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トラブル

 俺は今、転移魔法で飛んでとある辺境の街、フィクサのかなり巨大な工房にいる。ここは俺のゲームでの本拠点に隣接する自作の工房だ。まさか魔物の跋扈する廃墟として有名になってるとは思わなかったが。時折腕試しにここを訪れては壊滅する冒険者パーティがいたらしい。そりゃ70レベルかそこらで300レベルを超えるアイアンゴーレムを倒すのは難しいだろう。だが、ゴーレムの核からこの世界では貴重な魔法鉄が採れるらしく、一攫千金を求めて来る冒険者が後を絶たない。仕方なく商業ギルドに行き、拠点と工房を買い戻した。まさか2回も同じ場所を買うことになるとは……工房を建てたのは俺なのに。魔物が跋扈するからと価格が安かったのが救いか。

 まず最初に『私有地につき立ち入り禁止』の看板を立てた。作業中にずかずか立ち入られると困るしな。作業中じゃなくても困るけど。次に今までで倒されたゴーレムを補充し、そして奥のマジックボックス(異空間箱)を開いた。うん、何も減ってない。良かった。これで魔法転移の使用、マジックボックスの確認と目的は終わったな。ゴーレムが減ってるのは予想外だったけど。

「―――――――!」

ん?外が騒がしいな。俺は音源を探ろうと表に出た。


「ふざけるな! 昨日までここは出入り自由だったじゃないか!」

「だからここを買い取られた方が……」

「なんで売ったんだ! ここは冒険者の物だろう!」

冒険者パーティらしき人達と商業ギルドの職員らしき人が口論している。いや、冒険者が駄々を捏ねているだけか? 面倒だが、持ち主としては行くしかないか。

「煩いぞお前ら。口論なら他所でやれ」

俺は至極面倒くさそうな顔で傍へと歩いていく。

「ここを買ったのはお前か!返せ!」

冒険者達が詰め寄ってくる。

「返せと言われても、ここを買ったのはお前等じゃなくて俺だ。それにそもそもここは俺の物だ。長く空けてる間に廃墟として扱われたようだが」

「ふざけるな! 俺達は昨日やっとここに辿り着いて、今日から攻略を始める予定だったのに!」

「そうよ! それが買い取られたから入れませんなんて、私達の苦労とか路銀はどうするのよ!」

思ってたよりも面倒だなこいつら。

「知るかよ。そんなに入りたかったら俺が来る前に買っておけば良かっただろうが」

「冒険者の中ではここは皆の物だから買ってはいけないって不文律があったのよ! それをあんたが!」

「買えるものなら買ったさ! 何せ宝の山だからな!」

アイアンゴーレムの核(魔法鉄)が宝の山なのか……聞けば聞くほど技術レベルの低さが際立つな、この世界。もしかしてポーション類もそうなんだろうか。まあ、それはそうと。

「話を聞いてなかったのか? ここは元々俺の場所だ。それを勝手に入って荒らしまわって、所有物のゴーレムを壊して素材の魔法鉄を奪い取る。しかもそれを所有者の前で言うなんてな。それなら冒険者よりもこそ泥の方が合ってるんじゃないのか?」

俺は蔑みの視線を向ける。すると……。

「何だとてめえ! 誰がこそ泥だ!」

剣を抜いて切りかかってきた。単細胞かこいつ。そこで俺は仕方なく(・・・・)スキル〈破砕する腕(ブラストアーム)〉を発動させ、剣を横から殴りつけた。パキィン! と甲高い音を立てて剣は簡単に折れ、刃先は地面に刺さる。

「なっ……」

剣を振り下ろしてきた冒険者はポカーンと口を開けている。武器を壊されるのは予想してなかったってか?冒険者の質も悪いのか……。

「お、おま、よくも俺の剣を!」

「先に切りかかってきたのはお前だろうが。殺されなかっただけマシだと思え」

「くっ……!」

憎々しげに睨んでくる。はぁ、仕方ない。

「なあ、職員さん」

「は、はい! なんでしょう?」

「剣で切りかかってきた冒険者はどうしたらいい? 衛兵の詰所か?」

「そ、そうですね。呼んできましょうか?」

「ああ、頼む」

一刻も早く終わらせたいんだろうな。俺もだが。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

青ざめた顔で冒険者が話しかけてくる。

「……なんだ?」

「お、俺が悪かった。だからそれだけは……」

「そうだ、お前が悪い。なら、罰を受けるのは当然だろう?」

職員はおろおろしている。本当に商人なのか、こいつ。

「職員さん、早く」

仕方なく声をかける。すると職員は詰所へと走っていった。

「な、なんでだよ! 謝ったじゃないか!」

「殺されかけたのに謝られただけで許せってか」

馬鹿かこいつ。仲間達も剣を抜いたのはやり過ぎたと思っているのか、少し離れて小声で会議をしている。

「そ、それは……なら、金を払う! それでどうだ?」

「金か。幾らだ?」

ゲームでの鍛冶師としての俺の資産は少なく見積もっても3兆2500億レミリはあった。今の技術レベルから考えると、更に上だろうな。……インフレしすぎだとは思うが、GPO唯一のマスタースミスだったんだ。それに、他の皇からすれば寧ろ少ない方だったしな。

「ご……いや、十。十万でどうだ?」

「いるか、そんな端金」

3兆以上の資産を持つ俺の命が十万だと? 馬鹿にしてるのか?

「なんだと! 吹っ掛けようとするな!」

「……この広い屋敷と工房、そしてアイアンゴーレムを作るための魔法鉄を持つ俺の命が十万だと? 馬鹿にしてるのか?」

軽めにスキル〈威圧(コーション)〉を放つ。目の前の冒険者は更に青ざめている。……弱いなあ。

「な、なら幾らだ? 五十万か? 百万か?」

「その程度か。ならお前には払えんな」

「ちょっといいかしら」

仲間の女冒険者が声をかけてくる。

「お、お前等! 金を貸してくれえ!」

情けない。衛兵はまだか?

「レオ、貴方を私達のパーティから追放するわ」

「なん……だと……。お、お前等だって入ろうとしてたじゃないか!」

「そうね。でも、私達は話し合いで解決しようとした。なのに貴方は剣で脅すどころか切ろうとした。そんな人をパーティに入れたままにはできないわ」

話し合い、ね。物は言いようだな。

「ぐっ……!」

レオは顔を真っ赤にして怒っている。仲間に裏切られるとは思ってなかったのだろう。と、到着したようだ。

「おい君」

鎧を着た男達――恐らくは衛兵――がレオの肩に手をかけた。

「うるせえ!」

レオはその手を振り払う。

「……捕らえろ」

衛兵達がレオを組み伏せ、後ろ手にして縄で縛る。

「なんだ……え……?」

漸く衛兵が相手だと気付いたのか、慌てだす。

「ちょっ、まっ……」

レオはそのまま衛兵達に引っ張られていった。

「大丈夫でしたか?」

衛兵の1人が声をかけてくる。俺は大丈夫だとだけ言ってその場を後にした。……拠点に帰っただけだが。

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