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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
魔王襲来というか醸造編
41/80

第30話:外見設定ミス

今日も一話。

 

 

 英夫の作業が終わる頃にはもう夕方。太朗たちは村長宅にて夕食もご馳走になった。出てきた料理は白米、つけもの、味噌汁っぽいが何かが違う液体と、川魚の焼き物だった。太朗的には相当衝撃である。こたつやみかんが出てきた段階で予想してしかるべきであったが、ここまで局所的に完璧な日本食が、この世界で食べられるとはと完全に度肝を抜かれていた。

 夢中で箸を使いかきこむ太朗に、枝蔵英夫は苦笑いを浮かべる。

「味噌はちょっと悪いな。酵素とかの性質とかが違うのか、思った通りになってくれなくてな。別な調味料とかも含めて代用してんだが……。醤油もまだ出来てねぇし」

「いえいえ、めっちゃうまいです」

 がっつく太朗は、食事への執着というよりも故郷たる日本への懐かしさが勝って居るようだ。

 太朗とは対象的に、二人はそろって箸をつかえず、スプーンで代用していた。音をたてながら汁をすする太朗を妙なものを見るような感じで見つめるティロとメイラ。村長とその妻、義理の妹に娘と全員も似たような食事方法をとっているあたり、この場所での作法だとはわかるようだが、いまいち慣れない文化圏のそれを実行する気にはなれないのだろう。

 頭から魚をばりばり食べる太朗。娘がそれを見て「わたしも!」と言ってマネをしようとするのを、母親の女性が止めていた。

「こら、ジャックだったか? 止めろっての。喉につっかえるだろうが」

「あん? これって、そんなに骨太くもないような……」

「馬鹿年齢考えろ、こっちは幼女だぞっ」

「あ、そうですか。えっと、もうちょっと大人になってからね~」

 言いつつ少女をあやしながら、魚から丁寧に身を剥がしていく太朗である。手先の妙な器用さに、メイラは感心しきりであった。

「……で、作業終わるまで話は待ってもらいたいって言ってましたけど、結局何なんでしょうか」

「ああ、そうだな。……むぐむぐ」

 味噌もどき汁をかみながら飲みつつ、英夫は肩をすくめた。「んー、この土地を見て、どう思った?」

「どう、とは?」

「まぁ色々だな」

「ま、普通に水辺とかになりそうなイメージではありますかね。道中ちらっと、三角州みたいになってるのは見ました。その割にはここ別に陸地の端っことかいうわけでもないな、とは思います」

「それなんだがな。そこが問題なんだよな……」

 意味の分からない太朗たちに、枝蔵英夫は目を閉じ、何かを思い出すよう言った。

「……ここに村を作る前、まあ少人数で逃げてきて開墾してた時なんだが、まず困った問題があった。川がこっちの方に流れて居ないんだな。水源を探しても探しても見当たらず、教会とか神殿の占い師とかに言わせれば、そもそも水の元素の流動がないから、ここら辺一帯には水脈が欠片もないと。稲自体は隣国の方を放浪してた時、嫁共々発見したんだが、どにもな。このままだと、それ以上にまず俺等が飯なくて死んでしまうとな。モンスターは居ないわけじゃないんだが、水流が少ないためかあんまり生物が寄りつかなくて、とてもじゃないがかつては住めたもんじゃなかった。だからこそ他の国が手出ししないエリアだったってのもあんだが……。

 そんな時だ。あの、“岩石の魔王”が現れたのは」

 頭をかしげる太朗。以前遭遇した“宿木の魔王”とは、別な名前が挙がったからだ。魔王とは、そんなぽんぽん出るものなのかという疑問が浮かぶ。

『――割と条件厳しいですけど、出ようと思えば出ますよ~。絶対条件で邪竜をころころしないといけませんけどぉ、その後は統治する魔物がいて、ダンジョン作ってぇ、自ら魔王だと宣言すれば晴れて立派な魔王ですぅ』

 何だか自己顕示欲強そうだな、と思わず太朗は肩をすくめる。主に自らを魔王だと宣言する、というあたりでだ。まあ先入観が強すぎるかと思いつつも、太朗自身既に特定の人間に対して、みずから魔王宣言をしていることは忘却してるらしい(というか、魔王だと直接宣言はしなかったというつもりのようだ)。

 というかダンジョンなんて作れるのか、という疑問も湧いたりはしたが、英夫の話が続くので一旦それを考えるのは止めた。

「あの魔王が、困ってる俺達の前にころころ転がって来てな」

「……あん? 転がって?」

「まあ実際に見たら早いと思おうが……。あの時は、横になった円柱型をしてたな」

「どういうことだよ」

「全く同じ意見だが、残念ながら事実なもんでな。……で、アレだ。その魔王が当時、言ったわけだ。

『お前らがこの場所で生活をしたいなら、その環境を己が整えてやろう。その代わり、時期がきたら己の要求するだけのものを持って来い』

 ってな」

「要するに借金みたいなことをした、と?」

「状況的にはな。まあそのまま待っていても、強くなってるモンスター狩れず死ぬか、体力つきるかってところだったし、諦めて契約したんだよ。

 そっからは早かったなぁ。山の斜面に、突然緑が生茂ったり。どこからともなく水が現れたり、地形が変わったり」

「……そんなレベルで、その、環境改造されたのか?」

「上手い表現だな。そうだ、環境が改造されたんだ。向こう曰く、ここいらの土地を自分のダンジョンにして、内部を操作したって具合らしい」

『――そのうちたろさんも、出来るようになりますよ?』

「うげ……。でも、魔王って言っても色々いるもんだな」

 その魔王の真意はともかく、実際やっていることといえば、普通に慈善事業か投資のようなものだ。自分の手で土地そのものをいじる、という違いはあれど、債権の回収の見込みも薄いだろう彼等に力を貸しているわけだ。カルトをかかえたどこかの黒い煤に比べて、偉い違いに太朗には感じられた。

「まあ、他の魔王ってのがどんなものか俺は知らないが……。

 最初の五年はまってもらって、とりあえず稲作を定着させたんだ。実際気候とかも日本に合わせてもらってな。台風も来ないし、割合そんな難しくはなかったぜ」

「はぁん……。で? 今はどうなってるんですか?」

「そこが、ちと問題でなぁ……。五年過ぎた後にちょっと人口が増えたリして、また待ってもらってな。でその後の二年、今年まではまた他の国とのコネがちょっと出来てきてな。ほら、ガエルスとケントで戦争終わって落ち着いてきて、正式な販路が確保されたってのも大きいからさ」

「……ん?」

 と、ここで太朗は違和感を感じ、率直に聞いた。「てことは、つまり未だに、魔王が求めているその、恵と言うか、魔王側からすれば報酬? を提供していないと」

「まあ、不本意ながらそうなっちまってるなぁ……」

 何とまぁ。太朗は一瞬呆れたが、しかし実際に彼の立場に立たないと見えない苦労も多いかと考え直し、すぐに思考に決着はつけなかった。

「俺も心苦しいとは思ってたんだが……。まあ、こんなバックが何もない村だから、軋轢はあんのよ。そもそも魔王との接触すら表向きは秘密だし」

「ま、魔王ですからね……。

 でもいいんですか、そんな話ここでしても」

「ボウズはアッキーたちの紹介だし、日本人だから多少は信用してるぞ? そこの嬢ちゃんはボウズの付き人っていうなら、ボウズが言うなって言えば指示を聞くだろうし。

 ちなみにそこの商人は、立場的にあんまりそういうのを表立って言えないしな」

「ひ、酷いですよエダクラーク村長、私だって貴方がたとは懇意なんですから、そんな信用を裏切ることはしませんって」

「どうかな? そう言って村の人員をケチったりした商人が、昔そっちの方の街に居たんだが……」

 ええ!? と驚く青年商人に、英夫は、はははと苦笑い。どうもこの話題は薮蛇だったようだ。

「で、それはともかく。それがどうしてティロが外に出られないって話に繋がるんですか?」

「あー、それだ。簡単に言うと、魚捕獲装置みたいな状態にされたんだろうよ。空見てみろ……て言ってもそろそろ夜だが。曇ってるだろ? 実はあれ、ここのところ三月くらい、ずっとなんだよ」

「……何ぞ?」

「魔王が言ったんだ。『いい加減何か特産品の一つでも提供しなければ、相応の罰則と制限を課すぞ! これは正式な契約に元づく行為である』ってな。

 だからまぁ……、返しのついた魚用の罠みたいなもんだろ。外から中に入ることはできるが、中から外に出る事はできないと」

「……下手な篭城よりアレじゃないですか?」

「俺もそれは思ったな。だから最低限の商人くらいの出入りはさせてくれって言って、そこはオッケイもらえたんだが」

「というか、何かその魔王ずいぶんと話が分かる相手ですね……」

「俺もそう思う。でも、こうも言われた。『今年の年末までに、何か一つ納得できるものを持って来い』とな。流石にそれを守れなきゃ、後が怖いってどころの話じゃない。

 で、今色々試行錯誤やってんだ。米麹とか、酒とかな。今日は試作品のどぶろくの味見と改良案とだな」

「さ、酒まで……!」

「あ、言っとくが飲ませないからな? お酒は二十歳になってからだ」

 驚愕する太朗であったが、枝蔵村長は苦笑い。「でも、結局相手が納得するかどうかは、わかったもんじゃねぇんだよなぁ……。どう頑張っても、年末まで間に合う気がしない」

 太朗はみそしるもどきをすすりながら、思考する。枝蔵英夫の、ある側面から見れば自業自得な部分や、その結果として弥生や阿賀志摩への糸口を掴んだかもしれない事実。そして、最も重要な部分としては。

「……少なくとも、あと一月は外に出られないってことか」

 肩を落す彼に、事情の理解も中途半端だろうが、メイラが同情の視線を向けた。

 

 

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