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立ち向かう

 「何をしているのですか、レミィ?」


 

 レミィの後ろ、暗い廊下から声がする。レミィへ対しての高圧的な態度、恐らくこいつがこの事件の首謀者なのだろう。コツコツと靴音を鳴らしながらそいつは近づいてくる。そして、姿を現す。



 「あなたはフランツ家の……」



 「いかにも私、グスタン・フランツで御座います。以後お見知りおきを、リンデ様」



 フランツ家、その言葉で思い出す。三大名家の一つを潰して自分たちが王家に取って代わろうとしている。アイリスに教えてもらえたのでこれだけは言える。こいつは紛れもなく敵だ。リンデにとっても、リバイン家にとっても……。でも、どうしてレミィは?


 「それよりレミィ、どうしてとどめを刺さないのですか? あの犬がどうなっても良いのですか?」



 「あなたまさか、ジョセフィーヌを?」


 グスタンの言葉にリンデが声をあげる。ジョセフィーヌ……。思い出した!! リンデとレミィが可愛がっていたって言う……。


 その言葉に、レミィは唇を噛む。目線だけは未だにリンデが敵かのように睨んではいるが、その姿は今にも泣きだしそうで見ているだけで痛々しかった。それだけで、彼女が今までどれだけの苦痛と闘ってきたか、どれだけの苦悩を抱え込んでいたか分かる気がする。それはまだ幼い子供が背負うには大きすぎるものだ。



 「……そうよ、……ええ、そう。みんな私から離れていくのに一人だけそばにいてくれた家族よりも大切な親友が人質にされてるのよ。……だから私は助けないといけないのよ!!」


 レミィが叫ぶ。俯いて感情は読めないがジョセフィーヌをどれだけ大切に思っているかは分かる。だからこそ、その後ろで不敵な笑みを浮かべるグスマンが憎らしかった。全てはこいつの計画なのだ。




 そして、ふと思い出す、今まで気づかなかった。


 俺はグスタンを見たことがある!! あの時は少し意識が朦朧としていたこともあり、記憶の浅い部分にでも捨てられていたのだろう。でも、確かに思い出した。レミィに監禁された日、俺はあの、グスタンとかいうおっさんの跡をつけていたんだ。その途中に……


 え? 今までレミィの行動が分からなかった、監禁をしておきながらリンデの前に立ち塞がる俺に何故攻撃しなかったのか? 何故躊躇っていたのか? それが一本につながった。




 まさか、レミィが俺を閉じ込めたのは、グスタン見つからないようにするため? 俺がジョセフィーヌのようにならないため?



 確証はない、でも筋は通っている。犬好きのレミィが俺を監禁した理由も、俺を攻撃できなかった理由も。一瞬でもレミィを敵視したことに後悔する。だってその仮説が真実ならばレミィは俺を助けようとしてくれたのだから。俺を守ろうとしてくれたのだから。




 「死ねええええええ、グスタン・フランツウウウウ」



 獣のように野性的な叫び声をあげて一人の青年が部屋に飛び込んできた。それは他でもない門番のアルトだった。刀を振り上げグスタンに迫る彼の目には殺気が感じられた。そして、彼の刀はグスタンを真っ二つに……出来なかった。アルトは刀の刃をグスタンの首に向けて停止していた。何が起こったのか分からない。でも、アルトの目に未だ殺気が宿っていることが恐ろしかった。彼の目が物語っているのだから。お前を殺してやると……。



 グスタンは自分の目の前の光景ににやりと笑う。首筋からはうっすらと血が滲んでいた。アルトの刀の刃が少し当たったのだろう。しかし、そのアルトは彼の目の前で止まっている。この奇怪な状況、意味が分からなかった。


  「おやおや、これは久しい顔ですね」


 グスタンはそう言うとアルトの鳩尾を殴った。


 

 「ガハッ」


 アルトはそのまま吹き飛ばされ廊下に壁に激突する。その衝撃はひびの入った壁を見るだけで一目瞭然だった。グスタンは近づいて彼の首を掴み持ち上げる。



 「噂を聞かないと思ったらこんなところにいらしたのですね。落ちこぼれ家の落ちこぼれ長男さん」



 「う……るさい、全……部、おま……えの、仕業……だろ」



 「さて、何のことでしょう?」


 

 「おま……えが……カルセフ家……を……」


 「魔法を使えない人間が当主の家など御三家には必要ないでしょう、妹は妹で壊れてましたしね。恨むのなら家を守れなかった自分の腕を自分たちを無能に生み無能に育てた両親を恨んでください」



 「!!! 家族の事まで……悪く言うなああああ」


 アルトは首を掴まれたまま、グスタンの顔に向けて拳を振る。……しかしその手がグスタンの顔に届くこともなく止まった。グスタンはアルトを窓から投げ飛ばす。



 カルセフ家、確かフランツ家に滅ぼされた元三大名家、今の言葉から察するにアルトがカルセフ家の当主だったのを滅ぼされたのか? でもアルトはかなり若く見えるのだがそんな年で当主だったなんて……。


 「アルトに何をするの!!」



 リンデがグスタンに向けて怒鳴る。今まで聞いたことない程の語気の強さだった。それがどれだけリンデがグスタンに怒っているかを物語っていた。優しいリンデには彼のやっていることは許せないのだろう。でもそれはリンデだけじゃない。俺だって許せない。そして……。



 「……ゴメン、ジョセフィーヌ」



 レミィが反転し、グスタンに体を向ける。事実上グスタンに対する敵意だ。


 

 「良いのかな? あの犬がどうなっても」




 レミィにはもう迷いはなかった。 



 「私は変わらないといけないの。過去の幻想だけを思い描くわけにはいかないの。ジョセフィーヌもきっとそれを望んでくれるはず。だって……私の友達だから!!」



 次の瞬間、レミィはグスタンに炎魔法を撃つ。しかしグスタンも間一髪のところでかわし続ける。一進一退の攻防。グスタンは避けるのに精一杯でなかなか攻撃に転じられない。このままいけばレミィが押し切れる。



 そう思っていた。でも……

 

 「何これ?体が……」


 

 「では行きますよ」



 そういうとグスタンは一気にレミィの懐に飛び込む。すぐにレミィもシールドを張る。でも目の前にはグスタンはいない。


 「レミィ、後ろ!!」



 「ぐぅぅぅっ……………………」



 レミィはグスタンの攻撃をもろに受けてしまい壁に激突する。そのままピクリとも動かない。ゼロ距離のシールドを張れていない状態で魔法を食らったため意識を失ってしまったのだろう。グスタンはレミィにゆっくりと近づく。


 「はぁぁぁっ」


 そんなグスタンに向けてリンデも魔法を撃つ。しかし、やっぱりグスタンには当たらない。



 「おやおや殺されたいのですかな、リンデ様?」



 「何を言っているの、あなたの狙いは私なのでしょう?」



 「いえいえ、こうなった以上レミィも殺さなくては……でも……」



 「お望み通り、あなたから殺して差し上げましょう」


 にやりと笑った瞬間、グスタンはリンデとの距離を詰める。リンデもシールドを張って応戦する。しかし……



 「体が……重い……」


 リンデのシールドを張る速度が徐々に落ちていく。見ている分には如何してなのか分からないし、それどころか当のリンデも何故か分からず、何の対策も取れずにいた。リンデを助けないといけない。じゃないと負ける。そう思った瞬間……。



 「!!!!!!」



 体中を激痛が走る。体が重いとかそういうのではなく単純に物理的な痛み。槍が体を貫通しているような感覚に陥る。無論、実際に貫かれているわけではないのだが、体は動かない。こんな大事な時に……。これも敵の罠なのか?


 

「きゃああああ」



 リンデ!!

 叫び声の先にはレミィと同じように吹き飛ばされ壁に激突しているリンデがいた。何とか意識はあるようだがその場から動かない、いや動けないのかもしれない。



 そんなリンデを見てグスタンはゆっくりと近づいて行く。まるで勝ちを確信しているかのように、リンデにその事実を見せつけるように。



 「(クソ! リンデを助けないといけないのに何だよこれ!! 心臓に刃物が突き刺さっているように思える程の鋭い痛みが……。)」



 そして次の瞬間……



 吹き飛んだ……。




 グスタンが。



 「クソ誰だ!」



 「何をしているんですか? マイファーザー」



 そこにはリンデの父、ヴォルフが立っていた。


 

 「何故だ? お前は昔から自分の為にしか行動しない人間だったのに……。まさか俺の邪魔をするとはなあ」


 「ああ、そうさ。ミーはミーの為に行動する。ミーが楽に暮らせるならそれでいい」


 「じゃあ、何故……俺に歯向かった?」



 「次期女王候補が二人ともユーに敵対したから。それ以上に正当な理由があるとお思いで?」



 「ふん! 後悔することになるぞ」


 そういうとグスタンは崩れた壁から立ち去っていった。


 アイリスの言った通り、グスタンでもヴォルフには敵わないのだろう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「本当に良いのですか?」


 リンデが父であるヴォルフに尋ねる。



 「ああ、いいさ。ミーはワンダフルでピースフルなライフを送りたいからねぇえ」



 リンデの母であるサラス王女の殺害犯がこのままではレミィになってしまう為、父であるヴォルフがその罪を被った。とはいえ、ヴォルフは刑務所なんかに行くのではなく別荘でひっそりと暮らすようである。正直にグスタンの事を話してもリンデ新犯人説が浮上しているこの国では信じてもらえないだろうと考え、こういう方法を取った。まあ、本人が仕事しなくても良くなると喜んでいるのなら良いか。


 「全くレミィはどこ行ったのかしら?」


 リンデは辺りを見回す。がどこかで見守っている様子もない。



 「レミィは来ないよ」


 「どうして、父様?」


 「もう迎えに行ったよ、親友を」


 あの後、ヴォルフはすぐにフランツ家に調査団を向かわせた。その結果、一応ジョセフィーヌと思われる一匹の犬を発見したのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 誰もいなくなったフランツ家の庭の端。痩せ細り動かなくなった一匹の犬がいた。




 「ごめんね……。ごめんね、ジョセフィーヌ」



 どうやらこの犬はエサを与えられてはいなかったがギリギリのところで何とか食料を確保していたようだ。それでも、最終的には動けなくなり、そのまま衰弱していったようだ。



 「私が……私がもっと早く……助けていれば……」



 「本当は分かっていたの。あいつがジョセフィーヌの世話なんてしてるわけないって。そんな人間じゃないって……。でも、怖かった。本当に死んでいるジョセフィーヌの姿なんて見たくなかったから。そんなの見たら自分が殺したってきっと思っちゃうから。だから……私はあなたを見捨ててしまった……。ジョセフィーヌ、頑張ってたのにね。ごめんね。ジョセフィーヌ、本当にごめんね……」




 一人の少女は涙ぐみながら亡き友に誓った。



 もう現実から逃げない。何があろうと立ち向かう……と。



これにて1章おしまいです。2章はもう少し後の投稿になると思います。

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