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第三八話

閑話休題


 俺たちは劇場から外に出た。


「面白かったね舞台」


 かおるは全員に向かっていった。確かに、あの舞台は面白かった。

 役者の演技の熱がこちらにもガンガンに伝わってきており、感情移入できるし、舞台の演出として風の音や水の音が前後左右どこからでも聞こえてきていた。とても臨場感のある舞台だっただろう。魔術の存在がここまで演劇を進化させるのかと思った。

 蛮族襲撃のシーンでは実際にその場に居るかのように熱さを感じたものだ。この熱さは会場の熱気ではなく、燃え広がる火の手の熱さであっただろう。じりじりと肌が焦げるような熱さだった。

 さらに、よくできているのがオオカミ役の役者だった。最初は四つん這いで人が演じるのかと思ったら、オオカミそのものが舞台で演じ始めたものだから驚きが隠せなかった。どうやっているのか師匠に聞いてみたところ、幻影魔法と呼ばれる魔法によりオオカミの幻を見せているそうだ。なるほど。


「すごいですね、舞台は」

「そうじゃのう。久しぶりに見に来たが、舞台も進化しておるのじゃのう。前はあそこまでの演出はなかったからのう」


 師匠が最後に舞台を見に行ったのがいつなのかが気になるところではあるが、そこには触れないでおこう。おっさんの振りした爺さんかもしれない。


「あの演出はこの舞台で初めて行われたと聞きましたよ」


 と、説明してくれたのはリリスさん。


「あ、そうなんですね。へー、最新の技術だったんだなあれ。リリスさんは誰から聞いたんですか?」


 と、言うとリリスさんは先ほどまでの明るい調子から青ざめた顔へと変化する。そして、唐突に手で顔を覆ってすすり泣いてしまった。


「スバル! ばか、お前! なんてことを言ってくれたんじゃお前!」


 師匠が慌てたようにして俺を叱り始める。俺の顔もリリスさんそっくりに青ざめる。

 やばい、女性を泣かすなんて最低だぞ。たぶん、リリスさんが落ち込んでいた原因となる人から聞いたんだろう。で、それを俺が質問したから再び落ち込んでしまったと。


「す、すみませんリリスさん」


 なので、謝ろう。


「リリス。大丈夫じゃよ。な。お主は一人じゃないぞ。わしがおるからな。な、安心しろ。大丈夫じゃよ」


 師匠は、リリスさんを抱きしめると大丈夫だと語りかけながら背中をさすり始める。それにより、段々とリリスさんも落ち着きを取り戻していくようである。あー、よかった。


「師匠、さすがですね」

「ねえ、スバル。私も慰めて?」


 何をだよ。

 しかし、関係ないとばかりにかおるは俺の胸に顔をうずめる。なので、俺も抱きしめて背中をさすり頭をなでる。

 目の前でイチャイチャされたら、そらまあ自分もして欲しくなったのだろうかね。かおるはそういうところがある。可愛い。


「そういえば、もう夕食の時間ですね」


 日が沈み始めている。空は赤い。


「そうじゃのう」

「帰りますか?」

「外食しよ」


 かおるは外食をしたいらしい。それもいいかもしれない。


「わたしもご一緒していいですか?」


 許可を取っているように見えるが、そうではない。あれは脅迫に近いだろう。師匠の腕を跡が残りそうなほどの力で握っているのだ。


「も、もちろんじゃとも」


 そのせいで、師匠が暴力に屈したみたいに見える。別にそんなつもりは一切なかったのにな。リリスさんもかなり必死なのかもしれない。何が必死なのかはわからないため、想像でしかないが。


「ありがとうございます」


 笑顔はきれいだな。あと、二本の尻尾が嬉しそうにゆらゆらと揺れている。


「じゃあ、師匠。どのお店に入りますか?」

「まあ、適当に空いているところでいいじゃろ」

「おすすめの店とかはないんですね」

「別にないの。外食とかはあまりせんしの」

「じゃ、じゃあ! わたしのおすすめのお店でいいですか?」


 どうやら、リリスさんには勧めたい店があるらしい。


「では、そこにしようかの。案内を頼むぞ」

「はい!」


 リリスさんは師匠の腕を引っ張るようにして前を歩きだした。

 そうしてしばらく歩くと、一つの建物の前につく。どうやらそこがリリスさんおすすめの店らしい。

 なるほどたしかに、リリスさんほどの女性が通うと言えば納得するような外観のお店である。女性的な雰囲気が店から立ち込めている。しかし、だからと言って男が足を踏み入れるのに躊躇するわけではない程ほどのレベルに抑えられている。


「ほう、いい店ではないか」


 師匠も気に入ったようだ。


「じゃあ、早く入りましょ」

「そうですね」


 俺たちはこの店の扉をくぐった。


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