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第四七話

 俺たちはしばらく草原を歩く。あまりウサギはいないんだな。まあ、いたるところにウサギがいたらこのあたりの植物は軒並み死滅するだろうけどさ。


「本当に合っているのか?」


ウッドが疑問を投げつける。


「俺を誰だと思っているんだ。獣人だぞ」


 獣人が身体機能で他の種族に劣っているわけなかろうて。

 それからもウサギの匂いをたどりながら一直線に進む。出発地点から一番近くてもこれだけ距離があるのな。みんなは初日にどうしてたんだろうか。気になる。


「お、いたか」


 俺の視界に小さな毛玉が動いているのが見える。あれがおそらくウサギだろう。ためしに、【鑑定】を使ってみる。


「ダメか……」


 俺は誰にも聞こえないように、ぼそっと声を漏らす。

 結論から言うと、【鑑定】は使えなかった。非常に残念である。普通は、名前さえ知っていれば鑑定結果が出る物なのだが、それすら出ない。

 そこから導き出される答えとしては、一つは、本来の名前を俺が知らない。もう一つが、ウサギの情報を知るには【鑑定】とはまた別のスキルが必要。……後者な気がしないでもないな。


「なあ、ウッド。あれがウサギか?」


 俺は一応ウッドに確認する。もしこれでただの毛玉だったりしたら悲しいからな。そんなことはないと信じたいものである。


「ん? ああ、そうだな。あれがウサギだ」


 と、顔を上げるウサギ。ふむ、確かに角が生えているな。しかし、思ったほど大きくはなかったな。せいぜいが、こぶと見間違えないという程度である。これで、角が生えているというのは盛りすぎであろう。


「思ったより角は小さいんだね」


 ほら見ろ、かおるだって同じことを思っているじゃないか。


「ああ、ウサギは角が長いタイプと角が短いタイプの二種類いるんだよ」

「ああ、そうなんだ」


 何とも紛らわしいやつらであるな。


「じゃあ、俺たちが見本でも見せるわ」

「なんの?」

「戦いだよ!」


 ウッドは大声でツッコむ。ウサギが襲ってきたらどうするのかね。

 まあしかし、他のプレイヤーの戦いを見るというのはいいことだろう。前のプレイヤーは戦いを見せる前にかおるにぶちのめされたからな。本当に何の価値もなかったナメクジ野郎どもであった。

 ウサギに近寄るのはウッド一人である。まあ、ウッドたちのレベルならウサギの一匹や二匹は一人で倒せないとまずいのだろうな。

 ウッドはゆっくりとウサギへと近づく。そして、剣の間合いにあと少しで入るというところで、ウサギがウッドに対して警戒し始める。剣の間合いがわかっているのか。あのウサギはなかなか頭がいいらしい。


「…………」

「…………」


 両者の間には独特の空間が出来ている。これは邪魔してはいけないものである。一切の音を俺たちは発してはいけない。

 じりじりと、すり足で近づくウッド。それと同時にゆっくりと下がるウサギ。緊張がはじけるようにウッドが飛び出す。


「『スラッシュ!』」


 ウッドは掛け声を出しながら剣を一閃。その軌道は素早くなめらかであり、綺麗にウサギの胴体に入り、ウサギはそのまま胴体が真っ二つに裂けて絶命する。


「おっしゃ」


 ウッドは軽くガッツポーズを決める。


「…………」


 俺は考え事をしていた。

 その内容は、先ほどウッドが出した掛け声である。あの掛け声の後、ウッドの中の魔力が動き出し、体全体に溶け込むようにして混ざり合い、達人のようなきれいな剣捌きを見せたのである。

 俺が気になっているのは剣捌きではない。あの程度なら俺でもできる。しかし、重要なのは魔力の動きである。


「ウッド」

「なんだ?」

「さっきのはなんだ? 『スラッシュ』とか言っていたやつだ」

「ああ、あれか。あれは戦技というんだ」

「戦技……」

「ああ。あれを使うとな大して剣とか扱えない素人でも戦えるようになる。まあ、体が勝手に動かされるような感覚はあるけどな」


 なるほど。俺はそれを聞いて少し考える。


「あ、MPの減りは?」

「あるぞ。いまのは10くらいかな」


 これは、もしかしたら……付与魔術に与する魔術が完成するかもしれないぞ。あとで師匠に戦技のことについて聞かなくてはならなくなったな。やることがいっぱいで大変だな。だが楽しい。


「よし、オレは一回見せたし、次はお前らがやるか」

「ああ、わかった。じゃあついてきてくれ」


 というわけで、もう一匹のウサギへと案内する。


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