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第三九話


 中で夕食を取り終わった後は、俺たちは外に出る。料理は、洋食料理やの域を出ることはない。女性向けなのか、一品ごとの量は少なかったが。


「今日は宿でも取るとしようかの」

「あ、そうします?」

「今から帰ってものう」


 確かに、それはあるな。帰る時間がもったいなくはある。


「じゃから、適当に宿でもとろうかの」

「そうですね、それがいいと思います」


 リリスさんも賛成している。え? リリスさん?


「リリスさんの家はこの町じゃないんですか?」

「この町ですよ」

「じゃったら、なぜ宿に泊まる」


 師匠は呆れているようだ。そりゃそうだ。

 と、リリスさんは師匠の腕に自分の腕を絡ませて上目遣いで師匠を見つめている。


「わたし、今日はあなたと一緒にいたいの」

「え?」

「ああ、ならいいと思うよ」


 かおるは適当である。いや、リリスさんを応援しているのかもしれない。どうなんだろうね。


「女性の願いをかなえてあげるのも男の甲斐性ってやつだよね、スバル」

「あ、ああ。そうだな」


 かおるがちょっと目で威圧してきたためそう答える。これは、師匠を逃がさないための手段なのだろう。


「う、ううむ」


 師匠は悩み始めている。家に帰ろうとしているかもしれないが、たぶんついてくると思うよ。


「師匠」


 俺は親指を立てる。


「ハア……わかった」


 師匠は折れたようだ。頑張ってほしい。師匠は手を出す気がないのだから、真摯に対応すれば、問題ないだろう。ただ、リリスさんは師匠に更に惚れる気がするが。依存まで行きそうである。もう行っているかもしれない。


「じゃあ、ここでいいかの」


と、適当に歩いてよさそうな宿屋を見つける師匠。すぐさま中に入る。俺たちもそのあとに続いた。


「いらっしゃーい」


 何とも気の抜けた声である。ダルそうな顔をしている女性が店番をしているようだ。


「二部屋空いておるかの?」

「あー、空いてますよ。夕食はどうします?」

「食べてきておるから問題ないぞ」

「あ、はいわかりましたー。では料金の方を」


 と、店番の女性が手を出すと、師匠はその上に硬貨を乗せる。


「はい、まいどあり。で、こちらが部屋の鍵ですね」


 と、二部屋分の鍵を師匠に手渡す。


「あ、そうそう。ここはラブホテルじゃないんで、そういうのはNGですから。そういうことがしたければ、外の路地を右に一つ左に二つ曲がってください」

「けっこう話慣れてますね」


 俺は感心したように言った。


「ああ、よく来るんですよ。そういうお客さん。最悪ですよ。臭いがね」

「ああ……頑張ってください」

「ありがとうございます」


 店番の女性はぺこりと頭を下げた。

 それを聞いていた師匠は安堵したような顔をしている。


「それじゃったら、男女で別れたほうがいいんじゃないかの?」

「いや」

「いやです」


 女性陣に反対される。


「へえ、女性が反対するんですね」


 面白そうに見ている。


「わかったから、さっさと部屋に行くぞ」


 師匠は諦めたようにして、階段を上る。

 師匠は一つの部屋の前で俺に鍵を渡す。俺の目の前の部屋の鍵だそうだ。俺は鍵を開けて中に入る。かおるも同じく。


「けっこう広いね」

「そうだな、想像以上だったな」


 これならゆっくりできることだろう。

 俺は、すぐさまベッドに倒れ込む。そのまま眠ってしまいたくもなるが、寝る前にメルと交信をしていないのでするとしよう。


「スバル」


 と、その前にかおるに呼び止められた。


「なんだ?」

「今日は交信しないで」


 あれま、どういうことだ? 嫉妬なのか? そんなまさか。メルとは交信でしかコミュニケーションを測れないんだから、かおるが嫉妬をするとはあまり思えない。


「なんでだ?」

「今日は夢の中で会いたいんだって」

「ああ、なるほど」


 メルは夢の中で俺と会いたいのか。もしかしたら、もう寝ていて俺を待っているかもしれない。だったらすぐに寝るとしよう。


「かおるは来るのか?」

「もちろん」

「じゃあ、寝ようか」

「そうだね」


 俺はかおるに腕枕をしながら眠りについた。久しぶりに、メルに会えると思うと寝れるか心配ではあるな。


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