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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
英雄の条件というか仙人と悟り編
70/80

第51話:レッツプレイ

一話。


 

 

『その髪、その目……、君は、アレンの子供か!』

「いや、姪じゃの。……というか、何でおじさんんこと知っておるんじゃ?」

 邪竜に向かって、彼女は肩を竦めながら答える。口調は年を重ねていそうな感じだが、しかし容姿や物腰は完全に見た目通り若い。単に好きでやってるのだろうと判断して、太朗は確認をとった。

「勇者? が何ぞこんなところに居るんだ? 普通に考えて、邪竜が出てきてから動いたとしても、魔王が居たからということで動いたとしても、早過ぎないか?」

「ぬ? いやぁの、ちょっとそこら辺を散歩しておったら、なにやら妙な気配を感じての。そのまま放置しておくのもアレじゃったから、急降下して来たまでじゃ」

『――なお、空中散歩の模様』

「魔王も魔王なら、勇者も勇者で何でもありそうだな。……よっと」

 言いながら、太朗は左足を引っこ抜き、肩をすくめた。

「何してるかだったっけか? まあ、八つ当たりみてーなもんだ」

「ぬ?」

「色々あるが、とりあえずこの現状を作り出したアレに対して、普通の反応だろ? ちなみにアレの中には、魔王がいる」

「おぉ。それは、そうじゃな……」

 周囲の惨状を見て、彼女はにやりと好戦的な笑みを浮かべ、魔王の取り付いた邪竜を見上げた。背負った鎌を抜き、眼前につきつける。

「おじちゃんが倒したと聞いておったが、まさか生きておったとはな」

『アレンはどうしたのかね?』

「主との戦いが原因で腰をやって、引退しておるわ」

「理由酷ぇ……」

「当時十歳にもならず後継が決定した身にもなってみよ、苦労続きじゃったぞ。……じゃから、ぶっ飛ばすのじゃ! 消し炭となれッ!」

「そしてそっちも理由酷ぇな!」

 思わずツッコミに回る太朗だったが、闘志に燃えている彼女は、ふと思い出したように彼の方を見た。「そういえば、主は何じゃ? いまいち見た目から正体がつかみ辛いが……。さきほどアレにぶっ飛ばされて、死んだと思っておったら生きてたし、めっちゃ光っておるし」

「仙人だ」

「ぬ?」

「……あん?」

『―― ……たろさん、念のため言っときますけど、この大陸に仙人って概念ないですからね』

「……うげ、マジ?」

『――まじまじ』『――そりゃもうですね~』

「あー、そうなのか……。まあ、精霊に近い何かだとでも思っておいてくれ。現状を害する気はないし、アレをぶっ潰すと言う目的は同じだ」

「言いながら、いじけておるのは何故じゃ……?」

「うっせ、ほっとけ……」

 彼女はちょっと困ったような声をしながら、膝を抱えうずくまり地面に落書きを開始した太朗を見る。彼の顔は、珍しい事にちょっと赤い。どうやら堂々と宣言してきたわりに、一切理解されなかったろう領主館手前のことを思い出してるようだ。さぞ辻明を除いて、全員が頭をかしげたことだろう。ちなみに太朗が描いていた絵は、デフォルメされた弥生のものであった。案外上手い。

 ちなみに魔王の方はと言えば、太朗らの準備が終了するまでは待っているようである。本人が言ったところのゲームというところに対しては、一応フェアプレイ精神があるらしかった。

「ま、まぁ気を落すでない……。理由はわからんが、とりあえず顔を上げるのじゃ」

「あん?」

 橙色の光を放ち、眉間のあたりが暗いのっぺりとした顔に半眼で睨まれて、思わずたじろぐ彼女。流石にちょっと怖いらしい。まあ爛々と輝く水色の目を見れば、当然というところか。目をそらしながら、彼女は続けた。

「悪いやつでないというのは、なんとなくわかるのじゃ。じゃから、とりあえず立ち上がって、一緒に戦おうぞ」

「ま異論は別にねーが……」

「私は、セリア・ツジャシロという。鎌の勇者じゃ。主は?」

「トード・タオだ」

「トード……。そうか。……どうでも良いが、何故目から炎でとるんじゃ?」

「気合だ」

「もっとマシな説明をせい、主よ……」

 かみ合ってるんだか、かみ合って居ないんだかよくわからない両者である。だが、手を差し伸べる彼女のそれをとり立ち上がり、共に武器を構える姿勢は、どちらの目的も一致していることが伺えた。

『――準備は良いか? 勇者と……、何だったか?』

「仙人だ」

『せ、せん……? まあ良い。挑戦者たちよ、私を倒せるかな?』

 ヤスナトラの造形は何度も言うが固定されているので、稼動範囲の口が開くのみである。しかし角度の問題か、それは太朗らを見下ろして笑って居るように見えた。

 もっとも次の瞬間には、太朗によってその顔面は蹴りとばしたわけだが。

「……ぬじゃ!?」変な感嘆詞である。面食らったのも無理はないが。

「ちっ、堅い」

『ぶっ! ……い、いきなり問答無用だねぇ。水晶は狙わないでくれたまえ』

 口から吐瀉物のような緑色に発光する粘液を飛ばした後、宿木の魔王は太朗を殴り飛ばす。身体は現在ヤスナトラの巨体であるが、その俊敏性は圧倒的だ。太朗のラッシュに匹敵する速度である。巨体の大きさと筋肉量から考えて、物理法則を軽く逸脱していた。

 流石に太朗も、二度目は受けたくないらしい。振りかぶった拳が激突するより先に、瞬間的にであるが意識を集中した。その結果かはわからないが、ぶっ飛ばされた太朗が、途中で魔王の視界から消える。

『うん? ――おごっ!』

 太朗は、背後に転移していたらしい。そのまま回避できるのが理想だったろうが、しかしそれは適わなかったようで、転移時にぶん殴られたぶんの速度を維持したまま背後へと移動したようだ。無論、方向はヤスナトラを背にした状態である。そのまま激突を回避するのは不可能だった。

「やっぱ戦闘中に使うもんじゃねーな」

 地面に倒れなかったヤスナトラ。ただ背中を押さえて痛そうにさすっているあたり、痛覚はダイレクトに魔王の方へいくらしい。

「でも、速度とかはいつもより早そうだな。……んん、嵐とかで対抗できねーのか?」

『――邪竜の属性が天だから、近い性質同士であんまり効果はない』

「バンカ・ラナイは抜いてると時間食うし、やっぱり殴るしかねぇか」

『――そこは調整ですよ、お兄様~』

『――不安定な現状だからこそ、テレポテーションがし易いというのもある。移動先に元素をどれだけ使うかとか、維持する元素量がそもそも違ったりだとか、そんな理由』

「意味わからねぇって。ま普段よりやりやすいってことか?」

『――そんな感じ』

「ならまぁ、精々試させてもらうか」

 拳を握りながら、太朗はそのまま魔王に追撃していく。

「……聞いていた通りと、そうじゃない部分があるの。聖女教会から」

 地面で様子を見ながら、セリアは太朗らの戦いを見続ける。彼の攻撃でそこまで大きなダメージを負わない相手と、ぶっ飛ばされてもダメージはなさそうだが転移を繰り返して様子を伺っている太朗。両者共に決定打に欠けているらしい。

 だが、全体として太郎が街に被害が起こらないよう調整しているのは、目に見えて明らかであった。邪竜が無傷の家々に向かい倒れそうになった瞬間、その方向に回って蹴り上げ無理やりバランスをとったり。あるいは飛ばされた自分がそちらに行きそうになったら、転移して邪竜の足元に突き刺さったり。

「精霊のようなもの、と言っておったし、やはり“魔王”ではないのじゃ?」

 セリアがここに来るより前、聖女教会から色々と情報を聞いていた。邪竜を倒した、賢者とあがめられていた白髪の男トード。傭兵たちを斬り殺し、魔剣を奪取した魔王トード・タオ。これらの情報を踏まえた上で、彼女は見た目こそ色々違うものの、彼がそれだろうと確信をもって断定していた。しかし、人物としては同一であっても、行動が魔王というそれに結びつかない。どちらかといえば、むしろ自分のような勇者の属性に近いような――。

 まぁそれはよいか。彼女は鎌を地面につきさし、両手を合わせて祈るような姿勢をとる。そして、口ずさんだ。


「――恵みよ、あれ――」


 次の瞬間、鎌が閃光を放ち、姿を変える。その様はまるで蛇か何かのようである。しかし鎌の要素を所々残しつつの変態であるため、色々と見ているのがアレな光景であった。最終的に鎌の動きが止まった段階では――背に二対の翼のような刃、両手にクローのごとく配置された鎌、柄と鎌が折り重なってバネのように形成されたレッグアーマーと、もはや鎌なのか何なのかよくわからない有様となっていた。下手なモンスターよりよっぽどモンスターしたシルエットである。

「征くぞ、“セルパン”。――のじゃあああああああああああっ!」

 変な掛け声とともに、彼女は飛び上がる。と同時に背中の翼(?)が羽ばたき、彼女は飛翔した。そのまま太朗を横切ってから、邪竜の腕めがけて突進をかける。

「セイ・ダン!」

『おぉッ!』

 ヤスナトラの腕に黒い亀裂が入ったかと思うと、そこを起点に見事に切断される。彼女はそのまま落下する手もバラバラに切り刻み、太朗の下へとやってきた。

「加勢するぞ? ……どうした、そんな怖い顔して」

「……どこが鎌だッ!」

 思わず突っ込みを入れる太朗に、彼女は不思議そうな顔をして返す。

「鎌じゃろ? ここら辺とか、あと全体的に」

「……ま別にいいかんなことは」

 武装の先端部やら何やらを指差す彼女に太朗は頭をかかえた。割合珍しい光景だが、普段は自分がやってる側なのは自覚してるのか、あまり強くは言わない。

「と、それは別にしてそりゃ何ぞ? ヤスナトラの腕ぶった切ってたが」

「ん、主はできぬのか?」

「こいつで切り刻んでも、流石に切断まではいかなかったが……」

「なら主には無理なのじゃろう。攻撃はこちらに任せ、主は痛覚にダメージを与える事を優先するのじゃ」

「それはそれで何か嫌だが……。――あん?」

 太朗が半眼で上を向きながら、何度か頷く。まるで何かのハナシを聞いているようなその仕草に違和感を覚えたセリアだったが、そんなタイミングで魔王の蹴りが太朗らに襲いかかる。両者ともそれは綺麗に避けて、大声で会話をする。

「あー、何かギリギリやれそうではある!」

「何じゃ!?」

「準備にちょっと時間かかるから、それまで時間潰しておいてくれ!」

「かまわんが、先に仕留めるかもしれんぞ!」

「無理だろほら、見てみろ!」

「ぬ?」

 双方共にそれなりの距離を空中で置いたが、両者の視線は一致してヤスナトラの、切断された右手に集中した。そこでは、未だウネウネ言いながら白い触手状のものが覆いかぶさり、腕のような形を成そうとしていた。

『――きもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもいきもい、きもいですよぉ~~~!』

『――シック、そんなことが綯夜宰に知れたら大問題。そもそもあのお方の本体たる神性は――』

『――うわあああああん、聞きたくないですよお姉様あああああああ!!!』

「うっせ、黙っとけてめぇら。鼻の穴にキ○カン突っ込むぞ」

『――は、はいぃ……』『――私、五月蝿くしてないのに……』

 会話の内容をスルーして、頭の中でわーわー騒ぐ二人を黙らせると、太朗はバンカ・ラナイの方を見る。

「……んじゃ、いっちょやってはみるか」

 そして、彼は風と土の元素を集め始めた。

 

 

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