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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
魔王襲来というか醸造編
46/80

第35話:よっぽどの情報量でもないと知り得ない事柄

難産でした・・・ 続きは深夜

 

 

 エダクラーク村は、規模でいうならそこそこ大きい。山の斜面も一部使って畑にしているあたりからも、それは察せられる。ならば、それ以上の大きさの物体が村全体を覆っていると言えば、どれくらいその建築物の規模が大きいか窺い知れるだろうか。

 それは、飛行船のようなものであった。船頭は鳥の頭を模したもの。旗はかけられておらず、巨大な船体の両脇に翼があり、ばっさばっさとあおいでいる。熱気球の原理で浮いているなら必要もないのだろうが、見るヒトが見れば、翼から風魔法が撒き散らされている事を察することができるだろう。やや暗い空の雲間から現れ出でたそれは、圧倒的な質量を見せつけながら村の人々の大半に、畏怖を抱かせた。

 そんな飛行艇から、小さな船が一隻。妙に豪奢に彩られた、黄金の小船。デザイン自体は大船のそれをやや簡略化したようなものか。

 と、それが村に降りていくところを山の方から、遠目で見ている太朗である。あぐらをかき、目を半眼にしているだけにしか見えないが、その視界は望遠カメラで上空から地上を撮影している以上には鮮明である。レコーによる位置調整も働いており、小型船が彼の視界から外れる事はなかった。

『――条件開示、解放。岩石の魔王。種族:ゴーレム』

「あん?」

『――泥体胎児(ゴーレム)。人為的に作られた作業自動人形。泥とあるが泥人形ベースでなくとも可能。岩石の魔王は金属人形ベース。魔術的に【検閲削除】を用いて『全知の記録( アーカシックレコード )』より引き出された魂を組み入れ、魔術的に元素を循環させ動作するようにしたもの』

「例によって例のごとくさっぱり意味わからんのだが」

『――たろさんもやろうと思えば作れますよぉ?』

「いや、んな得体の知れないもの作る気にはならんのだが……。

 ってか、何で俺は出迎えのところに行っちゃまずいんだ?」

『――今行ってもこじれる』

「あん?」

 料理自体はおおよそ一週間前に最終調整が終わった。メイラは太朗の指示に若干渋い顔をしていたものの、主命とあらば断れない。おまけに太朗が「指示通りにしないと、たぶん酷い事になるぞ?」と軽く念押しまで下ものだから、レシピを木板に彫りこんでいる彼女の顔が悲壮だったのも仕方ない。実際はあくまでメイラの料理は一要素でしかないのだが、下手にリスクを上げる必要もあるまい。第一、太朗が料理を任せてくれないかと談判したのは、そもそも今現在、メイラが作っている途中だろうもので、ようやく岩石の魔王のご機嫌がとれると判断したからだ。むしろ守ってもらわねば困る。

『――御主人様の最終目的は、トラブルもなく村から出る事で、よろしいですね?』

「ああ」

『――だったら駄目ですよぅ。岩石の魔王、“第三の魔王”は宿木の魔王以上に、魔力感知敏感みたいですから。ここのエリアでギリギリというくらいなので、あんまり近づくと一発で気付かれてこじれますよ?』

「こじれるって……」

『――基本的に岩石の魔王は見栄っ張りみたいなので。自分の領地と呼べる場所に別な魔王が居たら、その場で戦争になりかねませんよ?』

「……んん?」

『――ここはメイラ・キューたちを信じるほかないのではないかと。成功率は九割ありますし』

「いや、そこに異存はねぇんだが……」

 太朗は頭をかきながら、村長たちに囲まれた船から下りてきた、小さな人形のようなものを見て、肩をすくめた。

「話のわかる魔王っていうのがどんなもんか、ちょっと見たかったってのはある。宿木があんなんだから、会わなくて正解なのかもしれんが」

『――まあ、そのうち何度も機会があるかと』

「それはそれで嫌だな……うげ」

 太朗は右耳に手を当て、意識を集中し、視界をフォーカスする要領と同じに、魔王を中心とした音をキャッチするようにした。





 人形、というにはその姿は、かなり無骨であった。各部露出した球体間接、木と金属とが折り重なり作られた胴体。短めの足と大きめの両腕に、結構簡単に描かれたような点と線の表情。全体の色合いは銀色であり、わずかだがその各部からは蒸気が吹き出していた。

『うむ、相変わらず空気が美味いな』

 どう見ても空気とか吸っていなさそうな外見のそれは、重低音で呟く。上体を伸ばすと、ぎしぎしといった音が響く。その背後からがしゃ、がしゃと、顔のないマネキンのような兵士達が降りてきた。こちらも時代的な理由からかフルプレイトメイルなどではなく、部分的な金属鎧である。

 下りてきた小型の船の周りにヒトビトが集っていく。外見やら船からして国一つで足りないくらいの財で構築されて居そうな人形たちに、どこか慣れた笑みを浮かべる村長の枝蔵英夫。

『……して、出来たか? エダクラークよ』

「ええ、万事ぬかりは……たぶんありません。“岩石の魔王”よ」

 明らかに小さなそのシルエットに対して、彼は頭を下げて、敬意を表した。

 村の男衆たちに案内されつつ、魔王と村長とは会話を続ける。これが人間の権力者相手なら女衆を道に並べるところだが、この魔王はそもそもそういった生物的な欲求を持たない。それゆえ屈強な男衆を並べた方が、むしろ己の領地の磐石さを表すことにつながるため、かの魔王の出迎えには率先して行うべきであった。

『ふむ……。やはり増えたな家が』

「ええ。前から言っていることは事実ですので」

『時間が経つのは早いなぁ……。次世代の育成は?』

「まあまあ、といったところでしょうか」

 テキトーに彫られたような顔の口の端が、にっと微笑んだように歪む。『己からすれば、それもまた資産の一つと言うところか。さて、貴様等の作ったというものを見せろ』

「御意に」

 うやうやしく頭を下げる態度は、ある意味村長としては似つかわしくないものである。だがしかし、魔王の機嫌一つで村の存亡が危うい事を考えれば、この態度は必然であった。

 案内された先は、とある家だ。魔王の歓待用に元々作られた家であり、扉や窓が大きく、開けた作りになっている。そこに並べられている料理を見て、魔王は感想一つ言わない。とっくり(!)に注がれた酒をあおるばかりである。口があくまで表面上形になっているだけなので、どこにあおるかといえば、胸元のパーツをはがして露出する穴にである。

『……うむ』

 感想は言わない。

「こちらが、現時点で献上しようと思って居るものです。また、付け合わせなども考えて居るところで――」

『あるのだろう? もらおう』

「かしこまりました。こちらは、山菜の天ぷらとなっております。天ぷらは――」

『覚えておる。以前食べた』

 これも胸のハッチの奥へ放り込む魔王。しかしやはりというべきか、感想は出て来ない。もともとこの魔王は、あまり食事に対して感想などいう人物(人物?)ではなかった。見た目からしても食べている、というよりは炉にくべているような動作である(ちなみに内部は闇が満ちており、どうなっているかさっぱりわからないのだが)。

 それでもなお魔王がこうして食べるのは、何のためか。魚を食べても、野菜を食べても、米を食べても、最後に酒を流しこんでも、魔王は一言も発さず。

 しばし沈黙した後、魔王の表情の口元が、横一直線になった。

『ふむ……。貴様等にとっては、これで終わり?』

「……っ! あ、い、いえ」

 慌てる村長。それに対し、頭の部分の顎を押さえながら、魔王は唸り声を上げる。

『まあ汝等にとってはこれで良いのかもしれないがなぁ……。己にはちと、物足りないか。

 まあ良い。献上品としてこれを受け取っても良いだろう。罰則もといてやる。だが――「もう一つの要求」を通すには、ちと足りないぞ?』

「……」

 枝蔵英夫は押し黙る。

 と、そんな最中にミノリ・エダクラークとメイラ・キューが現れる。ぎょっとする父親に、メイラは申し分けなさそうに頭を下げた。

「まおーさま、ひさしぶり」

『うむ、そうだな娘よ』

 にか、と魔王の口元がふたたび両方吊りあがる。声音もどこかやわらかになっていたりするので、子供には優しいのかもしれない。

「あのね、お兄さんとお姉さんが作ったのあるから、たべてください」

『うむ?』

 そして出された料理を見た時、岩石の魔王の顔色が変わった。

 

 

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