異世界仙人 ~魔王デッドエンド編~ 予告
こちらはイントロダクション話となります。
ぼう、とロウソクによって、顔が下から照らされた。
細い顎元は女性のそれで、年は十代中頃ほどか。リンとした声質は綺麗なもので、なかなかに将来有望な美少女といえるかもしれない。少なくとも妙な状況でも様になっているあたり、元々の顔立ちは整っていた。
「やあやあどうも、お集まりの皆様。アイハスです。本日は来ていただいて、まことにありがとうごぜーま――」
「何、この茶番……? ウチ、何で集められたんだ?」
しゃー! と窓のカーテンが開けられる。
ロウソクを持つ修道女を呆れたように見下ろすのは、これまた美女。しかしアイハスとは種類が違う。彼女を小動物と例えるなら、こちらは獅子のような肉食獣だ。テキトーに切られた赤毛に鉢巻。肩口からばっさり切られたパーカーのようなジャケットの下は、ややゆったりとした青いもの。もっともそれで彼女のスタイルの良さが隠されるわけでもないのだが。下もズボン系の格好であるはずなのに、ぴっちりと張り付いていてどうしてか肉感的でさえある。
「ていうか、皆様とか言ったってウチら二人しかいないだろ」
「いいんですよマリッサさん、こーゆーのは空気だって”チェイス神父”も言ってましたし」
ぶんぶん腕を振り回す少女、アイハス。何だかやたらとテンションが高い。
彼女はロウソクをテーブルに置き、ずいっと目の前の攻撃的美女につめよった。
「単刀直入に聞きます!」
「お、おう」
元々小規模とはいえ盗賊団の長をしていたはずの彼女は、なにやら得体の知れない桃色のオーラを放つ彼女に気圧されていた。スレンダーな彼女の胸が、肉付きの良いマリッサの腰にあたるくらいには距離が近い。顔が胸に埋もれないのは、執念のせいか、人体構造を無視したねじりが入っているせいか。
「――そもそも、メイラさんって誰ですか!」
嗚呼、とマリッサは何とも言えない顔をする。
マリッサ自身、その女性の事は全然知らないと言って良い。何度か「復興作業」の際に顔を合わせた程度で、思い詰めたような顔をした女性だったことを記憶している程度だ。感想といえば、どこか芯が強そう、とか東洋系の顔、というくらいなものである。
だがしかし、ここ二年としばらくか。
彼女が共に旅をする彼が色々と何やらやっているのは、どうやら彼女のためであるらしい。
「気が付いたらあのお方、ずっとメイラさんって人のことばっかりで……。何ですか、私の方が何ぞですよ、ていうか誰ぞ、ですよ!?」
「落ち着け、意味わかんねーからそれ。いやわかるけどさ。……というか、そもそもその本人は何処行ってるんだ?」
「こちらの宿でお世話になってる方の手伝いをなされてますよ?」
「……えっと、女のヒトだよな」
「ええ。年相応に綺麗な方でしたが……、それが何か?」
「何故この子は、自分から最大のライバルに塩を送るような真似をしているのだろうか……」
「何かいいました?」
「何でもねーさ。……そっか、ウチは聞いてるけど、アイハスは知らないのか……。(まあ常識的に考えれば、普通結びつきはしないか)」
現実ってのは非情だな、とマリッサは軽く頭を振った。
アイハスは、むっとして半眼でマリッサを見る。
「大体、貴女も貴女で謎ですよ。いつの間にかあの方と一緒に居ましたし。ていうかそもそもぉ、二年間一緒ってどいういうことですか二年間一緒って!」
「はは……、二年も一箇所で、定住するわけでもない生活ってのも結構大変だったけどなぁ……」
引きつった笑いを浮かべるマリッサだったが、そんな彼女の様子もアイハスはお構いなし。
「じゃあ、聞かせて頂けますか? その、私に出会うまでの間のことを」
「はっきり言って、最後の数週間くらいまでウチ的には大きな出来事もなかったぞ?」
だが、話さないことには梃子でもこの鬱陶しい視線から逃れる事はできなさそうだ。
ため息一つつくと、マリッサはアイハスの据わっている対面に腰を下ろした。
というわけで、まだしばらく不定期ですが、異世界仙人第二部も、どうぞ生暖かく見守ってやって下さい。↓
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