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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
英雄の条件というか仙人と悟り編
67/80

第48話:限界なんぞぶち壊せるものだろうか

文量が多かった・・・ このまま次の更新分もやってきますので、しばしお待ちを

 

 

 テレポテーションで脱した後、太朗の眼前にはあるテキストが表示されていた。


《調和:魔法発動の際の元素の奔流を解析し、発動時の元素の流れを理解して対消滅させる》


「あん?」

『――本来ならまだ使用不能。不安定状態だから一時的に使える。

 その上で現状、一番必要なものかと』

 言われて太朗は、宿屋の部屋の方を見る。自分と花浦弥生が隔離されていた部屋は、その構成を維持するための強力な結界が張られていた。レコーによりそれが宿木の魔王の仕業であることは理解していた太朗だが、部屋の外に出てこの情報が出てきたことは、いまいち理解できなかった。

「どういうことだ、なして必要?」

『――ぶいぶい、内側からより外側からなら破るのが簡単ってことですよ、お兄様! あと、あんまり放置しておくと弥生さん、粗相しちゃうんじゃないですか?』

『――流石にまずい』

「そりゃあかんな。でも、どうしたらいい?」

『――やっぱり意識をフォーカスさせるだけで充分』

 要するに集中か、と。太朗は自分が居た部屋の窓の方を見て、睨むように意識を向ける。と、以前ならば全く見えなかった類の、紫色の波紋のようなものが見えた。波紋は一定周期で周囲に拡散し、また周囲からも波紋が集り、部屋に返ってきていた。それを見ているうちに、自然と太朗の手は動いた。それは、文字を書くような動作だった。太朗自身も何故そんなことをしてるかはわからない。だが、その動作一つ一つに、本来なら目に見えない「魔力」の波紋が形成される。指の動作一つ一つに対して発生した波紋は、伝播し、結界から出る波紋と結界に集る波紋とにぶつかり合った。

 激突した波紋同士は、最初かみ合わない。しかしその波紋と部分的にぶつかった波は、途端に真っ平らとなり、魔力のひずみがなくなる。と、周囲から集っていた波紋は、実は元素であったことが太朗には理解できた。部屋から出た波紋自体が弱まるにつれて周囲から集る波紋が小さくなり、結界たる紫の光が弱まっていったからだ。最初は一定の間隔で波紋を吐き出しあっていたのだが、しかし太朗の放った波紋により、力を失った後は一気に瓦解した。徐々に、倍倍に、乗算に、明らかに目減りしていく波紋の度合い。気が付けば完全に波紋は消滅し、部屋の光はどこにも見当たらなくなっていた。

「……これか、前レコーが言ってたのは」

『――そうそう。まだまだレベルが低いけど、慣れれば一撃で魔術そのものを破壊可能。そしてそれは、邪竜だろうと何だろうと関係なく出来る』

「色々やべーな……」

『――何を今更! て感じですよ~』

「シックは何が楽しいのか、んなに笑って……」

『――ええ!? だって、今までずっとデスクワークみたいなものだったんですよぉ! そりゃひゃっはーしたくなりますって!』

 映像は見えないものの、飛んだり跳ねたりしているシックにレコーが呆れた顔を浮かべる映像が幻視される。それにため息をつきつつ、太朗は俯瞰した視界を意識した。テレポテーションで今すぐ邪竜の元へと向かうべきか、それとも第二の魔王復活を阻止しに行くべきか。

 そんな思考中、視界の端に文字が割り込む。


――速報:クラウドル壊滅――


「あん?」

『――避難優先した方がいいですよーってことですぅ~』

「あ……、ああ、そうか。ぶっちゃけあそこの足場にまだヒト多いわけだな」

『――肯定。現在、第二の魔王の手によって兵士たちの動きが止められており、とても助けに行かせられる状態ではない。また今更彼等を解放したところで、無意味』

「なら何ぞ?」

『――分身すればいい』

「もうちょっと解答を質問に合わせたものにしてもらいてーんだが……」

 疑問文全てを「何ぞ?」で片付ける男の台詞である。

 だが、太朗の頭の中には情報が流される。それは、非常に言葉に表すのも難しい概念だった。物体が一つ存在してる時に、その密度を減らし、減らした密度を別な箇所に投影。投影するものは映像ではなく、元々のものと同一、同質。足りない部分は魔力や元素で補い、本体たる方が上方の統括を行う。分身体が個人で意志を持ったとしても、本体への帰属は絶対にゆるがせない。

「……あん?」

『――やってみるといい』

「いや、ワカラン」

『――えっとですね~、自分の姿を目の前に集中させてみてくださいなぁ~』

 結局両者の言葉でいまいち理解はできなかったが、シックに言われた通りに集中してみる。目の前に自分の姿があるような、そんなイメージを持つ。

 すると、どうだろう。白い頭。のっぺりとした顔。黒系のジャケット(てっかてか)に☆マークの入ったズボン。靴から下着に至るまでテキトーにイメージしたにもかかわらず、目の前に確かに、自分の姿が映ったではないか! それと同時に、太朗は自分の体が少し重くなったように感じた。

「「……何ぞ?」」

『――おお~、二重ですねぇお姉様』『――二人いますからね、流石に。えっとですねぇ、御主人様が分裂した段階で、御主人様を構成する元素が分かれたようなものなので、そんな感じなんですよ? 身体を動かすにも、今までの二倍の筋肉を使わないといけないということで』

「「いや意味わからん」」

 同時に言葉を言いつつ、太朗たちはお互いの姿を見合う。と、そんな瞬間に通常バージョン(?)だった太朗の方も、現在の不安定バージョンへと変化した。突然右目から青い炎が吹き上がり、橙色のオーラをまとう。その様はどこか戦闘宇宙民族めいたものであり、太朗らはそろって肩をすくめた。

『――その調子であと四人か五人くらい出せば、各々救助に向かってテレポートさせて万々歳』

「「無茶言うなよ」」

 これにも、そろって突っ込みを入れた。





 しかし、太朗は無茶を実行した。一人一人救助してたら間に合わない、というレコーからの一言で腹をくくり、実行した。元々本人に大したダメージが入るわけでもない。ちょっと、気分的に気持ちが悪いだけだ。自分と全く同じ顔をしたナニかが、自分と全く同じ思考形態や感覚を享有し周囲を見回し、同時にレコーに突っ込みを入れるというこの有様は、外から見るより本人でしか味わえない気色の悪さがあることだろう。

 分身と本体とは、それぞれ別行動することにした。分身は主に街のヒトビトの救助にあたり、本体は兵士たちの結界解除へと向かう。それらに対して、太朗の意識はといえばまた複雑怪奇というべきか。分身体すべての意識と、太朗本体との意識とは共有されているが、しかしそれはあくまで本体側から見た場合。分身の方の情報や思考が本体に流れ、それが全体に行き渡るというべきか。しかしそれらすべて藤堂太朗と全く同質のものであり、ラグや不都合はないが一々無駄というべきか。しかし要するに、自分の身体が複数あって、それぞれ指示通りに行動できるというような感じである。

 太朗たちは、きびきび動いた。テレポテーション前の空間把握能力もあってか、ヒトがどこに埋もれているか、どう動けば崩れ難く救助できるかなどを的確に察知、把握する。把握できても足がつぶれていたりした場合は、数人で力を合わせて瓦礫をどかし (分身のせいか腕力はいくらか落ちていたため)、時に泣いている小さい子の親がつぶれかけてるのを一蹴りで救助。誰しも彼の異様な風体に一瞬恐怖を覚えるが、真摯な態度と行動とが彼の善性を裏付ける。最終的に門近くまで転送していることもあり、徐々に、徐々に破壊された街の被害者は減っていった。もっともすべてがすべてではない。最初の邪竜や岩石の魔王などの戦いで既になくなってしまったヒトビトも少なくない。だがそれをおいても、太朗はひたすらに救助をした。

 そして彼は、見覚えのある二名の兵士が瓦礫をどかそうとしているのを発見して、目を見開いて硬直した。

「……門番が何やってんだ?」

「ん? ――お、おまえぇ何だそりゃ!?」

 震え声になりながら片手剣を抜こうとするのを柄ごと押さえ込み、太朗は肩をすくめる。

「今、色々救助を手伝ってんだが、何をやってるかと聞いている。嘘だと思うのなら後で入り口に居る連中に確認を取れ」

「ま、魔族が何を――」

「もっと性質の悪い奴だから心配すんな、というか自分たちの心配しとけ。上みろ上」

 一切合切安心できない自己紹介と共に指差す先では、メイラから丁度第二の魔王が出現したタイミングだ。分身のせいか存在感が薄くなったためか、幸運にも彼は探知されていない。それもあってか太朗も半眼で睨みつつ、救助を優先していた。

 状況の飲み込めない男……、確か太朗が直接話した方の門番は混乱しっぱなしであり、奥の方にいた男の方が彼に説明をしてきた。

「俺達は今日、非番なんだよ。……えっとだ、さっき爆風の余波受けてな。瓦礫の山が吹っ飛んで、俺達と、あと娘さんが一人下じきになったんだ」

『――ラルちゃんですね。覚えてますか、あのツンツンしてた』

「あん?」

『――クラウド氏に掴まって連行途中で引き渡されて、一緒に移動してたみたいです』

「……どうして助けようとしてんだ? 叫び声も聞こえんが」

 流石にいっきに魔族の娘を、という情報まで口走ると不審がられるので、当たり障りのない程度の言い回しを使う太朗。それに対して、目の前の男性は苦笑いを浮かべる。

「死んでる確率が高いのになぜかっていえば、その娘は声が出ないんだ。だから助けを求めてもこっちに聞こえないだろ?」

『――薬で喉を焼かれて、声が出ない模様』

「よしわかった」

 おそらく阿賀志摩に喉を焼かれたのだ、と判断した瞬間に太朗は意識を瓦礫に集中した。全体を三面図的、そして模型的、輪郭線を把握するような、三重の視野が得られる。得られた視野をもとに瓦礫の山 (太朗らの身長をはるかに超える)を見た瞬間、彼はどこからともなく一本の刀を取り出した。ぎょっとする二人を無視して、そのバンカ・ラナイを抜刀。分散する、剣尖の描かない無数の斬撃を束ね、一本の太い斬撃に。瓦礫にぶち当たると、それらは見事に目の前の山の一角を吹き飛ばした。

 驚愕する二人。しかし奥の方の男性は、困ったような声をあげる。それを片手で制して、太朗は山をかきわけた。

「よ、大丈夫か?」

「……ッ」

 下には、土煙にまみれたラルがいた。足があらん方向に曲がってはいるが、命に別状はないらしい。何某かの魔術でも使ったのだろう、彼女の体のあたりで、瓦礫が妙によけられているようだった。

 いやな顔をする彼女を無理やり抱き上げ、太朗は二人を見る。「そろそろ救助も八割終わりなんだが、どうする?」

「は、八割!?」

「俺の仲間、というか俺なんだが、まあそれが色々やってんだよ。で、アンタらはこのままここに残るか、ついてくるか」

「いや、ちょっと待てお前がその娘をどうするかって――」

「――わかった」

「おい、アドルフ!?」

 と、同時に地面が揺れる。紫色の光が迸りながら、何かが地中からせり上がって来るようだった。それを感知した太朗は、

「頼むぞ」「――承り」「――かしこまりました~!」

「へ?」「お、おい!?」

 シックとレコーを表に出し、二人を掴んで太朗に接触させた。その状態でテレポートを敢行する。城壁のようにそれなりの高さの壁、町全体を覆うそれの近くに、多くのヒトビトはいた。……もっとも、色々な意味で大惨事である。具体的には、すっぱい臭いとかが充満している有様だ。既に多数の太朗たちが、地面に一蹴りで穴を掘って吐かせていたが、中にはそれだけで対応できないのも居たのか、城壁の外へひとっとびして行くのもいた。多数の太朗という有様の段階で兵士二人は腰をぬかし、ラルは口を「きゃっ!」というような状態のまま硬直した。

 もっとも、ラルも大惨事の仲間入りしかねない状態である。近づいてきた他の太朗にそちらは任せて、兵士二人を見た。

「……アンタらははかないのな?」

「……ま、まぁな」

「気分は悪いが、鍛えているからな……」

「そこら辺に兵士としての意地とかもありそうだが、深くは言うまい。

 ん? ん――っ!?」

 と、突然太朗はアドルフの両肩をつかんだ。倒れている彼の目を覗きこむ。距離の近さに彼は後ずさりをしようとするが、生憎と背後はレコーとシックがおさえていた。

「な、何だ!? 俺はそっちの気はないぞ?」

「――感謝する」

「は?」

「アンタが居たお陰で、弥生は死ぬ事はなかった」

「や、よい……、何でマーチの本名を――」

 その問に答えることもなく、太朗は彼の胸に顔面を打ち付けた。「……アンタが最後まで見捨てないでいてくれたから、会い辛くなっても気にかけていてくれたから、弥生は今日の今日まで生きることができた。本当にありがとう。ありがとう……」

 震える太朗に、アドルフは言葉が出ない。かつての婚約者を、家の都合で切り捨ててしまった婚約者の、隠していた本名を上げてありがとうと言ったのだ、この青年は。だがアドルフに心当たりはない。あれ以降、マーチこと弥生に浮いた話は一つたりとも存在しない。それにそもそも既に年齢が絶望的だった。いくら見た目が綺麗であっても、既にそういう年ではない。ならばこの青年は何であろう。太朗自身のことを弥生からそれとなくは聞いていたアドルフであったが、既に故人であること、どう計算しても年齢が合わないことなど、そしてそもそも話をそこまで覚えてなかったことなどが合わさり、彼は正体を特定できるわけなかった。

 そんなこと、当然太朗も知っている。レコーからも今絶賛、頭の中でいわれている。しかし、それでもなお太朗は謝らなければならなかった。感謝しなければならなかった。結末はあまり宜しくないものであっても、しかしその余波のお陰で愛した彼女が命をつないでこれたのだ。だったら彼は、全霊をもって報いなければならないだろう。

「……後でまた質問する。その時まで何か考えておけ」

「な、何を?」

「何か、欲しいものがあるか。あるいは叶えたい願いがあるか。制度や時代や物理的に出来ないことも多いが、逆に出来る範囲のことも多い」

「それなら決まっているが……」

 アドルフは、街の中心を見る。「あれをどうにかして欲しい。でなければ、そもそも生活すら出来ない。それに、旅人がなくなれば宿屋はつぶれる」

「――ああ、わかった」

 彼もまさか聞き入れられると思っちゃいなかったのだろう。驚愕に目を見開く。あっさり答えた橙のオーラを放つ青年は、のっぺりした顔をにやりと歪ませ、握った拳を突き出して言った。


「言われなくともやるつもりだったが――願われたなら、徹底的にやる」


 じゃあの、と言って、太朗は姿を消した。橙色の光が周囲で上がり、徐々に、徐々に太朗の姿が消えていく。

 そして彼等は、岩石の巨人を覆っていた結界が破壊されたのを目撃した。

 

 

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