レギンシード
俺はゲーム序盤のクエストで手に入る召喚系低位アイテム、馬呼びの笛で一頭の馬を呼ぶとその背に跨りレギンシード、この周辺で最も大きく、闘技場のある街へと向かうことにした。拠点には対盗賊用にゴーレムに警戒態勢を敷かせ、村人に山へは絶対に入らないよう言い含めてからレギンシードへと向かう。山へ入らないよう言ったのは、盗賊と間違えて村人を襲うようなことを防ぐためだ。ただのゴーレムだと単調な命令しか理解できないしね。
マルネ村からレギンシードまでは一つの村を経由して馬車にして七日程度かかるが、馬単体で走らせた――荷物はマジックバックの中――ので四日で着いた。途中、一人旅で一見荷物がないように見えたからか、盗賊に襲われることはなかった。魔物には何度か襲われたが、簡単に蹴散らせたので割愛する。
・・・・・
レギンシードには無事着き、その足で闘技場へと向かい使用許可を得た。優勝賞品が装備を作ってもらう権利だと話すと変な顔をされ、集まらないだろうと言われたが、集まらなければ集まらないでいい。時間が短縮できるし。次いで冒険者ギルドに五日後に開催すると広告を出しに行き、そして宿屋へと向かった。
広告が届いたのか、次の日から近辺の町村より腕に覚えのある者らしき人達が集まり始めた。冒険者、傭兵、中には騎士までいる。……が、俺はそれを見て愕然とした。何せ殆どの者のレベルが70以下、高くても80前後だったからだ。低い……いや、魔物の強さを考えるとこんなものなのか……? これは自分も出場して誰にも作らない、なんてのもあり? なんて考えながら歩いていると、何かにぶつかった。
「おい兄ちゃん。どこに目付けて歩いてんだ?」
訂正、誰かだった。
「あ、すみません。ちょっと考え事をしてたので」
その横を通り過ぎようとすると、前に立たれた。
「兄ちゃんよお、人様にぶつかっといてすみませんだけじゃあなあ。ちゃんと誠意を見せようぜ、誠意を」
ん? ああ、絡んできてるのか。俺はやっとそいつの顔を見る。そいつは2メートルはあるかというような巨漢だった。縦にも横にも大きい。
「うわ、ザックに絡まれてる。可哀想に」
「傭兵としての腕はいいんだがなあ」
可哀想?……傍から見ればいかつい傭兵に、レザーコートを着た新米冒険者が絡まれてるようにしか見えないからか。
「ほう、では何をすれば良いのですか?」
「何って、そりゃあ誠意だよ」
具体的に何かと聞かれると、少し狼狽えた。あまり褒められた行為ではないってことは理解しているらしい。
「そうですね、今回の剣闘大会の参加資格を剥奪とかどうですか?」
「あん、どういう意味だ?」
ザックの顔が訝しげなものに変わる。
「主催者ですよ。剣闘大会の」
周囲からあれが……とか、思ったより齢いってねえな……とか聞こえてくる。
「ならちょうどいい。剣闘大会に向けての俺の武器作れや」
「お断りします」
何が楽しくて作らなければならないのか。嫌だから大会開くのに。
「あ? なんつった。もっかい言ってみろ」
「お断りします」
「……てめえ、いい度胸だな」
ザックが背から身長ほどもある戦斧を抜く。不純物の混ざりまくった鈍だが。んで、レベルは……78。通りで威圧してくると思った。強い方なんだろうな、たぶん。
「はっ、びびって声も出ねえか?」
「いや、その鈍で何するのかなって」
しまった。つい言ってしまった。
「この、こいつ……ブッコロスッ!!」
ザックが戦斧を振り翳し、振り下ろしてくる。悲鳴も出せないほどの急展開に、周囲の人々は戦斧で真っ二つにされた人間ができあがることを予想していた。……が、そのような展開にはならなかった。戦斧はレザーコートに直撃したが、それだけだ。切り裂くどころか、傷一つ付いていない。むしろ戦斧の刃に罅が入ったくらいだ。
「なっ……あっ……?」
ザックは何があったのか分からないかのように、呆然としている。
「だから言ったろ、鈍だって。そんなのじゃ通らねえよ」
俺は鼻を鳴らすとザックの横を通り過ぎ、違う意味で騒ぎになりつつあるその場を後にした。




