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公平な取引

 「あなた本当は犬じゃないんでしょ、いったい何者なのよ?」




 こいつ、何でその事知ってんだよ! こいつ何者なんだよ?



 もしかしてこいつが黒幕なのか? こいつのせいで俺はこの世界に飛ばされたのか? こうやって二人きりになって何を企んでやがるんだ?



 「多分あなた、盛大に勘違いしてるなのよ。私は少し魔法が使えるだけなのよ。少し人の心を読めるだけなのよ、それよりあなたは何者なのよ? 人間なんでしょ?」


 人の心が読める? いや、信じるにはまだ早い。俺が人間だって知ってるんだからまだまだこいつが犯人の可能性もあるんだ。人の心が読めるのなら読んでみろ、この幼女!




 「幼女って言うななのよ!一人前のレディなのよ。それはそうとどうしてあなたが人間だと分かったか教えてあげるなのよ。じゃないと先に進みそうにないのよ。さっきも言ったけど私は人間の心が読めるなのよ。逆に言うと、残念ながら動物や植物の心は読めない。でも、あなたの心は読めるなのよ。つまり、あなたは正真正銘人間なのよ」


 俺の心の中と会話できている。確かに心の中を読まれている。


 「あなたは私と同じ特殊魔法の持ち主なの?」



 と言われても俺は何も知らない。もちろん魔法なんてものも使えない。正確には使えるのかどうかが分からない。四足歩行に違和感が無かったりドッグフードが美味しかったりしたのだから、この犬がもともと魔法を使えるのなら俺にも使えるかもしれない。でも、俺はその使い方を知らないんだから使えないのと同じ状況が生まれている可能性もある。


 「犬が魔法を使うなんて聞いたことないのよ。唯一可能性があるとすれば私と同じ特殊魔法の持ち主だけなのね」


 特殊魔法って何?


 「魔法には通常魔法と特殊魔法があるのね。私の兄様の場合は通常魔法の中の火属性を操れるなのね。一方、純粋な物理攻撃じゃないものは全て特殊魔法に分類されるのね。その一つに他人の心を読める心眼があるの。私はそれを使っているなのよ」


 じゃあ、もし俺がその特殊魔法を使っているとしたらこれはなんて技なんだ?


 「一度だけ本で読んだことがあるのよ。確か、変化へんげなのよ。用途としてはスパイ目的として使われるらしいなのよ。そして、あなたが住みついているのはこの国の王家なのよ。疑われない方がおかしいレベルなのよ」


 ああ、そうだった! ここは王家だったんだ! 確かに、そう言われるとあまりにも怪しすぎるだろ。人間なのに犬になってたり、その理由も分からないの一点張り。



 「安心しなさいなのよ。信じてあげるなのよ。通常魔法も特殊魔法も知らない魔法使いなんてこの世にいるわけないのよ」


 あれ? 今しれっと馬鹿にされた? い、いやいやもしかしたら実は全部演技。本当は秀才で……。


 「それはないのよ。嘘をついても心の中まで変えるのは普通無理なのよ。確かに一握り程なら出来る人もいるかもしれないけど、あなたは反応が素直すぎるなのよ。それじゃ、心の中を偽るのは不可能なのよ。それに……」


それに?



 「スパイはターゲットの足元から上を覗いて今日は白かなんて思わないなのよ」



 すみませんでした。許してください。何でもしますからー。誰にも言わないでくださいー!


「じゃあ、取引なのよ」


 取引?


 「そうなの、黙ってあげる代わりに兄様とリンデの結婚を阻止してほしいなのよ」



 あの、それは取引ではなく脅迫では?


 「……確かにそうかもしれないのよ。じゃあ、無知なあなたの為に三つの質問に答えてあげるなのよ」



 よし、その取引乗った。俺もやすやすとリンデを渡すつもりはないからな。じゃあ一つ目の質問、リンデの母さんサラス王女を殺したのがリンデだと思われているのは何故だ? 


 「知らないのよ。ゴシップには全く興味がないのよ。次の質問を早くするのよ」



 いやいやいや待ってくださいよアイリス様! 流石にその回答は酷くありませんか? せめてノーカンにしてくれませんか?


 「ノーカンって何なのよ?」


 ああ、つまり最初の質問は無し、無かったことにしようってことだ。だから、後三回質問させてほしいってことだ。その方が公平だと思うんだ。


 「分かったなのよ、但し今回だけなのよ」


 でも、一番聞きたかったことが聞けないとは……。後は……。この国の中核に関わることで知りたいこと。んん、そうだ、三大名家について聞きたい。どうして王家の結婚相手に選ばれるのはその三家だけなんだ? 血が濃くなってあまり良くない気がするんだが?


 「むしろ逆なのよ」


 逆? どういうことだ?


 「魔法を絶やさないために血を濃くする必要があるのよ。この国で魔法を使えるのは三大名家と王家、リバイン家だけなのよ。だから、王家はその三家から選ぶのよ。いや、選ばざるを得ないのよ。王家の人間がもし魔法が使えなければ三大名家が取って代わろうとしても抗えないのよ、抗ったとしても太刀打ちできないのよ。そうなると、この国はまた乱れることになるのよ。だから、王家は三大名家から婚約者を選ぶの。自分たちの地位を守るためにね」


 なるほど、普通の人間とは違うのか。あれ? じゃあ、リンデの父さんも三大名家の出身なのか?


 「それが二つ目の質問ってことで良いなの?」


 くっ、ずる賢い。分かった。それが二つ目の質問だ。


 「そうなのよ。リンデの御父様、というよりサラス王女の夫、ヴォルフ・リバインは三大名家の一つ、フランツ家の出身なのよ。それからもう一つ、三大名家という言葉はもう古いなのよ。今はエステル家、フランツ家の二大名家なのよ。残りの一つだったカルセフ家は潰されたなのよ。もう今から六年前の事なのよ」


 何で潰されたんだ? 誰が潰したんだ?


 「んんー、それを三つ目の質問にしたいけどお家の為に応えてあげるなのよ。何で潰されたかは簡単なのよ。王家を継げるのは三大名家だけなのよ。つまりその内の二家を潰せば実質その家も政治的には王家と同等の権利を得られる。ようするに、ライバルは少ない方が良いってことなのよ。それに、当時はエステル家とフランツ家に比べてカルセフ家はかなり落ちぶれていたなのよ。その二家にとってカルセフ家を滅ぼすのは造作もないことなのよ。そして、カルセフ家を滅ぼした犯人についても簡単なのよ。我がエステル家は手を出していないのよ。そして、王家のリバイン家はそんな自分たちの立場が危うくなるようなことは普通しないなのよ。じゃあ、残るは一つ、フランツ家だけなのよ」



 確証はないが今はそういう事にしておこう。ところであと二つ質問したいことがあるんだけど……。



 「ダメなのよ、一つだけなのよ」



 仕方ない、じゃあ最後の質問だ。ぶっちゃけ魔法使いの中で誰が強いんだ? 血が濃いのならリバイン家の人間が一番強いのか?


 「一概には言えないのね、特殊魔法と通常魔法はどうしたって比べられないのよ。だから通常魔法を操る者で生きている人間と限定した場合は恐らくヴォルフ・リバインなのよ。だから、血が濃ければ魔法を使える可能性は高くなるけれど必ずしも強くなるわけではないのよ」


 ヴォルフ・リバインってことはリンデの父さんか。そんなに強そうなイメージが持てないぞ。



 「じゃあ取引成立なのよ、絶対に兄様とリンデの結婚の邪魔をして頂戴なのよ。私は家に帰るなのよ」



 了解。全力で邪魔しよう。


 





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