表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

異世界に行ってもみんなヤンでる アナザーDD2

違う小説に間違って投稿し大変混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

また夢を見た。

それも鮮明で胸が締め付けられる息苦しさも、膨張と収縮を繰り返す様な気味の悪い頭痛も、何もかもがはっきりとしてそれでいて支離滅裂とした内容ではない、現実味に溢れ、まるで僕の体が二つの世界を行き来しているのではと疑う程に、この夢は夢と言えなかった。

僕は誰を見上げているのだろう。

滑らかに顎へと抜ける頬のライン、細く丸い印象を漂わせる陰影の少なさ、それでいて不気味に鼻筋の通りの良さ、瞳だけでは収まらない暗く黒い虹彩、だのに不健康とは思えない、肌目細かく血色の良い肌質で、小さな唇に薄幸とした切なさが見えるのに長く整った睫毛の奥でどっしりと身構える黒目の力強さが孤独感を消し去る。

不均衡な顔付きの筈なのに不思議と魅惑めいて、不自然な整いかたをしているのに不安を突き動かす訳でもない。

しかしながら、そのアンバランスな彼女の半開きした口元目掛け青白い発光体が次々と吸い込まれていく異様な光景を除けば、いたって怪しみも疑りも無い、単なる夢でしか無かった。

硝子の様な輝きを持つ発光体が彼女の口腔へと誘われる度に倦怠感は増し、瞼は重く、無気力に陥るのに寧ろ気持ちは軽やかに待ち望んでいたと言わんばかりに怠けていく肉体と対を為すかの如く精神は昂り、重荷から解放された様な喜びを噛み締め、仄かに香る果実の香りに包まれ、微睡みを甘受している。

そうして徐々に目の前が薄暗くぼんやりとして、惣闇に視界を支配されたと同時に夢は覚め、有明方特有の薄明かるい暗闇が現実を嘯らせていた。

まるで映画のセットの様な不自然さを感じ、空間に漂う生活臭すら無く、汚れも埃もそのほんの小さな灯りでさえ気付き得られるのにそれすらも見えない。

見えている物が、匂ってくる物が、聞こえてくる物が、どうも胡散臭く、子供騙しで、しかしながら現実だと証明出来ないのだから、頭は混乱するばかり、気持ちは揺らぐばかり。

長い夢を見ているようで。


それでも懐で眠る、生暖かく柔らかな肌触りをした優芽の寝姿に一抹の不安は霧散し、また成りを潜めていた汗の匂いやカーテンの隙間から射す光に照らされた埃たちは舞い踊り、犬や雀の鳴き声、それぞれが一斉に優希の五感を刺激する。

胎児の様に体を丸め、静かに眠る彼女の髪をゆっくり撫で下ろすと擽ったそうに表情を崩し「撫でられるの好きかも」とくしゃっとした笑顔で彼の手を求め頭をさ迷わせた。

「また嫌な事でもあったの?」

彼の身近に居る誰よりも大人びて、落ち着いていて、冷静に物事を判断出来るのに、あらゆる不満の集積物を解消する手立てとしてこうして優希と添い寝をする、それも彼が寝付いてから行うのでそれなりに配慮してはいるのだろう。季節は関係なく、暑かろうが寒かろうが自身の寝具は持たず、何時も体半分を布団に潜り込ませ、丁度優希の胸で抱かれる様な形で体を丸くして、ただ眠るだけ。

優芽は再び寝入るのだろうか深く息をすると、頷き顔を胸元へと寄せ瞼を下ろす。添い寝なんて子供っぽい事をするものだなと優希は多少は呆れていたものの、やはり彼女も完全に出来た人間では無く、自分と同じく欠点はあるのだなと驚嘆し嬉しくもあった。

「ちょっとね……理不尽に怒られちゃって……あんまりこういう事言いたくないけど、古株だからって威張る事ないよねぇ……。」

悪口を嫌う優芽はそう言うと不貞腐れ、眠る事だけに集中する。

彼女と居れば自然と人を恨んだり、憎んだりとその場限りの感情に左右される事はなくなり、気楽気長とまではいかないが寛大的に心に余裕が生まれる。

が、ただでさえ日常生活にすら疲弊してしまうのに祝の積極的介護のお陰で余計に疲労は溜まっていく一方で、思い通りにいかない体、理解力は衰え乏しくなった頭脳に腹立たしさを覚えたが、自身の問題であるが故に当たり散らす場所も、人もなく、心の中で自分を罵倒するしかモヤモヤとした気持ちを解消出来なかった。

「めー姉?」

すると次第にこんな不憫な肉体のせいで周囲の重荷となり、足枷ともなっているのではと卑屈めいた考えが頭の中を思い巡らせ、申し訳ない気持ちと一向に調子の戻らない脆弱な肉体への絶望と望みたくないのに誰かに頼らなければならない己の無力さに優希は自然と自身を卑下させる。

「何も出来なくてゴメンね。邪魔ばっかりしてゴメンね。一番大変なのはめー姉なのに頼ってばっかりでゴメンね。」

嗚咽と鼻声とで謝罪する彼の瞳からは大粒の涙が止めどなく溢れ、悔しさと情けなさが尚も深く心に突き刺さり、彼女が時間を惜しむ事なく献身的に支えてくれているのに、何も与えられず、喜ばせる手段も知らず、穀潰しの如く食を堪能し、体を綺麗にし、疲れたから眠る自身の愚かさに吐き出す言葉は鬱陶しい程の自分へ向けた非難。

「僕なんてあのまま目覚めなければ良かったんだ。人に頼らないと生きてけないこんな体なら死んでた方がマシなんだ……」

しかし優芽はこれ以上悪態をつくのを阻止するかの様に優希の頬に触れる。例え、自身を批判したとしても彼女にとっては悪口の何物でもないと、その瞳には怒りを帯びて彼を制し、「違うよ」と微かに唇はつり上がる。と途端に優芽から甘い香りは舞い上がり、まるで優希の陰鬱とした雰囲気を消し去ろうと、春の陽気の中、草木の青々とした香りに仄かに漂う花の匂いに心を落ち着かせる、一瞬不安から解き放たれる自由への喜びと幸福に彼の心は平穏を取り戻した。

「優君は私を癒してくれる。それだけでも凄い事だよ。」

切れ長の両目は緩やかに放射線を描き、微笑は朗笑へと形を変え、優希を見据える。眠たげな声色なのに、お世辞ではなく本心からそう思っているのだろう、顔色には心髄に彼へと手向けられた称賛と深謝で飾られ、何よりも彼には決して嘘はつかない。

それは喜ぶべき事なのに優希は、優芽の言笑に誰かの面影を感じ、ふとした違和感を覚え、微苦笑に彼女の言葉を受け止めたが、いやらしい不自然が再び彼の体験を嘘臭く、そして面影の正体に心当たりが無いまま、目覚まし時計のアラームがけたたましく鳴り始めた。




理解力に乏しい訳ではない、覚えようと努力しない訳でもない、それなのにいくら授業を受けても頭には残らず、無駄な時間と体力を浪費している様で、気付けば放課後となり、印象に残るモノと言えば水原の手厚く、粘着性のある介護と銘打つ愛撫位しかない。

あの飢えた瞳を携え卑しい手つきで優希の全身をまさぐり、青みの中で熟れていく肉体を擦り寄せ、甘ったるい吐息を吹き掛け、人の目さえ無ければ性行為に及ぶのではと勘繰る程に彼女の看護には私情と痴情にまみれていた。

恐らく優希が心を許す瞬間を待ち望んでいるのだろう、こうした過度な接触の中、少しでもあの苦虫を噛んだ様な表情に笑みが浮かべば好意的に見てくれている証だとして、常に彼の顔色を窺い、嫌悪に変わる一歩手前、その微妙な引き際さえ見極める程、水原は見続けている。

それは単に彼を介護し罪を償う為だけではなく、弱った彼に近付く下俗な女性を選別、威嚇し、そして頼れる人間はただ一人、水原ただ一人なのだと誘導さえしていた。

彼女の揮発性の高い恋慕に見守られる中、包囲網を掻い潜る様に優希はあるクラスメイトに微かな既視感を覚え、しかもかなり親しかった筈で。何故だか、この胸につかえた凝りの様な違和感を解く鍵に思えて仕方なかった。

幸い同じ図書委員であり、更に今日は当番である為、絶好の機会でもある。

余りにも華奢で、薄く、平坦な体躯で体だけではなく顔つきまでもその薄幸ぶりが現れ、均整は取れているのに個々のパーツが彼女の悲壮さ、貧弱さを助長させていた。

大きな瞳の筈なのに頬の肉の薄さや小ぶりな唇のせいで貪欲と脆弱とがない交ぜになった表情で、気難しそうな雰囲気を感じるのに机の上は何時だって乱雑に物で溢れ、体育は苦手、五教科も得意ではない、劣等生と捉えられても間違いない。なのに、肢体が描く曲線美は滑らかで華麗で自然がもたらす産物としてはクラスメイトの誰よりも魅力的でもあった。


(よわい) 茉莉花(まつり)


まるで誘蛾灯に惑わされる昆虫の様に彼女の肉体から発せられる花の香りに朦朧と覚束無い足取りで後を追い、別世界へと繋がる扉の如く図書室の扉は尊大で、優雅で、重苦しく、優希の覚悟を煽る。

昔の趣を大事とし基調としたこの高校の至る所では石造りの壁や廊下が垣間見え、改修されおおよそ現実と虚構が入り交じる幻想的で奇妙な校舎はまるで今の優希の潜在意識を投影しているようで、此処は欺瞞で満ちていた。

重々しい扉を開けば、図書室独特の木や紙の匂いにインク、そして蠱惑的な花の香りが廊下へと逃げ帰るかの如く、一斉に彼の鼻腔を擽り後腐れも無く抜けていく。

カーテンは音をたてて乱れ、蒸し暑さの中から初夏の青い匂いと心地好い風が室内へと流れ途端に緊張と蒸された空気で吹き零れた汗が背中を不気味に冷やした。

窓際に佇み、颯爽と靡く赤茶けた髪の毛は踊り狂うかの様に縦横無尽に動き回り、日射しと風に挟まれた彼女は太陽に顔を向け、一心に陽光を浴び、その最中に髪は金色を帯びたかの如く輝き一層、茉莉花の弱々しさの中に潜む生々しい艶かしさが溢れていた。

酩酊しそうな程に彼女の体臭は濃く、朦朧とする程に彼女の妖艶さは色みを増して、優希の心に深く根差し、優希の想いを酷く揺さぶり、優希の夢を容易く呼び起こす。

「ス……ミン?」

そう。彼の夢には確かに彼女に酷似した女性は現れた。

茉莉花は振り向くとクスりと笑い、ゆっくりと頷く。

「ねえ、優希。優希は此処まで何処を通ったか言える?」

だが、何故彼女が夢での名前に頷いたのか、何故意図の分からぬ質問をしたのか、そして現況を掴めぬまま茉莉花は尚も質問を続けた。

「朝は何を食べた?」

「授業の内容は?」

「みんなの顔、思い出せる?」

「景色は変わらない?」

「鏡で自分の顔、見たことある?」

質問をする度に彼女は近付き、言われて気付く記憶の穴の数だけ図書室は崩れていき、何処か遠くで鐘の音が響き、慌ただしく動く地鳴りの様な足音、激しく揺れ動く図書室の中を平然と歩く彼女の姿は突如として制服からずぼらで汚ならしい衣服へと変わり、優希の足元には血だまりが出来、泣き叫ぶ声、噴き出す血液は空中で静止して、闊歩する彼女の肉体を汚していく。

そうしてようやく彼の肩にスミンの右手が触れた瞬間、優希の足元は崩れ落ち、奈落へと舞い落ちていく。が、確かに聞こえた。

茉莉花の、スミンの、彼女の言葉。


「大丈夫。私がユーリを守ってあげる。現実も。夢も。」


そして、今日がまた始まる。

虐殺の王女と殺戮の姉に切り刻まれる一日が。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ