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幕間:当事者たちは決して知り得ない

宰側の事情をちょっとだけ・・・

おまけみたいなもので、本編とはあんまり関係ありません。


 

 

 ここは、果たしてどこだろうか。ドーム状の施設の内部のようだ。周囲は黒く、スポットライトのような証明が各所で光る。周辺にはコンピュータや分析機器など様々な設備が設置されており、白衣を着た研究員らがごった返していた。その中央には玉虫色と赤の混じった、混沌とした色合いの、それでいて妙に無視する事を許さない、球形の物体が設置されていた。

 そしてその手前に緑色の閃光が迸り、一人の少女が出現。黒いショートカットと、袖の辺りでとめている黒い和服。両手に清明桔梗の描かれた指抜きグローブをして、悠然と歩く十代中頃の少女。額には赤いチャクラが描かれており、独特の神々しさがあった。

「――二度折れると、人間ってもう立ち上がれなくなっちゃうから、そう考えれば無難なところに落ち着いたかな?」

 突如わけのわからないことを言う彼女に、周囲の研究員たちは敬礼をする。適当にそれに手をふり、その美少女、綯夜(ないや)(つかさ)は悠然と足を進めていった。

 丁度エレベータに乗ろうとしたタイミングで、彼女は足をとめた。開いた扉の中から現れたOLに、頭をがしがしされ、連行される。

「今度は何をやった? 宰」

「い、いやGM(ジェネラルマネージャー)、違うのだよ聞いてくれたまえ」

「納得できる理由を挙げられるのなら聞いてやるぞ」

 非常に男前口調な女性である。身長は宰より高く、靴はヒール。スカートタイプのスーツ姿でネクタイをぴっちり上まで上げ、きりっとした表情は酷くクソ真面目そうだ。丁寧に切り揃えられたセミロングの髪も、その印象に拍車をかける。

 研究室の外れにある、会議室の戸を開けて、彼女は宰を座らせた。自分も部屋に設置されているポットからお湯を注ぎ、粉茶をといた。

「で? “ドリームハート”を無断使用している理由を聞こうか。しかも“C-000”まで無断で連れ出して。プロジェクトに差し障ったらどうする」

「いや……、聞いてくれたまえよGM?」

「可愛く頭を傾げても駄目だ。同性相手に通じると思うな」

「手厳しいね……。ほら、前にドリームハートを使った、空間転送実験を行ったじゃないか?」

「ああ、そうだな」

「その際に何かこう、微妙に大きな観測揺れが確認されただろう? 実際のところ誤差だと研究部は判断したようだが。でも、それを放置しておくのも微妙にまずくないか? と思ってね。その揺れのあたりに周波数を合わせて“ゲートブラスター”をぶっ放したんだよ」

 そう言いながら、懐から銀色の、レンズと銃が入り交じったような奇妙な形状の物体を取り出す。「その結果、面白いことが起こってね」

「どういうことだ?」

「簡単に言えば、縦軸と横軸とがぶれて、全く違う宇宙空間の座標軸に飛んだわけだ。つまりパラレルワールドというべきか、あるいは異世界というべきか」

「……何だそれは?」

「実際行って見てよかったと思うのだよ。だってほら、ボクらのプロジェクトにおいては、そういった不確定要素のミスは許されないからね。理解してるだろう? GMも」

「……つまり必要があったから、使ったということか。それで、C-000を連れ出した理由は何だ」

「ゆかりんと言いたまえよ。それは、ゆかりんもちょっと不調を起していたからね。気分転換を兼ねてつれていったのさ。その先に。……嗚呼大丈夫、大丈夫。()()()()はしてないから」

「その言葉を信じるぞ?」

「うん、ボクが嘘をついたことなんてあるかい?」

 天使のような満面の笑みは酷く胡散臭いものであったが、しかし女性はため息をつくに留めておいた。

「……ならば、後でその問題点と改善策をレポートにして提出しておけ」

「当たり前だよ。ボクにとっても、“エンダーマンプロジェクト”は必要なことだからね」

 女性も、宰が自分の損になることは仕出かさないと理解しているのだろう。それゆえ強く追求せず、部屋を出ていった。宰はといえば、銃のようなそれをしまいこみ、同じく懐から何かをとりだす。それは、銀色のウォード錠だった。有機的なレリーフの施された、見ているだけで気色が悪くなるような、独特の物体である。

「まあ座標を修正しても、位置は記録したからこれでいつでも行けるのだけれどね。いや、しかしなかなか面白い体験だったねぇ」

「――綯夜宰は、少し自重するべき」

「おや、レコーちゃん。一週間ぶりかな?」

 宰の前に星型のようなサインと共に現れ出たのは、青髪の美少女だ。宰よりちょっと年下に見える、小さな少女。白いワンピース姿で、腰からはコウモリのような大きな羽根が出ていた。そんな彼女の無表情を見て、宰はいたずらっぽく笑う。

「たろくんは、どうだい?」

「――今、岩石の魔王の元で特訓中」

「シックから聞いた話だと、か○はめ波撃とうと躍起になってるって聞いてたけど、成功したのかい?」

「――そっちは微妙。ともかく、聞きたいことがある」

「何かな? お姉さん、何でも答えちゃうよ?」

 簡素な机の上に腰かけると、レコーは宰の目を見て、真剣な声を出した。


「――藤堂太朗らが異世界に飛んだのは、貴女が原因?」


 その言葉に、宰は直接は答えない。「いやー、君はなかなかどうしてシャンタクス時代から見所があったからねぇ。すっかりたろくんに、入れ込んでいるようで」

「――質問に答えて」

「あげるけれど、一応違うよ?」

 宰はにやりと笑う。「断定は出来ないけれどね。あのタイミングで、藤堂太朗らの学校に何かしらの、災害的な規模の負荷がかかり、蒸発しかかっていた、というのが正解じゃないかな?」

「――蒸発?」

「そうそう。元々彼等自身自覚はなかったろうけど、つまりほとんど彼等は、死ぬタイミングだったのだろう。その状態で、元々何かのバグのように、存在値ごとあの世界から抜け落ちたタイミングで、ボクらの実験の余波を受けて、あの世界に飛ばされた……んじゃないかな?」

「――結局、貴女たちのせい?」

「むしろ生きていただけ、めっけものと言ってもらいたいねぇ」

 心外だ、と言わん表情を浮かべる宰。「本来ならみんな、巨大な重力で押しつぶされて粉々になていたかもしれないのだよ? それをだね、誤差こそあったが生きたまま別な正解に飛ばされたというのは、めっけものじゃないか。しかも、元々異世界人が入りやすい素地があるほど、判定がガバガバな世界だったわけだし。ある意味必然ともいえるかもしれない。ボクらの影響がなくとも、あそこに着いた可能性は高いよ」

「―― ……」

「真実を語ってるのがわかるから、それ以上追求できないってところかな。レコーちゃんもレコーちゃんで、膨大な情報の引き出し方には制限があるし。そう言う意味では、君とたろくんはそれなりにお似合いだね。能力的に」

「――ぶぅ」

 何故か頬を赤く染めて、宰のチャクラにデコピンをかますレコー。それに対して宰は、何らダメージを負ってないようにニヤニヤとした笑みを浮かべた。

「しかしまあ、及第点かな? ボク的には案外普通というか、変わった展開もなく進んでいったし」

「――藤堂太朗で遊ばない」

「いやいや、そうだね。リトマス試験紙あるだろ? アレアレ。ボク小学校も中学校もいってないけど、そんな感じ」

「――私も行ってない」

「いや、言うじゃないか。高杉晋作だったかな、うろ覚えなのだけど。『おもしろき こともなき世に おもしろく すみなすものは 心なりけり』」

「――会話がつながってない」

「でも、彼を見てればなんとなく分かるんじゃないかな?」

「―― ……」

 押し黙るレコーを見て、宰は立ち上がり頭をなぜる。

「彼は彼で新しい楽しみ方を模索してるみたいだし、君も君で何か考えたまえよ。どうせみんな、いずれはボクのものになるわけだし。そういう脚本を、今の所外れてはいないよ?」

「――傲慢」

「傲慢ってレベルでボクを推し量らないでくれたまえ。振る舞いとしては普段どおりだよ?」

 だとしたら性格が悪いとか、そんなレベルの話ではない。

 レコーはその後「――呼ばれた」と言って姿を消した。おそらく藤堂太朗に、いつものごとく知識をねだられたのだろう。なんとなく予想して、彼女は立ち上がり、一度伸びをした。


「さて――次会う時は、もっと強くなってくれているといいんだけれどねぇ」


 そう言う宰の表情は、まるで恋する乙女のようなそれであり――同時に、凄まじく嫌悪感を抱かせる類のものであった。


なお、この話の舞台は本作ではもう登場しない模様。


以上で異世界仙人、第一部終了となります。

第二部は早ければ六月あたりに再開できればと思いますが、なにぶん忙しさと、あと遊園地(別作品)もいい加減どうにかせねばという感じですので・・・

現状中途半端な形での区切りになってますが、もし宜しければ、次も太朗らを生暖かく見守ってやっていただければ、ありがたいです。


それではノシ

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