表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
竜殺しというか邪竜蹂躙編
11/80

第7話:踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら見なけりゃ損々

(前回までのあらすじ:蘇ってわんこ埋葬)


 

 

 男は、武器を売るのを生活の糧としていた。

 別に鍛冶師というわけでも、そういったコネクションのある商人というわけでもない。ならば、どうやって商品を調達するか。単純な話し、男は武器を拾ってきて売っているのだ。

 なれば武器がどこに落ちているかといえば、この時代なら当然のごとく決まっている。戦場、もしくはその跡地だ。

 その戦いで勝利した国に、余裕があれば死体の処理と同時に、武器の回収を行う。しかし連戦がつづくなどした場合、全てを回収できる余裕があるわけはない。結果としていくばくかの死体と鎧や武器が放逐されることになる。

 これらに、まるでハイエナのように群がって生きているのが、男のようなヒトビトだ。戦いに出向くことも出来ず、かといって野盗に身を落したくもない。知識が技術あれば採集や狩りもできるだろうが、大半のあぶれた人々や、難民はそうはいかない。

 特に、国が富国強兵を尊び、武力を持って前進をしている場合はなお更だ。

 だからそう、男は、いつものように武器を集めに行く。

 かつてのガエルス王国と、ケントリヒッデバロニアスミシアリウスマリウ(注:国名である)との境にあった山にそびえる、ガエルスの砦。様々な策謀を持った知将や、一騎当千の活躍をした武人が居たという話がまことしやかに囁かれているこの場所。ガエルスがケントリヒッデバロニアスミシアリウスマリウ側との戦いで一度は敗北したものの、後に相手国を併合し、取り戻した砦。しかしそこから連戦の続くガエルス王国。砦の武器回収や遺体の処理に手を回す余裕は、残念ながらガエルス側にはほとんどなく。

 結果として、まさに男のような人間にとっては宝の山のような要塞跡であった。

 状況は、素人目でも放棄されていることが一発でわかる。城壁や要塞本体の壁面に限らず、木製の箇所が全体的に燃え、こげており、欠けた城の傘すら再建される動きもない。地面には死体こそなかったものの、鎧や剣などがそのまま打ち捨てて放置されている。

 だというのに、普通ヒトは寄り付くことが少ない。戦の後の土地は、その多くが元素の乱れを引き起こし、不吉な場所だと言われているからだ。無論男からすれば、ちゃんちゃらおかしいことこの上ない。こんな宝の山を目の前にして何を手を拱いている馬鹿共が、というのが男の考え方だった。

「……このロングソードは、磨けば多少値がはるか? ……いや、ガエルス王国だと切れ味も加算されるか」

 台車を引きながら、落ちている長剣を探して拾い上げる男。未だ国同士の交流というレベルでの経済はほぼ発生していないものの、国内の流通という観点からすれば、ガエルス王国はそれなりに経済が回っていた。そこにほんの僅かではあるが、異世界の知識が取り入れられていることに気付く人間はいない。

 剣を山のように積もうとしていたようだが、案外と材料の問題か重量が重く、半分くらいのあたりで男は諦めた。

「よし、じゃあ今日はこれで上がり――ん?」

 そのまま砦の敷地内で野宿の準備に入ろうとした男だったが、しかし、それに待ったがかかる。ヒトがやってきたのだ。同業者か? と男はいぶかしむ。せっかく見つけた宝の山、独り占めできるに越した事はない。もし同業者ならば口封じに殺し、無関係ならば仲間に引き入れる。

 そんな軽い考えで、男は、現れた青年に近寄った。

「おい、お前こんなところで何やってんだ?」

「――マジかよ、どう見てもつぶれてるじゃねーの」

 青年は、男の姿が視界に入って居ないようだった。年は十代中頃から後半か。大男というほどではないがそれなりに長身で、風体が異常だ。黒い襟詰めの格好で、全体に星型の刺繍がされている。一見すると上質そうに見えるが、しかしその割にデザインに品がない。まるでこう、作りなれて居ない人間ががんばってつくりました、みたいな感じの、独特の雑さがあった。

 そして何より男の顔。白い髪、というのもおかしなものだが、それが、非常に形容しがたい髪型になっている。この大陸には、当然のように「リーゼント」という概念がないので、それっぽくまとめているだけの彼の髪型は、なおのこと理解されないものだろう。

「ん――、死体が片付けられてるって事は、一応、砦側の勝利で終結したってことか? 負けてたら今、ここは別なやつが砦仕切っているだろうし」

 そして、突如、独り言を話しだす青年。

「ん――、それはなんで?」

「おい、お前どうした?」

「それにしたって、何でこんなになってるんだ?」

 青年は、男の話しを無視して言葉を続けていた。そのことに不気味さを感じるよりも、苛立たしさを男は覚えた。

 背後にあるロングソードを二つ手に取り、慣れてない構えをする。

「おい、話し聞けよ」

 おどしのつもりで、男は剣を青年に振るった。が、それは悪手と言わざるを得ない。目の前わずか数センチという位置で振られたにも拘らず、青年は微動だにしなかったからだ。そう、まるで男の行動など、最初から最後まで眼中に入って居ないかのような。

 たまらず、男は激昂した。

「てめぇ、ぶっ殺すぞ! 何やってんだって言ってんだ!」

「――つまり、ここでクラスの奴等は死んでないんだな。よかった。

 ……ん、誰アンタ」

 のっぺりとした半眼が、男に突き刺さる。異様な風体の人間にそんな目を向けられるだけで一般人は畏縮するだろうが、しかし今の男は違う。生憎と怒りで目にフィルターがかかっており、青年の発する得体の知れなさが半減して見えていた。

「どこのどいつか知らねぇが、俺んところの仕事場勝手に荒らされちゃ、たまったもんじゃねぇんだよっ!」

「ん――? ああ、そうか。そういう商売もあるか」

 と、突然青年は、男を鼻で笑った。「な、何がおかしい」

「いや、ここが仕事場だって? まあ馬鹿にはしないけどよ、ちゃんちゃらおかしくて、へそで茶がわかせると思ってな」

「はぁ?」

 その比喩のニュアンスは、残念ながらエスメラ語では上手く伝わって居ない。そしてその事に気付かず、青年は飄々と、日本語でしか通じない系統の言葉を羅列した。

「だって、そうだろ? まそれをしないと生活できないっていう建前はあるのかもしれないけどさ。アンタ別に、パニック障害があるとか、身体に戦闘できないだけの問題があるとかじゃないわけだろ? だったら何で軍事だの、バックグラウンドだのに回らないんだ?」

「ば、ばっく……?」

「後方支援とか、出来るだろ? 前線に出向きたくないというのならば。でも、それすらやらないで何でこんな、盗人まがいのことやってんだ? ――ああ、死体からとってるなら盗人じゃないって? じゃあ一応言ってやるが、この砦は、一応『ガエルス王』のもの、ということになっている、らしい。

 つまりそこからちょろまかして日銭稼いでるっていうのは、まがいどころか普通に盗人じゃねーの? しかも国庫から盗んでる。大罪人だねー」

「わ、わけのわかんねぇこと言ってるんじゃねぇ!」

 実際青年の言葉を半分も理解はしていなかったが、国王の名前と、この場のすべてが王の所有物であること、そしてそれを自分が盗んで生活している、という言い回しだけは、いやでも理解させられた。

 だからこそ、なおさらこの青年を生かしてはおけまい。王宮の使いのものなのかもしれない、という予感が一瞬脳裏を過ぎりはした。ガエルス王は武人であるが、内政は主に文官に任せているため、それなりに王宮に武人以外の使者も多い。ゆえに国内の状況視察などを文官が行うこともしばしと言われており、青年もそれでないかという疑念を抱きはした。しかし、だとしたらこんな話しをベラベラ語るわけもないし、何より風体からしてその説得力は皆無だ。

 とすれば――考えられるのは、強請りだろうか。

 いや、何にしても自分が罪人であるかもしれないならば、その証明をできるこの青年は殺さなくてはならない。保身と、生活のため、男は両方の刃を振りかぶり、下ろした。


 だが、その行為にどれほどの意味があったことだろう。


 気が付けば、あれよあれよという間に男は、青年に剣を取り上げられ、殴り飛ばされ、地面に叩き付けられていた。

「んん――別に、もうしばらくは商売しててもいいんじゃねーの? でも、確かにあと数ヶ月くらいでここの改修がされるみてーだから、今後の身の振り方くらい考えといたらいんでね?」

 じゃの、と一言だけ言って、青年はその場から離れた。

 男は、嗚呼、今日はついてない日だと思うばかりだった。





 藤堂太朗が砦にたどり着くまで、要した時間は一日と少し。これは、時間の総合計にあらず。直列、積み立て式に計算した場合。要するに一日とちょっとの間、寝ず、食べず、休まず、ずっと歩き通しでたどり着いたと言う意味だ。

 そのことに違和感と、ある種の納得があった太朗である。しかし彼の頭の中には、そういった違和感でさえも説明してくれる何かが居座っていた。

『――人間という種族値には、食べる、寝る、休む、ヤるなどの概念が含まれており、現時点の藤堂太朗にはそれらの要素がない。一切休息をとらずに活動可能な理由はそれである』

「……説明の中にヤるを入れる必要あったのか?」

『――思春期だし、一応言っておいた方がいいかと思って』

「なんぞ?」

『――気遣い』

「いらんわそんなもん、と言ってやろうと思ったけど、確かにいざ必要に迫られても突然マクシマムしなかったら、へこみそうだから礼は言っておく。言っておくだけだが」

『――えっへん』

「威張るところじゃねーからな、レコー」

 彼の頭にいる意識体、レコーの下ネタの存在理由を一瞬理解できないあたり、太郎はそこそこ鈍いものの、しかしだいぶ打ち解けたのか、いつもと変わらないくらいには、比喩表現が今日も明後日の方角を向いていた。

「で、何ぞあれ。隕石でも降って来た?」

 砦の門の外。彼が指差すのは城の天辺の部分だ。明らかに、抉られたように上部がかけている。それを形容するために言ったのだろうが、しかしレコーは容赦しない。

『――メテオストライクの場合あの規模で済むはずがなく、おそらく藤堂太朗再生中の場所もろとも、わんこさん含めて引き肉にされているはず』

「あ、そなの?」

『――正解は、魔法を利用した人間大砲』

「わかるか! って、今人間大砲とか言ったか!?」

『兵力と武器が少なくなった国の、苦肉の策。特攻隊のようなもの』

「後味悪すぎだろ、それ……」

 門に踏み込み、周囲を見回す太朗。白骨化した死体が所々に散見され、鎧と武器とがまばらに散らばっていた。「マジかよ、どう見ても潰れてるじゃねーの」

『――肯定。否定する必要もなく。そして、これでも被害は最小限』

「死体が片付けられてるって事は、一応、砦側の勝利で終結したってことか? 負けてたら今、ここは別なやつが砦仕切っているだろうし」

『――否定』

「ん――、それはなんで?」

『――散らばる鎧の数が、圧倒的にガエルス国側の鎧が多数。裏側に家紋と国旗が彫られているため、式別可能』

 言われて、太郎は足元の鎧を見る。彼としては意識していなかった事柄のようだが、しかし視界に入った以上、レコーが情報を開示するための条件を満たしたことにはなったらしい。

「それにしたって、何でこんなになってるんだ?」

『――条件開示が部分達成。精度の低い経緯ならば閲覧可能。確認しますか?』

 無言で肯定。クラスメイトたちがどうなったかは、確認して置くべきだろうと太朗は考えていた。例によって、彼の眼前に文字が浮かんだ。

《■■■年:ケントリヒッデバロニアスミシアリウスマリウ国がガエルス王国に侵攻。

 ■■■年:ケントリヒッデバロニアスミシアリウスマリウとの国境に、ガエルス、砦を建てる。相手側のに対する見張りが主な業務。

 ■■■年:ケントリヒッデバロニアスミシアリウスマリウが、ノウバディを欲し砦に侵攻――》

「年代文字化けしっぱなしじゃねーか。つか、うげっ」

 思わず唸る太朗だったが、続く言葉を見て、多少気分を変えた。

《――ただしノウバディたちは一人も捕虜となる事もなく、難を逃れる》

「あー……、つまり、ここでクラスの奴等は死んでないんだな。よかった」

 そう安心したのもつかの間、現地で武器を集めて商売をしている男にからまれた太朗。運搬するために鍛えているのか体つきはがっちりしていたが、構えた武器はあまりになれて居ないようだった。

 そんな喧嘩腰の男に、レコーと共に脳内と言語で、罵倒してるんだか嫌味言っているんだかよくわからない煽りを入れた太朗。基本的に彼はケンカっ早い人物でも、自分の腕力に対する自信や驕りがあったわけでもない。何故そんなことをしたのか、今の彼には冷静に分析できないだろう。もっともレコーはそれが、クラスメイトたちの手がかりが完全に断たれた、現在での生存すら確認できなくなってしまっていたことへの「八つ当たり」であることを察していたが。

 そして、煽りに耐え切れず襲い掛かる男。しかし、どういうわけか太朗にはそれが、妙にスローモーションに感じられた。

 それゆえ、手元から剣を奪ったり、頬に一発拳をたたきこむくらい訳ない。

 倒れ伏す男にアドバイスをしてから、彼はその場を去った。

「どーしたもんかなぁ……」

『――どうしたとですか、親方ぁ』

「何故レコーは俺を時々親方扱いするのか……。いや、さあ、その、アレだよ。アレ」

 珍しく言いよどんでいるが、それはつまり彼自身も考えがまとまらなくなりつつあることの証明でもある。「……手がかり、もうほとんどねーじゃん」

『――それは、何故?』

「仮に町の方に行くとするだろ? でもさ、さっき見た年表。最後までは見なかったけど、たぶんガエルス王国勝ったんだよな」

『――砦は一度落とされているものの、最終的には勝利を収めた』

「つまり、合併してる以上、多少人民の流動もあるだろうし……、何より、二十年前に生きて居た人間が、現在も生きているか怪しくないか?」

『――肯定。現時点でのこの大陸の、武人を含めた一般人の平均寿命は三十代前後』

 戦争に駆りだされるためか、巻き込まれるためか、はたまた国に食物すら収拾される場所が多い為か。元素の影響で病気らしい病気があまりないこの異大陸においても、この時代の寿命は、それなりに低いと言えた。

「んで、まあどうしたもんかと思ってよ。目的がないと、正直、もう何やったらいいかとか、全然思いつかねーっていうか……」

 歩きながら、ばつが割るそうに頭をかく太朗。そんな彼に、レコーは平坦な声で読み上げた。


『――第一回、激論チキチキ異世界極小会議ぃ~』


「……そーいう知識は、俺の中から収拾しなくてもよかったろ」

 話しに乗ってくれるらしいことを確認した後、ため息をつきながらも、太朗は薄く笑った。

 

 

続きは何時間か後・・・予定ですが寝落ちたらすいまそん;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ