剣闘大会
「……しまった」
俺はぼやいていた。先日のザックとの件が広まり、剣闘大会に興味を示す者が増えてしまったのだ。初心者用のものと思われていたレザーコート――実際は火鼠の皮衣を使ったもので、高級フルプレートアーマーにも匹敵するDEFを持った最高級品――で何物をも断ち切ると言われたザックの戦斧を耐えたのだ。話題にならない方がおかしい。俺の元には先日のように冒険者達が集った。いや、その人数は更に多かっただろうか。まあ、次来たら大会参加権を剥奪すると言ったら来なくなったのだが、それでも外を出歩くと窺い見るような視線をかなり感じた。これも大会までの辛抱……一層の事帰ってやろうかとすら考えた。そんなことしたら間違いなく悪名が広まるだろうけど。……いや、どうせ引き籠るから問題ないのか? まあ、約束してしまったし、闘技場も借りてしまった。今更戻れないか。
・・・・・
そして大会当日、集まった参加者はおよそ1200人。中にはザックもいる。前に見た戦斧とは別の戦斧を背中に携えている。集まった人数が多いので、最初は100人でのバトルロワイヤル形式の予選が開かれた。その9回戦目だっただろうか。俺は1人の少年に目をつける。その少年はレベルが低く、剣の腕も粗雑だった。しかし、不思議とその少年に引き込まれる。まるで土塊塗れのオリハルコン鉱石を見たような、そんな感情が溢れるのだ。
「あの少年は何て名前だ?」
「はい、少々お待ちを……アレンですね」
大会委員は思ってもいなかった臨時収入――多額の参加料と観戦料――にホクホク顔だ。そのせいか、その主催者である俺の多少のお願いは聞いてくれるようになった。
「アレン……アレンか。この試合が終わったら呼び出してほしい」
「分かりました」
試合に目を戻したとき、アレンは場外に転がっていた。だが、あの子は化ける。不思議とそう思えた。
結局アレン以外に気になる者は居らず、大会は閉会となった。変わったことと言えば、特別に大会委員から1位から3位までの選手に賞金が贈られたことくらいか。優勝したのはヘクターと名乗る槍使いだった。アレンとヘクターを呼び出し、どのような装備にするか訊ねると、ヘクターは槍、アレンはお勧めということになった。お勧めか……払えるかな。そう、あくまで作ってもらう"権利"であって、装備そのものではないのだ。材料費は勿論、製作費も掛かる。それでも2人は作ってほしいようだった。……アレンの視線に違和感を感じるが。
ヘクターは所持品の殆どを売り、更に所持金全額を注ぎ込んだようだ。総額5800万レミリ。これだけあればエルダートレントの枝とダマスカス鋼の槍が作れる。2日かけて"剛槍デモンアーク"を鍛造した。素材にエルダートレントの枝とダマスカス鋼を使ったと言ったら卒倒しそうになっていたが、何故だろうか。まあ、泣いて感謝されたし悪い気にはならなかった。そして問題はもう一人、アレン。何が問題なのかというと、なんと彼……作った武器を売るつもりだったのだ。
見どころがないのでサクッと飛ばします。