第四十話
そういえば……かおるはどうしてメルが待っていることを知っていたのだろうか。寝る前は一切の疑問を持たずにいたが、よく考えてみるとおかしいものだ。後で聞いてみるとしようかね。
「おはよう、スバル」
と、枕元にはかおるが笑顔で座っている。
「ああ、おはようかおる」
ちょうどいいことだし、今聞くとしようか。
「かおるはどうしてメルが待っているって知っていたんだ?」
「それはね、毎晩メルと夢で会っているからだよ」
「ああ、そういうことか」
将来の妻たちが仲良くしていることはいいことである。そうでなければ、そのフォローで二人の板挟みにあうからな。嫌だとは言わないが、寿命が縮むかもしれないだろうな、下手したら。
ところで、夢に布団なんてものがあっただろうか。前に一回夢のなかでメルと会ったときはあたり一面真っ白な空間だったと思ったのだが、そうでもないのだろうか。
「いい匂いがするな」
「私たちが毎日改良に改良を重ねた空間だからね」
「へー、それはすごいな……ん?」
改良? どういうことだ?
「改良ってどういうことだ?」
つい言葉に出してしまった。
「メルと二人で夢の中の空間をより良いものに変えていったの。想像でいろいろなことが出来たからね」
「そんなことしてたんだ。じゃあ、俺も呼んでくれればよかったのに」
俺も毎晩夢を見ていたが、彼女たちと同じ夢を共有することはなかったからな。
「うーん、まだスバルにはお披露目できるようなものじゃなかったからね。だから、スバルはあえて来てもらわないようにしてたの」
「そういうことか。だったらしょうがないのかもな」
それに、女子二人でそういうことがしたいという思いもあったことだろう。そういう時にはあまり俺は関わらないほうがいいはずだ。
「じゃあ、メルも待っているし、行こうか」
「そうだな」
かおるは俺と手をつなぎ、案内するように引っ張る。俺はそれにされるがままでついていく。
そうしてしばらく歩いた先には落ち着いた雰囲気の木造の家が建っている。広さは三人で住むには広すぎるというぐらいであるだろう。正直なところ、家というより屋敷というほうが正しいと思う。
「大きいな」
「うん」
「どうしてこんなに大きいんだ?」
「メルと何人子供が欲しいか話し合っていたら、こんなに大きくなっちゃった」
かおるは頬に手を当てていやいやと体をよじりながら恥ずかしそうに言った。
「これ、サッカーチームとかそういうレベルだよね」
「うん、そうだよ」
かおるは幸せそうに言う。妄想の中に入ってしまったのか?
「しかも、二人ともがそれぐらいの数だよね」
「やっぱり、奥さんの差別はダメだと思うの」
「ああ、なるほど。だから同じ数の子供を両方が授かるわけか」
「そう!」
かおるは指をびしっと立てて、俺に向き直る。
俺はそのかおるのあまりの愛おしさに思わず抱きついてしまう。それをかおるは嬉しそうに受け入れて、抱きしめ返してくれる。
「かおる、好きだよ」
「私も……」
かおるは惚けたような口調で呟く。
「スバルー!」
と、背後から大声を発しながら迫ってくる人がいた。直後、背中に衝撃が走る。
「って、かおるのことを抱きしめるのもいいけど、わたしも抱きしめて!」
と背後から迫ってきた俺の愛するもう一人の恋人、メルがそう言った。俺は、すぐさま片手でメルを抱き寄せて、二人のぬくもりを同時に味わう。
「スバル、スバル、スバルスバルスバル……」
メルはひたすら俺の名前を呟きながら俺の胸に顔をうずめている。俺はゆっくりとメルの頭をなでる。
「早くスバルと夢の中だけじゃなくて、現実でも会いたいよお」
メルのそのつぶやきはあまりにも寂しそうに思っている心が垣間見えた。
「俺も会いたいよメル」
「スバル……好き」
メルは俺の感触を確かめるように頬ずりを始める。それに負けじとかおるも頬ずりし始める。俺の両頬が、メルとかおるの二人に挟まれているわけである。
「二人とも、愛してるよ」
俺は、最高の女性二人に愛されているという至福の幸福を言い表せる言葉を持ち合わせていないことをただただ悔やんでいた。それほどまでに、今の俺は幸せであると、そう言える。
「俺のことを愛してくれてありがとう」
「それはこっちだよ、スバル」
「そうだよ。わたしを愛してくれてありがとう、スバル」
俺たち三人はしばらくの間、お互いのぬくもりを感じ合っていた。




