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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
英雄の条件というか仙人と悟り編
61/80

間章10:アイデンティティの継続にまつわる諸問題

これの前に45話がありますのでご注意を

 

 

「――シック、お仕事」

「――よしきたー! です」

 地面に激突した藤堂太朗の死体の周囲に、二人の少女が現れた。片方は無表情に青色赤目の少女。もう片方は赤髪青目の少女。どちらとも自然色ではなく原色に近い色をした髪の毛と瞳の色であり、一目で人外っぽさが目立つ。両者はそろって白いワンピースと、腰からコウモリのような翼を生やしていた。多少デザインや雰囲気がそれぞれ違うが、そっくりな顔立ち含めて一目で双子とわかる。

 そんな少女たちの突然の登場に、花浦弥生とメイラは目を見開いた。前者はわけがわからず。後者は唐突に現れたということで。

「レコーちゃん?」

「――メイラ・キュー。少しどいて。シック」

「――ほいきたですよ! わっしょい」

「「――いっせーのーせ!」」

 両者は呼吸を合わせて、藤堂太朗の両腕と両足とをかかえる。そのまま持ち上げ頭上にかかげ、ベッドの上にどさりと置いた。

「――“幽界天門(アストラルゲート)”、回転力場(モーメント)

「――“幽界天門(アストラルゲート)”、限界切除(リミットカット)です!」

 ベッドに両手を向ける両者。と、次の瞬間ベッドの周囲に白いリングが出現し、太朗を中心に円形に乱回転を始める。やがてその回転速度がある段階を超えた瞬間、ベッドは光につつまれて、内側を確認することが出来なくなった。

「――ふぅ。これで四日くらいは大丈夫」

「な、何をしたの?」

「――緊急措置ですよー! メイラさん」

 レコーの背中に抱き付きながら、赤毛の少女はにこにこ笑う。

「貴女は……?」

「――シックといいますです、どぞよろしくです。姉がお世話になっております」

「――姉のレコー。妹共々、精霊というか使い魔というか、藤堂太朗のサポートをしてる」

 深々と弥生に頭を下げるレコーと、メイラに軽く手をふるシックが極端であった。

「――現在の藤堂太朗は、かなり危険な状態。このまま放置したら五分と経たず、肉体が風化しかねなかった」

「!?」

 声なき声を上げるのは、花浦弥生に他ならない。突然目の前で、物理的に身体がズタボロになり、最後にはミイラ化しかかったような姿まで見せつけられた、彼女の心中は相当なものだろう。

 そんな弥生を、レコーの無感情な目はじっとみつめる。

「―― 一応言っておく。切欠は貴女」

「……何の?」

「――言わずともわかっているはず。彼の現在の支柱は、貴女に会って何かすることだった。その結果が、貴女の言った言葉通りになった」

 レコーの知る、藤堂太朗三つ目の弱点がこれだ。魔力を中心にして出来上がった人間のような身体、である以上は身体を繋ぎとめているのは物理的なものではなく、魔力なのだ。その魔力が捻出できなくなるような事態が起これば、必然肉体は分解が始まる。今までは謎の強メンタルがあったお陰でなんとかやってこれたが、その精神を折るようなイベントが立て続けに起きた後にこれだ。いくら太朗が自分中心に生きていたとしても、これは応えた。そして魔力がなくなったため、彼の魂が覚えていた死に方がのしかかり、一気に肉体が劣化したのだ。

「――藤堂太朗は、人間ではない」

 細かい説明をしても伝わらないと判断したレコーは、花浦弥生に続ける。あくまでも無感情に。しかしそれゆえに、言葉は真実味をもったものとなっていた。

「――ヒトとして死に、その肉体は精神を中心によりあつまった、いわば『実体を持った幽霊』のようなものだった。そして心残りがどうあがいても果たされないと感じ、絶望し、貴女の言葉を受けた。その結果がこれ。

 ――つまり、本人の自覚はなかったけど自殺に等しい」

 メイラの言ってる事を半分も理解しているかは怪しい。ただ、それでも自分が何をしたのかということは充分に理解できたようだ。

「へ? い、いや、ちょっと待って。だって、私そんなこと考えて――」

「――なくとも、藤堂太朗の『人間性』はそれを察知した。例え立ち去ってくれ、どこか遠くで元気にやってくれと思っていても、解釈するのは当人。

 ……意図的ではないにせよ、死ね、と最愛の相手に言われた現状。例え貴方が、二十年も経って復活した彼を気持ち悪いと思って居ても、新しい生活でようやく生きてるってまた実感ができたのに何故また昔の男が来たのだと考えて居ても、もう二十年前の輝かしい思い出を今更汚しにこないでくれよと思って居ても、それらは全て平等に彼の解釈にしか当てはめられない」

 震える声に、レコーは一切容赦しなかった。製作元たる綯夜宰が、あえてそう設定してあったからだ。シックが「――お姉様、押さえて」と言う風に静止をかけるが、そんなもの振り切って続ける。

「――そこに一抹の優しい感情があっても、口から発露したものが結局は全て。

 あなたたちは、絶望的に言葉のコミュニケーションが足りていない。状況が悪かったとはいえ、藤堂太朗は聞く一辺倒だった。藤堂太朗側の事情は、花浦弥生ほど大きくはないものの、それを勘案しないと致命的な齟齬が起こる」

「やめて」

「藤堂太朗が蘇ったのは――」

「やめて! 聞きたくないっ!」

「――およそ四ヶ月前。本当の意味で十七歳のまま、まもなく秋に入るか入らないかという頃に意識を取り戻した」

 レコーの言葉に、弥生は下を向き、震える他なかった。確かに弥生は勘違いしていた。藤堂太朗が蘇ったとはいえど、そこからまた二十年自由にやって来たのだろうと。その上での発言が、今更、という言葉に繋がる。だが実際はどうか。事実としてもはや取り返しはつかないが、それを本人に非もないだろう、もやは自分より一回りも小さくなってしまった彼に言うのは、あまりに酷なものではないだろうか。弥生は知っていた。藤堂太朗が言動一致に拘る性分であることを。からかいや罵倒などを除き、一度言ったことは極力曲げないということを。実現可能ならばそれを続ける事を、嗚呼、自分が告白される前後の顛末から察していたはずだというのに――。

「……どうしたらいいの、私は」

「――どうしようもない。出来ることもない」

 シック、とレコーは妹の頭をなでた。小声で囁いた話を受けて、彼女はレコーの首からはなれる。すると、二人そろって花浦弥生の左右に回りこみ、両腕にだきついた。

「――強いて言えば、復活した後にきちんと話すこと。おそらくそれが、最後になる」

「……最後?」

「藤堂太朗が、藤堂太朗ではなくなる前の最後」

 メイラも、その言い回しは意味がわからなかった。シックは黙ったまま、にこにこと微笑むだけ。レコーは二人の顔を見回した後、肩をすくめて言った。

「――本来ならば、藤堂太朗は自我を失ってもおかしくはない状態。血脈がなく、種族を持たないという状態はあまりに異常だから。その上でそれを実現させていたのは、ひとえに藤堂太朗の精神力および目的意識。

 そしてそれらが取り除かれれば――おそらく、変質してしまう。それこそ人間としての藤堂太朗を引きずっている今とは、全く別な何かになっているはず」

 その言葉を受けて、メイラは気を引き締めた。しかしレコーが彼女に言う。

「――ただそうであっても、“第二の魔王”のようにはならない。それは私と私の製作者が保障する。貴女が藤堂太朗を『封印』する必要は、どこにもないから心配する必要はない」

「っ!」

「――他言はしてない。でも、杞憂とだけはいっておく」

 レコーの続ける情報は、メイラに与えられた密命に関わる事柄だった。だがしかし、レコーはそんな彼女に言葉を投げかける。話題の転換を計りたいためか、メイラは別なところに注目した。

「……製作者?」

「――そう。名前は……、教えられない」

「――流石にこれ以上、正気度下げるのも危ないですからねー」

 シックの言葉は両者に理解はされない。だがしかし、深入りしない方が身のためだというのを、言外に告げられた。

「……とりあえず、私は部屋に戻ります。お騒がせしました」

 一度弥生に頭を下げると、メイラは部屋を後にする。考えればお熱だったのだ。なのに何を無理して起き上がっているのかと言う話か。

「……わからないことだらけだよ」

 弥生は、寂しそうな顔をする。見た目はまだアラサーで通じる美女であるが、こういった表情はそれなりに年齢を感じさせる。

 シックとレコーは、左右対称な角度で弥生の顔を覗きこんだ。

「――もし知りたいなら、私達は教えられる」

「……何を?」

「――藤堂太朗が阿賀志摩辻明にどうされたのか。それから、今日までどうやって生きてきたのかということを」

「――何なら絵とかかきますか? 邪竜とか、魔王とか、魔王とか!」

 シックの言葉はよく分からなかったようだが、しかし弥生は苦笑を浮かべる。

「……ありがとう。でも、私は待とうかなって思ってる」

「「――待つ?」」

「うん。だって……フェアじゃないでしょ? 私だけ一方的に話してっていうのは」

 太郎が包まれた光の球体。繭とでも形容すべきそれを見つつ、弥生はやはり、寂しそうな表情を浮かべた。

「太朗くんは、辛くても私の話を聞いたんでしょ? だったら――私も太朗くんの話を聞いて、受け入れなきゃ」

「――受け入れる?」

「向きあいたいことに向きあえない、というのは不幸だって。昔太朗くんに言われたの」

 ふふ、と微笑む弥生。それを見つつ、レコーとシックは顔を見合わせた。

「――もし宜しければ、話してもらいた。藤堂太朗と貴女のことを、貴女の目線から」

「――のろけですね! というかお姉様ひょっとしてジェラし――い、痛い痛い痛いっ!」

 耳を引っ張られて絶叫を上げるシックと、無表情に実行するレコー。

 そんな両者を見ながら、弥生は懐かしいような、どこかもの悲しいような、複雑な表情を浮かべた。

「話してもいいけど……、じゃあ、貴女たちのことも教えてくれる?」

「「――それは命知らず過ぎる」」

 結局三者は、藤堂太朗に対する情報の交換のしあいという風に落ち着いた。太朗から直接話を聞くとは言ったが、なんだかんだで女子トーク。その縛りはゆるまり、なんだかんだで太朗のたどった軌跡も、弥生は聞くことになった。

 そんな彼女は、まるでこの二十年のタカが外れたかのように話をし、また太朗の話を聞いていた。

 

 

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