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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
魔王襲来というか醸造編
45/80

第34話:こだわらなければ信用を得るところからはじめられる

今日も一話

しばらく一話続きですがあしからず

 年末時期、魔王が襲来する時のための仕込をしながら、枝蔵英夫は村民に対して、太朗の頼みを伝達した。これに対して真っ先に反対したのは、実際に料理をつくる面々であった。多くが婦人や女性で構成されたチームは、異分子でありまた明らかに料理なれしていない彼に、あからさまな嫌悪を示した。

「どこのポンコツともわからない輩に、客人を持て成すことを任せて良いのか」

「そもそも、これは村の存続に関わることではないのか? 安易に任せてはいけないだろう。大体あの手を見て見れば、料理している人間の手ではない」

 リーダー格の二人の女性の言葉に、英夫は大層困惑した。彼としては実際もう半分は任せるつもりではいたが、この説得が難航するのは目に見えていた。なにも、まっさきに反発した女性陣だけの話ではない。ことは村全体に関わる話なのだ。潜在的なわだかまりは、どうしたって残ってしまう。表面化していない程度のそれならば、枝蔵英夫が今までに積み上げた実績と信頼とで任せても良いか、とぎりぎり大丈夫であるのだが、しかしこと説得にかけて、これは必須だった。

 鈴木太朗、という青年が、最低限彼等彼女等に認められる必要がある。ともかく、問題の根幹はそこに集約される。

 しかし、案外とそれは早く解消される運びとなった。なぜならば、太朗は言われた事をきちんと、時にはそれ以上の精度でこなしていたから。

「ジャックさん、これどうですか?」

「あん? ん――ああ、駄目だ。このな、傘の裏側見て見ろ。この部分は加熱しても駄目だ。最悪全身に麻痺がかかって動けなくなるぞ」

「ジャックさんジャックさん、私の拾ってきたこれどうですかぁ?」

「ん――悪くはないんじゃねーのか? ただ加熱は必須だな。そこは忘れるな」

「どうしてですか?」

「虫がいなさそうなあたりとった場所が良かったのかもしれんが、でもこいつらはそもそもが毒みたいなもんだ。食べても死ぬ毒と、大丈夫な毒みたいな違いというべきか……。ともかく、火は入れろよ。じゃなけりゃお前も妹も死ぬぞ?」

 村長の家では邪魔になるからと、あてがわれた家にて太朗は、契約の際に言った仕事を無問題にこなしていた。採集されてくるものの中には今まで彼等の知らなかったものもあったり、あるいは調理法一つで食せたり、といったものまであった。基本的にはキノコ類を中心にレクチャーしていたが、何より決定的だったのは、梅干である。村長たる彼がたまーに口に出していた食べ物で、彼の知り合いをして作り方が微妙にわからなかったところに、太朗はさらっとそれを答えたのだった。実際に作ったものを、太朗とメイラが毒見がてら試食したのも大きい。最終的に全体に行き渡り、

「青いのは毒だってのはわかってると思うが、そもそも梅自体あんまり甘くもないからな。食べ方としてはこれが無難だろ。重要なのは――ん、重石だ。いいか?」

 これにより、料理陣営たちも流石に彼のことを認めた。料理そのものの腕はともかく、知識に関してはある程度あるのかもしれないと。実際、その梅干作りに太朗が魔術的な作用を加えて、作業時間を大幅に短縮していたというのもあるのだが、そのことは流石に気付きようもなかった。

 ともかく、こうして太朗が料理を作ることは、暫定的ながら認められた。あくまで一品に限り。そしてまた、作成には必ず料理陣営から数人が立ち会うという条件がついた。

 そんな感じで早二週間ほどの日にちが経過し、現在太朗は山に登っている。背後をついてくるメイラは、なんだか当たり前のように農家のような格好をしていた。目の色以外は完全に東洋人であるため、日本風の服装ベースのそれは馴染む、馴染む。

「……で、トード様は一体何を探していらっしゃるのですか?」

「その前に聞きたいんだが、アンタ一体どうした? 確かこっちに来た時、全く村に馴染む要素がなかったと思ったが」

「はい? ああ、えっと……」

 一瞬口ごもった後、彼女は照れながら答えた。「……子供達と遊んで居たら、なんか、自然に……」

「ふぅん」

「丁度、弟とかその友達たちが、あれくらいなもので……」

 村長の娘を基準に考えれば、高く見積もっても大体七歳前後といったあたりか。総括しての太朗のコメントは、これである。

「アンタ、結構ちょろいって言われないか?」

「意味は分かりませんが、侮辱されてることはわかりますっ!」

 ぴしゃりと怒る彼女を軽く流しつつ、太朗は前進。割と失礼なことをされても、あまり引きずらずについていくのは、使用人の鑑であるというべきか、はたまた太朗の言った通りちょろいからだろうか。

「マッシュルームマッシュルーム……、あったあった」

 ひょいと転がっていたキノコをとると、それを懐へ入れる太朗。見た目からはわからないが、やはりというべきか収納先は幽界天門(アストラルゲート)である。

「にんじん、じゃがいも、たまねぎあたりはあるし、後は……ブロッコリーでも入れるか? まあ牛乳は代用品としてヤギのがあるからいいとして」

「……シチューでしょうか?」

「おお、わかるか」

「それは、まあ」

 太朗からしても不思議な事に、この大陸の料理は一部太朗たちの世界のものと共通しているものがあった。果たしてそれがどういった理由からか、ということについては太朗は興味はない。重要なのは、多くを説明せずとも内容が伝わるということだ。

「一応言っておくが、料理は俺よりアンタメインでやってもらうから、そのつもりで」

「ええ!? だ、大丈夫なんでしょうか……」

「まあ死にはせんだろう。味についてはティロも俺も保障するし、細かいことを言えば細部の調理とか下ごしらえとか、たぶん村の女衆より丁寧だ」

「そ、そうですか……」

 どうしてかちょと照れるメイラ。太朗が含みなく褒めた事が、ちょっと意外だったらしい。しかし太朗自身は意図してやったことでもないので、軽く流してぶつぶつと呟く。

「牛がありゃビーフシチューとかでも良いと思うんだが、いかんせんな……。鶏肉の熟生期間てどうだったっけ?」

『――めっちゃ短いですよー』

「なら今のうちに捕っても問題だし……」

『――どうせなら、一度試食で作って見るのは如何ですかい? 親方ぁ』

「あ、それなんか久々だな」

 肩をすくめながら、太朗はどこからともなく取り出したバンカ・ラナイを少しだけ抜き納める。放たれた一つの斬撃が、空を舞う鳥の羽根を切り落し、地面に五匹落した。

 近寄って見れば、一見して鳩の亜種のようだが、それにしてはちょっと、体格が大きすぎる。

「モンスターか? これ」

「……いえ、あのいつの間にしとめたんですか、トード様」

「ついさっきな。見てなかったのか?」

「生憎と……」

『――条件開示、解放。モンスター:ホワイリー。

 主に森に生息する、鳩型モンスター。木々をわたりあるき、それぞれの木の元素を喰らい成長する。味は、後味に元になった木の香りがして、良好』

「ちょっとした燻製みたいなもんか。ふぅん……」

 言いながら、とりあえずとそれらのモンスターも、無慈悲に懐へしまいこむ太朗であった。羽根を切っている段階で慈悲など欠片もないのだが、ちょっとだけその目が「ワインに合わせたら良いだろうなぁ」というものだったことは、否めない。





 血抜きを終え一晩熟成させたホワイリー。太朗が諸材料を集めた後、メイラに作るように指示を出した。

「済まんな。あんまり料理得意じゃねーんだ」

「私もそこまで得意と言うほどではないのですが……」

「それでも俺よりは上手だろ。それに料理上手い方が、モテるぞ?」

「もて……?」

「あー、異性人気出るぞ?」

「あまり必要は感じませんねぇ。第一、ティロ様にも言いましたが、私ってそんなに魅力もないでしょう。髪だってこんな、中途半端な色ですし……」

「あん? ティロから何か言われてたのか?」

「いえ、村の仕事をしてた時に、ちょっと手伝ってくれたり、話をしたくらいで」

「ははぁ」

 どうやら商人ティロも、彼は彼で太朗の言葉を元にモーションをかけていたらしい。それがどう転ぶかと言うのは、あと二週間くらいの彼の今後の行動次第というところか。もっとも初彼女と手を繋ぐまでに半年近くかかった太朗としては、やや性急すぎな気もしないではない。あるいはそこまで、実家に居る妹の恐怖が強いのか。

 それはともかく、やはり鳥をさばく彼女の手つきは、慣れている。毛を抜く時も焼く時そうだし、じゃがいもの芽をくりぬく動作を片手でやったのを見た時には、太朗は思わず我が目を疑った。明らかに常人離れしている。謙遜だろうか。

『――逆。もっと凄腕が周囲に居て、自分の力量を計れて居ない』

「色々とドンマイな人生送ってんなぁ……」

「はい? どうされました」

 何でもないと伝えながら、太朗は彼女の料理風景をながめていた。途中で料理陣営から数人、ぐつぐつ加熱する鍋の臭いを嗅ぎつけ集ってきたりしたが、普通に振舞う太朗である。別に後ろ暗い所は何もないし、むしろ料理素人の彼からすれば、玄人たる彼女等がどういう感想を持つのか、それはそれで興味があるくらいだった。

 いただきますと唱和した後(ここら辺の作法もどこか日本的である)、太朗もスプーンで粘度のある液体を口に運ぶ。味は、出来たてほやほやのその味は、だいぶ強烈に感じられた。シチューに強烈というイメージは当然ない太朗であるが、これは鶏肉にほんのり漂う木の香りが原因だろうか。あるいは、使った乳のにおいが太朗の知る牛乳のそれでないことも理由かもしれない。

『――あとは、出来たてっていうのは、一番エネルギーにあふれてますからねぇ』

 レコーの総括を聞きつつ、太朗はちょっとぽっちゃりとした婦人に意見を聞いた。

「お米には、微妙に合わなさそうよねぇ」

 一人目の感想は、まあ妥当といったところか。太朗の家では焼き魚と一緒にクリームシチューと味噌汁が出てくるような家だったので、あまりそこら辺のこだわりはない。ぶっちゃけシチューライス美味しいだろ? みたいな発想なのだが、しかしここは異世界とみるべきか。米文化に対する感じかたも、そこそこ違いがあるのだろうか。ヒトによっては確かにシチューをお米と合わせたくないというのも居ないわけではないので、その意見は覚えておこうと太朗は思った。

 職人技で作られた窯(エミリ・トゥ・ラナイというサインが底に彫られている)を見つつ、太朗は肩をすくめる。

「なんでかしら。味だって肉とか野菜とかの美味しさも強いのに……。村でシチューつくることはあんまりないのだけど、考えてみれば何でつくらないのかしら」

「やっぱり、合わないからじゃないですか? 趣味の問題かは知りませんけど」

「でも、チーズ煮込みとかはしますよね。雑炊の時」

「あの、チーズあるんですか?」

「ジャックさんだったかしら? 乳があるのだからチーズだって当然あるわよ」

 その返しにはいまいち納得できない太朗である。

『――伝達者:牧島香枝』

「何やってんだよ委員長……」

 ぼそりと呟く太朗。彼女の生存については枝蔵の言い回しも含めて一切疑ってはいないが、しかしどうしてこんな知識をひけらかすか。マッチを作った時のように、商売としてしまえば良いのではという考えが太朗の脳裏によぎる。

『――商売ではなく、知識を配布している模様』

「なんでそんなことをやってるんだ?」

『――ブロックされました』

「ああ、そっちの開示条件は満たして居ないのか。ヒントだけ出されてて気になるなぁ……」

 独り言を続けるような太朗をおいて、周囲の女性陣はメイラを交えて批評やらアドバイスやらを行いまくっていた。若干彼女の顔が引きつっていたのは、見間違えでもあるまい。

「だから、コクがあるとちょっと違うと思うのよ」

「味につよさというか、力強さと言うかが足りないのよねぇ」

「あー、でも美味しいわよ? すごく。ここの村がお米を中心にしてるからってだけで、実際パンとかに合わせれば――」

「え、えっと……」

 視線でヘルプを求めてくる彼女に、太朗は無言でサムズアップを送った。エールか何かのつもりだろうが、残念ながら彼女には全く意味がわからなかった。

 その後、場がお開きになるまでしばらく時間がかかったものの、色々と成果は得られた。日本酒に合わせると言う前提で考えれば、要点は二つ。米に合う風味かどうかというところと、味がややパンチにかけていると言うところ。

「さて、どうしたものか……」

 頭を悩ませるようにする太朗。実際、こういう類の問題はレコーに丸投げするだけでは解決が見当たらない。太朗的に「岩石の魔王」に対してどういう料理を出せば良いか、おおまかには理解しているつもりだが、こういった細かい部分はあまり得意ではない。それゆえに情報を与えられても活用できないのだ。だからといってレコーに出てきてもらって、何でもかんでもやってもらえば解決かというと、そうでもない。彼女も彼女で生物ではなく、その上、太朗と違いその本質には人間要素が皆無である。ゆえにこういった、人間文化を中心とした問題の解決には無かないと言えた。

「つ、疲れました……」

「昼寝したけりゃしても良いぞ。俺、ちょっと散策してくる」

「か、かしこまりました……」

 おばちゃんたちのマシンガントークにつきあった結果、まるでもみくちゃにされた後のようにメイラの体力はガリガリ削られていた。こころなし、服装の襟元とか、髪型とか乱れまくりである。太朗はそれをそっと見なかったことにして、家を出て戸を閉めた。指を弾き、魔力で裏側から鍵をかけて移動。

 そんな風に歩いていると、見慣れない馬車が現れたのを見つけた。

「……あん?」

『――新たな犠牲者』

 嗚呼、と太朗は思い出す。そういえば内部から村のある区画の外に出る事は出来ないものの、外から中に入ることは出来たはずだ。とすれば、太朗はのっぺりとした無表情に、わずかに同情を浮かべた。

「……あれ、やあこんにちは。君は新入りさん?」

「えっと、旅人です。色々あって足止めを喰らってまして」

 ちょっとふくよかな体系の男性に、太朗は事情を簡単に説明。それを聞き、彼は肩を振るわせて笑った。割と大声なのに顔は苦笑いである。

「弱ったなぁ。まあ村長に頼まれていたものは出来たから良いのだけど、これじゃねぇ」

「何を頼まれていたんですか?」

「ん? これさ。味噌汁とかには必須なものだよ。あ、味噌汁って言うのはね――」

「もう食べました。というか、あの……っ!」

 彼が馬車に積んでいた袋の中を見て、太朗は、思わず叫んだ。


「これだあああああああああああああっ!」


 無表情絶叫というあまりにもあんまりなそれに、男性は車上で飛び上がり。

 借家からそんなに距離が離れて居なかったこともあってか、メイラが飛び起きて玄関から出てきた。

 

 

追記:次話の投稿は今日明日中に致しますのでしばしお待ちを・・・

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