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目覚めと確認

 ……眩しい。俺は思わず顔の前に手を翳した。そして、草花の揺れる音に耳を傾ける。

 ……いや、これはおかしい。俺はさっきまで病院のベッドに横たわっていたのに。草花の揺れる音なんて聞こえるはずがない。そして何より、腕が動いている。俺はトラックに轢かれ全身不随になり、生命維持装置に繋がれていたはずなのに。こんな草原に横たわって、生きていられるはずがない。そうか、だからこんな見たことも聞いたこともないような大草原なのか。所謂死後の世界ってやつ? ……いや、違う。この景色には見覚えがある。ここはさっきまで遊んでいたVRMMORPG、(G)イア・(P)ロジェクト・(O)ンラインのヴァンパー草原だ。その割には、記憶の中よりもグラフィックが細かくなっている気がするが。

「ピクシー、グラフィックが細かくなっている気がするが、アップデートしたのか?」

俺はピクシー――所謂喋るヘルプ――に話しかけた。が、返事がない。

「ピクシー?」

やはり返事がない。俺は不安になった。プレイ中はアルメトリオ火山地帯にいたのに気が付いたらヴァンパー草原にいるわ、グラフィックは細かくなっているわ。俺はウィンドウを開ける。無事に開けたことに安堵の溜息を吐き、下にスクロールして、そして固まった。それはありきたりで、使い古されていて、それだけに結果がほぼ決まっている現象――ログアウトがなかったのだ。


 俺はその場に座り、幾つかの仮説を立てた。一つ目は、運営のミスでログアウトが消失した。これだといいのだが、最近アップデートしたことも、する予定もない為に考えづらい。二つ目は、ゲームの中に閉じ込められた。これはもう、現実世界に戻ることは叶わないだろう。何せその方法が皆目見当も付かないからだ。三つ目は、GPOによく似た世界に転移した。ただの勘だが、恐らくこれだと思っている。ゲームの中なら、使えないボタンでも消失したりはしないからだ。それに、ピクシーがいない。最後に、これはただの夢。夢にまでゲームが出てくるとなるとかなり凹むが、これが最良だ。叶わないだろうけど。ともかく二つ目、三つ目の可能性が高いのだから、ここでぼーっとしてるわけにはいかない。幸い、装備やステータスはゲームのままのようだ。そして、キャラチェンジもできることが分かった。普段からゲームに入りっぱなしのせいか、四つのキャラ、ソーサラー、ガーディアン、スミス、アルケミストのレベルはカンストの650だし、その全てが至高の二十一皇の名を冠するキャラだ。ゲームのままのパワーバランスなら、強敵相手に勝てなくとも逃げることはできるだろう。そう思って歩き出した。……この予想はすぐに裏切られることになる。


・・・・・


 歩き出してから一時間後、俺はまた座っていた。今回は地面にではない、アーマードボアーと呼ばれる全身が硬い甲殻に覆われた大猪、その個体種(ネームド)であるクラッシャーの死骸にだ。

「おかしいなぁ、クラッシャーってこんなに弱かったか?」

 そう、弱かったのだ。この世界の魔物の強さを調べるために、まずは気を引こうと雷系下位魔法、〈電球(サンダーボール)〉を撃ち込んだら倒れて痙攣し、そのまま動かなくなってしまった。まあ、これ以上考えても仕方がないとナイフを取り出して甲殻を剥ぎ取り、マジックバッグ(大容量異空間鞄)の中に放り込む。ついでに肉も捌く。ツンとした血の臭いがするが、不思議と嫌な気分にはならない。キャラクターとしての俺は慣れてるからだろうか。

「他の魔物も弱体化してるのか?困りはしないが、張り合いがないな」

 クラッシャーの内臓をその場に埋め、残りはマジックバッグの中へ。

「ここから近いのは確か……アーガイル王国のマルネ村か」

 俺はマルネ村へと向けて歩き出す。こうして俺、村上 蓮……いや、カース・セレブレートの旅が始まった。

10/19:魔法名に日本名を追加しました。

11/3:魔法名を〈〉で囲みました。

12/4:一部加筆修正しました。

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