純鉄
結果から言えば、俺は旅の鍛冶師として村に入ることができた。ただ、その際かなり怪しまれたが。何せ旅の鍛冶師を名乗る割には荷物が少ないし、その装束は鍛冶師というよりはデストロイヤーだったからだ。火山装備のままだからね仕方ないね。荷物に関してはマジックバッグ持ちだと説明した。するとかなり驚かれたので、どうやらこちらではかなり貴重な物らしい。
それはそうと、大変なことを知ってしまった。第六感に反応した村の傍にあった小山が気になったので鉱物探知を使ってみると、なんとアダマンタイト鉱石が埋蔵されていることが分かったのだ。ゲームでは全く気付かなかった。そうと分かったなら即実行。村の村長と交渉して山を丸ごと買い取り、その中腹に一時的な拠点を建てることにした。とは言っても石造りの堅牢な拠点兼鍛冶場。山にはゴーレムを配置し魔物を狩らせ、小山を守らせた。拠点を構えてから村周辺での魔物の被害が減り、更には元々鍛冶屋のなかった村の一時的な鍛冶屋として暮らしているうちに、徐々に村人と打ち解けていった。この生活が崩れたのは山に住んでから2年後のある日、村の若者で結成された一つの冒険者パーティが村を出て行ったからだった。
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今、マルネ村には多くの冒険者や商人が詰めかけている。おかげで宿屋どころか村人の家まで余所者で溢れ返り、それでも足りず村周辺に野宿する者まで現れる始末。この原因となったのは先日旅立った村の若者で結成された冒険者パーティーに、その餞別として渡した装備類だ。俺は初期装備はこのくらいだろうと思って鉄製の剣や槍、弓矢に鎖帷子を渡したのだが、どうやらこの世界では不純物のない純鉄を精錬できる鍛冶師は殆どいないらしい。それ故に純鉄を取り扱える鍛冶師は国お抱えの者が多く、一般的な冒険者まで純鉄製の装備が回ってこないのだ。そこに現れた純鉄を取り扱え、尚且つ国お抱えでない鍛冶師。注目が集まるのは当然だろう。因みに純鉄、というか純鉱物が扱えないのであって、不純物の混じったアダマンタイトやミスリル等は製錬できるらしい。
閑話休題
俺は毎日訪ねてくる冒険者達に、何度目になるか分からない断りを伝えた。まず、人数が多い。全員に作るだけの時間を取るのが面倒なのだ。だが、一部の者だけに作ると不満が出る。だから誰にも作らないのだと説明している。次に、俺はそもそもゲームであった頃も頼まれても滅多に作らず、気に入った者にのみ作っていたのだ。そのせいか伝説の鍛冶師と呼ばれ、気まぐれに売った装備は高値で取引されていたものだ。だが、このスタイルを崩すつもりはない。次に、資金は有り余るほどあるのだ。今更鉄製の装備を売ったところで変わらない。そして最後に、今はゲームでは作れなかった装備――例えば銃――を作れないか試しているのだ。この邪魔をされたくはない。だが、向こうとしても生活が掛かっているからだろうか、中々引いてくれない。仕方なく俺はとある手段を取った。それは近いうちに剣闘大会を開き、その優勝者と個人的に気に入った者に装備を作るといったものだ。冒険者達もさすがにこれ以上の譲歩は取れないと判断したのか、拠点へと帰って行った。一部の者達は諦められないとごねていたが、剣闘大会の出場権を剥奪するぞと言ったら渋々帰っていった。商人は最初から相手にする気はなかったので、全て無視した。