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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
魔王襲来というか醸造編
42/80

第31話:当り前なんだよなぁ……

今日も一話



 

 

 どうにか“岩石の魔王”に会えないものか。会いさえすれば、太朗的には色々と交渉の余地も見えてくるのでは、というかレコーが教えてくれるのでは、と思っていた。しかしその考えは、ほんの三日で潰えることになった。

 村に来た初日。誰も見て居ない時間を見計らって、太朗は三次元的に脱出できないかと試みた。所謂いつもの大ジャンプである。だがそれをつかったところで、上昇した先はなにもない。テレポートを使って地上へのダメージはないようにしていたが、四度繰り返してもなお何か、障壁のようなものすら見当たらない。ならばと直進でどこまで行けるか試してはみたが、ある一定距離を行くと、どうしても戻ってきてしまう。気がつけば街に居た、ということもざらだ。跳躍と直進を併用しても同様である。

 ことここまでくると、まず物理的な脱出は無理だと判断した太朗。ならばと村のヒトビトに聞きこみを行うも、芳しい解答は得られず。総合すると、魔王との交渉は村長にまかせっきりであり、特に他に何かがあるわけではないとのこと。

「……うげ」

『――どんまい』

「慰めになってねぇんだよ、レコーちゃん」

『――事実。でも条件開示的には一月後には必ず出られる』

「遅すぎるんだってそりゃ……。まあまだ他の奴等の話とか、聞いちゃいねーが」

 肩を落しながら、あてがわれた小さな家の居間で伸びる太朗。地味に座敷である。開かれた格子窓の先から吹きこむ冷たい風に、向こうに見える山々。ダンジョン化の影響か冬だろうが山の川も水田も水が引くことはないものの、それでも全体として見れば、連なる家々など含めて間違いなく日本のそれだ。というか、住人も大体和服だ。顔立ちも東洋系が多く、気を抜くとついここが、日本ではないかと錯覚してしまう太朗。

 だがしかし、脳裏に響くレコーの声が彼の認識を現実に引き戻す。間違いなくここは異世界であり、彼自身既に色々と失ってしまったものがあるということを。そしてその上で、このエダクラーク村は、村長たる枝蔵の意図した通りなのか、異世界人にとって非常に住み心地が良い場所であるようだ。人間性を喪失しつつある太朗の内にまだ残留している、わずかな人間性に訴えかけられ続けるものが大きい。

「……あんまり居たら、惰性でもう脱出できなくなってしまいそうだな」

 太朗のその言葉は、軽い口調に反して非常に重い声音であった。

「……積極的に関わるにしても、多少村とは距離をとらないと、俺本当にここから出られ泣くなりそうだな」

『――ちょっとのお手伝いで三食つきますしね。まあ銀貨は多少減りますけどぉ』

「それでもケンダイスの宿屋より安いと来てるし。色々やべぇな……」

 だれている太郎。ふと、そんな彼に声がかけられた。

「……どうなさいましたか? トード様」

「あん? ってメイラか。……何ぞ、その格好」

「あはは……、に、似合いますか?」

 部屋の奥から現れた彼女。どう見てもその格好は、和服の上から羽織りをしているものだ。柄は何を思ったのか雪と桜が入り乱れたもの。普段とは違う服装に照れてる様がちょっと艶やかで、両目の青がその色の中で浮いていた。

 はて、と頭をかしげる太朗。もともと彼女はこの村の住人たちにあまり良い感情は抱いていなかったように思ったが、なにかあったのだろうか。レコーは特に解答もしないので、知っても大した情報でないのかと判断し、彼はテキトーに言った。

「あー、ま、んなもんじゃねぇの」

「少しは褒めてくださいよ……」

「俺にそれを期待するのはアレだぞ? ま似合ってはいんじゃねーの?」

 太朗としては本心であるが、あくまでもそれ以上の感想は出て来ない。不思議なことに、花浦弥生の姿すら脳裏に浮かばなかった。それに気付いた時、太朗は右手で自分の側頭部を殴った。

「と、トード様!?」

「あん……、あぁ悪い。ちょっと待ってろ」

 頭を振り、花浦弥生の姿を脳裏に幻視する太朗。これは何だろうか。古い機械は叩くと直る、みたいなのを自分で実践したようなものか。自分の身体の動作不良だと考えているあたり、まだまだ人間性の喪失については自覚の足りない太朗であった。

 あるいは、認めたくないのか――復活後、実に何ヶ月経過したものか。ほとほと彼の内部における支柱たる花浦弥生であるが、同時に彼女に対する思い入れが、微々として薄れているということを。黙したままレコーは何も言わない。そのことに彼が気付こうが気付くまいが、レコーの仕事は変わらない。

 突然の奇行に心配される太朗であったが、ニヒルに笑い立ち上がる。

『――それで、どうする?』

「昼寝もちょっとしたし、今日は村長のところへ向かうか。酒なら何か言える事もあるだろ」

「……あの、それ以前にトード様とあの村長との関係というか、ニホン? という土地の話もロクに聞かされていないのですが……」

 困惑する彼女を無視して、太朗はぐっと伸びをした。





 村長の家の先をいったところに、酒蔵はある。そこまでまだ大きくないのは、一応今後増築予定はあるものの、現在の酒造が、まだトライ&エラーを繰り返している段階だかららしい。実際に完成品を作って、それを販売できるかどうかを検討している途中とのことだ。

 さて、太朗たちが酒蔵に着くと、男衆がうだうだと走り回っていた。倒れている男もいれば、赤ら顔でウハウハ言ってるのも居たりして、非常に混沌としている。女集の姿がわずかに見えるが、何だろう全体として介抱しているようにしか見えない。

「……何ぞ?」

『――飲み比べ中』

「ああ、みんな酔ってんのか」

 呆れはしないが、太朗は肩をすくめた。まあ夕暮れ前とはいえ、昼過ぎに酒を飲めばこんなものだろうか。

『――試飲といいつつ一杯、また一杯を繰り返した』

「際限ねぇな。ストッパー誰も居ねーのか?」

『――本来そうなるはずの相談役は、この有様に逃げた模様』

「うげ……」

 ちなみに太朗の背後で、メイラは非常に名状しがたい顔で固まっている。とりあえず促しつつ、太朗は人ごみをかきわけて前進。レコーによるアシストにより、最小限の動作とステップで目的地へ至れる。メイラがはっとした声を上げていたが、やはりこれも太朗は気にしない。

 ジョッキを使いながら、白く濁った酒を飲みつつ枝蔵英夫は頭をかしげていた。

「何だろう……、何かが足りない……」

「あん? どうしました?」

「お? ああ、ボウズか。どうした?」

「いえ、ちょっと散策してたらこの状態でしたので……。何か手伝えることあるかなぁと」

「ほー、そうか。でも酒を飲ませるわけにもいかないしな……。普通にはきそうなやつが居たら外に連れ出したりしてくれれば、いいぞ?」

「そうですか。……あれ、白いですね」

「お? ああ日本酒作ろうと思っていてな。前段階としてどぶろく、要は濁り酒作ってるんだ」

「へぇ……。本当に味見駄目ですか?」

「そんなに飲みたいか?」

「まあ、話の種くらいには」

「んな微妙に堪えるようなニヤケ顔されても説得力ねぇぞ。……まあ、一口くらいなら大丈夫か? ほれ」

 別な空のジョッキに一口分樽から注ぎ、太朗に差し向けた。受け取りそれを見つつ、ぐいっと一気に飲む。やや酸味があり、おかゆまではいかないが、のりのドロリとした舌触りがあった。米酒は初体験な太朗だが、どこかワインよりもクセの強い味に感じた。

「そいつをこすと、透明な清酒になるわけだ。ライスワインとかとも言うな」

「へぇ……」

「甘酒はあんまり好評じゃなかったんだが、やっぱりアルコール度数の問題か……? みりんはそれなりだったが」

「みりんってお酒なんですか?」

「んー……、確か知り合いの、委員長の方だったか? が言うには、元々は高級酒として扱われていたんだと、あっちは。まあアルコールよりも糖度の高さがポイントとして扱われてたんだろうが」

「もう一口良いですか?」

「あぁ? いや、流石にもう駄目だ……、あー、わかった、わかったから。そんな悲しそうな顔すんじゃねぇっての。そっちのお嬢ちゃんも一緒に飲めや」

 今度はさきほどより多めに入れて、酒を太朗とメイラの両者に手渡した。

「何か足りないような気がするんだが、何が足りないのか分からないんだよなぁ……」

 頭をかかえる彼を見つつ、太朗はちびちびと飲みながら、同じ命題を考える。メイラはといえば、ジョッキを傾けながら、ぐいぐいと飲んでいた。こちらは普通に見た目も成人を超えているため、入れられた酒量は普通に一杯分である。ぐいぐいと飲む様子からは、一片の酔いも感じられなかった。

 結局、この日はうとうとしているメイラを抱えて帰った太朗だった。見た目に出難いだけで、彼女もそれなりに酔って居たらしい。途中でティロと遭遇し、何とも言えない目で見られたのは余談である。

 

 

ちょっとグダってますが、明日には解決策が出ているはず(二話更新できていれば)

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