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第三二話

「誰だ貴様ら?」


 俺の少しさっきを混ぜた威圧に男たちはひるむ様子を見せない。……いや、こいつら俺が殺気を出していることに気づいていないな。こいつら、どんだけ弱っちいんだよ。萎えたぞ。

 くだらない。この一言で解決できるな。


「おめえが頑張ってビビらそうとしても無駄だから。ぎゃはは!」


 汚い。ただひたすらに汚い。斬り殺してやりたいが、それをするのすら嫌悪するというある意味最強のガードである。

 かおるはじわじわと瘴気が漏れだすように殺気がこぼれている。ここまでの殺気だとふつうは警戒をする。かおるは世間一般から言って弱くはないから、こいつらがたとえ武道の達人だとしても、ある程度の警戒心を見せるべきなのだ。それなのにこいつらは、かおるが木刀に手をかけているのにもかかわらず、そこに視線を向けることすらしない。

 ……どうやって、こいつらこのゲームをプレイしてんの? すぐ死ぬやろこんなやつ。

 くそ、野次馬が集まってきた。面倒くさいなあ。


「師匠、血祭りにあげてくれませんかね?」


 だから、俺は師匠にお願いをすることにした。

 今、師匠に小声で話しかけたため、チャラ男三人組に聞こえることは絶対にありえない。こいつらバカそうだし。なんで三人組なんだよ。


「いやじゃよ。赤ん坊を殺しても自慢にもならん」

「ですよねー」


 どうしましょ。こいつらを一刻も早く視界から消したいんだけど。


「……スバル」

「なんだ?」

「していい?」


 あ、かおるは我慢の限界らしい。こればっかりはしょうがないですねえ。不快罪が適応されます。判決は有罪で。

 まあ、人族世界ならこっちがやばいやつだが、魔族世界では力こそ正義。むかつくやつは力でねじ伏せて従えても問題はないのだ。


「いいぞ。暴れろ」

「ありがとう、スバル。愛してる」

「俺もだよ」


 これで、後は好きなタイミングでかおるが動くのを待つだけである。


「何話してんだオラッ!」


 と、我慢の限界にきた男の一人が拳をかおるに振り下ろす。それを紙一重で躱しながら木刀を抜き、男の喉元に一突き。


「ぎゅっ!」


 男は軽く吹き飛び、そのまま粒子となって消えた。へえ、死に戻りするとこうなるんだなあ。勉強になった。


「な、貴様!」


 動き出した歯車を止めることは出来ない。

 かおるは、その勢いのまま右側にいる男の睾丸を木刀で叩き潰し、そのまま返す刀で左側の男の膝裏を砕く。


「がっ!」


 睾丸をつぶされた男は白目をむいて気絶してしまった。


「あ、ひ、ひひひ」


 もう一人は狂ったように顔が引きつっている。かわいそうに。

 かおるの今の表情はただひたすらに無である。何もない。今目の前にいる男たちに何も感じず何も思わない。人が蚊を殺すときですら感情の揺らぎは存在するだろう。その一切を排除されたかおるの表情は今目の前にいる男たちの存在を否定するには十分な威力があった。


「去ね、うじが」


 かおるの木刀が男の頭を吹き飛ばして、粒子へと変わる。これで、戦闘は終了した。かおるは軽くほこりを払って木刀を腰に差す。


「かおる、PVP設定にはしていたか?」

「もちろん。当たり前じゃん」


 PVP設定とは、基本的にはお互いの了承がある場合によって展開される。これはどこのゲームでも一緒であろう。

 しかし、このゲームは攻撃をしてきた相手に対してPVPの認証を出す場合強制的に相手が了承したとみなされる。そうすることによって、攻撃してきた相手をぶちのめすことが出来るようになるのである。

 このゲームってPVP以外では街中でダメージを与えられないのだ。だから、相手を倒すために、PVPの土俵に上げる必要があったわけだ。ちなみに、ダメージは与えられないが痛みはある。先ほどの男は痛みで屈服させようとしていたのだろう。バカかな?


「さて……次はどこに行く?」


 俺は師匠の方を見る。


「そうじゃのう……。あ、本屋によってもいいかの?」

「これまたどうして?」

「読み終わった本が増えてきたからの。新しい本を仕入れておきたいのじゃ」

「なるほどね」

「じゃあ、私は本屋でいいと思うよ」


 では、本屋に行くことにしようか。別に誰も異論はないみたいだしな。


「じゃあ、師匠道案内よろしく」

「任せろ」


 師匠を先頭にして歩くと、野次馬がいたことを思い出す。いまだにこちらをじっと見ている。


「なにか?」


 かおるが腰に手を当てながら聞いてみると、ざっと人がわかれて道が出来る。先ほどの戦闘でかおるの危険性の一端を垣間見ることが出来たことで、他のプレイヤーはおとなしいものである。

 俺たちは師匠の後に続いて本屋へと歩き始めた。


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