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異世界仙人  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
誕生というか解脱編
1/80

プロローグ

とある事情から、とあるキャラクターの描写を少なくするためにスピンオフ

 

 

 海に千年、山に千年。棲みついた蛇は竜になる。

 長く続ければいずれ素人など及びも付かない、竜に蛇など敵いっこないという故事成語である。

 しかし蛇が竜に至るプロセスはあれど、何故蛇が竜になるのかということについては、定かではない。

 蛇は手や足を持たず、人語を介さず、何より術を用いない。

 根本からして、竜と蛇との間には超えられない壁があるはずだ。

 だというのに、試練を突破したものはごく自然に。まるで「そうなることが定められているかのように」変化する。

 進化ではなく、変化というのが適切だろう。

 あるいは変態や、異常な速度での突然変異というべきか。

 ともあれ、そこに何がしかの意志が介在しているのではないか、という見方もできるわけである。ヒトはあるいは、それを神というかもしれない。あるいは悪魔というかもしれない。もっと抽象的に奇跡だとか、あるいは天文学的な確立で起こる偶然だと片付けるかもしれない。

 しかし、そこには「変化した」という、歴然とした事実が一つ残るだろう。


――さて、とするならばこの状況には、いかように説明がつけられるだろうか。


 場所は、とある山奥。山自体大きく、その場所を探そうにも人力だけでは不可能だろう。

 川に近く、岩があり、それでてい斜面でもなく、雨の日には増水して水浸しになるだろう、そんな森。

 そんな場所で、男が一人。足を組み、目を閉じて瞑想していた。

 年頃は十代半ばほどだろうか――がりがりにやせ細ったその顔面からは、生気が感じられない。だがわずかながら肩が揺れ、薄い呼吸が聞こえる。どうやら、生きているらしい。

 座禅を組む右手は、指が全てあらぬ方向へと曲がっている。

 左手と、右の「辛うじて形の残って居る」てのひらとを合わせて、座禅を組んで居るような状態だ。

 服装も酷い。もとはぴんしゃんとした学ランだったことだろう。黒い襟詰めは、ボタンを一つだけ残して、全体が擦り切れ、やぶれ、斬られていた。

 そこから覗く傷跡も生々しい。縫い付けられた治療痕など欠片もなく、ぱっくりと開いた腕や、肉が抉れている腹はどう見ても致命傷だ。しかし瘡蓋が出来ており、辛うじてだがまだ彼を存命させるに足る状態なのだろう。

「……」

 少年は、ひたすらに何も言わない。

 酷くやつれた顔。頭も所々焼けており、髪の生えて居ない場所も散見される。

 しかし、そんな有様であってもなお、少年は穏やかな微笑を浮かべていた。

「……嗚呼、俺は今、宇宙に近づいているんだ……っ!」

 意味不明である。

 かすれた声であるのに、なにやらそれはどこか高揚しているものだった。

 風体はあまりにも見て居られない。しかしその当の本人は、どこか楽しそうでさえある。

「やれる、やれる、嗚呼不思議だ、俺、今、何も憂いがないや」

 彼の状況を他者が見れば、明らかに極限状態で気が逝っちゃっているように見えるだろう。実際それも、全くの見当違いというわけではないが、しかし全部が全部ではない。

 少年は――藤堂(とうどう)太朗(たろう)は前向きな男であった。

 どんな苦難にも立ち向かう、ファイティングスピリッツがあるというわけではない。

 ただ圧倒的にやばい状況が、彼のその前向きさに拍車をかけ、結果としてわけのわからない発言が続いているような有様となっているのだろう。

 だが、それも終わりが近い。

 少年の呼吸感覚が、段々と段々と少なくなって行く。

 薄い幸福感につつまれながら、少年の意識は今まさに永遠の停止をしようとしていた。


 ――と、ふと顔を上げて見れば。

 太朗は、目の前に何かが見えた。


 それは、文字のようであった。

 パソコンのアラートウィンドウのように彼は思ったが、別に右上に赤いバツマークがあるわけでもなく、当然枠線などありはしない。

 そこには、妙に達筆な字体でこう書かれていた。


――――血脈を放棄しますか?――――


「……?」

 理解できないまでも、せっかくだから首を縦に振る少年。

 その瞬間、藤堂太朗の人生は一つの終幕を向かえた。

 

 

続きは二時。

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