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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
魔剣というか妖刀獲得編
25/80

第17話:先立つもの筆頭としてそもそも金がなかった

本日の投稿分は第16話と第17話となっておりますので、あしからず

 

 

「……レコーちゃん、俺、一週間と言った覚えがあんだが」

『――何度も起した。何度も起した』

「何故二回言った……」

『――何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――』

「わかったから。そんなにマジで起したのか?」

『――おおまじ』

「となると、それだけ集中したってことなのか? まあ二月がほんの一瞬に感じるような時もあるくらいだし、それくらいおかしくは――」

『――どちらかと言えば、半精霊の加護をなじませるため、私が色々いじったから』

「ってテメーのせーじゃねーか!」

 座禅を解きながら、思わず突っ込みを入れる太朗である。山頂、空は快晴。周囲の状況を見ると所々に水溜りがたまっており、太朗自身も若干湿ってる。

 季節は冬まっさかり。下手すれば山頂のここは氷点下。それでも雪だの氷だのになっていないあたり、何か事情があるのだろうか。あまり気にしてはしていなかった太朗だが、今更ながらに自分の格好に違和感が出てきた。

 さっそく直したリーゼント風頭で、彼は山の下を見下ろす。「……一応、町はあるのな」

『――以前の場所よりは大きめ。どちらかといえば隣国の都市をそのまま使ってる』

「はぁん……、って、名前聞いてなかったなあの町」

『―― 一応、ガエルベルクという名前はあった。ちなみにここはケンダイス』

「言われても覚えていられるかは怪しいが……、ガエルベルクと、ケンダイスな」

 自分の別名よろしく、なにかとカエルっぽい響に縁のある太朗であった。

「そいえば、何だ? 半精霊の加護がどーのと言っていたが何ぞ?」

『――簡単に言うと、私を介さないでもある程度、藤堂太朗が能力を使えるように調整したということ。例えば、地図を出したいと念じてみて』

 言われた通りにすれば、太朗の視界の中央あたりに、例の星型のサインが出現。レコーが出てきたりするそれを、掌大にしたものだ。ひょっとして、と思いそこに手を入れる太朗。空間に溶けるように太朗の手先は、何処とも知れない空間へと繋がった。何かをさがし、つかみ、引っ張れば意図した通りルーズリーフが抜ける。しまう時も同様の方法で出来、ゲート自体の消滅も、なんとなく「もう使わないよ?」と思ったら消えた。

「……なんかふわっとしたユーザーフレンドリーだなぁ」

『――これくらいが無難かと。ちなみに、藤堂太朗自身は、現状、この中には入れない』

「何ぞ?」

『――現状だと出口のようなものが整理されていないので、その設定は除外してる。最悪、出られなくなる可能性あり』

「はあ。ま要するに、四次元なんちゃらみたいなもんか」

 ボルガウルフのコアを少しだけ服の袖で磨いて、再度しまう太朗。「で、テレポートについてはどうなんだ?」

『――そっちはかわらない。多少距離感というか、そういったものが把握しやすくなったくらい』

「どれどれ?」

 と、意識を集中する太朗。脳裏に周囲の空間が表示され、多角的な角度からのショットやら、俯瞰図、様々な情報が彼の脳裏を駆け巡る。

「……確かにあんまり変わってないみたいだが……、ま多少は移動速度早くなるし、使って見るか」

 軽い感覚で、太朗はテレポートを実行した。二度目の体験たるぬめりとした圧迫感だが、多少慣れたのか、不快度が少しなくなっていた。せいぜい空間と空間の切り替わりで、その間に一瞬緑色の光が視界に飛びこんでくるくらいである。

 さて。彼が転移した先は船着場。ケンダイスに来てから初めて到着した場所、要するに湖だが、こっちでヒトと始めてあった場所がここだ。二週間は精神を分解していたような太朗だが、現時点で一番印象に残っていた場所が、そこということだったのだろう。

 そして、その場で釣具を押さえながら腰を抜かした老人を見て、彼は思わず謝った。この間の老人である。太朗を見た瞬間にびっくりして体制を崩し、湖に落ちはしなかったものの、とうてい釣りを続けられそうな状態ではなかった。魚の入っているバケツ(?)が転がらなかったのが唯一救いだろうか。ともかく、太朗は手を差し伸べた。

「……悪い、じーさん。大丈夫か?」

「あ、ああ……。一体どこから来たのじゃ、貴方は」

「企業秘密な。で、も一度聞くが大丈夫か?」

「しばらく立てそうにはないがの」

 申し訳ない気分で一杯になった太朗。とりあえず、ヤスナトラを引き寄せた時の要領で、「魔力をまとめて手のようにして」、老人を背後から支えて起き上がらせた。

「? ? な、何をやったのですじゃ、貴方は?」

「あー、まあお詫びだ。釣りしたいんだろ。だったら多少は手伝ってやろうと思ってさ。まあ俺もそんなに苦にならんから、釣りしといてくれ」

「はぁ……」

 突然身体が支えられたような感覚になり、困惑していた老人だったが、しばらく釣りをしていると、そこまでではなくなってきたようだ。落ち着いたというのもあるだろうが、この状況で落ち着けるというのも、なかなか胆の据わった話しだ。一見して世捨て人のように見える老人に、太郎は話しかけた。

「俺は、トード・タオという。アンタは?」

「ん? あ、ああ。……オリスじゃ」

「じーさんは、何ぞ釣りをやってるんだ? アレか、暇なのか?」

「聖女エスメラとて、鍛冶をしながら釣りを趣味にしてたと言うじゃろうに……。いやそういう話じゃないのう。まあ暇か、と言われれば暇じゃな。こうして釣りを続けるくらいしか、やろうと思うことも、やれることもない、只の隠居よ」

「その割に、なんだか背中に立派なモノ引っ掛けてるみたいだが」

 太朗の言葉通り、老人の背にはおおよそ1メートルほどの長さの、袋が背負われていた。見た目からして明らかに剣とかが入っていそうな袋であり、弱弱しい老人を、わずかばかし強く見せている。

 老人は、太朗の指摘に苦笑いを浮かべた。

「なに、これは……、まあ、娘のようなものの、形見じゃな」

「そうか。悪い事を聞いたか?」

「多少はな。まあ、あまり触れないでくれると助かる」

 そう言われれば、太郎はそれ以上の追及はしない。その気があってのことではないが、彼は話題をがらりと変えた。エサについてはどうだったか、という指摘に、老人は棹を引き上げながら、大声で答えた。

「――ごらんの通りですじゃ!」

「なるほろ」

 吊り上げた、三十センチほどの魚。見た目は少しアジに似ている。老人はそれをバケツに入れた。大きなバケツ、底にわずかに水草なのか海草なのかよくわからないものが鎮められており、その上には何匹か魚がたゆたっていた。レコーのアドバイスが、そのままこの成績に繋がっているというべきか。老人は、ほくほくとした顔で、太郎に提案した。

「この後、ちょっと一杯やろうと思うのですじゃ。どうです? 貴方も」

 唐突に太朗の脳裏に、実家の両親の顔がよぎった。父親が干物大好きで、会社の出張のたびに新しいものを仕入れてきたものの、母親は焼くのが苦手だから「アンタが焼けばいいでしょ!」「焼いてくれてもいいだろ!」という何とも低レベルな喧嘩が絶えなかった。しかしそれでも定期的に、干物に限らず肴を食べていた太郎である。ニュースで変な公害だのがとり沙汰されない限り、藤堂家の食卓が魚を控えた事は、あんまりなかった。

『――御主人様ぁ、一応食べられますよ? 味もしますし満腹感もありますよ?』

 と、太朗の思考に割り込んでくるレコー。太朗も思考で答える。別に食べたいと思ってたわけじゃなくてだな。

『――でもでも、御主人様食べたいでしょ? 涎は出てないけど、そういう気分なんじゃないですかねぇ? 半精霊にとって食事は趣向品みたいなものですしぃ、いいと思います』

「そういうもんか」

 顎に手をやる太朗。老人からすれば、より多く魚をとれる方法を教えてくれた、というのがご馳走しようという理由なのだろうが、太朗からすればレコーがぼそっとつぶやいた知識を提供しただけである。おそらく彼の生活の糧であろうそれを奪ってしまって良いのか、という意識が芽生えはした。

 だが、結局彼は同伴に預かる事にしたようだ。

「……ま知らない魚だし、味見くらいは」

『――でもお酒は二十歳になってからじゃないんですか?』

 そこの法律について、自分で折り合いを付けるか遵守すべきか。無表情の下で自問しながら、彼は老人の後を続いて、山小屋へ向かった。

  

 

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