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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
竜殺しというか邪竜蹂躙編
12/80

第8話:座禅の道も安全に座れる場所をさがすことからじゃないと

今回も二話投稿しておりますので、最新話から飛んできた方はご注意。

 


 太朗は、山頂を目指す。事実上目的を見失い、やれることもなくなってしまった。いや、実際のところは根気強く動けばやれることもなくはないのだが、基本的に彼のメンタルは未だ高校二年生のそれだ。そんなにアイアンハートな武装はしていない。無力感に犯された思考回路を、ポジティブに振り切るには多少時間が必要だった。

 だからこそ、とりあえず登る。何もせずただウジウジ悩んで居るよりは、身体を動かした方が性に合っている。別に体育会系な思考回路というわけでもないが、心身相関あなどるべからず。

 それと同時並行として、太朗はレコーと話し合う。

「何か良い案とかないか? レコー」

『異世界大陸をアホの力で無双してみては?』

「俺、そこまで歴史的なスカポンタ~ンじゃねー」

 会話の内容自体大分アレだが、話あっている内容は今後の彼の身の振り方についてだ。

 食べ物を食べる必要もない。睡眠を取る必要もない。SEX:必要ない。ある意味で究極生命体すら超えている部分さえある、藤堂太朗。

 もはや生物なのかすら怪しいとまでレコーに言われ(そもそも彼女は彼の事を「バグ」としか呼んで居ない)、あまつさえ彼自身もその自覚が出つつある。例えば、ふと意識を空に向けると、かなりの確立で星を発見できる。真昼間だろうが何だろうが関係なく、確実であった。精度を落とせば水の粒の塊が見え(おそらく雲だろう)、もっと落とすと鳥の羽ばたきやら、今まで見たことも聞いたこともないほどの巨体を誇る怪鳥の姿が見えたりと、明らかに人間技ではない。

 アインデンティティの混乱などは起きて居ないが、起きて居ないだけで一杯一杯だった。

「……そもそもレコーの存在自体もアレだよなぁ。何だろう、人力ウ○キ?」

『――否定。私は、あくまで藤堂太朗の知識を整理し提供しているのみ』

「その意味もよくわかんねーんだよ。編纂するって何を?」

『――「全知の記録(アーカシックレコード)」。藤堂太朗が意図せず接続してしまったもの』

「聞いた事はあるかもしれないけど、覚えちゃいねーよ」

 ちなみにアーカシックレコードとは、古代インドの宇宙観において、人類の魂の活動記録、カルマの投影、輪廻転生の蛇などとも位置づけられるが、無論そういった系統の学を有していないので、太朗が詳細を知る日は相当な年月来ないだろう。

 ただ少なくとも、とんでもない量の知識を引き出せるというくらいは把握しているので、レコーはそれで良しとしていた。

『――そして、御主人様は一体何をご所望ですか?』

「何、その甲斐甲斐しい声音」

『――好みかと存知上げております』

「否定はせんが、どのみち一次元の存在相手に欲情せんよ。元々そういう系統のすら薄れてるのかもしれんが」

 肩をすくめる太朗。実際目覚めてから二日、三日か、そういった欲求が欠片も出て来たことがないので、はなはだ戦慄しているところでもある。

「で、まあ何がしたいのかって?」

『――最低限それが存在しないと、意見の出しようがない』

「と言われてもそれが一番難しいところなんだが……。う~む……」

 太朗は、唸る。そりゃもう唸る。もともと要望自体が出涸らしの状態なので、更に何かをそこから捻出するために、苦心する。

 答えることが出来なくなっている太朗に、レコーは告げる。

『――どちらにしても、一度町に下りるのが得策』

「うん、まあそうなんだけどなぁ……」

『――むしろ、嫌がって居る、躊躇している理由の方が皆目不明』

「と言われてもなぁ。んー、どうなんだろ……」

 リーゼントの毛先をちょいちょいと弄りつつ、大きな岩をひとっとび。身体能力も以前にくらべて、べらぼうである。

 木々を掻き分けながら、太朗は、つぶやいた。

「……たぶん、怖いんだな。本当は」

『――なにゆえ?』

「色々理由はあるけど……、だってよ。俺、死んだだろ? それがまず怖い。蘇りはしたけど、そういった一連の事実が、もう恐くて恐くて仕方がない。ここまでは前提条件として――。

 んで同時に、二十年以上時間が経過しているっていうのが何より怖い」

 レコーは、反応を返さない。

「二十年ってさ。まあ俺の親が言ってたことなんだけど、あっという間らしいんだよな。大人になってからだと。でも俺達の年代を基準に考えると、結構膨大なんだよ。それこそ、やせっぽっちがビールっ腹になるかもしれないくらにはよ」

 だから、と、太朗はひきつった笑みを浮かべる。

「――俺だけ変わって居ないで、周りがみんな変わってしまっているのが、たぶんすっごく怖いんだろう。それを、全く無関係の人間たちからでさえ理解させられるのが」

『――とり残されるような感情?』

「おまけに、俺は自分の彫れた女一人、救えなかった可能性が高い」

 いくらポジティブな人間であっても、楽観視ばかりしているわけではない。少なからず、弥生が自分亡き後どういうことになったか、胸糞を悪くしつつも予想がつけられる。

「あ、でもそれが本当かどうか言うなよ? それはもし見つけられなかったら、という時だけにする。それ以外に関しては、本人から聞ければ聞く。無理な時だけってことだな」

『――承り』

 レコーのその発言を聞き、とりあえず一安心する太朗。というのも、今の会話で花浦弥生の生存が、最低でも確認されたからだ。サポートインターフェイスを自称するだけあって、レコーは太朗に嘘をつかない。であるならば、もし花浦弥生が死んでいれば、太朗が言った「本人から聞ければ聞く」という条件がクリアできないことになるため、その場で顛末を語られてもおかしくはなかったのだ。

 そういう意味で、少なくとも自殺はしていないということが分かり、太朗は少しだけ救われた気がした。

『――錯覚』

「いわんでいい。わかっとるわ」

 ただ、レコーがそのセンチメンタルを汲んでくれるかは別な話しであった。





「頂上だ」

 連峰の最高高度を踏破した太朗。高さの関係か機構の関係か、頂上に雪は積もって居ない。山頂の縁から見えるくぼみでマグマの姿が見えないので、とりあえずは休火山ということなのだろうと判断した。

「……夕日が綺麗だな」

『――ありきたり』

「悪いか」

 砦の方角に沈む夕日。大きな砦が逆光でシルエットのようになる。赤い空に浮かぶ太陽と城とのコントラストは、それなりに風流なものに太朗には感じられた。

「町は……。ちょっと大きくなったか?」

『――肯定。ヒトの入りが増え、また交配により増殖』

「交配とか増殖言うなっての。もっと言葉選ぼうかレコーちゃん」

『――何の意味が?』

「……一応女の子なら、可愛らしさとか追求してみたらいいんでねーの?」

『――ほむほむ』

 彼のその言葉を受けてなにやら考え始めたらしいレコーである。その間、彼はずっと日が沈むのを見ていた。ゆるやかに、ゆるやかに太陽がその姿を落していく、赤い空と青い空の境が地面に吸い込まれ、青はより深く暗い紺の闇に。紺の闇は時刻を追うことで、抜け出すことの出来ない暗い闇に。

 ぼうっとしていただけで、それだけの時間が経過した事に太朗は驚いた。気が付けば一瞬。光陰矢のごとしとは言うが、あまりにもあんまりすぎた。彼の体感では五分くらいの感覚で、時間の過ぎ方が圧倒的である。

『――ぴょん! それは、タローさんの種族値から「集中」と「時間感覚」が希薄になっているからですぴょん!』

「いや、誰だよてめー!?」

 突然口調の変貌したレコーに思わず叫ぶ太朗。『――ぴょん、女の子らしい口調をめざしてみまして』

「明らかにそれ以外の名状しがたい何かが組み込まれてんぞ。もう少し考えろや」

『――ぴょん! 善処する』

「何故ぴょんを残す……」

 突然の珍事に腹を押さえる太朗。本心で言えば大笑いしたいところだが、しかしレコーに大笑いさせられたというのは、何というか決まりが悪い。レコーなりの頑張りを否定するような気がして、なんとなく気が引けたようだ。

 ゆえに、腹をおさえてぴくぴく震える太朗。

『――ぴょん、そういえばですが御主人様』

「……な、なんぞ?」

『――どうせですから、魔力の底上げを行ってはいかがでしょう』

「底上げ?」

『――つまり座禅です』

「……へ、何、またしろって?」

『――あくまでも提案ですが』

 レコーは、平坦な声音に戻して続ける。『――それをすることにより、知識の解放条件が多少ゆるくなります』

「ゆるくって、どれくらい?」

『――反比例の関係にあると思えばわかりやすいかと』

「右肩下がりで、条件がどんどん緩和されていくって? そうすると、何が出来るようになる」

『――例えば、さきほどの砦を見た際に得られる情報に、クラスメイト達の逃走ルートや、当日の彼等の行動等が追加される可能性が――』

「それ早く言えっての!」

 太朗は思いっきり立ち上がった。

「いや、それもっと早く言ってほしかった」

『――何故?』

「知ったらすぐ座禅組んだよ。何が悲しくて座禅なんぞ組まなければならないのかと思ったけど、そういうのなら組むし普通に」

『――普、通?』

「俺が普通を語るなって? うるせぇ」

 立ち上がり、大きく伸びをする太朗。そして辺り一体を見回して――。


「……とりあえず、どこでやったらいい? 安定してて、邪魔されないところが良いんだけれど」

『――解放条件不足』

「だぁ、必要な時に必要な能力がねぇ……」


 肩を落しながらとぼとぼと太朗は山を下り、座禅を組むのに適した場所を探し始めた。


 

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