抗議してくる。しかしな、これは俺たちが十数年も修行して来たからこそたどり着いた一つの出発点である。そう簡単に出来てもらっては困る。

 なぜ出発点かって? こんなちんけな場所がゴールなわけがないだろう。ゴールは人の身で仙人の領域に達することだろう。それほどに武道は奥が深い。深すぎるのだ。祖父ちゃんですら深淵を覗くことすらできていない。


「お前ら大変なんだな」

「かおるもそんな家に嫁ぐなんて大変ね」


 失礼な双子である。


「うーん、慣れれば簡単だよ。それに、スバルとずっと一緒にいられるならそれぐらい苦でもなんでもないからね」


 もうやばいな。どうしよう。


「おえ」


 ウッドは後で殺そう。そうしよう。かおるも自分の首に親指を当て横に引いた。ウッドの方をにこやかに笑いながら向いて。


「さ、さて……ウサギをもう少し狩るか」

「そうだな、まだ三匹だしな」


 というわけで、ウサギ狩りを続行することになった。


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