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第十一話


「…………お」


 何か来たか? いや、来たな。かすかに魔力があることがわかるぞ。今までの修行で感知できていた場所に反応している。これは魔力感知できている? 出来てない? 出来てるな。


「し――」


 あ、ダメだ見失った。別のことをしようと思うと感知できなくなるな。


「どうした?」


 師匠は俺のかすかなつぶやきですら聞き取ったようである。ありがたい。


「ほんのわずかですが、魔力を感じ取れたもので」

「ふむ、やるのう。その調子じゃな。まあ今は少し休憩しなさい。気を張り詰めてもいいことはないからのう」

「はい」


 お言葉に甘えて少し休憩しよう。そして、今の感覚を反芻するのだ。

 今の時間はゲーム内で午後四時。昼食から四時間たってようやくかすかな魔力を感知できた。しかし、目標はまだまだ遠い。自転車を真っ直ぐ走らせられるからといって満足してはならないのだ。

 で、俺の家族はつい先ほど俺と同じ修行に入った。みんなして座禅を組んで魔力を感じ取ろうとしている。座禅は気分だ。正座でもいいぞ。

 では、再開しよう。もっと確かに魔力を感知できなくてはな。


「もうそろそろ夕食の時間じゃな」

「では私たちが作るわね」

「あなたたちはくつろいでて」


 母さんたちがキッチンへと向かう。もうそんな時間か。この修行で一日潰すとは、なんと難易度の高い修行であるか。というか、これゲームだよね? ゲームなのにこんな難易度高いの? EXスキル?

 まあ、俺はようやく集中していれば魔力を感知できるようになったところである。当然俺の魔力だ。外の魔力は感知できない。それには、自分の魔力を常に感知できなくてはならないらしいからな。食事中とかでも。


「スバルはどう?」

「少し進んだってところだな」

「スバルでもそんなにかかるのなら、私たちも結構時間がかかっちゃうね」

「そうだろうな。まあ、時間かかってもらわないと、俺の才能がないということになってしまうけどな」

「ひどいなあスバル。あ、この文字は?」

「これは……『ん』だな」

「これも?」

「これも」


 今俺は? かおるに文字を教えている。魔族語のだな。


「スバルよ。おぬしの『ん』はnの『ん』じゃ。これはmじゃよ」

「いや、俺も昨日覚えたばかりなんで細かいところは見逃してほしいんですけど」

「だめじゃ」


 ということで、俺とかおるで師匠の魔族語講座を受講することにした。ついでに精霊語もさわりだけ教えてもらえる約束も取った。これで、精霊語もマスターしてやるぜ。


「ご飯出来たわよー!」


 月子母さんの呼びかけで師匠の言語講座は終了。俺は自作の対応表をかおるに貸すことで、かおるも魔族語はすんなりと覚えることが出来た。精霊語もさわりは教えてもらえた。

 精霊語は? 英語? そんな雰囲気。しかし、さらにそこから大きく分かれるらしい。エルフとドワーフは同じ精霊語を使う。でも、イギリス英語とアメリカ英語のような違いがあるらしい。つまり、俺は師匠のエルフ訛りの精霊語を覚えるわけだ。問題ないね。


「お兄さんたちは、何をしていたのですか?」

「精霊語の勉強」

「精霊魔法とかのですか?」

「ほっほ、違うぞ。精霊に語り掛けるのは古代精霊語じゃな」

「また覚えたくなる言語が増えてしまいましたよ師匠」

「わしも古代精霊語は教えられんぞ」


 ならばどこで覚える必要があるのだろうか? 精霊と会話できる人がいるのか? 遺失言語の可能性があるな。 俺が復活させたら? 最高だな。目標の一つにしておこう。もし、誰も話せないという場合の話だけどな。


「さて、夕食にしようかの。準備も終わっているようであるしの。」


 というわけで夕食の席に着く。この光景は毎日見ている。一人多いけど。師匠のことだ。それ以外はただの日常風景である。姿は違うが。


「ごちそうさまでした」


 夕食をおいしくいただいて、修行を再開でもしようか。ようやく魔力を感知できるようになったわけだしな。この感触を忘れないうちに体に覚え込ませる必要があるのだ。

 しかし、いまだにスキルに魔力感知は出てこない。本当にEXスキルな気がしてくる。そんなわけはないと思いたいけどな。

 そうして俺たちは風呂にかわるがわる入りながら、修行を続け、就寝時間になってしまった。うむ、今日は本当に魔力の修行で終わったな。


『スバル?』

『メルか、なんだい?』

『今大丈夫?』

『大丈夫だよ』

『ふふ、スバル』


 メルの声が弾んでいるのがよくわかる。初対面の時の凛とした雰囲気を纏った美女の様子は? 存在しない。だが、問題ない。本来のメルとはこういう娘なのだろう。可愛らしい。


『メルは、今日何をしていたんだ?』

『今日はね……街に行って跡継ぎを探してもらえるように申請してきたのよ』

『お、もう行ってきてくれたのか。早く決まるといいな』

『うん、わたしもそう思う。夢でスバルと会えたけど、現実でもスバルと会いたい』

『俺も会いたいよメル』

『スバル』

『で、これから何かすることとかあるのか?』

『特にないわ。だから、暇つぶしにアクセサリーでもまた作ろうと思うわ』

『お、そうか。俺はメルのアクセサリー好きだからな。メルの作ったものが見れないのがちょっと残念だ』

『わたしもスバルに見てもらいたいわ。だけど、こればっかりはね。もっと話していたいけど、明日もあるし、もう寝るわね』

『うん、おやすみ、メル』

『おやすみ、スバル。愛してるわ』

『俺も愛してるよメル』


 こうして交信は終わる。俺のMPも限界ぎりぎりだったのでここで切って正解であっただろう。

 で、隣に座っているかおるが俺のことを目を見開いて感情の一切を排除したような顔で見ている。ちょっと怖いが、その顔をきれいだと思っている自分がいる。いた、とても綺麗だ。この評価が覆ることはない。嫉妬からきているのだろうか、その顔ですら愛おしいのだ。


「とても幸せそうな顔してるけど、なにかあった?」

「今、メルと話していたんだよ」

「ふーん……」


 かおるは少し考え込むような顔をした後、俺の顔を再び見つめ、ニッと笑うと俺に抱きついてくる。俺は薫の頭をやさしくなでる。


「ふふん、私はスバルに頭なでてもらえてる」


 俺はかおるが満足するまで優しく頭をなで続けるのであった。


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