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異世界に行ってもみんなヤンでる アナザー3

扉を開けば、そこは半乱狂に欲を貪り、悦楽に肉体を打ち付ける湿り気と小気味よく拍子を刻み、加えてよがりきった唸り声が部屋を満たしていた。

三者三様に彼の体躯を弄び、蹂躙し、彼女が帰ってきたこと、ましてや扉が開き、軋む音さえ聞こえていない位にのめり込み、鬱憤を晴らしているようで執着が彼を取り合ってもいる。

彼女らにではなくユーリに対しての感情が何よりもまず、スミンの心をしおらせていく。どうして開けてしまったのか、理由はどうあれ、信頼を裏切られたこの喪失感が彼女を悲愴に溺れさせ、更には未だ交わらなかった純潔が汚された事に思考はくぐもっていく。

何が悪かったのか考えた所で善悪の区別すらつけられない彼女の頭では自分が原因でもあり彼もまた原因だったとしか結論がつけられず、呆然と立ち尽くすしかない状態が心を鈍く締め付け、痛みがユーリへの想いを確立させていく。

愛しさがスミンを奮い立たせた。

ただ、嫌がるユーリを守りたくて、助けたくて。

自分の非力さでは勝てない事は百も承知だ、だからこそ徹底的に排除しなくてはならない。

まぐわう彼女たちの元へと斧を引き摺り闊歩する、どうせ夢中で音には気付かないのだから、気にせず目的を果たそうとスミンの瞳を燃えたぎる意志が輝かせ、そしてユーリを守る勇姿に、行動に、満悦は広がる。にやけは止まらない。

細身であるが故、スミンの体は実にしなる。竹の柔軟性と反発力を備え、限界まで体を捻らせ、後は反動で斧は自然とキャットの首へと向かい、鈍い音の割にはすんなりと肉を、骨を、生命を断ち切り、勢いよく飛び跳ねていくも、愛玩従属故の本能か、意識のない肉体は尚も揺れ、悲鳴が、血飛沫が変わりに部屋を模様替えした。

ダンスを踊る様な足取りでユーリの唇を陵辱した女の頭をかち割るべく、斧に踊らされながら、取り合えずユーリに群がる虫共を引き離せた事に喜びを噛み締めつつ、上気した頬、沸き上がる愛情、守れることに自身、興奮していると気付いていた。

あまりの恐怖、絶望、驚愕が腰の力を抜き、必死にもがき逃げ勤しむさまは正に害虫のそれと酷似し、あらゆる体液を吐き出し漏らし、嗚咽に苦しみ、金切り声がスミンの心をいたく冷酷に、そして歓喜にうちひしがれる。

降り下ろされるそれが頭をかち割る寸で、それにしてもこの女の声は私に似ている、とスミンは頭の片隅に何気無い感想に嫌悪とある閃きがモヤモヤとした疑問に光を射した。

ユーリは悪くない。それは多少はユーリにも責任はあるかもしれない、何ヵ月も同棲したにも関わらず真似た声との区別も付けられないのだから。それでも必死に抱き締めるオルゴールがユーリの仕方なしに強制させられた行為を正当化させた。

刃先は容易に頭骨を砕き、滝のように我が物顔で女の顔を縦断し、漸く止まる頃には鎖骨まで行き届き、その頃には悲鳴はあと一つ、あいつは手を貶めた、早く叫喚の根元を断とうと斧を引き抜こうとするも、肉の緊張が未だ続き中々苦労を強いられる。

スミン本来の非力さでは到底、阻害だらけの死体からもぎ取れるモノではなく苛立ちと、空を見つめる夜色の瞳が嘲笑っているようでスミンの心を激憤させ、叫び狂い、無意味に暴行を加えた。

なんの得も無い、自己満足の行為でもユーリは叫ぶことなく呆けてばかり、そうか、最後の一人がユーリを惑わしたのか、とスミンに満ちた謎は消え去り、余計に殺意が芽生え、独占欲が確かに体内に蔓延り始める。

逃げ惑う姿は恐ろしく滑稽で笑いが込み上げて堪らず、今度は笑い声が室内を彩り、完全なる盲信へと足を踏み入れた。

力ずくで斧を抜き終え、鼻歌混じりに振り回しながら、くるくると廻りながら、慣性のまま、這い回る背中へと落とされる。じたばたと苦悶し、喚き、呪詛を吐き続ける。

しぶとく、厚かましく、蔑み、それでも逃げ延びようと躍起に這う姿は見ていて飽きないが、スミンは躊躇わず頭部を切断した。

猛々しく呼吸は乱れ、額にしっとりと汗が滲みつつ、やっとユーリをたぶらかす存在が居なくなった事にほっと溜め息をつき、鮮血にまみれた両手で彼の頬を支え、漸く言葉を交わせられる。

「ただいま、ユーリ。」

次第にユーリの瞳には生気が満ちて、正気を取り戻しつつあるが、微睡んだように意識はまだぼんやりとして、夢現に朗らかに微笑んだ。

「おかえり、スミン。」

しかし、ふと赤く染められた部屋を一瞥するや、ユーリの顔色は対照的に青ざめ、現実を、狂気を思い知らされる。

「何この部屋?」「スミンがやったの?」「どうして?」「僕のせい?」「何で?」と、狼狽しあたふた詰まらない質問ばかりするユーリの唇に人指し指をあてがい、笑いながら静かにするようあやした。

「大丈夫、ユーリ。ユーリの考えてる事、全部分かるよ。辛かったね。怖かったよね。」

ユーリを華奢な体躯で抱き、優しく言葉を連ねていく。と、ユーリは糸が切れた様に泣き喚いた。

「ユーリは何も悪くない。悪くないよ。」

スミンの慰めがユーリの心を温かく癒していく。

ああ、彼女を好きになって良かった、とユーリは自身の気持ちに歓びを感じ、更に想いは頑なものへと変貌していこうとしていたのに。


「だから、痛いのは一瞬だけだから、我慢して、ね?」


不意に離れるスミンとその言葉に戸惑い、真意を探ろうとするも彼女の手に握られた鋭利なそれが差し伸べられた手へと触れ、巻き込まれるように体は反動で捻られる。

空中を舞い吹き飛ばされる手は円を描き、空しく床へと落ちていく。

ユーリの叫びがスミンの心に罪の意識を生み出すも、それを理解出来るほど愛玩従属は複雑には出来ておらず、彼女は苦笑いをしながらも何処か達成感とも呼べる爽快な気持ちを堪能していた。

「この手がユーリを汚した。この足がユーリを汚した。」

呟きながらそうして徐々に切断されていく中、暗転していく瞳の中央でスミンは恍惚としてユーリを見つめ、最後の一振りが降ろされようとしていた。


「こんな自分に生まれてきて良かった。だって全部本能で済まされちゃうんだもん。」




静寂に囚われた部屋にスミンのハミングが悲しく響き渡る。だらしなく座り、ユーリの首を胸元に抱え、何をするでもなく、ずっと脆弱な肉体をゆったりと揺らし、寝かしつけるみたいに緩慢として。

部屋の至るところにユーリの肉体であった残骸が散在し、生命白龍により何度も再生される血肉をその都度、切り刻み、とうとうユーリの首元に蓋をすることで無限地獄は終わりを迎えた。

「ねえ、ユーリ。このまま、私と一緒に行こう。」

意識の乏しいユーリには既に聞こえていないのかもしれない、しかし何度も口を動かしている姿を見てスミンは素直に笑みをして、また流行歌を口ずさんだ。


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