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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
魔剣というか妖刀獲得編
31/80

第23話:準備の仕様がないことと、準備が出来ないことほど悲しいものはない

本日の更新は第22話と第23話となっておりますので、あしからず


急展開と流血注意

 

 

 レコーの話を聞いた際は、違和感のなかった太朗だったが、しかし後で思い返せば、ちょっとした疑問にぶちあたる。山頂のくぼみから出て身体を伸ばしながら、太朗はレコーに再度確認をとった。

「呪いを移すのは、普通武器十数で済むのか?」

『――ぴょん! 肯定』

「その『ぴょん!』は止めてくれ、未だに慣れない……。じゃあ聞くが、それを超えて武器を集めなければならない呪いって、どれくらいの呪いなんだ?」

 しばらく押し黙ると、レコーは解答。『解呪の方法が見つからず、見つかっても到底達成できないと仮定し、呪いの原点から逃げることができない、と仮定する。その上でなら――あれ? もう死んでいておかしくない』

「今あれ? とか言ったの何でだ? ……まあいい。としても、つまり呪いを移すのが間に合ってるってことか?」

『――否定。そもそもそれだけの量の呪いなら、既に死んで居る』

 そう、これである。今朝方レコーと話し合った結果がこれだ。すなわちバンドライドの行動から得られる推測は、次の二通り。太朗たちに嘘をついて行動してるか、あるいは本人が勘違いか騙されて行動しているか。

 少なからず、前者に対しては『――否定』とレコーに太鼓判を押された。とすれば、考えられる事は一つである。

「武器集めをそそのかした第三者が、鍵を握ってると言うことか?」

『――何にしても、少し事情を知る必要がありそうですね、御主人様』

「でも事情を知る相手って言ったって、バンドライド本人に会えるかどうかは――あん?」

 と、朝日が昇る中、太朗は山のふもと、街の方角に視界を集中させた。そこには、なにやらに覚えのある女性が、門を丁度出たところではないか。

 発見と同時にテレポートする太朗。彼女に背後から声をかける。そしてカマかけもかねて言った一言に、女性は思った通りの反応を示した。

「……貴方の話を聞くことが、坊ちゃまの治療にどう役立つというのですか?」

『――条件開示、開放。当りですよ御主人様ぁ。あと、この人実際にバンドライドさんの息子さんの看病とかもしてるみたいですぅ』

 これは細かい話も聞けるか? と藤堂太朗。山を登りながら、彼は彼女から話を聞き、逆に話をふったりした。結果として、太郎が得た情報は二つ。

 一つは、少なからず息子たる青年は、確かに病床に臥せっていること。顔面を包帯で巻き、ふるえ、幼児退行したような挙動をすることもある。あまりに戦場でのダメージが大きく、とてもではないが表に出せないとのこと。

「妹様共々、看病は日々続いております」

 そしてもう一つだが――呪いを開放する術を教え実行していたのは、“旅人”あらためカルト集団“愚者の旅人たち”で相違ないとの事だった。

「……なるほど、確かに言われて見れば、おかしいかもしれませんね」

 彼女も彼女で太朗の、呪いのレベルとそれに必要な武器数がどう考えても割りに合わないという情報を共有した。目から鱗、といわんばかりに大きく目を開き、彼女は何度も頷く。

「その手の知識は、調べようにも伝手がありません。もし貴方の言うことが事実ならば、即刻旦那様にお知らせしなくては」

「ん、伝手がない……?」

 バンドライドの従者ならば必然、多少なりとも自身のクラスメイトらと接触があったのではと思った太朗だが、レコーにより否定される。

『――彼女は元々、ケント国側の住人。藤堂太朗らノウバディとの接触はない』

 なるほど。太郎の違和感を払拭したレコーは『――えっへん』と無意味に胸を張っているようだが、しかしそうすると、色々と謎なことがある。

「なあ、何でアンタはバンドライドに仕えてるんだ?」

 女性は、即答する。「恩義です」

「恩義?」

「ええ。私達敗者側が、勝者側に蹂躙されそうになった際、聖女教会共々規律で食い止めたのが、あのお方でした。本当の意味での故郷と、家族と、友と、そして己の滅びかけていた命と。それら全てを守ってくださったあのお方に、仕えぬ理由が他にありますか」

「仕えるかどうかは別にして、恩義に報いたいと。ふぅん……。アンタ、良い奴だな」

「良し悪しではなく、当然のことをしてるまでです」

「当然、ねぇ……」

 ふと、太朗の脳裏に松林夫妻や、アイハスたちの顔がよぎる。自分を逃がしたのはおそらく彼女らだろうが、ちゃんと元気にやっているのだろうか。

『――とりあえずそこは無問題。吊る仕上げとか処刑とか捕縛とか拷問とか、物騒なのとは無縁に生きて居る模様』

「そりゃ何よりだな」

 疑問に対する回答は、閲覧権がある場合のみ即回答してくれるレコーに、太朗は肩をすくめた。ただそれとは別にして、彼は彼であの場所、ガエルベルクに何らかの恩赦をせねばなるまいと確信した。いつになるかは分からないが、少なくとも自分を助けてくれた、アイハスたちに何かをしなければ。弥生や阿賀志摩のことが終わったら考えるか、と一時思考を棚上げして、彼は女性に尋ねた。

「ところで、旦那様に伝えなければ、といってるがアンタは何で山登り止めないんだ? 帰れば済む話じゃないのか?」

「いえ、だから登っているのです。旦那様がいらっしゃる前に――」

 と、彼女の言葉は途中で遮られた。


 号音が鳴った。


 山小屋の方角だ。彼女にはわからなかったが、太朗はすぐさま断定できた。テレポートを使う直前の地形把握の状態で、音の方角を探ったのだ。すぐさまテレポートしたい本心もあったが、彼女をつれたまま実行するのは、流石に問題がある。

「あー、しっかりつかまれよ」

「へ? ――きゃっ!」

 妥協点として、彼は女性をお姫様だっこした。驚き暴れようとする女性を、魔力で無理やり腕に固定して、太朗はひょいひょいと山を登っていく。こと数秒、めまぐるしく変わる景色を見て、女性は抵抗どころか呆然となった。

『――ソニックブーム出ないくらい調整できるだけ、たろさん練習しましたよね』

 うっせ、と思考に文句を垂れ、そのまま太朗は小屋の場所まで行った。行ったはずだった。


 だが、そこには小屋など欠片も見当たらなかった。


 あったのは、木片と死体の山だけだ。腕が、足が、頭の破片が、胴体の輪切りが。ミンチ状になったそれらは、太朗にとってここ最近、馴染み深かったものと、馴染みの薄かったものもある。その中央で、まだ息のある人間がいるというのが、太朗にとって救いか、はたまた呪いか。

「は、は、流石に、これはすごいなぁ……」

 兵士たちの亡骸を踏みしめ、兵士達の頭の男は抜かれた青い刃を手に取り、笑う。下卑た笑みだ。見た目は誠実そうに見えなくもないが、そんな見た目に関係ない。小屋の手前まで出てきて、カチドキを上げる。兵士達は、それに唱和して盛り上がっていた。

「これだ! この武器さえあれば、我等が主は――」

「てめぇ何してんだ」

 女性を下ろし、太朗は高速移動して男の首を持ち上げた。ひょい、と軽々と地面から離れる男。ついでに開いてる右の手で刀を持つ左手をにぎり、少しだけ「ぐしゃる」。骨の砕ける音が響き、剣を落す男。苦悶に絶叫しながら、酷い顔をした優男は唾を飛ばした。

「な、何奴!? ――貴様は昨日の!」

「てめぇ何をしたと言っている。あん?」

 人間には視覚で知覚できないが、太朗の全身からは、魔力が昇っていた。物理的に振るっているわけではないので、その場に居るだけで竜を屠るほどの衝撃が放たれたということはない。当然ないのだが、しかし知覚する術のないはずの人間にとっても、その場で怒りを練り込む太朗の全身からは、巨人のごとき威圧感が漂っていた。少なからず、周辺に居た兵士達を含めて全員が、微動だにできないほどの恐怖を、太朗は放っていた。

 男を投げ飛ばし、彼は小屋のあった場所その位置へ。小屋の手前に居た男のことなど無視して、彼は老人を抱き起こした。血なまぐさいの光景に対する忌避感よりも、彼はそれを優先した。

「しっかりしろ、じーさん」

「あ……、お……」

 オリスハーバ・ペテルは、酷い有様だった。両腕はなく、足も右は太股から下が、左は膝から下が欠損。胴体にも肺が片方露出するほどの切り傷があり、どう頑張っても助けようがない。

 老人は、太朗の顔すらみていない。欠けた、血を吹き出し続ける腕を空にかかげ、震える声で言った。

「エミリ……、済まない……、そっちにいったら、夫共々――」

 言葉を言い終わらずに、老人の瞳孔は開ききり、腕がぼとりと投げ出された。次第に血の噴出が収まり、やがて何一つ変化がなくなった。

「…………」

 太朗は、目を見開いたまま、硬直した。現在の状況に対して、何一つ感想すら言うこともままならない。それほどまでに、彼はショックを受けていた。本人すらわけがわからない。何故、オリス老は今こんな有様で、むごたらしく死んだのだろう。何故、小屋が消し飛んだのだろう。何故兵士たちも、まるで何かに巻き込まれたように老人同様の有様で死んでいるのが居るのだろう。何故――自分は、この状況を食い止められなかったのだろう。

 混乱する思考の太朗に、弾き飛ばされた長が、立ち上がりながら言った。

「何を呆けて居る? 嗚呼、知らなかったのか。この剣は――」

 青い刀身の剣、バンカ・ラナイを納刀して、男はニヤニヤとした笑みを浮かべた。腰に紐を巻き、まだ残っている片手で抜けるようにしている。

「妖精剣。周囲にあるもの全てを斬り散らす、最も『殺戮に向いた』妖精剣だ。聖女教会により魔剣とされ、この地で二度と使われることもなかった剣だ」

「……それが、何故抜刀された?」

「その男に聞け。嗚呼もう無理か」

『――告。兵士達に周囲を囲まれ、なぶり殺しにされかけた際、緊急措置として使った』

「てめぇらのせいだろ。どう見てもよ」

「少なくとも、この剣。刀といったか、これにとってはむしろ喜ばしいことなのだろうがな」

 男は、肩を震わせて笑った。兵士達は、頭を守りながら太朗のことを警戒している。実力差は顕著であり、求めていた魔剣を手に入れてなお、太朗を警戒してるあたり、見る目のある兵士たちなのだろう。

 そんな彼等に、さきほどまで呆然として動けなかった女性が、叫ぶ。

「……許されると思って居るのか! 傭兵たちよ、貴方たちは旦那様の言葉を――」

「嗚呼メイラ・キューといったか。そのことだが」

「――もう無意味だ」

 男の言葉と同時に、彼女の背後から一人の青年が現れた。ばっとそちらを見る女性。太朗もそれに倣う。

 男は、顔面に包帯を捲いていた。服装はすすけており、所々に血の跡のようなものが残っている。そのやせ細った姿はどこか痛々しく、衰弱しているはずの肉体で何故ここまで歩けるのだという疑問が発生する。

「坊ちゃま、何故――」

「ふん」

 男は、女性を蹴飛ばした。胸元の中央に足を入れ、軽々と吹き飛ばす。太朗が魔力で彼女を無理やりキャッチして、引き寄せると、心臓が止まっていた。骨は折れて居ないようだが、威力がそのぶん内部に伝わったのかもしれない。

「……レコーちゃん、心臓マッサージとかって出来るか?」

「――仕方ないですねぇ」

 と、どこからともなく現れた青髪の少女。周囲からはアストラルゲートの起動すら見えず、唐突に現れたように見えたに違いない。ぎょっと驚く周囲に、我関せずといった風に堂々としているレコー。太朗から女性を受け取ると、レコーは兵士達の死体をどかし、女性を寝かせて応急処置に入った。

「てめぇは……、誰だ?」

「ふむ、お初にお目に掛かるな、我が同類」

 男は――おそらくバンドライドの息子であるはずの男は、包帯をといた。

 その顔、目の下に左手を重ね合わせた、円形のエンブレムのような水晶が浮かんでいた。


「私は――宿木の魔王」


 その名乗りと同時に、周囲の兵士達、否、“愚者の旅人たち”の構成員は、拍手を送った。

 

 

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