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第四六話


 草原。

 目の前には地平線まで続く広さの草原が広がっている。

 俺たちはその草原を真っ直ぐ横切る街道の上に立っている。素晴らしい眺めである。しばらくはぼーっと景色を眺めて居たい。そんな気分になっている。


「気持ちいいね」

「そうだな」

「空気も美味しい」


 かおるもこの景色を楽しんでいるようだ。


「なあ、大丈夫か?」


 ウッドは心配そうに俺たち二人の顔をのぞき込む。


「なにが?」

「いやあ、レベル1だろ。それで大丈夫なのかなって」

「お前らも最初はレベル1だろ。なら大丈夫だ」


 何を心配しているのか。みんな最初は同じスタートなんだから、その程度でいちいち心配されたらキリがないではないか。心配するほうもただただ疲れるだけだぞ。もっとリラックスしなくてはな。


「まあ、それならいいんだけどよ……」


 ウッドは何かを考え込んでしまったようだ。何に悩んでいるのかね。この景色を堪能しないでどうするのか。

 俺の鼻は風に乗ってくる花の蜜の匂いや獣の匂いを教えてくれる。人の匂いもあるな。それと擦れる金属の匂い。金属の匂いだけが邪魔だが、他は全て満点である。気分がいいものである。


「まあ、今回は一緒に狩りをすることが目的だし、このあたりでいいんじゃない?」


 というのはライフ。それを聞いたウッドは歪んだ顔を崩す。


「まあ、仕方ないか。ここの敵はあまり旨くはないんだが、スバルたちがいないときにでも金は稼ぐさ」


 こいつ、金の稼げる狩場に行くべきか悩んでいたのかよ。


「すまんな」


 まあ、俺たちがレベル1なのも悪いと思う。たぶん。だから謝ろうと思った。

 ウッドは別に気にするなとばかりに手をひらひらと振った。まあ、こんなことはあまり気にしてもしょうがないしな。ストレス溜めたら、ゲームも楽しくはないからな。楽しまなくてはな。


「えーと……ここの敵は何が出るか知っているか?」


 愚問だな、ウッドよ。そんなの答えが決まっているじゃないか。


「知らない」

「知らないね」


 俺たち二人が、まだ出る予定のなかったフィールドについて調べていると思うのかね。そんなわけがないだろう。まだまだ、魔術の修行をするつもりだったんだからな。

あー、魔術どうしよう。まだまだ、やりたいことがあるんだけどな。まあ、明日にでもやればいいか。


「お前ら……」


 ウッドは引いている。ライフは呆れたように乾いた笑い声を発する。


「まあ、仕方ないし教えてあげよう」


 ライフがいち早く立ち直り、俺たちに特別講習を開いてくれることになった。ありがたいね。素直に聞くことにしよう。


「ここのフィールドはウサギだけしか出てこないよ」

「ウサギを狩ってるの」

「まあ、そうだね。初心者にはちょうどいいんだよ」


 ああ、ウサギなら反撃されることもないだろうから、安全に経験を積めるのか。それなら初心者御用達の狩場にはなるな。で、そこである程度の経験を積んだ人が他の場所に行くと。


「反撃されないなら安全だな」


 でも、戦闘勘は身につかないだろうな。


「いや、反撃されるぞ」


 というのはウッド。


「そうなの?」

「そうだよ。ウサギと言ってもただのウサギじゃないからね」


 まあ、ゲームで普通のウサギを殺したら、さすがに良心の呵責に耐え切れなくなってしまうような人も出てしまうからなのだろうかね。それなら、最初から向いてないのではないかと思ってしまうが。


「角が生えているんだよ。そのウサギ」

「角兎か」

「オレたちはホーンラビットって呼んでいる」


 ふむ……ホーンラビットね。


「それって公式で発表された名前なのか?」

「いや、勝手に名付けている。鑑定スキルなんてものがないからな。どんな名前かわからん」

「ギルドとかで名前を言われたりはしないのか?」


 俺の当り前の疑問にウッドは苦い顔をする。


「ウサギって言われるんだ。みんなそれで通じる。このあたりのウサギは全部角が生えているからな」


 あ、そういうことか。角が生えたウサギは神代語でも魔族語でも名詞として存在しないんだ。だから、ウサギ。他の羽が生えていてもウサギと呼ぶ可能性があるな。これは調べなくてはならない案件が一つ増えたぞ。


「まあそういうことなんだよ。じゃ、さっそく獲物を探そうか」


 ライフがあたりを見回す。だが残念。このあたりにはいない。


「ああ、大丈夫だ。俺がわかる」


 なので助け舟を出すとしよう。俺の索敵能力はかなり高精度だからな。ある程度の生物の反応はわかるのだ。


「あ、そうなの? じゃあ頼んだよ」


 というわけで、俺は獲物までの道を案内することとなった。


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